表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LIBERAL ONLINE  作者: Guri
3/64

小さな発見


始まりのルミナス


ミナトが最初に降り立ったその街は、

動画で見ていた時よりもずっと賑やかで、ずっと温かい場所だった。


石畳の大通りには数え切れないほどの人々が行き交い、

露店からは焼きたてのパンの香ばしい匂い。

噴水広場では子どもたちが笑いながら追いかけっこをしている。


NPCもプレイヤーも区別がつかないほど自然に暮らしていて

誰もがそれぞれの日常を送っていた。


ミナトは広場の真ん中に立ちながら、何度も辺りを見回した。


どこを見ても新しい。


どこを見ても面白い。


胸の奥がわくわくして仕方がなかった。


「すごいなぁ……」


思わず零れた声は、人混みの中へ溶けていく。


病室で何度も紹介動画を見た。


攻略サイトも読んだ。


配信も見た。


けれど実際にこの場所へ立つのとは全く違った。


風の匂い。


人々の話し声。


鍛冶屋から聞こえる金属音。


市場の活気。


それら全てが本物のように存在している。


まるでゲームではなく、もう一つの世界だった。


そしてミナトは、街へ着いて最初に向かった場所で周囲を驚かせることになる。


初心者がまず向かうのは冒険者ギルド。


クエストを受けてレベルを上げるのが定番だ。


だがミナトが向かったのは街の北区画にある大図書館だった。


「こんにちは」


受付のNPC司書へ頭を下げる。


『ようこそ、ルミナス中央図書館へ』


柔らかな笑顔が返ってくる。


その瞬間、ミナトも嬉しそうに笑った。


好きなのだ。


図書館も、本も。


知らないことを知る時間も。


だから広大な館内へ足を踏み入れた瞬間、胸が高鳴った。


天井まで届く本棚。


魔導ランプの灯り。


静かな空気。


紙の香り。


現実世界で通っていた仮想図書館とは違う、

この世界だけの知識が詰まった場所。


それだけで幸せだった。


その日。


ミナトは冒険へ出なかった。


モンスターとも戦わなかった。


図書館の片隅で夢中になって本を読んでいた。


薬草図鑑。


魔物生態学。


鉱石大全。


農業入門。


料理書。


気になる本を次々と開いていく。


時間を忘れて。


空腹も忘れて。


夢中になって。


そしてログアウト直前になって初めて気付く。


「僕……まだレベル1だ」


思わず苦笑した。


普通のプレイヤーなら数時間で10レベル近くまで上げる。


それなのに自分は一日中本を読んで終わってしまった。


けれど不思議と後悔はない。


むしろ満足感でいっぱいだった。


翌日。


ミナトは初めて街の外へ出た。


門を抜けると、そこには緩やかな草原が広がっている。


風に揺れる緑。


遠くに見える森。


青空の下を流れる白い雲。


その景色を見ただけで胸が温かくなった。


「きれいだなぁ」


立ち止まる。


眺める。


また立ち止まる。


普通のプレイヤーなら走り抜けるような道を、ミナトはゆっくり歩いた。


道端の花を眺める。


鳥の鳴き声を聞く。


小川へ手を浸す。


そんな時間が好きだった。


だからだろう。


彼は他の人が見落とすものによく気付いた。


森へ続く道の脇。


雑草に埋もれるように生えていた小さな植物。


ほとんどのプレイヤーは見向きもしない。


採取もしない。


けれどミナトは立ち止まった。


「これ……」


本で見たことがある。


薬草によく似ている。


だけど少し違う。


葉の形、根の色、魔力の流れ。


微妙に一致しない。


だから気になった。


採取して調べる。


また採取する。


その日からミナトは冒険の合間に薬草集めを始めた。


誰かに頼まれたわけではない。


クエストでもない。


ただ知りたかった。


この世界を。


もっと。もっと。深く。


だから森へ通い続けた。


季節が変わり、天気が変わる。


生える植物も変わる。


それらを観察する時間が楽しかった。


現実ではできなかったことだったから。


草花に触れること。


森を歩くこと。


土の匂いを感じること。


全てが宝物のようだった。


そして数か月後。


誰も知らない薬草を発見した日のことだった。


ミナトは小さな作業部屋で一人、調合鍋と向き合っていた。


窓から差し込む夕陽。


棚に並ぶ薬草。


静かな空気。


コトコトと薬液が煮える音だけが響いている。


何度も失敗した。


何度も薬を駄目にした。


それでも諦めずに続けてきた。


そして。


ついに完成する。


淡い青色に輝く一本のポーション。


見たこともない品質だった。


その瞬間。


視界に光の文字が浮かび上がる。


『隠し条件を達成しました』


『スキル【錬薬】を獲得しました』


「……え?」


ミナトは目を瞬いた。


もう一度確認する。


見間違いではない、確かに表示されている。


隠しスキル。


リベラル・オンラインでも取得者が極めて少ない特別な力。


それが今、自分のものになった。


「取れちゃった……」


嬉しい。


けれど。


驚きの方が大きい。


自分では特別なことをしたつもりがなかったからだ。


ただ知りたかっただけ。


ただ作りたかっただけ。


ただ誰かの役に立つ物を作れたらいいなと思っただけ。


けれど。


その積み重ねは確かに形になっていた。


ミナトはそっと完成したポーションを両手で包み込む。


淡い光が掌を照らした。


その光を見つめながら、彼はふわりと微笑む。


まるで大切な宝物を見つけた子どものように。


この時のミナトはまだ知らない。



自分の作る薬が多くの人々に求められるようになることも。


その評判が大きな騒動を招くことも。


そして。


辺境の雪深い土地で、運命の人と出会うことになることも。


まだ何も知らなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ