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LIBERAL ONLINE  作者: Guri
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白い場所


一方、湊は、白い場所にいた。


どこを見ても、白かった。


足元も、空も、遠くにあるはずの景色も、

すべてが淡い光に包まれていて、壁があるのか、

地面が続いているのかさえ、よく分からない。


寒くはなかった。


けれど、温かいわけでもなかった。


音もない。


風もない。


ただ、何もない白さだけが、どこまでも続いていた。


「……ここ、どこだろう」


湊は、そっと自分の手を見下ろした。


指先は動く。


胸に手を当てれば、そこには痛みがなかった。


あれほど苦しかったはずの心臓も、

息を吸うたびに身体の奥を締め付けていた痛みも、今はどこにもない。


苦しくない。


そのことに、最初はほっとした。


けれどすぐに、別の不安が胸を満たした。


最後に見たものを、湊は覚えていた。


白い光。


強制ログアウトの通知。


眠っていたフィリックスの横顔。


繋いでいた手の温もり。


届かなかった言葉。


そして、

冷たく眩しい現実の中で、もう戻れないのだと悟ったこと。


「……僕、死んだんだよね」


声にすると、不思議なくらい静かだった。


怖くなかったわけではない。


最後の瞬間は、とても怖かった。


フィリックスのそばへ戻れないことが、何よりも怖かった。


けれど今は、恐怖よりも、

どうしてここにいるのか分からない戸惑いの方が大きかった。


ここは、あの世なのだろうか。


病院で読んだ本や、仮想図書館で見つけた物語の中には、

亡くなった後に光の中へ行く人たちがいた。


けれど、そこには家族がいたり、案内をする人がいたり、

懐かしい景色が広がっていた。


ここには、何もない。


誰もいない。


フィリックスもいない。


そのことに気付いた瞬間、湊の胸がきゅっと痛んだ。


痛みのないはずの場所で、それでも確かに、苦しくなった。


「フィリ……」


呼んでも、返事はない。


分かっていた。


ここは、あの世界(リベラルオンライン)ではない。


あの家の寝室でもない。


窓辺の鳥も、棚に並べた小物も、

フィリックスの大きな手も、どこにもない。


湊は唇を噛んだ。


ちゃんと伝えたかった。


大好きだと。


幸せだったと。


急にいなくなってごめんねと。


自分のことなんて忘れて、どうかちゃんと笑って生きてほしいと。


けれど、

本当は忘れないでいてほしいのだと。


何一つ、伝えられなかった。


その心残りだけが、白い場所へ来ても、胸の奥に残っていた。



「……ミナト」


不意に、誰かの声がした。


湊は顔を上げた。


少し離れた場所に、人が立っていた。


いつからそこにいたのか、まったく分からなかった。


白い長い衣をまとっているようにも見えたし、

ただ光が人の形を取っているだけのようにも見えた。


髪の色も、瞳の色も、はっきりとは分からない。


男の人のようにも、女の人のようにも見えた。


けれど、

その存在がこちらを見ていることだけは、なぜか分かった。


湊は、少しだけ身構えた。


「……あなたは、誰ですか」


その人は、穏やかに微笑んだようだった。


けれど、その表情も、見ようとすればするほど曖昧になる。


「君たちがそう呼ぶなら、神、と答えるのが一番近いだろう」


「神様……?」


湊は小さく繰り返した。


信じられない気持ちはあった。


けれど、ここがどこなのかも、

自分がどうして苦しくないのかも分からない今、

その言葉を否定する理由もなかった。


神を名乗る存在は、ゆっくりと湊へ近付いた。


足音はしない。


けれど、不思議と怖くはなかった。


「君は、終わりを迎えた」


その言葉に、湊は目を伏せた。


やはり、そうなのだ。


もう、現実の自分には戻れない。


両親にも、会えない。


そして、フィリックスのいる世界にも。


理解していたはずのことが、

言葉にされると、急に現実味を帯びた。


「……はい」


湊は、かすかに答えた。


神は、少しだけ間を置いた。


「⋯あの世界は、ただの架空の物語ではない」

「君たちの世界とは別に、実在する世界だ」


湊は、息を呑んだ。


「そこへ戻れば、君はこの世界での輪廻の輪から外れることになる」


神の声は、静かだった。


「あちらで死んだ際、君の魂がどうなるかは、私にも分からない」


湊は、言葉を失った。


ゲームだと思っていた世界が、ただの物語ではない。


あの場所は、確かに存在している。


フィリックスのいる世界は、夢でも、作り話でもなかった。


「……戻れるんですか」


かすれた声で、湊は尋ねた。


神は、湊を見つめたまま、ゆっくりと頷いた。


「それでも、戻ることを望むのか?」


湊は、迷わなかった。


怖かった。


何が待っているのか分からなかった。


フィリックスがまだ、

自分を待っていてくれるのかも、もう分からない。


それでも。


「……望みます」


湊は、涙で濡れた目をまっすぐに向けた。


「フィリに、会いたいです」


その瞬間、白い空間の奥で、何かが淡く光った。


神が、静かに目を細め最後に告げた。


「あ⋯⋯にも⋯⋯い⋯⋯⋯こ⋯に⋯⋯が⋯ん⋯⋯を」


けれど、その言葉は、

白い光に呑まれて湊の耳には届かなかった。


視界が真っ白に染まる。


身体が浮くような感覚がして、足元の感覚が消えていく。


「え……?」


湊が声を上げるより早く、世界は光に包まれた。


そして次の瞬間。


湊は、柔らかな寝台の上で目を開けた。




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