出発
お向かいの雑貨屋のルーイは1ヶ月前に王都に行ってしまった。ルーイのお父さんの弟が住んでいて商売をしているらしい。3男のルーイはお父さんのお店は継げないのでそのおじさんの所に修行に出たようだ。ルーイの婚約者でもあるノアも王都に一緒に行った。ノアはノアのおばさん宅で暮らしている。ノアのおばさんも王都で店を一人で営んでいるらしい。将来は2人でそのお店を継ぐ予定なのだとか。近所で色々と嗅ぎ回っているうちにそんな情報まで入ってきた。
ルーイ…。ずっと私の事を心配してくれていたやさしい幼なじみ。ちょっと好きだった。初恋になるのかな?この国の結婚は大体親同士で決める。嫌いとかでなければそのままゴールインだ。11歳はさすがに早いがたまたまノアも王都にいくのでルーイはどうかと打診したらしいのだ。ノアの両親もルーイならと承諾したらしい。
ルーイのおじさんとは私もよく話しはしていた。でも婚約の打診なんてなかったな。親も私じゃいやだったよね。そりゃいやか。プレートもない学校も出ていないそんな子。大事な息子の嫁なんていやよね。うんうん。いやだよ。初恋は実らずものと言う。そーそー。
大丈夫。今世の私は精霊チートがある。きっと私にも好きな人と結ばれる日が来るさ。明日のために寝よう。たぶん、寝られないだろうけどね。
まだ夜明け前だろう。ミルはあまり寝られなかった。精霊たちがいるとはいえ野宿は初体験だ。あまりいいもんじゃないね。
もう移動しよう。とにかく早くこの町から離れたい。
「みんながせっかく作ってくれたものだけど壊して行きたいの。森をもと通りにしてくれる?」
川の近くに洗濯場を設置し、菜園を作り、土で作った祠ようなの中に草のベッドを作りここで生活出来るのではないかくらいの居心地の良さはあったがすべて壊して行くことにした。
『わかった~』
精霊はきれいにもと通りにしてくれた。
『よかったの?残してもよかったのに…』
「いいの。この場所が誰かに見つかってしまったら困るもの。ごめんね。また新しい拠点で作って貰っていい?」
『もちろん!もっといいものを作るよ~』
土の精霊がオレンジ色の光を放つ。
小さな精霊たちは森の中を飛び回る。そして、危険な森。魔獣が引っ切り無しに出てくる。精霊たちは見つけたそばから魔獣を狩って行く。
この一晩だけで10頭くらい狩っている。
「また出たのか。本当に森って魔獣が多いのね。時ちゃんお願い。」
時ちゃんが魔獣を収納する。
「時ちゃん、みんなもありがとね~」
『『なんの~』』
嬉しそうな精霊たち。いつもお願いしてばかりしていいのかなぁと思うが駄々洩れの魔力を摂取しているそうだし、いいのかな。いっか。
ミルは時の精霊、時ちゃんにお願いして移転をしてもらう。
移転先は駅馬車停留所だ。東門の近くにある。建物の隙間に誰にも見つからないように移転する。
目的地は隣町のイージュレンだ。イージュレンは王都の1つ前の街だ。イージュレンに向かうためには駅馬車を利用する。朝一でユロランからイージュレンに駅馬車で移動すると昼過ぎには到着する予定だ。
イージュレンの門まで移転を考えたがどうやってここまで来たのかとちょっと面倒なことになりそうだったなので駅馬車で向かうことにした。
ミルは肩掛けカバンを背負うと駅馬車に乗り込んだ。駅馬車は15デニー。半日掛る道のりの割に激安だ。これも国が3分の2を税金で出しているとの事。所謂、市営バスみたいな感じだろう。国民のことを考えているいい国だなと思う。
街を出るにもプレートがいる。専用の魔術具にプレートを掲げ本人であることが証明されると駅馬車のチケットが買えるのだ。誰が街に入ったのか誰が街から出たのかわかるようになっている。結構、ハイテクではないか。
ミルも自身の首に掛かっているプレートを出し魔術具に掲げてイージュレン行きのチケットを購入した。
ミルはプレート作っていた。
少し前にそろそろ家を出ようと考えていた時、ユロランに居てはジョセフに見つかり連れ戻されるだろう。とりあえず隣町まで逃げようと思い立った。
しかし、近所から得た情報によるとプレートがないと街から出られなし入られない。
どうするか…。
とりあえずの拠点にするため隣町のイージュレンに視察することにした。もちろん時ちゃんにお願いをする。
ミルはモスグリーンのワンピースに身を包みイージュレンの街を歩いた。生まれて初めてのワンピース。このワンピースはミルが近所で色々と情報収集をしているときにパン屋のおばさんから貰ったものだ。
「これ、私が成人のお祝いの時に両親が作ってくれたワンピースなの。生地もまあまあの物よ。成人のお祝いと結婚のお祝いでしか着なかったのよね。娘に来て貰おうとずっと持っていたの。でも生まれたのは男ばかりで孫もまだだし。いい加減古くなっちゃうわ。貰ってくれない?」
その日、ミルはパン屋で買い物をして雑談を装い情報収集をしていた。
「えっ!こんな素敵なワンピース貰っていいの?」
「いいわよ。誰も着ないし、だからと言って捨てられないしね。年頃のお嬢さんが来てくれた方がワンピースも喜ぶわ。」
ミルは言葉が出ず、目は涙でいっぱいになる。
「お父さんには内緒ね。気を使わせちゃうから。」
パン屋のおばさんは人差し指を口に持っていきウィンクをした。
「見つからないように持って帰るのよ!」
そう言っておばさんはミルのヨレヨレのシャツをめくり、ワンピースをお腹に隠すように言った。
「あ、ありがとうございます。大事に着ます!」
ミルはもっとお礼を言いたかったが、その言葉しか出なかった。
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