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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第84話 魔刃の目覚めと、異空間の狂王

第84話 魔刃の目覚めと、異空間の狂王

 辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる特級クラン『絆紋亭』の拠点は、今日もまた、世界中のどの場所よりも優しく、そして奇跡のような調和に満ちた朝を迎えていた。

 庭の中央にそびえ立つ精霊樹は、深淵の邪神を浄化した光をたっぷりと吸収し、もはや一つの森と見紛うほどの巨大な神樹へと成長を遂げている。その豊かに茂ったエメラルドグリーンの枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、拠点全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

「ルルゥッ♪」

「キュゥッ♪」

「キュンッ♪」

「キュルッ♪」

「ピリリィッ♪」

 澄み切った青空の下、縁側で朝の空気を胸いっぱいに吸い込んでいる俺の足元へ、競い合うように九匹の魔物が飛び込んできた。

 俺が王都を追放され、この名もなき辺境の森にたどり着いたその日、一番最初に俺の固有スキル『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たちである銀色のウルフ『フェル』と、純白のポーションラビット『ピコ』。そして空色小竜の『ソラ』に、水豹の『リン』、幻宝石獣の『キラ』、白銀の幼熊『ブラン』、空間転移を操る銀狐の『ギン』、鋼棘の鎧獣『マル』、そして疾風の隼『ゲイル』だ。

 フェルは艶やかな銀色の毛並みを俺の手にすり寄せ、ピコは長い耳をパタパタさせながら俺の膝に飛び乗り、ソラは俺の肩にふわりと着地して頬をすりすりと擦りつけてくる。ギンはポンッと空間転移をして俺の頭の上に乗っかり、マルは足元でコロコロと丸まって甘え、ゲイルは空からふわりと舞い降りて俺の腕に留まった。

「おはよう、みんな。今日も元気いっぱいだな」

 俺が彼らの頭を順番に優しく撫でると、魔物たちは心底嬉しそうに目を細めて尻尾を振った。

 庭を見渡せば、漆黒の竜ノヴァが竜使いのルカに鱗を磨いてもらいながら気持ちよさそうに目を閉じ、紅蓮の火蜥蜴ガエンや鋼角の犀ザイン、岩砕の巨獣ダグといった大型の魔物たちが木陰でうたた寝をしている。黄金の甲殻を得て進化した砂塵の魔蠍ゼットは、太陽の精霊鳥ソルをハサミの上に乗せて日向ぼっこを楽しんでいた。

「レイン様、朝食の準備が整いましたよ!」

 厨房から、見習い魔導士のエリスが元気な声を上げた。

 ダイニングルームには、元宮廷料理人のセシルが腕を振るった極上の朝食が並べられている。今朝のメニューは、特製の魔力小麦で作った『焼きたてのオニオンチーズブレッド』に、農学者セリーヌが育てた新鮮なハーブをふんだんに使った『香草香るクリーミースープ』、そして砂漠の巫女ナディアが持参したスパイスで味付けされた『特大サーモンの香ばしグリル』だ。

「ガハハ! 今日も飯が美味い! 昨日の訓練でガレスやエララが覚醒したことで、他の騎士どもも随分と目の色を変えやがった。今日のシゴキはさらに気合いを入れてやるよ!」

 女戦士のアイラが、チーズブレッドを豪快に頬張りながら凶悪な笑みを浮かべる。

「ええ。冒険者の子たちは順調だけど、辺境伯軍の騎士たちにはまだまだ伸びしろがあるわ。私の炎で、もっと彼らの殻を破ってあげなくちゃね」

 少女魔導士のルウも、うっとりとした表情でスープを口に運びながら物騒なことを言う。

「実戦を経て、彼らの目つきは確かに変わりました。しかし、慢心は死を招きます。我々が真の絶望と希望の両方を教え込まねばなりません」

 剣聖シルヴィアも静かに闘志を燃やしていた。

 先日、重騎士ガレスと双剣使いエララが才能を開花させたことで、辺境伯軍の騎士たちの間には「自分たちにも未知の才能が眠っているのではないか」という熱を帯びた空気が広がっていた。

 俺たちが目指すのは『世界規模で発生し続ける変異ダンジョンを鎮圧できる最強の軍団』の育成だ。現状で満足させるわけにはいかなかった。

魔法剣士の覚醒

 朝食を終えた俺たちは、アシュタル郊外に設けられた広大な特設訓練場へと向かった。

 そこには、辺境伯軍の騎士団長レオンに率いられた数百名の騎士たちと、バルカンが選抜した中堅冒険者たちが、すでに熱気に満ちた表情で整列していた。先日の実戦で覚醒した槍使いのクロード、魔法盾使いのアリス、狙撃手のザック、支援術師のミリーに加え、絶対の壁となったガレスと疾風の双剣使いエララも、皆の模範として最前列に立っている。

「全員、よく集まってくれた! 先日の実戦演習での働きは見事だった。だが、あれはあくまで始まりに過ぎない。今日も限界を超えてもらうぞ!」

 俺が声をかけると、訓練生たちは一斉に「ははっ!」と地鳴りのような返事をした。

 訓練が開始されると、アイラやルウ、シルヴィアたちによる容赦のないシゴキが始まった。

 俺はフェルやピコたちと共に訓練全体を監視しながら、個々の動きを分析していた。冒険者たちの中からはアリスやザックのような逸材がすでに見つかっているが、辺境伯軍の『騎士』たちの中にも、まだ見出されていない原石が眠っているはずだった。

「遅い! 剣に迷いがあるから、踏み込みが甘くなるのよ!」

 ルウが炎の魔法を威嚇に使いながら、一人の若い騎士を追い詰めていた。

 その騎士――ディルクは、体格こそ標準的だが、剣を振るうたびに微弱な魔力が刃から漏れ出ているのが俺の目には見えた。しかし、彼はその魔力を使いこなせず、ただ無駄に消耗しているだけだった。

「ぐっ……! し、しかし、剣術と魔法を同時に扱うなど、俺には……!」

 ディルクは息を切らしながら、ルウの炎を剣で払おうとするが、魔力の制御が乱れて火傷を負いそうになる。

 俺は彼の元へ歩み寄り、ルウに合図を送って攻撃を止めさせた。

「ディルク、と言ったな。君は無意識のうちに、剣に魔力を纏わせようとしている。だが、剣術の型に囚われすぎて、魔力の流れを堰き止めているんだ」

「レ、レイン様……! 俺は、昔から魔法の才能があると期待されていたのですが、どうしても呪文の詠唱が苦手で……騎士の道を選んだのです。ですが、いざ剣を握ると、今度は魔力が邪魔をしてしまって……」

 ディルクは悔しそうに俯いた。

「それは邪魔をしているんじゃない。君の才能が、発現する形を求めているんだ」

 俺はアイテムボックスから、魔力伝導率の極めて高い『ミスリル製の長剣』を取り出し、彼に手渡した。

「詠唱なんていらない。魔力をただの『エネルギー』として剣に流し込むんだ。君の意思を、そのまま刃に乗せてみろ」

 俺は彼の肩に手を置き、右手の甲の『絆紋』 の光を流し込んだ。彼の乱れていた魔力回路が瞬時に最適化され、滞っていた魔力がスムーズに流れ始める。

「魔力を、刃に……!」

 ディルクがミスリルの長剣を構え、深く息を吐き出す。

 その瞬間、彼の剣から青白い炎のような魔力が吹き上がり、鋭い刃を包み込んだ。

「おおっ……!? 剣が、魔力を帯びている……!」

「さあ、その剣で素振りをしてみろ」

 俺が促すと、ディルクは力強く剣を振り下ろした。

 ズバァァァッ!!

 剣身から放たれた青白い魔力の刃が、数メートル先の訓練用の木人を見事に両断した。

「魔法剣……! 俺にも、魔法剣が使えるのか……!!」

 ディルクは歓喜の声を上げ、自身の両手を見つめた。

「君の魔力操作の精密さは本物だ。ただ、表現方法を知らなかっただけさ。これからは、前衛でありながら中距離の魔法攻撃もこなせる『魔法剣士』として、戦場の遊撃を任せたい」

「はいっ! レイン様、この御恩は一生忘れません!」

 また一人、辺境伯軍の中から新たな原石が強烈な光を放った瞬間だった。

影に潜む猫と、国境の死闘

 午後。

 覚醒の兆しを見せた騎士たちを実戦で試すため、俺たちは通常のパトロール依頼を兼ねて、アシュタルの南西にある国境の深い森へと足を運んだ。

 今回の班は、俺、ルウ、シオンの教官陣に加え、槍使いクロード、魔法盾アリス、狙撃手ザック、支援術師ミリー、重騎士ガレス、双剣エララ、そして新たに魔法剣士として覚醒したディルクの七人だ。魔物組はフェル、ピコ、ソラ、空間転移のギン、そして空からの索敵を担う疾風の隼ゲイルを連れている。

「この森には、魔王軍の残党が使役していた強力な変異魔物が潜んでいるという報告がある。ディルク、午前中に掴んだ感覚を忘れるなよ」

「は、はいっ!」

 ディルクは緊張しながらも、帯びたミスリルの長剣を強く握りしめた。

「ピリリィッ!」

 空高く舞っていたゲイルが、鋭い鳴き声を上げて旋回した。

「敵の発見ですね。前方三百メートル、巨大な変異蜘蛛の群れです。……数は、五十以上!」

 シオンがゲイルの合図を読み取り、瞬時に状況を報告する。

「五十だと!? ただの群れじゃない、スタンピードの兆候か!」

 クロードが槍を構え、顔を引き締める。

「全員、円陣を組め! ガレスは正面の盾となり、アリスは側面と後方を氷の盾で塞げ! ミリーは全員に『聖なる大いなる鼓舞(ホーリー・グランド・エンチャント)』だ!」

 俺の指示に、訓練生たちは即座に動き、完璧な防御陣形を構築した。

 カサカサカサッ……!

 不気味な足音と共に、森の奥から体長二メートルを超える赤黒い蜘蛛の魔物――『変異毒蜘蛛(ポイズン・タランチュラ)』の群れが姿を現した。

「来ます! 『マルチ・アイス・シールド』!!」

 アリスの展開した氷の盾が、蜘蛛たちの吐き出す毒液を的確に防ぐ。

「俺の盾は、絶対に破らせない! 『フォートレス・ガード』!!」

 ガレスがタワーシールドを地面に突き立て、蜘蛛たちの強烈な体当たりを真正面から受け止める。

「ザック、上方の蜘蛛を頼む! エララは側面から遊撃を!」

 クロードが指示を飛ばしながら、ガレスの盾の隙間から『剛槍突き』を放ち、蜘蛛の急所を貫く。

「任せてください!『貫きの風矢(ペネトレイト・アロー)』!」

「私のスピード、見せてあげるわ!『双刃乱舞』!」

 ザックの矢が木の上に潜む蜘蛛を撃ち落とし、エララが風のような速度で群れに切り込み、蜘蛛の脚を次々と切断していく。

「ディルク、君の力を見せてみろ!」

「はいっ! 『魔刃斬(マナ・スラッシュ)』!!」

 ディルクがミスリルの長剣に魔力を込め、青白い炎のような刃を放つ。その魔法の斬撃は、密集していた三体の蜘蛛をまとめて両断し、周囲の蜘蛛たちを後退させた。

「すごい威力だ……! いける、これなら押し切れる!」

 ディルクの活躍に、クロードたちも士気を高めた。

 訓練生たちの連携は、もはやベテランの冒険者パーティーを凌駕するほどに洗練されていた。彼らは互いの死角を補い合い、迫り来る五十体の変異毒蜘蛛を確実に減らしていく。

「やるじゃないか。即席のパーティーとは思えないほどの安定感ね」

 ルウが感心したように頷く。

「彼らの成長速度は驚異的です。レイン様の導きが、彼らの潜在能力を限界まで引き出しているのですね」

 シオンも微かに微笑んだ。

 だが、戦況が有利に傾きかけたその時。

 森のさらに奥から、地響きを立てて、一際巨大な魔物が姿を現した。

 体長八メートルを超える、赤黒い瘴気を纏った巨大な毒蜘蛛――『変異女帝蜘蛛(エンプレス・タランチュラ)』だ。

 その巨大な腹部からは、次々と新たな蜘蛛の卵が生み出され、そこから孵ったばかりの蜘蛛たちが大群となって押し寄せてくる。

「なっ……! ボスの蜘蛛が、無限に敵を生み出しているのか!?」

 クロードが驚愕の声を上げる。

「このままじゃ、ジリ貧です! 私の魔力も、そろそろ限界が……!」

 アリスが氷の盾を維持しながら悲鳴を上げた。

「俺が前線を押し上げる! その後ろから、ディルクとザックでボスを狙え!」

 ガレスが盾を構え直して前に出ようとするが、女帝蜘蛛が口から放った極太の毒糸が、ガレスのタワーシールドに絡みつき、彼の巨体を強引に引き寄せようとした。

「ぐおおおっ! 力が、強すぎる……!」

「ガレス!!」

 エララが双剣で毒糸を切断しようとするが、糸は鋼線のように硬く、刃が立たない。

「ここまでだな。十分すぎるほどよくやった」

 俺は剣を抜き、フェルとピコに目配せをした。彼らが限界を迎えれば、俺たちが瞬時に制圧する。そう決めていた。

 だが、俺が飛び出そうとしたその瞬間。

「ミャァァァッ……!」

 女帝蜘蛛の背後の樹上から、微かな、しかし鋭い鳴き声が聞こえた。

 見れば、女帝蜘蛛が張った巨大な巣の端で、一匹の小さな魔物が糸に絡め取られ、もがいているではないか。

 闇夜に溶け込むような漆黒の毛並みと、周囲の影を操る特異な魔力を持った魔物――『影猫(シャドウ・キャット)』の子供だ。

 どうやら、女帝蜘蛛の巣に迷い込み、捕食される寸前だったらしい。

「あの猫、影に溶け込もうとしているが、瘴気のせいで術が乱れている……!」

 シオンが瞬時に状況を分析する。

「フェル! ピコ! 女帝蜘蛛の動きを止めるぞ! ギン、ソラはクロードたちの護衛を!」

「ウォォォンッ!!」

「キュイッ!!」

 俺の指示と同時に、フェルとピコが目にも留まらぬ速度で飛び出した。

 フェルが青白い雷光を纏った『白銀の迅雷』で女帝蜘蛛の側面に回り込み、その強烈な雷撃で蜘蛛の複数の脚を麻痺させる。

「シャアアァァァッ!?」

 女帝蜘蛛が驚愕して毒液を吐き出そうとした瞬間、ピコが空中高く跳躍し、浄化の光を限界まで込めた『ホーリー・ムーン・キック』で、女帝蜘蛛の牙を真っ二つに粉砕した。

「今だ!」

 俺は一気に距離を詰め、右手の甲の『絆紋』 の光を長剣に纏わせた。

「悪く思うな。お前のその狂気、ここで終わらせてやる」

 ズバァァァンッ!!

 翠色の光の軌跡が宙を描き、変異女帝蜘蛛の巨体を一刀両断する。断ち切られた蜘蛛の肉体は、瘴気を発することもなく、純粋な光の粒子となって森の空気に溶けていった。

 ボスの死を見た残りの蜘蛛たちは、統率を失い、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。

影を歩む猫と、異空間の狂王

 戦闘が終わり、俺は剣を収めると、すぐさま樹上の巣に囚われていた影猫の元へと跳躍した。

「ミャァ……ッ」

 影猫は粘着性のある糸に絡まれ、恐怖に身を縮ませていた。

「もう大丈夫だ。怖い奴はみんないなくなったからな」

 俺は剣の柄で糸を切り裂き、ゆっくりと手を差し伸べた。そして、右手の甲の『絆紋』 の光を灯す。

 翠色の温かな波紋が、影猫の小さな体を優しく包み込んだ。

『万物の調和と極限浄化』の力が、影猫の体にこびりついていた毒を瞬時に浄化し、恐怖に強張っていた心を解きほぐしていく。

「ミャウ……?」

(あたたかい……。お前が、助けてくれたのニャ?)

 影猫から、警戒が解けた純粋な疑問と、微かな安堵の思念が伝わってくる。

「ああ。俺はレイン。君を助けに来たんだ」

 俺が微笑みながらその漆黒の毛並みを撫でると、影猫は驚いたように目を見開き、そして俺の手のひらに顔をすり寄せてきた。

「ウォンッ♪」

「キュイッ♪」

「キュンッ♪」

 フェルとピコ、そして空間転移でやってきたギンも近寄ってきて、新しい仲間の匂いを優しく嗅ぐ。影猫は少し驚きながらも、彼らの放つ温かい魔力に触れ、完全に安心したように喉をゴロゴロと鳴らした。

「もし帰る場所がないなら、俺たちのところに来るか? ここには君を守ってくれる強い仲間がたくさんいるし、美味しいご飯も毎日食べられるぞ」

 俺が誘うと、影猫は嬉しそうに頷き、するりと俺の影の中に潜り込み、次の瞬間には俺の肩の上にひょっこりと顔を出した。

「おっ? 影の中を移動できるのか。シオンの隠密行動のいいパートナーになりそうだな」

「ミャウッ♪」

 影猫は得意げに鳴き、俺の頬にすりすりとした。

「よし、今日からお前の名前は『シャロ』だ。よろしくな、シャロ」

「ミャァンッ♪」

 新たな家族を迎え入れた俺の元へ、クロードたち七人が申し訳なさそうに歩み寄ってきた。

「レ、レイン様……申し訳ありません。俺たちの力が足りず、結局レイン様の手を煩わせてしまって……」

 ディルクが悔しそうに俯く。

「何を言ってるんだ。君たちは五十を超える変異蜘蛛の群れを相手に、陣形を崩さず、互いをカバーし合っていた。即席のパーティーで、あれだけの連携ができるのは大したものだ」

 俺が褒めると、ルウやシオンたち教官陣も深く頷いた。

「そうよ。アンタたちは、今日の訓練と実戦で確実に成長したわ。魔法剣士としてのディルクの火力も申し分なかったわよ」

「は、はいっ!! 光栄です!!」

 七人の顔には、己の未熟さを知る悔しさと共に、それ以上の強い憧れと向上心が燃え上がっていた。

   * * *

【閑話 次元の彼方と、魔王の悪巧み】

 一方その頃。

 大陸から完全に消失し、暗く冷たい『異空間』へと転移した魔王城。

 次元断層の魔道具によって切り取られた空間の中で、魔王軍は完全に外界との接触を断たれ、ただ虚無の闇の中を漂っていた。

「……魔王様。異空間内での魔力循環炉の再構築、完了いたしました。これで、我ら魔族の肉体は緩やかにですが再生と強化を始めるでしょう」

 謁見の間の奥。智将ベルフェが、カタカタと骨を鳴らしながら報告する。

 魔王ゼアノスは玉座に深く腰掛けたまま、無言で頷いた。

「ククク……見ておれよ。あの忌々しい『絆紋』の使い手め。我ら四天王の力をさらに引き上げ、究極の魔族へと進化してやる!」

 右腕を失っていた獣王バランは、魔王城の地下に眠っていた『禁忌の魔獣の細胞』を自身の肉体に移植し、以前よりもさらに禍々しく、巨大な腕を再生させていた。

「あぁ……わたくしの顔も、少しずつ元に戻ってきましたわ。いえ、前よりも美しく、そして強靭に……!」

 妖将カーミラもまた、異空間の濃密な魔力を吸い上げ、ドロドロに溶けていた肉体を再生させつつ、さらに強力な不死の呪いを身に纏っていた。

 彼らは信じていた。

 この暗闇の中で力を蓄え、かつての限界を突破すれば、いずれ必ずあの辺境の青年を打ち倒し、世界を再び恐怖で支配できると。

「……だが、油断はできぬ」

 ゼアノスの低く冷酷な声が、謁見の間に響く。

「奴の力は『調和』だ。我々がどれほど破壊の力を高めようとも、それ自体が奴の力の餌食になる可能性がある。……ベルフェよ、異空間のさらに奥深く、次元の狭間に眠るという『虚無の王』の封印は、まだ解けぬのか?」

「申し訳ありません、魔王様。あの封印は神話の時代より前のもの。我々の魔力で解き明かすには、まだ数年はかかると……」

「急げ。我々が真にあの光に対抗するには、あらゆる魔力を飲み込む『虚無』の力が必要だ。それまでは、この城の中で死に物狂いで己を鍛え上げるのだ」

 魔王軍は、完全な敗北を認めながらも、生き延びるために暗闇の中で必死の強化と悪巧みを続けていた。

 しかし彼らは知らない。

 彼らが数年かけて到達しようとしている強さを、アシュタルの『ただの訓練生たち』が、たった数ヶ月の修行で易々と超えようとしていることを。

 そして、彼らが恐れるその青年が、今この瞬間も、仲間たちと笑い合い、新しい子猫の魔物を撫でながら、美味しい夕食を食べているだけだということを。

【現在のステータス】

名前:レイン

職業:Sランク冒険者(特級クラン『絆紋亭』マスター / 自治区代表)

称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 導きの光 / 豊穣の主 / 浄水の守り手 / 迷いを導く者 / 真理を導く者 / 絆の真髄を知る者 / 竜を解放する者 / 独立同盟の盟友 / 熱砂を歩む者 / 深淵を浄化せし者 / 変異を鎮める者 / 導きの軍師

Lv:81(※国境防衛と後進の育成、女帝蜘蛛討伐によりアップ)

HP:840 / 840

MP:640 / 640

【固有スキル】

・絆紋(きずなもん):対象と心を通わせる。万物を調和させ、極限の浄化と最適化を行う絶対的な力。

【クラン『絆紋亭』メンバー(一部抜粋)】

・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5

・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5

・空色小竜(ソラ):絆レベル5

・漆黒の竜(ノヴァ):絆レベル5

・砂塵の魔蠍(ゼット):絆レベル5

・水豹(リン):絆レベル5

・幻宝石獣(キラ):絆レベル5

・白銀の幼熊(ブラン):絆レベル5

・銀狐(ギン):絆レベル5

・鋼棘の鎧獣(マル):絆レベル5(※絆深化)

・疾風の隼(ゲイル):絆レベル4(※絆深化)

・影猫(シャロ):新規合流 / 絆レベル3

・アイラ(女戦士・Sランク)

・ルウ(魔導士・Sランク)

・シルヴィア(剣聖・Sランク)

・シオン(密偵・Sランク)

・レオン(辺境伯軍・騎士団長 / クラン協力者)

・クロード(辺境伯軍・槍使い / 有望株)

・アリス(冒険者・魔法盾使い / 有望株)

・ザック(冒険者・狙撃手 / 有望株)

・ミリー(神聖教会・支援術師 / 有望株)

・ガレス(辺境伯軍・重騎士 / 有望株)

・エララ(辺境伯軍・双剣使い / 有望株)

・ディルク(辺境伯軍・魔法剣士 / 訓練生・有望株)

(※その他拠点防衛および生産メンバー多数)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

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