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身分証明

 洗濯を終え、街に戻った。

少し湿った状態で水を抜いてもらい洗濯ものを干したら、次は掃除。風たちに埃を飛ばしてもらったら、終了。

 ジョセフは店のレジ前で居眠りをしている。いつものことだ。


 独立するにあたって資金源をいまから考えなくてはならない。せっかく、精霊たちがいるのだ。うまく利用してお金を稼がなければならない。


 しかし、困った。

お金はすべて、ジョセフが握っている。

花を仕入れに行っても、その場で現金取引なんてしていない。


 商売をするなら商人ギルトに登録しなければならない。登録も身分証明がいる。それがないと外から来たものと判断され多くの書類が必要になる。

緑子ちゃんに人気の花を作ってもらって道端で売ろうかとも思っていたが頓挫する。


この国で生まれて育った来た者ならみんな必ず、持っている身分証明がある。



 夏になると年に1度、満5歳になった子供たちを教会に集めて儀式が行われる。子供たち、ひとりひとりに名刺くらいの長方形の薄い銀色をしたプレートのようなものが手渡される。それと同時に教会に町の一員になったことを認めてもらう。

いうなれば戸籍のようなものだ。その証明がないと就職先にも結婚にも苦労する。


 そのプレートには、出身地や誕生日などが、ある魔術具によって登録できるようになっている。登録すると3センチくらいのプレートになる。普段は銀色をしたただプレートだが、専用の魔術具に通すと内容が確認できるようになっている。

 住民は無くさないように常に首から下げている。プレートには親切にも丸い穴が開いていて紐が通せるようになっている。


しかし、ミルは持っていなかった。


 以前、ルーイからどうして首に掛けないのかと、聞かれたがなんのことか分からなかった。ルーイにそのプレートを見せてもらったが、見たことがなかった。その時は、お父さんが持っている。私だとすぐ無くすからって、あわてて言い訳をした。

なんとなく知らないことを知られるのがこわかった。


「この首に掛かっているチェーンは6歳の誕生日に父さんにもらったんだ。無くさないようにって。普通はそのことを説明して首に掛けて貰うんだよ。それが習わしだって。母さんも父さんも言ってた。おまえも自分の子供が出来たらそうするんだぞって。」


 眩暈がしそうだった。そんなことしてもらった事なんてない。っていうか誕生日なんてみんな知っているの?私はこの国で自分がいつ生まれたのかなんで知らない。父親とそんな話をしたこともない。



 この世界にもカレンダーなるものが存在している。1年は364日、月は13ヶ月、1ヶ月は28日、1週間は7日。木彫りに数字が掘ってあって毎年使い回しだ。

曜日は、時・緑・土・火・水・風・闇の順番。闇の日が休日だ。

 さらに、王暦なるものあり、初代から数えて今は2565年となり現王マクシミリアン暦15年だ。

「今日は、王暦2565年現暦15年の〇月〇日、みずの日」と言うらしい。

 2565年も続いている王国なのか。すごいな。初めて聞いたときのミルの素直な感想である。


 私のプレートはたぶんないだろう。

聞いても殴られるだけだ。身分証明がなければ他の街や国も行けないだろう。一生この町に縛るつもりかもしれない。戸籍ない怖さは前世でよく知っている。パスポートも作れないし、結婚も出来ない。車の免許も取れないんじゃなかったか…。


 自分の父がこわい。狂人じゃないか。これは成人になるまでとか言ってはいられない。早急に動かないと。でも情報もお金も足りない。



 私は、情報を集めようとまず精霊たちにこの国のことを聞いた。時ちゃんは時空の精霊。昔のことから今の情勢までとても詳しい。


『いいよ。じゃあ目を閉じて』


目を閉じる?


 言われた通りに目を閉じた。おでこがほのかに暖かくなり色々な映像が頭の中に現れた。最近のことから徐々に古くなっていく。


 不思議なことに数分でこの国の内情や風習などを知ることが出来た。

自身に必要な近々の情報としては、この国には8歳から10歳まで午前のみ通える学校のような施設がある。2年通った証としてプレートに記されるとのこと。学卒という。


 この施設は、国で設立されていて無料で、文字や簡単な計算をおしえてくれる。しかも昼ご飯付だ。


 そのことはミルも知っていた。しかし、プレートに学卒として記されることは知らなかった。ジョセフはミルを学校に通わせていなかった。


それって不味くない?


 この2年の学校を出ない子はほぼいないらしい。それはそうだろう。勉強もおしえてくれてご飯が付いているのだ。貧しい家庭なら進んで行かせるだろう。

近所には「行きたくない。お店を継ぐから学校なんていかなくていい」

とミルが言っていると言いふらしている。


 もちろん、学校に入るのもその戸籍プレートが必須なのだ。

どうやったのかジョセフはミルがプレートを取得していないことを近所にはバレていない。


 ミルはもともと独自で勉強はしていた。文字がわからないと仕入れなんて出来ない。市場にいた人と仲良くなり文字と数字はすでに取得していた。簡単な計算は習わなくてももちろん出来た。出来はしたが、学校を出ていないという現実は消えない。


どうしたものか…。


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