第6話 『あなたの剣に魅入られて。』
父の両手持ちの構えを見て。
しかし、僕の心は不思議と高鳴っていた。
研ぎ澄まされた強者の構え。
その剣が描く、美しい輝きをこの目で見て思い出す。
(そうか、僕が剣に憧れて、好きになったのは――)
すべての原点がここにある。
もう震えはない。
逃げもしない。
だって、十分なくらい背中は押して貰えたから。
僕は今日、この停滞した日々にさよならを告げる。
「――ふっ」
父上に迫る。
ここからは未知の世界。
目をかっぴらいて相手を観察する。
微細な動きから次の動作を予測して備えて。
そのからはじき出される最適解を延々と振るい続ける。
「くっ!」
思考する余地もなく、眼前に大剣が迫る。
屈む暇もなく、剣で防ぐも弾き飛ばされる。
転がりながら受け身を取って立ち上がる。
圧倒的な力と技。
彼の微細な動きから枝分かれする無数の剣戟。
「はっ――」
胸が高鳴る。
自分が笑っていることに今気づいた。
僕は父上の美しい剣戟を目の当たりにして、笑っているんだ。
どうして? 決まってる。
剣は、どこまでもどこまでも、僕を魅了するからだ。
◇
『フィンは目がいいな』
これはまだ父上が優しかったころ。
兄も姉もみんな生きてた、幸せな時間。
『そうか、フィンは剣が好きだからか。だからすぐに技を覚えられるし、小さな動きから予測もできるんだな』
ごつごつした手で頭をなでられた。
その感触を今でも覚えている。
『みんな大人になるとそれをどうにも忘れてしまう。だから、フィン、お前は忘れないでくれ』
僕を見る、この目が好きだった。一本の剣のように、まっすぐ通れないこの目が。
『まあ、力も技もまだまだだから宝の持ち腐れだがな』と、最後に父は冗談交じりに苦笑した。
でも、それから兄が死んで、姉が死んで、六人いた兄弟たちがみな死んでいき。
父はついに笑顔を見せることはなくなった。
*
楽しい。
それだけが頭を満たしている。
成長して、筋肉がついて、技も磨かれた。
父とこうして剣を交えている。
この時間が、心底楽しい。
父はもうとっくの昔に死んでいる。
叶わないはずの再戦が今ここにある。
もう二度と、父と話すことはできない。
僕ではない誰かが聖剣に選ばれたとき、父は果たして何を思ったのか。
僕と父の間に、どのような会話がなされたのか。
想像しただけでも気が重くなる。
父は最期に何を思ったのか。
すべては何も分からずじまい。
だけど、この戦いには意味がある。
ただの自己満足かもしれない。
だけど、彼の剣を見れてよかった。
切実にそう思う。
「ぁ……――」
視界が赤色に染まって、はじめて気づく。
僕の身体はボロ雑巾のように満身創痍だった。
もはや、力は残されていない。
『ィ……』
父が僕を見据える。
まだまだ父の剣技へは辿り着けない。
身体が成長してなお、これほどまでの差があった。
『ギ…………ィ……ッ!』
直後、ばき、という鈍い音と共に骸骨の膝が割れる。
連鎖して父の身体はボロボロと崩れていった。
「……ははっ」
消耗戦。人間の生身とは異なり、相手は骨。ダメージはすべて骨へと蓄積される。
当然、生身よりも脆い。
「フィンっ!」
一気に力が抜けて倒れこむ。
遠くで彼女の声がする。
体中痛いが、不思議と気分は悪くない。
意識が微睡む中で、薄く開いた瞳でただ白髪の少女を探していた。




