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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第8話 古い遺跡の迷い人と、森の奥に潜む気配

第8話 古い遺跡の迷い人と、森の奥に潜む気配

 西の森のさらに奥深く、普段の採取エリアとは異なる重苦しい静寂に包まれた一帯に、俺ことレインと肩の上のソラは足を踏み入れていた。

 頭上を覆う古木の葉は幾重にも重なり、太陽の光をほとんど通さない。足元には湿った黒土と、長い年月を感じさせる苔むした巨石が転がっている。ここが、ギルドの依頼書にあった「古い遺跡周辺」と呼ばれる場所だった。

「ひんやりして、少し空気が重いな」

「きゅる……」

 俺の呟きに合わせ、ソラも警戒するように小さな翼をピタリと体に寄せ、黄金色の瞳で周囲を注意深く見渡した。

 今回の依頼は、この古い遺跡周辺で行方不明になった駆け出しの冒険者パーティーの捜索と、異常気象の調査だ。すでに街を出てから数時間が経過しており、太陽の位置はすでに傾きかけている。森の奥は夜になると急激に冷え込み、魔物の活動も活発になるため、一刻も早く見つけ出さなければならなかった。

「ソラ、何か匂いや気配を感じたら教えてくれ」

「きゅっ!」

 俺は『気配察知』のスキルを限界まで高め、足音を殺しながら進んでいく。

 しばらく進むと、蔦や雑草に半ば覆われた崩れかけた石造りの壁が見えてきた。かつては何か重要な儀式を行う神殿か、あるいは古い開拓期の見張り台だったのだろう。その石壁の陰から、微かに人のものらしい声が漏れ聞こえてきた。

「おい、どうすんだよこれ……! 出口がどこにも分かんねぇぞ!」

「馬鹿言うなよ、お前が『こっちに宝箱があるかも』って言い出したから進んだんじゃないか!」

「うるさい! 二人とも喧嘩してる場合かよ……ポーションももう残り少ないし、足の怪我も悪化してるんだぞ……」

 若い男女の切羽詰まった声だった。

 俺は音のする方へとゆっくり近づき、崩れた石柱の陰から声をかけた。

「こんなところで、どうしたんだい?」

「「「うわあっ!?」」」

 三人の若い冒険者たちが、ひっくり返るようにして後ろに飛び退いた。剣や杖を構えようとするが、全員ボロボロの装備で、足を引きずっていたり包帯だらけだったりと、まともに戦える状態ではない。見れば、全員がまだ二十歳前後の駆け出しのようだ。

「な、なんだお前……? 魔物か……?」

「安心してくれ。怪しい者じゃない。アシュタルのギルドから、お前たちの捜索依頼を受けてきた冒険者のレインだ。相棒のソラも一緒だよ」

 俺がそう言って肩の上のソラを指し示すと、三人はホッと息を漏らし、その場に力なくへたり込んだ。

「よかった……助かったぁ……! 俺たち、昨日からこの遺跡の構造迷宮に迷い込んで、出られなくなってたんです……」

 リーダー格らしい大柄な男が、涙ぐみながら頭を下げた。話を聞けば、一攫千金夢見て西の森の奥へ足を踏み入れたはいいものの、急な天候の変化で視界を奪われ、逃げ込んだこの古い遺跡の地下で魔物に襲われ、装備を失い、完全に方向を見失ってしまったのだという。

「怪我人はいるか? すまないが、動けるうちにここから出よう。もうすぐ夜になる。夜のこのエリアは、普段よりずっと危険だ」

「はい、こいつの脚がひどくて……歩くのがやっとで……」

 俺は懐から即席で作った軟膏と包帯を取り出し、手際よく負傷した冒険者の脚に処置を施した。

「お、おい、それって一級品の傷薬じゃないのか……? こんなすんなり……」

「いいからじっとしててくれ。ほら、立てるか?」

 俺が手を差し伸べると、若者たちは驚きと感謝の入り混じった目で俺を見上げ、おそるおそるその手を取った。

 しかし、その時だった。

 ――ズズン……!

 足元が小さく震え、遺跡の奥深い暗闇の中から、地響きのような低い唸り声が響き渡った。

 ――グルルルルルルッ……!

「な、なんだ今の音……!?」

「魔物だ……! それも、今までのゴブリンやオークなんかとはケタ違いにデカい気配だぞ……!」

 若者たちが恐怖で顔を真っ青にし、武器を落としそうになりながら震え始めた。

 遺跡の陰から姿を現したのは、通常の二倍はあろうかという巨体を持ち、全身に黒い硬質な外殻を纏った巨大な地竜の亜種――『ロック・リザード』だった。その赤い双眸は怒りと飢えに満ちており、明らかに異常気象によって狂暴化している。

「ま、無理だ……戦えるわけがない……!」

「食われる……ここで死ぬんだ……!」

 絶望に打ち震える若者たちの前へ、俺は静かに一歩踏み出した。

 普通の冒険者であれば、ここでパーティ総出で命がけの戦闘に挑むか、あるいは逃げ出すしか選択肢はない。だが、俺の右手の甲にある翠色の痣が、ピリピリと熱を帯びて脈打っていた。

「レインさん!? 危ない、下がってくれ!」

「大丈夫だ。少し、話をしようと思うだけだから」

 俺は腰の剣を抜くことなく、ただ両手を体の横に広げ、ゆっくりと巨大なロック・リザードに向かって歩き出した。

 ソラが心配そうに「きゅるっ!」と鳴いたが、俺は振り返らずに微笑みかけた。

(痛い……邪魔をするな……人間のせいで、私の領域が荒らされた……許さない……!)

 ロック・リザードの脳内から、激しい怒りと警戒心の感情が荒れ狂う津波のように押し寄せてきた。急激な天候の変化と、どこかの不届き者が遺跡を荒らしたせいで、この魔物はひどく怯え、そして怒っているのだ。

「すまなかったな。人間が勝手に踏み込んで、お前を驚かせたんだな」

 俺が穏やかな声で語りかけながら、手の甲の『絆紋』の光を強めると、優しい翠色の波紋が空間に広がっていった。

 魔物の持つ強烈な殺意の波が、俺の放つ癒しの波紋と触れ合った瞬間、ロック・リザードの巨大な体がピクリと硬直した。

「グル……?」

 赤い双眸の狂気がスッと引き、代わりに困惑の色が浮かぶ。

 俺はさらに距離を詰め、その硬い鼻先にそっと手を触れた。

「もう怒らなくていい。誰もここを荒らしたりしない。お前も、ここでゆっくり休むといい」

 心の底から伝わるその優しさと、絆紋の力が完全に同調したとき、ロック・リザードはふっと力を抜き、巨大な頭を俺の掌にすり寄せるように預けてきた。先ほどまでの殺気は嘘のように消え去り、すっかり大人しくなっている。

 その様子を後ろから見ていた若い冒険者たちは、目玉が飛び出るほど見開いて、言葉を失っていた。

「う、嘘だろ……? あのランクA相当のロック・リザードが……一瞬で手懐けられた……?」

「あいつ、一体何者なんだ……?」

 彼らの驚愕の視線を背中に感じながら、俺は大人しくなったロック・リザードの頭を優しく撫でた。

 西の森の異変の原因は、この魔物が怒っていたわけではなく、魔王軍の残党が残した不気味な呪いの魔石が遺跡の地下に放置されていたせいらしかった。それも後でこっそり回収しておけば問題ない。

「よし、みんな。怪我人の処置も済んだし、街へ戻ろうか」

「は、はいっ……!」

こうして、行方不明の冒険者たちの救助と森の異変の調査は、誰一人傷つくことなく、驚くほど平和に解決されたのだった。

 肩の上のソラが「お疲れ様!」と得意げに一声鳴き、俺たちは夕暮れの森を後にしてアシュタルの街へと歩き出した。

【現在のステータス】

名前:レイン

職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)

称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手

Lv:18

HP:200 / 200

MP:45 / 45

【スキル】

・生活魔法 Lv.5

・剣術 Lv.3

・解体 Lv.5

・野営技術 Lv.7

・野戦調薬 Lv.4

・植物知識 Lv.3

・建築・修繕 Lv.3

・鑑定 Lv.2

・気配察知 Lv.3(※レベルアップ)

【固有スキル】

絆紋きずなもん:対象の魔物と心を通わせ、警戒心を解き放つ。深い絆を結んだ魔物と感覚や力を共有できる。

【クラン『絆紋亭』メンバー】

空色小竜ソラ:絆レベル4

・ウールシープの群れおよび森の小動物たち

・アイラ(女戦士・協力者)

・ルウ(魔導士・協力者)

・ゴット(薬師・協力者)

・保護した駆け出し冒険者たち(絆紋亭の噂を街へ持ち帰る存在に)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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