7.花が咲くことを夢見て
「缶詰は少ないから今日の夕飯もカップ麺だ」
外から帰ってきたルナは、湯を沸かし、三分待ってから蓋を外し、麺をほぐすとエトヴィンのいるベッドの隣の棚にカップ麺を置いた。
「……ずっとレトルトやカップ麺だから、君に怒られるんだろうな」
ベッドの上のエトヴィンは上体を起こしているものの、ルナの方を見ずにシーツへと視線を落とすのみで反応しなかった。それでもルナが毎日エトヴィンに食事を運ぶ。それはルナがいなくなって、しばらくしてから戻ってくるときちんと食事が平らげられているからだ。
フィクションのゾンビのように死んでいるわけではない。屍病はただの病だ。インフルエンザなどの病気と同じく、生きて、苦しんでいる。食事を与えなければそれこそ屍病ではなく飢えて死んでしまう。だから、こうして欠かさず料理を運んでいるのだ。
本当であれば、カップ麺などではなく栄養のある食事を与えたいが、ここでできることは限られている。避難できる街では研究所が燃えてしまった今、感染者は見つけ次第殺そうとしていることだろう。そんなところにエトヴィンを連れていったら、彼を治すことはできない。
だから、ルナはここで研究を続けるしかないのだ。研究所ほど実験器具やモルモットがいるわけではないが、幸いにもルナの自宅には研究所の環境に近い研究室が出来上がっている。娯楽や趣味や食事などに金を使わないため、実験器具などにほとんどの給料をつぎ込んだ結果。ここでエトヴィンを治す研究ができる。
研究はできるが、いつまでも病人を世話できる場所ではないことをルナは承知している。だからこそ、早く特効薬を作らなくてはと焦っているのだ。
「早ければ明日にも花が咲くかもしれないな」
スケッチをしている間にも、変化はあった。少しずつ切れ目が広がっていき、中から硬そうな蕾が顔を覗かせたのだ。まるで蕾が背中の切れ目に無理やり顔をねじ込んで出ようとしているようだった。
「もし、これで本当にあの花から特効薬のヒントが見つかれば、お笑いものだな。我々は今まで特効薬へのヒントを自分たちの手で消していたことになるのだから」
ルナはエトヴィンのいるベッドに背をつけて、ずるずるとその場に座り込んで、膝を抱えた。少しだけ眠たくなって、目を瞑ると一気に瞼が重くなり、意志の力では開けられなくなる。
頭を優しく撫でられたような心地がして、そのままルナは眠ってしまった。




