6.末期患者の観察
ようやく、厳重な隔離体勢でなら重篤患者の経過観察をしてもいいと許可をもらったのは、研究所が焼失する前日のことだった。
「よかったね、ルナ!やっと所長から許可がもらえたんだって?」
「ああ。これでようやく重篤患者の状態が分かる」
ルナは足取りは軽く、割り当てられた隔離室へと向かった。
「それにしても、末期の患者をどうやって確保したんだろう?たいていは焼灼処分されてたはずでしょ?」
末期の患者の背中から花が咲く。そんな噂が研究所では囁かれていた。その元凶ともいえる日記は巡り巡ってルナが手に入れた。末期患者について触れられている文は一文ほどしかなく、正確な資料とは言えなかったが、末期患者が見られないのも頷ける。
花が咲いたら、花粉が飛ぶ。もし、患者から咲く花も普通の花と同じように花粉を飛ばすとしたら?それがウイルスではないとは言い切れない。だから、花が咲く前に焼却処分をするのだろう。
「確かにそうだな。もしかしたら隔離病棟に残っていた患者を連れてきたのかもしれない。……あそこももう放棄されるらしいしな」
屍病の患者を隔離できる場所は少ない。患者を受け入れていた隔離病棟ももうすでにパンク状態で、最終的に病院としての機能が放棄され始めた。避難という形で病院から職員が消え、ほとんとの中期患者が安楽死という結果になるらしい。安全に患者を連れてこれるとしたら、あの病院の患者がまだ残っていたということだろう。
「病院から連れてこられたとしたら中期の患者かな?」
「だろうな。あの所長がいくら許可を通したからと言って、私以外の研究員を花の危険にさらすつもりはないと思う」
ルナとエトヴィンの予想通り、研究所の端の端にある隔離室には中期の患者が入っていた。皮膚が爛れていて年齢は予想できないが、身長は百六十前半のブロンドの髪の女性だった。彼女は隔離室の中で三メートル歩いては後ろを向いて三メートル戻るという行動を繰り返していた。




