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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第91話 建国会議と、忘れられた極北の地

第91話 建国会議と、忘れられた極北の地

 辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる特級クラン『絆紋亭』の拠点は、異空間から帰還した魔王軍を完全に消滅させた翌日であっても、変わらず奇跡のような調和と優しさに満ちた朝を迎えていた。

 庭の中央にそびえ立つ精霊樹は、深淵の邪神を浄化した光をたっぷりと吸収し、もはや一つの森と見紛うほどの巨大な神樹へと成長を遂げている。その豊かに茂ったエメラルドグリーンの枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、拠点全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

 澄み切った青空の下、縁側で朝の空気を胸いっぱいに吸い込んでいる俺の足元へ、一番最初に俺の固有スキルである『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たち――銀色のウルフ『フェル』と、純白のポーションラビット『ピコ』、そして空色小竜の『ソラ』が競い合うように飛び込んできた。

 それに続くように、水豹のリン、幻宝石獣のキラ、白銀の幼熊ブラン、空間転移を操る銀狐のギン、鋼棘の鎧獣マル、疾風の隼ゲイル、影猫のシャロ、水妖の獺ミロ、風精のリスであるルル、土精の土竜ドロ、星翼の梟ステラも一斉に集まってくる。

 さらに、昨日魔王城の動力炉から救い出した魔導技師クロムの周囲を飛んでいた幻影の蝶『ファル』も、美しいステンドグラスのような羽を輝かせながら、俺の鼻先にふわりと留まった。

 フェルは艶やかな銀色の毛並みを俺の手にすり寄せ、ピコは長い耳をパタパタさせながら俺の膝に飛び乗り、ソラは俺の肩にふわりと着地して頬をすりすりと擦りつけてくる。ギンはポンッと空間転移をして俺の頭の上に乗っかり、ルルは俺の腕に登ってきて得意げに尻尾を揺らし、ミロとドロは足元で水と土を器用に操りながらじゃれ合っていた。

「おはよう、みんな。今日も元気いっぱいだな。魔王もいなくなったし、これからは本格的に俺たちの国づくりが始まるぞ」

 俺が彼らの頭を順番に優しく撫でると、魔物たちは心底嬉しそうに目を細めて尻尾を振った。

 庭を見渡せば、漆黒の竜ノヴァが竜使いのルカに鱗を磨いてもらいながら気持ちよさそうに目を閉じ、紅蓮の火蜥蜴ガエンや鋼角の犀ザイン、岩砕の巨獣ダグといった大型の魔物たちが木陰でうたた寝をしている。黄金の甲殻を得て進化した砂塵の魔蠍ゼットは、太陽の精霊鳥ソルをハサミの上に乗せて日向ぼっこを楽しんでいた。

「レイン様、朝食の準備が整いましたよ!」

 厨房から、見習い魔導士のエリスが元気な声を上げた。

 ダイニングルームには、元宮廷料理人のセシルが腕を振るった極上の朝食が並べられている。今朝のメニューは、特製の魔力小麦で作った『焼きたてのベーコンチーズクロワッサン』に、農学者セリーヌが育てた新鮮なアスパラガスをふんだんに使った『濃厚グリーンポタージュ』、そして砂漠の巫女ナディアが持参したスパイスで味付けされた『彩り野菜とソーセージのグリル』だ。

 昨日救出された魔導技師のクロムは、まだ少し顔色が悪いものの、エリスやセシルに優しく介抱されながら、温かいスープを一口飲んでホッと息をついていた。

「こんなに美味しいご飯……何年ぶりだろう。ずっと暗い城の中に閉じ込められていたから、夢みたいです」

「いくらでもおかわりがあるから、たくさん食べて元気を出すといいわ」

 ルウがクロムの背中を優しく撫でる。

「ええ。クロムさんの技術は、アシュタルの発展に必ず役立ちます。焦らず、まずはこの居場所に慣れてくださいね」

 首席文官のエレナも、眼鏡の奥の目を細めて微笑んだ。

「ガハハ! 今日も飯が美味い! 魔王の親玉もあっけなく片付いたし、アタシらの鍛えた連中もめちゃくちゃ強くなってる。最高の気分だね!」

 女戦士のアイラが、クロワッサンを豪快に頬張りながら大笑いする。

「全くだ。昨日の迎撃陣形、クロードやガレスたちの動きには一切の隙がなかった。我々の指導が完全に結実した証拠です」

 剣聖シルヴィアも静かに頷き、満足げに紅茶をすする。

 朝食を終えた俺たちは、アシュタル領主の館へと向かった。

 今日は、魔王軍を完全討伐したことを受けての、今後の『建国』と『世界への対応』を決定するための重要な首脳会議が開かれるのだ。

建国会議と、新たな世界秩序

 領主の館の広大な大広間には、円卓が用意され、アシュタルの首脳陣が顔を揃えていた。

 アルベルト辺境伯、ギルドマスターのバルカン、騎士団長レオン。

 そして『絆紋亭』からは、俺、アイラ、ルウ、シルヴィア、シオン、首席文官エレナ、さらに開拓村総代官のウィリアム老伯爵が出席している。

「さて、皆の者。まずは昨日の魔王ゼアノス及び四天王の完全討伐、誠に見事であった。我々アシュタルの軍と冒険者、そして『絆紋亭』の力が、この世界の頂点にあることを証明した歴史的な一日だ」

 アルベルト辺境伯が、威厳に満ちた声で口火を切った。

「これで、この世界を覆っていた最大の脅威は物理的に消滅した。……そこで、昨日レイン殿に打診した通り、我々は新たな二つの国家として歩み出す」

 辺境伯は立ち上がり、背後の巨大な大陸地図を指し示した。

「これより、このアシュタル領とその周辺地域を『アシュタル辺境国』とし、私が初代国王に即位する。そして、東の広大な森の開拓地、並びに『絆紋亭』の拠点を有する絶対聖域を『絆紋公国きずなもんこうこく』とし、レイン殿に初代公王として就任していただく」

 大広間に、厳粛な拍手が響き渡る。

「レイン様。実務に関しては、私とウィリアム様が全て滞りなく取り仕切りますので、ご安心ください。公王という絶対不可侵の肩書きがあるだけで、他国の腐敗貴族たちは手出しできなくなります」

 エレナが分厚い書類の束を抱えながら、力強く頷く。

「俺はただ、フェルたち魔物やみんなと平和に暮らしたいだけなんだが……まあ、その平和を守るための盾になるなら、公王でも何でもなるよ」

 俺が苦笑しながら答えると、バルカンがガハハと大笑いした。

「ガハハハ! 世界最強の冒険者クランが、そのまま一つの国になっちまうとはな! ギルドとしても、絆紋公国との全面的な提携を約束するぜ!」

「ありがとうございます、バルカン殿。……さて、問題は『魔王討伐の公式発表』についてです」

 ウィリアム老伯爵が、白髭を撫でながら深刻な顔で切り出した。

「どういうことだ、ウィリアム殿?」

「現在、世界各国は我々アシュタルの圧倒的な武力に恐れをなし、恭順の姿勢を見せています。しかし、ここで『魔王軍を完全に滅ぼした』と大々的に発表すれば、共通の敵を失った国々が、再び覇権を争って内乱や戦争を始める可能性があります。恐怖のたがが外れた人間ほど、恐ろしいものはありませんからな」

「なるほど。魔王という絶対悪がいなくなった途端、今度は人間同士で血みどろの争いが始まるかもしれない、と」

 俺が眉をひそめると、シオンが影から静かに進み出た。

「ええ。すでに一部の帝国や商業国家は、魔王軍の残党が減った地域から、他国の領土を不法に占拠しようとする動きを見せています。ですので、発表の仕方には工夫が必要です」

「シオン殿、何か策が?」

 辺境伯の問いに、シオンは冷静に答える。

「魔王軍の完全討伐は事実として発表します。しかし同時に、『魔王が遺した強大な変異ダンジョンや残党が、世界各地に無数に存在しており、スタンピードの危険が極めて高い状態にある』と、事実を強調して広めるのです」

「なるほど」と、シルヴィアが頷く。

「人間同士で争っている暇などない、と世界に認識させるのですね」

「その通りです。そして、『我々アシュタル辺境国と絆紋公国は、それらの脅威から民を守るため、全軍強化計画で育った精鋭部隊を派遣する用意がある。ただし、我々の理念に賛同し、不当な戦争を行わない良心的な国家に限る』と宣言します」

 エレナが眼鏡を押し上げ、シオンの提案を補足する。

「つまり、アシュタルの軍事的支援を『平和の維持』という条件付きの特権にするのです。これで、他国は我々の機嫌を損ねて支援を打ち切られることを恐れ、戦争を起こせなくなります。事実上の、武力による平和統治ですわ」

「完璧だ。その方針でいこう」

 アルベルト辺境伯が力強く頷き、机を叩いた。

「では、今後の各地の変異ダンジョン対策についてだ。レオン団長、軍の状況はどうか」

「はっ!」

 レオンが立ち上がり、一礼する。

「数ヶ月間のアイラ様たちによる地獄の特訓、そして昨日の魔王軍迎撃戦を経て、我が軍の騎士と冒険者たちは、もはや別次元の強さを手に入れました。特に、クロード、ガレス、アリスといった者たちは、それぞれが独立した部隊を率いてダンジョンを単独攻略できるレベルに到達しております」

「よし。ならば、彼らを隊長とする『魔境鎮圧部隊』を多数編成し、支援を求めてきた友好国へと順次派遣していく。レイン殿たちには、彼らでは対処しきれない特S級の事案が発生した時のみ、出馬をお願いしたい」

「分かりました。クロードたちなら、大抵のダンジョンは制圧できるでしょう。俺たちは、彼らのバックアップと、開拓村の拡充に専念します」

 俺が了承すると、会議はトントン拍子に進んでいった。

 建国の手続き、外交使節団の派遣、新たな法律の整備。エレナとウィリアム老伯爵の優秀な手腕により、膨大な事務作業は魔法のように処理されていく。

 世界は、新たな平和の形へと向かって確実に動き出していた。

 俺たちの手によって。

閑話:常闇の極北と、深淵の培養槽

 その頃。

 大陸の最北端、太陽の光すら届かない常闇の地。

 かつて、魔王軍の絶対的な本拠地である『魔王城』がそびえ立っていたその場所は、今や完全な空白地帯となっていた。

 魔王ゼアノスが、レインの放つ『絆紋』の浄化の光に恐れをなし、次元断層の魔道具を使って城ごと異空間へと逃亡したのは数ヶ月前のこと。

 そして昨日、彼らは異空間から帰還した直後に、レインの手によって四天王もろとも完全に消滅させられた。

 元々、この極北の地は、人間はもちろん、一般的な魔物すら住むことができない過酷な環境だった。

 魔王軍という巨大な組織が存在していたからこそ、そこは世界の脅威の中心として認識されていた。だが、主が完全に消滅し、城という物理的なシンボルすらも次元ごと消え去った今、この土地は人々の記憶から急速に忘れ去られようとしていた。

 討伐部隊が派遣されることもなく、冒険者が探索に訪れることもない。

 ただ、荒涼とした凍てつく大地が広がっているだけだ。

 ――しかし。

 その空白の地の地下深くで、静かに、そして確実におぞましい変異が進行していた。

 魔王城が次元断層によってえぐり取られた際、地下の地脈に流れ込んでいた数百年に及ぶ魔王軍の『莫大な瘴気の残滓』が、行き場を失い、そこに滞留してしまったのだ。

 通常、変異ダンジョンが形成されると、そこから狂暴な魔物が溢れ出し、スタンピードを引き起こすことで周囲の人間や生態系に被害をもたらす。

 それが、外敵の存在を知らせるアラートとなる。

 だが、この極北の地には、襲うべき人間も、食い荒らすべき生態系も存在しない。

 そのため、ダンジョンから溢れ出した魔物たちは、外に出ることなく、ダンジョン内部で互いを共食いし始めたのである。

 ドロドロに溶け合った瘴気と、共食いによって圧縮された魔物たちの血肉。

 それらは、外界との接触を完全に断たれた地下空間で、異常なスピードで凝縮し、深化していった。

 ダンジョンは上へは向かわず、ひたすらに下へ、世界の深淵へと向かってその階層を掘り進めていく。

 第十層、第五十層、第百層……。

 常軌を逸した深度へと達した変異ダンジョンの最深部には、もはや魔王ゼアノスすらも凌駕するほどの、純度の高い『絶望の魔力』が澱のように溜まっていた。

 そこは、誰の目にも触れない、巨大な『培養槽』。

 スタンピードというエネルギーの放出を行わないことで、ダンジョンそのものが一つの巨大な生体兵器のように、極限まで力を溜め込み続けているのだ。

『ゴボッ……ゴボボボボッ……』

 瘴気の沼の底で、何かが脈打つ音が響く。

 それは、魔族でもなく、かつて浄化された神話の邪神でもない。

 純粋な魔力の共食いと、誰にも観測されない極限環境が生み出した、名もなき『究極の突然変異体』。

 それが産声を上げるのは、まだ少し先のこと。

 世界が、絆紋公国の誕生と、魔王討伐の報に沸き立ち、新たな平和の時代を謳歌し始めているその足元で。

 忘れ去られた極北の地は、誰にも気づかれることなく、静かに、ただ静かに、世界を食い破るための毒牙を研ぎ澄ませていた。

 だが、今のレインたちがその不気味な胎動を知る由もない。

 彼らは今日も、アシュタルの温かい食卓を囲み、家族となった魔物たちと笑い合い、平和な日常を満喫しているのだった。

【現在のステータス】

名前:レイン

職業:Sランク冒険者(特級クラン『絆紋亭』マスター / 絆紋公国・初代公王)

称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 導きの光 / 豊穣の主 / 浄水の守り手 / 迷いを導く者 / 真理を導く者 / 絆の真髄を知る者 / 竜を解放する者 / 独立同盟の盟友 / 熱砂を歩む者 / 深淵を浄化せし者 / 変異を鎮める者 / 導きの軍師 / 狂王を滅せし者

Lv:88(※魔王ゼアノスの完全浄化と公王就任による莫大な経験値獲得)

HP:910 / 910

MP:710 / 710

【固有スキル】

絆紋きずなもん:対象と心を通わせる。万物を調和させ、極限の浄化と最適化を行う絶対的な力。

【クラン『絆紋亭』メンバー(一部抜粋)】

・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5

・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5

空色小竜ソラ:絆レベル5

・漆黒のノヴァ:絆レベル5

・砂塵の魔蠍ゼット:絆レベル5

水豹リン:絆レベル5

幻宝石獣キラ:絆レベル5

・白銀の幼熊ブラン:絆レベル5

銀狐ギン:絆レベル5

・鋼棘の鎧獣マル:絆レベル5

・疾風のゲイル:絆レベル5

影猫シャロ:絆レベル5

・水妖のミロ:絆レベル5(※絆深化)

・風精のリス(ルル):絆レベル4(※絆深化)

・土精の土竜ドロ:絆レベル4(※絆深化)

・星翼のステラ:絆レベル4(※絆深化)

・幻影のファル:絆レベル4(※絆深化)

・アイラ(女戦士・Sランク)

・ルウ(魔導士・Sランク)

・シルヴィア(剣聖・Sランク)

・シオン(密偵・Sランク)

・エレナ(主席文官)

・クロム(魔導技師)

・ウィリアム老伯爵(開拓村総代官)

・レオン(アシュタル辺境国・騎士団長 / クラン協力者)

(※その他拠点防衛および生産メンバー多数、クロードら『魔境鎮圧部隊』精鋭多数)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

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