第86話 新たなる原石たちと、独立同盟の躍進
第86話 新たなる原石たちと、独立同盟の躍進
辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる特級クラン『絆紋亭』の拠点は、今日もまた、世界中のどの場所よりも優しく、そして奇跡のような調和に満ちた朝を迎えていた。
庭の中央にそびえ立つ精霊樹は、深淵の邪神を浄化した光をたっぷりと吸収し、もはや一つの森と見紛うほどの巨大な神樹へと成長を遂げている。その豊かに茂ったエメラルドグリーンの枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、拠点全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。
「ウォンッ!」
「キュイッ!」
「きゅるるーっ!」
「ルルゥッ♪」
「キュゥッ♪」
「キュンッ♪」
「キュルッ♪」
「ピリリィッ♪」
「ミャウッ♪」
「キュルルンッ♪」
澄み切った青空の下、縁側で朝の空気を胸いっぱいに吸い込んでいる俺の足元へ、競い合うように十匹の魔物が飛び込んできた。
俺が王都を追放され、この名もなき辺境の森にたどり着いたその日、一番最初に俺の固有スキルである『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たちである銀色のウルフ『フェル』と、純白のポーションラビット『ピコ』。
そして空色小竜の『ソラ』に、水豹の『リン』、幻宝石獣の『キラ』、白銀の幼熊『ブラン』、空間転移を操る銀狐の『ギン』、鋼棘の鎧獣『マル』、疾風の隼『ゲイル』、影猫の『シャロ』、そして先日渓谷で救い出した水妖の獺『ミロ』だ。
フェルは艶やかな銀色の毛並みを俺の手にすり寄せ、ピコは長い耳をパタパタさせながら俺の膝に飛び乗り、ソラは俺の肩にふわりと着地して頬をすりすりと擦りつけてくる。ギンはポンッと空間転移をして俺の頭の上に乗っかり、マルは足元でコロコロと丸まって甘え、ゲイルは空からふわりと舞い降りて俺の腕に留まり、シャロは俺の影からひょっこりと顔を出して喉を鳴らし、ミロは小さな水の玉を周囲に浮かべて戯れていた。
「おはよう、みんな。今日も元気いっぱいだな。怪我はないか?」
俺が彼らの頭を順番に優しく撫でると、魔物たちは心底嬉しそうに目を細めて尻尾を振った。
庭を見渡せば、漆黒の竜ノヴァが竜使いのルカに鱗を磨いてもらいながら気持ちよさそうに目を閉じ、紅蓮の火蜥蜴ガエンや鋼角の犀ザイン、岩砕の巨獣ダグといった大型の魔物たちが木陰でうたた寝をしている。黄金の甲殻を得て進化した砂塵の魔蠍ゼットは、太陽の精霊鳥ソルをハサミの上に乗せて日向ぼっこを楽しんでいた。
「レイン様、朝食の準備が整いましたよ!」
厨房から、見習い魔導士のエリスが元気な声を上げた。
ダイニングルームには、元宮廷料理人のセシルが腕を振るった極上の朝食が並べられている。今朝のメニューは、特製の魔力小麦で作った『焼きたてのハニーマスタードチキンサンド』に、農学者セリーヌが育てた新鮮なカボチャをふんだんに使った『濃厚パンプキンスープ』、そして砂漠の巫女ナディアが持参したスパイスで味付けされた『彩り野菜のピクルス』だ。
「ガハハ! 今日も飯が美味い! 数ヶ月にわたる訓練の甲斐あって、あのひ弱だった騎士や冒険者どもも、いっちょ前に戦えるようになってきたからな。今日のシゴキはさらに気合いを入れて、残りの殻も全部ぶち破ってやるよ!」
女戦士のアイラが、チキンサンドを豪快に頬張りながら凶悪な笑みを浮かべる。
「ええ。クロードやアリスたち上位陣はすっかり頼もしくなったけれど、まだ自分の才能に気づいていない子たちがちらほらいるわ。私の魔法で、もっと彼らの本質を炙り出してあげなくちゃね」
少女魔導士のルウも、うっとりとした表情でスープを口に運びながら物騒なことを言う。
「実戦の連続で、彼らの目つきは本物の戦士のそれになりました。しかし、慣れから来る慢心は死を招きます。我々が真の絶望と希望の両方を常に教え込まねばなりません」
剣聖シルヴィアも静かに闘志を燃やしていた。
数ヶ月前、辺境伯とギルドマスターから依頼されて始まった【全軍強化計画】。
槍使いクロード、魔法盾アリス、狙撃手ザック、支援術師ミリー、重騎士ガレス、双剣エララ、魔法剣士ディルク、鞭剣士クロエ、格闘家バルガスといった数多の原石たちが才能を開花させ、アシュタルの戦力は飛躍的に向上していた。
しかし、俺たちが目指すのは『世界規模で発生し続ける変異ダンジョンを鎮圧できる最強の軍団』の育成だ。まだ見ぬ逸材を発掘し、さらに部隊の底上げを図る必要があった。
訓練場での新たな原石たち
朝食を終えた俺たちは、アシュタル郊外に設けられた広大な特設訓練場へと向かった。
そこには、辺境伯軍の騎士団長レオンに率いられた数百名の騎士たちと、バルカンが選抜した中堅冒険者たちが、すでに熱気に満ちた表情で整列していた。先日の実戦で覚醒した上位陣のメンバーたちは、皆の模範として各部隊のリーダー役を務めている。
「全員、よく集まってくれた! これまでの実戦演習での働きは見事だった。だが、お前たちの限界はまだそんなところにあるはずがない。今日も己を超えてもらうぞ!」
俺が声をかけると、訓練生たちは一斉に「ははっ!」と地鳴りのような返事をした。
訓練が開始されると、アイラやルウ、シルヴィアたちによる容赦のないシゴキが始まった。
俺はフェルやピコたちと共に訓練全体を監視しながら、個々の動きを分析していた。数ヶ月の訓練を経てもなお、自分の立ち位置を見出せず、伸び悩んでいる者たちがいる。
「おい、そこ! お前、手数が少なすぎる! 防御ばかりに気を取られて、いつ攻撃に転じるつもりだ!」
アイラが木製の戦斧を振り回し、一人の青年騎士を怒鳴りつけていた。
その騎士――セオドアは、片手に長剣、もう片手に中型の丸盾を構えていたが、防御のタイミングは絶妙であるものの、攻撃の手が極端に少なく、ジリ貧になって追い詰められていた。
「くっ……! も、申し訳ありません、アイラ教官……! 敵の攻撃を受け流すことに集中すると、どうしても剣を振るう隙が作れなくて……」
セオドアは息を切らしながら、地面に片膝をついた。
俺は彼の元へ歩み寄り、アイラに合図を送って攻撃を止めさせた。
「セオドア、と言ったな。君は、盾と剣を別々のものとして考えている。防御の後に攻撃をするという固定観念が、君の思考を遅らせているんだ」
「レ、レイン様……! しかし、騎士の基本は攻防の切り替えだと教わってきました。俺には、その切り替えの才能がないのでしょうか」
セオドアは悔しそうに俯いた。
「攻防を切り替える必要なんてない。攻めながら守り、守りながら攻めればいい」
俺はアイテムボックスから、特殊な武器――先端に鋭い刃が付き、さらに側面に展開式の防刃を備えた『攻防一体の盾槍』を取り出し、彼に手渡した。
「この武器は、盾としての面と、槍としての突きを同時に行える。君のその絶妙な防御のタイミングを、そのまま攻撃のタイミングへと変換してみろ」
俺は彼の肩に手を置き、右手の甲の『絆紋』の光を流し込んだ。彼の身体の重心が瞬時に最適化され、武器の特性と完全に同調する。
「攻めながら、守る……」
セオドアが盾槍を構え、深く息を吐き出す。アイラが再び彼に向けて木斧を振り下ろした瞬間。
ガキィッ!!
セオドアは盾の面でアイラの攻撃を完璧に受け流すと同時に、そのまま盾槍を真っ直ぐに突き出した。
ズバァァッ!!
盾の裏から伸びた鋭い槍の穂先が、アイラの脇腹すれすれを掠めて背後の訓練用の木人を深く穿った。
「すごい……! 防御の衝撃を利用して、そのまま突きに転じられる……!!」
セオドアは歓喜の声を上げ、自身の武器を見つめた。
「君の防御のセンスは本物だ。これからは、最前線で敵の攻撃を捌きながら同時に反撃を叩き込む『盾槍兵』として、陣形の要を任せたい」
「はいっ! レイン様、俺、この武器で必ず味方を守り、敵を穿ちます!」
また一人、辺境伯軍の中から新たな原石が強烈な光を放った瞬間だった。
そのすぐ隣の冒険者訓練エリアでは、シオンが指導に頭を悩ませていた。
「リアム、また罠の設置に時間がかかっています。実戦では、敵は貴方が罠を仕掛け終わるのを待ってはくれませんよ」
「くっ……申し訳ねぇ、シオン先生……! 俺ぁ、どうも手先が不器用で、細かい仕掛けを組むのに時間がかかっちまうんだ」
リアムと呼ばれた若い冒険者は、罠師を志望していたが、設置型トラップの組み立てが遅く、魔物との戦闘スピードに全くついていけていなかった。
彼の設置する罠の威力や配置のセンス自体は素晴らしいのだが、発動までのラグが致命的だったのだ。
「リアム」
俺は彼に歩み寄り、彼の手から複雑な金属部品を預かった。
「君の才能は、緻密な機械罠を作ることじゃない。戦場の地形と、敵の心理を読む『配置のセンス』だ。複雑な機構は、君の長所を殺している」
俺はアイテムボックスから、魔力を込めるだけで瞬時に発動する『魔力起爆札』と、特殊な粘着性を持つ『捕縛の魔糸』を取り出し、彼に手渡した。
「今日から君は、機械罠を捨てる。己の魔力と、この魔道具の即効性だけを信じて戦え」
「こ、これだけで罠を!? しかし、これじゃあ大規模な罠は……」
「俺たちが教えるのは、生き残り、敵を倒すための術だ。君のその絶妙な配置センスに、この魔道具の即効性と俺の魔力を乗せれば、どんな大規模罠よりも素早く、確実に敵を絡め取れる」
俺が絆紋の光で起爆札と魔糸を彼の手の魔力波長に馴染ませると、リアムは不思議そうに魔糸を指先に絡めた。
シュッ、シュッ!
彼が軽く手を振るうと、見えない魔糸が瞬時に空間に張り巡らされ、起爆札が要所にピタリと吸い付いた。
「おおっ……仕掛けが一瞬で終わる……! これなら、走りながらでも罠を張れるぜ!」
リアムの顔に、自信に満ちた笑みが浮かんだ。
盾槍兵セオドアと、即効罠師リアム。
数ヶ月の訓練を経てもなお、騎士や冒険者たちの中からは、確かな才能を持つ逸材たちが次々と芽を出し続けていた。
実戦演習と、風精のリス
午後。
新たに覚醒した者たちを実戦で試すため、俺たちは通常のパトロール依頼を兼ねて、アシュタルの東にある『風鳴りの森』へと足を運んだ。
今回の班は、俺、アイラ、ルウの教官陣に加え、槍使いクロード、魔法盾アリス、狙撃手ザック、支援術師ミリー、そして新たに覚醒した盾槍兵セオドアと即効罠師リアムの八人だ。魔物組はフェル、ピコ、ソラ、空間転移のギン、空からの索敵を担う疾風の隼ゲイル、そして影から奇襲をかける影猫のシャロを連れている。
「この森には、変異した魔獣の群れが住み着いているという報告がある。セオドア、リアム、午前中に掴んだ感覚を忘れるなよ」
「は、はいっ!」
「おうさ、任せてくだせぇ!」
「ピリリィッ!」
上空を旋回していたゲイルが、鋭い鳴き声を上げて急降下してきた。
「前方の開けた場所に、変異したキラー・マンティスの群れです。数は約三十!」
ザックがゲイルの合図を読み取り、瞬時に状況を報告する。
「キラー・マンティスだと!? あの鎌は鋼鉄すら切り裂く。接近戦は危険だぞ!」
クロードが槍を構え、顔を引き締める。
「全員、陣形を組め! セオドアは前衛で敵の鎌を捌け! リアムは周囲に罠を張り巡らせて機動力を削げ! ミリーは全員に『聖なる大いなる鼓舞』! アリスとザックで遠距離から仕留めろ!」
俺の指示に、訓練生たちは即座に動き、完璧な迎撃陣形を構築した。
カサカサカサッ……!
不気味な羽音と共に、森の奥から体長三メートルを超える赤黒い瘴気を纏った巨大な蟷螂――『変異キラー・マンティス』の群れが姿を現した。
「ギチギチィィッ!!」
キラー・マンティスたちが一斉に大鎌を振り上げて襲いかかってくる。
「俺の盾は、絶対に破らせない! そして、穿つ!」
セオドアが盾槍を構え、先陣を切って突進してきたマンティスの大鎌を盾面で完璧に受け流す。
ガキィッ!!
火花が散ると同時、セオドアは盾の裏から鋭い槍を突き出し、マンティスの胸部を深々と貫いた。
「見事なカウンターだ! 防御と攻撃が完全に一体化している!」
クロードが感嘆の声を上げる。
「こっちも準備完了だぜ! 『起爆!』」
リアムが指を鳴らすと、マンティスたちの足元に張り巡らされていた魔糸が瞬時に起動し、彼らの脚を絡め取った。さらに、要所に仕掛けられた魔力起爆札が連鎖的に爆発し、群れの陣形を完全に崩壊させた。
「すごい……! 一瞬でこれほど大規模な罠を……!」
アリスが驚愕しつつも、『マルチ・アイス・シールド』で後衛を守る。
「ザック、今だ!」
「任せてください!『貫きの風矢』!」
ザックの放った矢が、罠で動きを止められたマンティスたちの急所を次々と射抜いていく。
訓練生たちの連携は、もはや一つの巨大な生き物のように洗練されていた。彼らは互いの死角を補い合い、迫り来る三十体の変異キラー・マンティスを確実に減らしていく。
だが、戦況が有利に傾きかけたその時。
森のさらに奥から、一際巨大な魔物が姿を現した。
体長六メートルを超える、全身から赤黒い瘴気を噴出させる『変異マンティス・ロード』だ。
その巨大な両鎌は、木々をバターのように切り裂きながら突き進んでくる。
「なっ……! まだあんな化け物が隠れていたのか!?」
クロードが驚愕の声を上げる。
「俺が前線を抑える! お前らは距離を取れ!」
セオドアが盾槍を構え直して前に出ようとするが、マンティス・ロードの圧倒的な大鎌の一撃が、セオドアの盾ごと彼を吹き飛ばした。
「ぐはぁっ……!」
「セオドア!!」
「ここまでだな。十分すぎるほどよくやった」
俺は剣を抜き、フェルとピコに目配せをした。
だが、俺が飛び出そうとしたその瞬間。
「キュルルゥッ……!」
マンティス・ロードの背後の巨木から、微かな鳴き声が聞こえた。
見れば、マンティス・ロードが切り倒そうとしている巨木の洞に、一匹の小さな魔物が怯えて縮こまっているではないか。
美しい淡緑色の毛並みと、周囲の風を操る特異な魔力を持った魔物――『風精のリス(ウィンド・スクワレル)』だ。
どうやら、変異マンティス・ロードに住処を荒らされ、逃げ遅れてしまったらしい。
「あのリス、木ごと切り裂かれる!」
アリスが悲痛な声を上げる。
「ギチィィィッ!!」
マンティス・ロードが、巨木ごとリスを両断すべく大鎌を振り上げた。
「させない! フェル、ピコ!」
「ウォォォンッ!!」
「キュイッ!!」
俺の叫びと共に、銀色の閃光と純白の弾丸が宙を舞った。
フェルの『白銀の迅雷』がマンティス・ロードの腕を直撃して大鎌の軌道を逸らし、ピコが『ホーリー・ムーン・キック』でマンティス・ロードの頭部を強烈に蹴り上げる。
「今だ!」
俺は空間転移で俺の肩に乗ったギンのサポートを受け、一瞬で巨木の洞へと跳躍した。
右手の甲の絆紋の光を長剣に纏わせ、倒れ込んだマンティス・ロードの胸へと深々と突き立てる。
ズバァァァンッ!!
翠色の浄化の光が炸裂し、マンティス・ロードの巨体は光の粒子となって消滅した。
ボスの死を見た残りのマンティスたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、戦闘は完全に終了した。
俺は剣を収め、洞の中で震えている風精のリスへと優しく手を差し伸べた。
翠色の温かな波紋が、リスの小さな体を優しく包み込む。
「もう大丈夫だ。怖い奴はみんないなくなったからな」
「キュル……?」
(あたたかい……。お前が、助けてくれたの?)
リスから、警戒が解けた安堵の思念が伝わってくる。俺がその淡緑色の毛並みを撫でると、リスは嬉しそうに俺の指にすり寄ってきた。
「ウォンッ♪」「キュイッ♪」
フェルやピコたちも近寄り、新しい家族を歓迎する。
「もし帰る場所がないなら、俺たちのところに来るか? 美味しいご飯と仲間がたくさんいるぞ」
「キュルルンッ♪」
リスは嬉しそうに頷き、風を纏って俺の肩へとふわりと飛び乗った。
「よし、今日からお前の名前は『ルル』だ。よろしくな、ルル」
「キュルッ♪」
新たな家族を迎え入れ、確かな成長を見せた訓練生たちと共に、俺たちはアシュタルへの帰路についた。
独立同盟の躍進と、良心的な貴族のスカウト
アシュタルへ帰還した数日後。
領主の館では、アルベルト辺境伯とギルドマスターのバルカン、そして俺たち『絆紋亭』の主要メンバーが集まり、今後の独立同盟の運営についての重要な会議が開かれていた。
「レイン殿、我々の『全軍強化計画』は、予想を遥かに超える成果を上げている。数ヶ月の訓練と実戦を経て、辺境伯軍の騎士や冒険者たちは、もはや他国の精鋭部隊すら凌駕する実力を身につけつつある」
アルベルト辺境伯が、満足げに報告書を机に置いた。
「ええ。最近では、他国や他ギルドから『我々の軍も訓練してほしい』『国境警備やダンジョン対策を依頼したい』という要望が山のように届いていますよ」
バルカンが苦笑しながら、山積みの書簡を指差す。
「だが、全ての要望に応えるわけにはいかない」
辺境伯の目に、領主としての冷徹な光が宿った。
「我々の目的は、アシュタルの平和と、レイン殿たちの平穏な日常を守ることだ。傲慢な態度で我々を利用しようとする国や、民を顧みない腐敗した貴族からの依頼は、全て撥ね付ける」
「そうだな。俺たちも、自分たちの利益しか考えていないような連中のために、クロードたちを危険な目に遭わせたくはない」
俺が同意すると、辺境伯は深く頷いた。
「そこで、だ。我々からの支援を必要とし、かつ民に寄り添う『良心的な国や貴族、ギルド』のみを選別し、同盟関係を結んでいく。そして、独立同盟としての領土を、さらに東の未開の森側へと開拓していく計画を立てている」
「森の開拓、ですか」
「ああ。アシュタルの人口は、難民の受け入れなどで急増している。彼らが豊かに暮らせる新たな土地と資源が必要なのだ。幸い、レイン殿たちのクランがいれば、森の魔物を無闇に刺激することなく、安全に開拓を進めることができるだろう」
「もちろん、協力します。開拓村ができれば、そこからまた新しい特産品や美味しい食材が手に入るかもしれませんからね」
俺が笑って答えると、セシルやエリスたちも「新しい食材、楽しみです!」と目を輝かせた。
「さらに、だ。ルミナス王国が崩壊して以降、領地を失いながらも、民からの人望が厚かった『良心的な貴族』たちが各地に散らばっている。彼らをスカウトし、新たな開拓村の代官として迎え入れるつもりだ」
辺境伯の言葉に、シオンが頷いた。
「私の諜報網を使い、すでに数名の候補者をリストアップしています。彼らなら、アシュタルの理念に共鳴し、民のために尽くしてくれるはずです」
「よし、頼んだぞ。我々独立同盟は、力だけでなく、真の豊かさと思いやりを持った国家へと成長していくのだ」
こうして、アシュタル独立同盟は、ただ魔王軍の残党やダンジョンに対抗するだけでなく、確かな選別と開拓の計画のもと、新たな国家としての基盤を強固なものへと築き上げようとしていた。
閑話:次元の彼方と、無意味な悪巧み
一方その頃。
大陸から完全に消失し、暗く冷たい『異空間』へと転移した魔王城。
次元断層の魔道具によって切り取られた空間の中で、魔王軍は完全に外界との接触を断たれ、ただ虚無の闇の中を漂いながら、狂気じみた強化と悪巧みに明け暮れていた。
「……フハハハハッ!! 見よ、魔王様! 我が右腕に移植した禁忌の魔獣の細胞が、ついに私の全身を侵食し、究極の肉体へと進化いたしましたぞ!」
第一軍団長の獣王バランが、もはや元の原型を留めないほどに巨大化し、赤黒い瘴気を噴出させる怪物と化して狂喜の声を上げていた。
「この力……! あの忌々しい辺境の小僧など、今ならば一息で消し飛ばしてご覧に入れます!」
「あら、バラン。力任せの野蛮な強化など、わたくしの血の秘術の前では児戯に等しいですわよ」
妖将カーミラが、異空間の濃密な魔力を吸い上げ、数千体もの『血のゴーレム』を背後に従えて妖艶に笑う。
「わたくしは、この異空間に漂う負の魔力を全て我が血肉に変えました。もはや、わたくしは不死を超えた神のごとき存在……! あの小僧の光など、わたくしの血の海で溺れさせてあげますわ」
智将ベルフェもまた、失われた左半身を漆黒のクリスタルで補い、不気味な魔眼をギラギラと輝かせていた。
「魔王様。次元の狭間に眠る『虚無の王』の封印も、あと僅かで完全に解き明かすことができるでしょう。我々の力は、今やかつて大陸を支配していた頃とは比べ物にならないほどに膨れ上がっております。この力を持ってすれば、アシュタルのみならず、世界そのものを虚無に還すことも可能かと」
魔王ゼアノスは玉座に深く腰掛けたまま、狂気と歓喜に沸き立つ四天王たちを見下ろし、邪悪な笑みを浮かべた。
「ククク……そうだ。我々魔王軍は、この暗闇の中で究極の進化を遂げた。あの青年の『絆紋』の光など、もはや恐るるに足らず。数年後、我々が再び次元の壁を破ってあの世界に帰還した時こそ、人間どもに真の絶望を与え、あの小僧の四肢を八つ裂きにしてやろうぞ!!」
「「「おおおおおっ!! 魔王軍の栄光よ、永遠なれ!!」」」
異空間の魔王城では、彼らが手に入れた『新たなる力』に酔いしれ、狂宴が繰り広げられていた。
彼らは信じて疑わなかった。この異空間での研鑽で手に入れた力こそが、世界を滅ぼす絶対の力であると。
しかし、彼らは知らない。
彼らが「数年かけて到達しようとしている究極の強さ」を、アシュタルの『ただの訓練生たち』が、レインと教官陣の指導により、たった数ヶ月の修行で易々と超えようとしている事実を。
魔王軍が異空間でどれほど力を蓄えようとも、それがアシュタルの戦力と激突した時、彼らはかつて以上の『戦闘とすら呼べない絶望』を味わうことになるのだということを。
そして、彼らが心の底から恐れるその青年が、今この瞬間も、仲間たちと笑い合い、新しい風精のリスを撫でながら、美味しい夕食を食べているだけだということを、彼らは知る由もなかった。
【現在のステータス】
名前:レイン
職業:Sランク冒険者(特級クラン『絆紋亭』マスター / 自治区代表)
称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 導きの光 / 豊穣の主 / 浄水の守り手 / 迷いを導く者 / 真理を導く者 / 絆の真髄を知る者 / 竜を解放する者 / 独立同盟の盟友 / 熱砂を歩む者 / 深淵を浄化せし者 / 変異を鎮める者 / 導きの軍師
Lv:83(※国境防衛と後進の育成、マンティス・ロード討伐によりアップ)
HP:860 / 860
MP:660 / 660
【固有スキル】
・絆紋:対象と心を通わせる。万物を調和させ、極限の浄化と最適化を行う絶対的な力。
【クラン『絆紋亭』メンバー(一部抜粋)】
・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5
・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5
・空色小竜:絆レベル5
・漆黒の竜:絆レベル5
・砂塵の魔蠍:絆レベル5
・水豹:絆レベル5
・幻宝石獣:絆レベル5
・白銀の幼熊:絆レベル5
・銀狐:絆レベル5
・鋼棘の鎧獣:絆レベル5
・疾風の隼:絆レベル5
・影猫:絆レベル5(※絆深化)
・水妖の獺:絆レベル4(※絆深化)
・風精のリス(ルル):新規合流 / 絆レベル3
・アイラ(女戦士・Sランク)
・ルウ(魔導士・Sランク)
・シルヴィア(剣聖・Sランク)
・シオン(密偵・Sランク)
・レオン(辺境伯軍・騎士団長 / クラン協力者)
・クロード(辺境伯軍・槍使い / 有望株)
・アリス(冒険者・魔法盾使い / 有望株)
・ザック(冒険者・狙撃手 / 有望株)
・ミリー(神聖教会・支援術師 / 有望株)
・ガレス(辺境伯軍・重騎士 / 有望株)
・エララ(辺境伯軍・双剣使い / 有望株)
・ディルク(辺境伯軍・魔法剣士 / 有望株)
・クロエ(辺境伯軍・鞭剣士 / 有望株)
・バルガス(冒険者・格闘家 / 有望株)
・セオドア(辺境伯軍・盾槍兵 / 訓練生・有望株)
・リアム(冒険者・即効罠師 / 訓練生・有望株)
(※その他拠点防衛および生産メンバー多数)
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