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LIBERAL ONLINE  作者: Guri
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森の奥の秘密

 

 春が訪れると、辺境の森はまるで別の世界になった。


 冬の間は雪に閉ざされていた木々が鮮やかな緑を纏い、

 色とりどりの花が咲き始め、

 小鳥たちの歌声が朝から晩まで森の中へ響き渡る。


 ミナトは毎日のように森へ出掛けていた。


 もちろん薬草採取のためでもある。


 けれど、それだけではない。


 この世界を見ることが好きだった。


 知らない場所を歩くことが好きだった。


 新しい発見をすることが好きだった。


 だから森へ入るたびに胸が躍る。


 十五歳で初めてログインした日のようなわくわくが、今でも消えていない。


「今日はどんなものが見つかるかなぁ」


 朝露に濡れた草を踏みながら歩く。


 隣にはフィリックスがいる。


 今ではそれも当たり前になっていた。


 どちらから言い出すわけでもない。


 気付けば一緒にいる。


 それが自然だった。


「こっち」


 ミナトが森の奥を指差す。


「まだ行ったことない場所があるんだ」


「またか」


 フィリックスは呆れたように言う。


 だが止めはしない。


 むしろ先に立って周囲を警戒している。


 その姿にミナトは少し笑った。


「ありがとう」


「何がだ」


「いつも一緒に来てくれるから」


 フィリックスは答えなかった。


 代わりに前を向く。


 耳だけが少し赤くなっていた。


 ミナトは気付いていない。


 だから嬉しそうに森を進む。


 二人が歩いたことのない区域だった。


 木々は深く、草丈も高い。


 人の気配は全くない。


 プレイヤーもNPCも来ない場所らしい。


 そういう場所ほどミナトは好きだった。


 誰も見ていないものがあるから。


 誰も知らない発見があるから。


 そして、その予感は当たった。


「あ」


 ミナトが足を止める。


 視線の先。


 巨大な木があった。


 森の中心に立つ古木。


 幹は何人がかりでも抱えきれないほど太く、枝葉は空を覆うほど広がっている。


 そしてその根元には。


 見たことのない青い花が咲いていた。


 淡く発光している。


 風に揺れるたび、花びらから小さな光が舞い上がる。


 幻想的な光景だった。


 まるで物語の中の景色みたいに。


「きれい……」


 ミナトは息を呑む。


 思わず近付く。


 鑑定を発動する。


 すると視界に文字が浮かび上がった。


【星花】


【希少素材】


【未発見】


「未発見?」


 ミナトは目を丸くした。


 つまり。


 まだ誰も見つけていない素材ということだ。


 リベラル・オンラインにはそういう要素がある。


 広大な世界の中には、何年経っても発見されていないものが存在する。


 だから探索は終わらない。


 だから面白い。


「フィリ!」


 振り返る。


 声が弾んでいる。


「初めて見つかった薬草かもしれない!」


 子どもみたいな笑顔だった。


 フィリックスはその顔を見る。


 そして少しだけ笑った。


 花を見ている時より嬉しそうだったから。


「よかったな」


 短い言葉だった。


 けれど優しかった。


 ミナトは嬉しそうに頷く。


 そのあと二人はしばらく古木の周囲を調べた。


 新しい植物。


 珍しい鉱石。


 見たことのない蝶。


 発見が次々と出てくる。


 まるで隠しエリアだった。


「すごいなぁ」


 ミナトは何度も感嘆の声を漏らした。


 楽しくて仕方がない。


 現実では病院の外へ出ることすら難しかった。


 知らない場所へ行くことも。


 森を探検することも。


 宝探しをすることも。


 だから今が幸せだった。


 胸いっぱいに幸せだった。


 その日の帰り道。


 夕陽が森を黄金色に染めていた。


 二人は並んで歩く。


 風が吹く。


 木々が揺れる。


 鳥が飛び立つ。


 そんな穏やかな時間の中で、ミナトはふと口を開いた。


「フィリ」


「なんだ」


「ここへ来てよかった」


 その声はとても優しかった。


 独り言みたいに静かだった。


「辺境へ来て?」


「あの街を出て」


 ミナトは空を見上げる。


 木漏れ日が茶色の瞳に映っている。


「最初は少し不安だったんだけどね」


 小さく笑う。


「でも今は好きなんだ」


 森も。


 家も。


 畑も。


 薬草も。


 全部。


 そして。


 少し照れたように続けた。


「フィリと会えたし」


 その瞬間。


 フィリックスの足が止まりかけた。


 胸の奥が強く鳴る。


 今までにないほど大きく。


 驚くほどはっきりと。


 けれどミナトは気付いていない。


 ただ本心を言っただけだった。


 大切な友人へ伝えるみたいに。


 自然に。


 無邪気に。


「そうか」


 フィリックスはそれだけ言う。


 それ以上は言えなかった。


 言葉にしたら何かが変わってしまいそうで。


 だから黙って隣を歩く。


 夕焼けの中を。


 同じ景色を見ながら。


 その時の二人はまだ知らない。


 この穏やかな日々が、後になって何よりも大切な思い出になることを。


 失ったあと何度も思い返すほど、かけがえのない時間になることを。


 まだ知らなかった。



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