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LIBERAL ONLINE  作者: Guri
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優しい有名人

 

 それから二年の月日が流れた。


 十五歳だったミナトは十七歳になり、リベラル・オンラインで過ごす時間は

 もはや彼の人生の大きな一部になっていた。


 現実での治療は今も続いている。


 定期検査もあるし、体調を崩す日もある。


 それでも、病室のベッドで目を閉じれば、あの世界が待っていた。


 風が吹く世界。


 森がある世界。


 自分の足で歩ける世界。


 そして、大好きな人たちが暮らしている世界。


 ログインした瞬間に胸が温かくなる感覚は、今も変わらない。


 ミナトはいつものように、自宅の扉を開いた。


 街の外れに借りている、小さな工房付きの家。


 庭には薬草畑が広がり、壁には干された薬草が並び、

 棚には数え切れないほどの素材が積まれている。


 もう初心者の頃の面影はない。


 それでも、家の主だけは相変わらずだった。


「今日は天気がいいなぁ」


 庭へ出ると、朝露をまとった薬草が陽光を受けてきらめいていた。


 ミナトは一株ずつ丁寧に触れながら、状態を確かめていく。


 病気になってから、植物に触れる機会はほとんどなかった。


 だからこそ、この時間が好きだった。


 芽吹く瞬間も、花が咲く瞬間も、種が実る瞬間も、どれも嬉しい。


 小さな命が育っていくのを見守っているようで、自然と笑みがこぼれる。


 そんな日々を重ねるうちに、ミナトはいつの間にか

 生産職プレイヤーたちの間で有名人になっていた。


【錬薬】取得者。


 希少薬草の発見者。


 高品質ポーション職人。


 さらに一年ほど前には、

【園芸】と【鑑定】という二つの隠しスキルまで手に入れている。


 とくに【園芸】は異常だった。


 本来なら育たない希少薬草まで栽培できるようになったのだ。


 そのせいで、ミナトの工房には毎日のように依頼が舞い込む。


 高ランク冒険者、有名ギルド、生産職たち。


 さまざまな人が彼を訪ねてきた。


「これ、ありがとう」


 依頼主が深々と頭を下げる。


 受け取ったポーションは黄金色に輝いていた。


 市場に出せば、とんでもない値がつく代物だ。


 けれどミナトは首を傾げる。


「役に立ちそう?」


「役に立つどころじゃない!」


「よかったぁ」


 心から安心したように笑う。


 それだけだった。


 金額にも、評判にも、名声にも、ほとんど興味がない。


 そのため周囲はいつも困惑していた。


 何しろ本人だけが、自分の価値をまるで理解していないのだ。


 掲示板では名前が飛び交い、動画配信者が取り上げ、攻略サイトでも話題になる。


 それでも本人は、


「そうなんだ」


 で終わる。


 あまりにも欲がなかった。


 だからこそ好かれる。


 そして同時に、狙われることにもなった。


 最初は些細なことだった。


 有名ギルドからの勧誘。


 断る。


 別のギルドからの勧誘。


 断る。


 また別のギルドからの勧誘。


 断る。


 ミナトは誰にも所属しなかった。


 理由は単純だ。


 自由でいたかったのだ。


 好きな時に本を読み、好きな時に薬草を採り、好きな時に物を作る。


 それが楽しかった。


 だから、縛られたくなかった。


 だが、それを面白く思わない者もいる。


 ある日、掲示板でミナトの名前が議論になった。


 有名ギルド同士が揉め始めたのである。


 どちらが囲うべきか。


 どちらが支援しているか。


 誰が優先的に依頼を受けるべきか。


 そんな話だった。


 ミナト本人の意思など、最初から置き去りのまま。


 話だけがどんどん大きくなっていく。


「……なんでだろう」


 工房で掲示板を眺めながら、ミナトは小さく呟いた。


 ただゲームを楽しんでいただけなのに。


 好きなことをしていただけなのに。


 知らないところで誰かが言い争っている。


 それが少し悲しかった。


 数日後、あるプレイヤーが工房へやって来た。


 対応を巡って口論になり、別のプレイヤーも加わって、結局は騒ぎになった。


 ミナトはただ困っていた。


 怒ることもできないし、責めることもできない。


 だから何度も頭を下げる。


「ごめんなさい」


「ミナトさんが謝ることじゃない!」


「でも……」


「だから違うって!」


 結局、その日も解決しなかった。


 夜。


 誰もいなくなった工房で、ミナトは一人座り込む。


 窓の外では雨が降っていた。


 ぽつぽつと、静かな音を立てながら。


 膝を抱えたまま、ミナトは小さく息を吐く。


 楽しかったはずなのに。


 好きだったはずなのに。


 少し疲れてしまった。


「静かな場所がいいなぁ……」


 ぽつりと零れる。


 誰もいない場所。


 薬草が育つ場所。


 本が読める場所。


 穏やかに暮らせる場所。


 そんな場所で過ごしたかった。


 すると翌日、図書館で偶然見つけた古い地図に、ある土地が記されていた。


 王国最北端。


 雪と森に囲まれた辺境。


 転移門すら存在しない未開拓地域。


 プレイヤーもほとんど住んでいない土地。


 その説明を読んだ瞬間、ミナトの胸が少しだけ高鳴った。


「……いいな」


 静かそうだった。


 とても。


 だから、数週間後。


 十七歳になったミナトは、長く暮らした街を離れ、新しい土地へ向かう決意をする。


 まだ知らない。


 その選択が、運命を大きく変えることを。


 雪深い森の奥で、血だらけになって倒れている一人の青年と出会うことを。


 そして、その出会いが人生で最も大切な宝物になることを。


 ミナトは、まだ知らなかった。



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