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006 【侵入者】

洞窟の中へ、一歩。


 アリカは恐る恐る足を踏み入れた。


 雨で濡れた身体から、水滴がぽたぽたと落ちていく。


「……あのぅ」


 声が、広い洞窟内に響いた。


 三人の男が振り返る。


 アリカは、彼らの表情を見て少しだけ安心した。


 人がいた。


 これなら――。


「あの……助けてほしいんです!」


 アリカは息を整えながら、必死に訴えた。


「私の友達が蛇に咬まれて……!」


「……」


「すごく具合が悪くなってて……。私、助けを呼びに来たんです!」


 男たちは互いに顔を見合わせる。


 そして――。


「……チッ」


 小さな舌打ち。


「見られたか」


「どうする?」


「決まってんだろ」


 リーダー格の男が、二人の仲間へ近づいた。


 そして、アリカに聞こえないほどの小さな声で囁く。


「捕まえろ」


「……殺すのか?」


「目撃者を生かしておく理由があるか?」


 男たちが動き出す。


「……え?」


 アリカは首を傾げた。


 何かがおかしい。


 さっきまで助けを求める相手だったはずなのに。


 どうして――。


「あの……?」


 一人の男が近づいてくる。


「……」


 アリカが後ずさる。


「私、――」


 その時だった。


 ――ゾワッ。


 背筋を走る異様な感覚。


 アリカ自身は気付いていなかった。


 目の前の男たちが放っている、殺気。


 だが。


 別の存在が、それを感じ取った。


「――ッ!」


 突然。


 アリカの背後で風が渦巻いた。


「え?」


 バチッ!


 青白い火花が弾ける。


「な、何!?」


 アリカが振り返る。


 その瞬間――。


 黒い風が、一気に吹き抜けた。


 アリカの横を通り過ぎ、三人の男の前へ躍り出る。


 小柄な影。


 風を纏い、鋭い鎌を構えた存在。


「……ハヤテ?」


 アリカが呆然と呟いた。


 守護精霊――ハヤテ。


 その身体から風が激しく渦巻いている。


 そして。


 鎌の刃に――。


 バチバチバチッ!


 電気のような放電が走った。


「な……」


 三人の男が目を見開く。


「守護精霊……?」


「いや、待て!」


 リーダー格の男が叫ぶ。


「こいつ――精霊使いか!?」


「しかも守護精霊持ちだと!?」


 ハヤテは答えない。


 ただ鎌を構え、三人を睨みつける。


 威嚇。


 明確な警告だった。


「ハ、ハヤテ……?」


 アリカは困惑した。


「どうしたの?」


 ハヤテは一度だけアリカを見る。


 そして再び男たちへ視線を戻す。


「……?」


 アリカには、まだ分からない。


 だが――。


 男たちは理解していた。


 こいつは、本気で自分たちを敵と認識している。


「構うな!」


 男の一人が叫ぶ。


「先に潰せ!」


 その瞬間。


 地面が爆ぜた。


「――え?」


 ゴォンッ!


 地面から土がせり上がる。


 瞬時に形を変え――。


 巨大な土の槍となって、アリカへ飛来した。


「きゃああっ!」


 アリカは反射的に目を閉じた。


 ――ガンッ!


 だが。


 槍はアリカへ届かなかった。


 ハヤテが前へ飛び出していた。


 鎌を振り抜く。


 巻き起こった風が壁となり、土槍を弾き飛ばす。


 ズドン!


 槍が洞窟の壁へ突き刺さる。


「……っ!」


 アリカは息を呑んだ。


「ハヤテ……!」


 ハヤテが振り返る。


 まるで、


『下がれ』


 と言っているようだった。


「……分かった!」


 アリカは後ろへ下がる。


 だが――。


「逃がすか!」


 土の精霊使いが両手を地面へ叩きつける。


 洞窟の床が隆起した。


 無数の岩塊が飛び出す。


「うわっ!」


 アリカが走る。


 右。


 左。


 頭上。


 次々と迫る土塊を避けていく。


「ハヤテ!」


 ハヤテがアリカの前へ滑り込む。


 風が渦巻く。


 岩塊を吹き飛ばす。


 だが、その隙に土の精霊使いが距離を詰めた。


「――もらった!」


 拳を振り抜く。


「キュイッ!」


 ハヤテが鎌で受け止める。


 ギィン!


 激しい衝撃。


 風が弾ける。


「ハヤテ!」


 アリカが叫ぶ。


 その瞬間――。


「よそ見すんな!」


「――え?」


 横から、もう一人。


 男の拳が迫った。


 ハヤテが気付く。


 しかし、間に合わない。


 ドンッ!


「――っ!」


 ハヤテが吹き飛ばされる。


「ハヤテ!」


 アリカが駆け寄る。


「大丈夫!?」


 ハヤテはすぐに起き上がった。


 だが、その動きが僅かに鈍い。


「……っ」


 アリカの顔が強張る。


 二人。


 しかも、一人は土の精霊術使い。


 状況が理解できない。


 自分はただ、助けを求めただけなのに。


「どうして……」


 震える声。


「どうして私たちを……」


 答えは返ってこない。


 男たちは容赦なく迫る。


 ハヤテが前へ出る。


 風が渦巻く。


 男が踏み込む。


 土の壁が迫る。


 鎌が閃く。


 風が裂ける。


 土と風が激しくぶつかり合う。


 アリカは必死に逃げながら、ハヤテを援護しようとする。


「右!」


 ハヤテが反応する。


 鎌を振る。


 土の刃が砕ける。


「今!」


 アリカが叫ぶ。


 ハヤテの身体が一瞬だけ消えた。


 風。


 次の瞬間。


 土の精霊使いの背後へ回り込む。


「――!」


 バチィッ!


 鎌から放電が走る。


「ぐあっ!」


 男が吹き飛んだ。


「やった!」


 しかし――。


「調子に乗るな!」


 別の男が横から飛び込んだ。


「――えっ!?」


 アリカの身体が宙へ浮く。


 ドンッ!


「きゃあっ!」


 壁へ叩きつけられた。


ーーーキュイッ!


 ハヤテが振り返る。


 その隙に男が襲いかかる。


ーーーッ!?


 ハヤテも吹き飛ばされる。


「ハヤテ……」


 アリカの視界が揺れた。


 音が遠い。


 雨音も。


 雷鳴も。


 男たちの声も。


 全部が水の中に沈んでいくようだった。


「……どう……して……」


 立ち上がろうとする。


 足に力が入らない。


 その身体を――。


 男の手が掴んだ。


「捕まえた」


「……っ」


 髪を掴まれる。


「いたい……!」


 そのまま身体を持ち上げられた。


「ハヤ……テ……」


 視界の端で、ハヤテが立ち上がろうとしている。


 だが、男に蹴り飛ばされる。


「――!」


 アリカは声を上げようとした。


 けれど、声が出ない。


「殺すのは簡単だが……」


 リーダー格の男が歩み寄る。


「こいつ、精霊使いだ」


 男がアリカを見る。


「生きたまま持ち帰った方が使い道があるかもしれん」


「じゃあ、連れていくか」


 髪を掴んでいる男が頷く。


 その時だった。


 リーダー格の男が――。


「……待て」


 足を止めた。


「何だ?」


「……精霊の気配」


「え?」


 微かな魔力。


 だが――。


 先ほどまでとは違う。


 洞窟の空気そのものが変化している。


 リーダー格の男の顔から笑みが消える。


「避けろ!」


「――は?」


「そこから離れろ!」


 次の瞬間。


 空間が歪んだ。


「――ッ!」


 ドォォォンッ!


 見えない何かが、洞窟全体を押し潰した。


「ぐあああっ!」


 アリカの髪を掴んでいた男が地面へ叩きつけられる。


 身体が、床へ貼り付いた。


「な、なんだ……この重さは……!」


 地面が軋む。


 岩が砕ける。


 男の身体が動かない。


「う、動けねぇ……!」


 洞窟の入口。


 そこに、一人の少年が立っていた。


 全身ずぶ濡れ。


 雨水が髪から滴り落ちる。


 しかし、その瞳だけは――。


 冷たいほどに鋭かった。


「……アリカ」


 低い声。


 怒りを押し殺した声だった。


 アリカの目が大きく開く。


「……け、啓太…さん…?」


 少年は一歩、洞窟の中へ入る。


 足元の水たまりが、静かに揺れる。


「全員――」


 啓太の青いの瞳が、男たちを射抜く。


「……動くな」


 声が響いた。


 先ほどまで激しく騒いでいた洞窟が、まるで静まり返ったように感じられた。


 リーダー格の男が、啓太を睨む。


「……天城、啓太?」


 その名を知っていた。


「なんでここに……」


 啓太は答えない。


 ただ、アリカを見る。


 傷ついている。


 髪を掴まれていた。


 そして――。


 その背後には、見慣れたハヤテが倒れている。


 啓太の表情から、完全に感情が消えた。


「……三人」


 静かに呟く。


「お前たちが、アリカを……」


 拳を握る。


 ミシリ。


 指の関節が鳴った。


「……覚悟しろ」


 洞窟の奥。


 封印されたままの天逆鎖が、石像から外された状態で静かに横たわっている。


 啓太は、それに気づいていない。


 今、この場所で始まろうとしているのは――。


 ただの試験ではない。


◇ ◇ ◇



――ドォォォン……。


 重い音が洞窟に響いた。


 床に叩きつけられた大柄な男の身体が、見えない巨大な手に押さえつけられたかのように動かない。


「ぐ……っ!」


 男が両腕に力を込める。


 だが、起き上がれない。


 身体全体に掛かる異常な重圧。


 重力場。


 啓太は洞窟の入口に立ったまま、男を見下ろしていた。


「アリカに……何をした」


 低い声だった。


 怒鳴ってはいない。


 それなのに、その声には明確な殺気が宿っていた。


「啓太さん……」


 アリカが呟く。


 安心した。


 そう思った瞬間、身体から力が抜ける。


「……よかった……」


 意識が遠のく。


 ハヤテがすぐにアリカの傍へ駆け寄った。


「……!」


 しかし。


「――まだ終わってねぇぞ」


 リーダー格の男が呟いた。


 その瞬間。


 啓太の足元が沈んだ。


「……!」


 ドゴォン!


 床が崩れ、啓太の身体が僅かに沈む。


「啓太さん!」


 アリカが叫ぶ。


 だが、啓太は動かない。


 その場から一歩も退かなかった。


 リーダー格の男が手を地面へ向ける。


「沈め」


 ズズズズズ……。


 大地そのものが蠢いた。


 重力場に押さえつけられていた大柄な男の周囲の土が、液体のように変化する。


「っ……!」


 啓太が眉を動かした。


 大柄な男の身体が、土の中へ沈んでいく。


「おい、何を――!」


「じっとしてろ!」


 男の身体が完全に地中へ消える。


 そして――。


 数メートル離れた場所。


 地面が蠢いた。


「うおおおおおっ!」


 大柄な男が地中から這い出てきた。


「助かったぜ!」


「馬鹿力が必要なんだよ」


 リーダー格の男が冷たく言う。


「こいつを正面から相手するな」


 啓太を指差す。


「守る対象を背負わせろ」


「……なるほど」


 もう一人、水の精霊使いが笑った。


「美しくない作戦だな」


「お前にぴったりだろ」


 男が両手を広げる。


 洞窟内に水が集まり始めた。


 天井から落ちる雨。


 洞窟へ流れ込む水。


 床に溜まった水たまり。


 それら全てが男の周囲へ吸い寄せられていく。


「――水は、どこにでもある」


 男が笑う。


「つまり、この島そのものが俺の武器だ」


 水の弾丸が生まれた。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 十。


 二十。


 無数。


 啓太の目が細くなる。


「……厄介だな」


 啓太は両手を前へ掲げた。


 右手の前に、黒い球体が一つ。


 左手の前に、もう一つ。


 二つの球体は、同じ黒色でありながら性質が異なっていた。


 一つは周囲の空間を歪め、重力場を発生させる球。


 もう一つは、触れたものを引き寄せる力を持つ球。


 啓太は右手の球体を僅かに動かした。


 ズンッ!


 大柄な男の周囲に重力場が生まれる。


「ぐ……っ!」


 男の身体が再び床へ押しつけられた。


 同時に、左手の球体が水弾を引き寄せる。


 軌道を逸らされた水弾が、洞窟の壁へ突き刺さった。


 ドォン!


「……!」


 水の男が目を見開く。


「何だ、あの精霊術……?」


「さて、何だろうな」


 啓太が静かに言う。


「近づくな」


 リーダー格の男が注意をする。

 

 だが、敵は止まらなかった。


 水弾が一斉に放たれる。


 ドドドドドドドッ!


 啓太の前に、闇の障壁が現れた。


 黒紫の壁は、飛来した水弾を受け止めるのではなく、触れた瞬間に飲み込んでいく。


 水弾が一つ消える。


 二つ消える。


 三つ消える。


 そのたびに、障壁の面積が僅かに縮んでいった。


「……!」


 啓太は障壁を見つめる。


 攻撃を飲み込む代わりに、質量を取り込んだ分だけ小さくなる。


 無限に受け続けられるわけではない。


「そこから動かないつもりか?」


 水の男が笑う。


「なら――」


 水弾の一部が軌道を変えた。


「守るものを狙えばいい」


「――!」


 アリカへ向かった水弾。


 啓太は左手の黒い球体を動かした。


 引き寄せる力が水弾を強引に引き寄せ、軌道を逸らす。


 水弾は啓太の横を抜け、壁へ激突した。


「させるか」


 啓太の声が低くなる。


 右手の球体が唸った。


 大柄な男の身体が、再び床へ沈み込む。


「ぐおおおおおっ!」


 男が吠えながら腕を伸ばす。


 だが、重力場に押さえつけられ、立ち上がることすらできない。


「甘い!」


 リーダー格の男が大地へ手を向ける。


 大柄な男の周囲の土が液体のように変化した。


「沈め!」


 男の身体が土の中へ沈む。


 啓太はすぐに右手の球体を動かした。


 重力場が地中へ広がる。


 だが、土術によって男の身体は別の場所へ運ばれていく。


 数メートル離れた場所。


 地面が蠢いた。


 大柄な男が地中から這い出てきた。


「何度も同じ技をくらうな!」


 リーダー格の男が冷たく言う。


「さっきも言ったが、こいつを正面から相手するなよ」


 啓太を指差す。


「守る対象を背負わせろ」


「……やってるんだけどねぇ」


 水の男が笑った。


 再び水弾が生まれる。


 再び啓太ではなく、アリカへ向けて放たれた。


 啓太は二つの黒い球体を同時に動かした。


 一つが水弾を引き寄せる。


 もう一つが周囲に重力場を発生させ、残った水弾の軌道を地面へ落とす。


 ドドドドドッ!


 洞窟の床が抉れた。


 その間にも、闇の障壁は水弾を飲み込み続けている。


 黒い壁は、最初よりも明らかに小さくなっていた。


「……厄介だな」


 啓太が呟く。


 敵は三人。


 しかも、攻撃の方向を分散させている。


 障壁で防げば小さくなり、球体で逸らせば別の攻撃が飛んでくる。


 それでも啓太は、アリカの前から動かなかった。


「お前は強い」


 リーダー格の男が言う。


「だが、守るものがある奴は弱い」


 水弾が再びアリカへ向かう。


 啓太は左手の球体を動かした。


 水弾が引き寄せられ、啓太の前へ集まる。


 そこへ右手の球体が生み出した重力場が重なった。


 水弾同士が衝突し、まとめて床へ叩き落とされる。


「……俺の後ろにいるのは」


 啓太がアリカを見る。


「大切な仲間だ」


 再び敵へ視線を戻す。


「お前たちに触れさせるつもりはない」


 その瞬間だった。


 ――バチッ。


 小さな放電音。


 ハヤテが動いた。


 誰にも気づかれないように、ハヤテは洞窟の隅へ視線を向けた。


 そこには――。


 石像から外された天逆鎖。


 黒く捻じれた、異様な鎖。


 メビウスの輪のように一つ一つの輪が捻じれ、普通の鎖ではあり得ない構造をしている。


 そして、その表面には能力を封じるための封印術式が幾重にも刻まれている。


 ハヤテが啓太を見る。


 啓太は敵から視線を外さない。


 右手の黒い球体が大柄な男を牽制し、左手の球体が水弾の軌道を逸らしている。


 その隙に――。


 ハヤテは風になった。


「――!」


 一瞬。


 誰も気づかなかった。


 バシュッ!


 風が走る。


「なにっ!?」


 水の男が振り返る。


 しかし遅い。


 ハヤテは天逆鎖を掴んだ。


 鎖が床を擦る。


 ジャラッ!


 そしてアリカの元へ戻る。


「……ハヤテ?」


 アリカが薄く目を開ける。


 ハヤテは鎖を彼女の前へ置いた。


「これ……?」


 アリカには、それが何なのか分からない。


 だが、ハヤテが必死に訴えている。


「……持っていけってこと?」


 ハヤテが頷く。


 アリカは鎖を掴んだ。


「分かった……」


 啓太もそれを確認した。


「……それを持っていくぞ」


「え?」


「ここにいるのは危険だ」


 啓太は敵を見る。


 三人とも戦闘態勢に入っている。


「俺が道を作る」


 啓太は二つの黒い球体を前方へ動かした。


 右の球体が重力場を生み出し、敵の足元を押さえつける。


 左の球体が周囲の水と土を引き寄せ、敵の動きを乱す。


「そして――」


 啓太はアリカへ視線を戻した。


「アリカを連れて逃げる」


「……はい!」


 啓太はアリカの身体を抱き上げた。


「えっ……」


「掴まってろ」


 アリカの身体が啓太の腕の中に収まる。


 ハヤテが前へ出る。


 そして――。


「逃がすと思うか!」


 三人が同時に動いた。


 土。


 水。


 そして土の拳。


 全てが啓太へ殺到する。


 啓太は二つの黒い球体を動かした。


 重力場が土塊を地面へ叩き落とす。


 引き寄せる球が水弾を逸らし、敵の拳を僅かに引き寄せて軌道を狂わせる。


 それでも、数が多い。


「――闇竜」


 啓太の背後に、巨大な黒い影が現れた。


 漆黒の鱗。


 巨大な翼。


 鋭い牙。


 闇の守護精霊――。


 闇竜。


「――咆哮」


 グォォォォォンッ!


 凄まじい衝撃波が洞窟を揺らした。


「な――」


 三人の顔が引きつる。


 天井に亀裂が走る。


 壁が崩れる。


「おい!」


「洞窟が……!」


 啓太はアリカを抱えたまま走る。


「ハヤテ!」


 ハヤテが続く。


「逃がすな!」


 リーダー格の男が叫ぶ。


 だが。


 ドゴォォォォンッ!


 洞窟の天井が崩落した。


 大量の岩が三人の前に落ちる。


 啓太は崩れ落ちる洞窟を抜け――。


 外へ飛び出した。


「……!」


 激しい雨。


 荒れ狂う風。


 そして――。


 切り立った崖。


「外に出たぞ!」


 後ろから男の声。


 啓太はアリカを抱いたまま走る。


「もう少し――!」


 その時。


 ――バチィッ!


 空中に巨大な水球が浮かんだ。


「……!」


 啓太が振り返る。


 洞窟の入口。


 そこに水の精霊使いが立っていた。


 雨が、男の周囲へ集まっていく。


「逃がすかよ」


 笑っている。


「この天気で、俺から逃げられると思ってんのか?」


 無数の水弾が空中に浮かぶ。


 前方。


 左右。


 頭上。


 背後。


 全方向。


「――!」


 啓太がアリカを強く抱き寄せる。


「ハヤテ、下がれ!」


 水弾が一斉に放たれた。


 ――ドドドドドドドドドッ!


 啓太は二つの黒い球体を動かした。


 引き寄せる球が水弾の一部を逸らし、重力場を生む球が別の水弾を地面へ叩き落とす。


 だが、全ては防ぎきれない。


 啓太の前に闇の障壁が現れた。


 水弾が触れるたび、黒い壁はそれを飲み込んでいく。


 一発。


 二発。


 三発。


 そのたびに、障壁の面積が縮んでいく。


「くっ……!」


 雨そのものが敵の力を増幅している。


 障壁が小さくなる。


 啓太はアリカを離さない。


 さらに水弾。


 今度は足元。


 地面が吹き飛ぶ。


「――ッ!」


 啓太の身体が傾く。


 その先には――。


 崖。


「……!」


 啓太が目を見開く。


 アリカを抱いたまま、踏みとどまろうとする。


 だが。


 濡れた地面が崩れた。


「――しまっ!」


 ズズズズズッ!


 崖が崩落する。


「啓太さん!」


 アリカの声が響く。


 啓太は咄嗟にアリカを胸へ抱き込んだ。


「アリカ!」


 二人の身体が――。


 崖の外へ投げ出される。


「――――ッ!」


 視界が反転した。


 激しい雨。


 白い水煙。


 そして――。


 遥か下に広がる、荒れ狂う海。


 啓太とアリカの身体は、そのまま――。


 深い崖下へと落ちていった.


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