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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第75話 深淵の浄化と、魔王の恐怖

第75話 深淵の浄化と、魔王の恐怖

 熱砂の死漠の中心、崩壊した古代遺跡の底。

 魔王軍の幹部たちによって封印を解かれた『深淵の邪神』は、自らの身を呈して仲間を守った砂塵の魔蠍ゼットの犠牲を嘲笑うかのように、再びその中心部にある赤紫色のコアを激しく脈打たせていた。

 空間そのものを消滅させるほどの高密度の魔力レーザー。その二射目が放たれれば、今度こそ俺たちは跡形もなく消し飛ぶだろう。

「ゼット……よく耐えてくれた。お前の痛みは、俺が必ず晴らす!」

 俺は右手の甲に刻まれた『絆紋』の光を、これまでの人生で最も強く、そして激しく解放した。

 翠色の光が天を衝く火柱のように立ち上り、絶望的な闇に包まれていた砂漠の空を、眩いばかりの生命の輝きで染め上げていく。

 俺の心にあるのは、破壊の衝動ではない。大切な家族を傷つけられた怒りと、この歪んだ絶望を『本来の正しき形』へと戻すという、純粋で強烈な『調和』の意志だった。

『――滅…………ベ…………!!』

 邪神の核から、先ほどと同じ、いや、それ以上に巨大な破壊のレーザーが放たれた。

 光すらも飲み込む赤紫色の奔流が、真っ直ぐに俺へと向かってくる。

「マスターには、指一本触れさせないわ!!」

 俺の前に立ち塞がったのは、大女の戦士アイラだった。彼女は戦斧を大地に突き立て、全身の闘気を限界まで練り上げる。

「絶技・白銀の飛燕――無明の盾!!」

 さらに剣聖シルヴィアが、神速の剣筋で空間に無数の斬撃の壁を作り出し、アイラの防御を補強する。

「光よ、絶対の守護となりて!『ホーリー・イージス』!!」

 シオンの合図と共に、拠点で留守番をしているはずのフレアやセリアたちの祈りの魔力までもが『絆紋』を通じて俺たちに流れ込み、巨大な光の盾となってレーザーを受け止めた。

 ギギギギギィィィッ!!

 邪神の破壊の光と、仲間たちの想いが結集した防壁が激突し、凄まじい火花と衝撃波を撒き散らす。

「ノヴァ! ソラ!」

(承知した、我が主よ!!)

「きゅるるーっ!!」

 上空から急降下した漆黒の竜ノヴァが、強靭な竜の顎で邪神の触手を噛みちぎり、空色小竜のソラが絶対零度のブレスで邪神の泥を凍結させて動きを鈍らせる。

「ルウ! ガエン!」

「いくわよ!『フレイム・テンペスト』!!」

「ギャルォォォォォッ!!」

 少女魔導士ルウの極大魔法と、紅蓮の火蜥蜴ガエンの灼熱のブレスが融合し、邪神の側面を激しく焼き焦がす。

「ウォォォンッ!!」

「キュイッ!!」

 そして、俺の最古参の相棒である銀狼フェルと白兎ピコが、俺の両脇をすり抜けて最前線へと飛び出した。

 フェルは青白い雷光を極限まで圧縮した『天雷の咆哮』で邪神の防壁を穿ち、ピコは浄化の光を纏った『ホーリー・ムーン・キック』で、核を守る分厚い泥の装甲を完全に粉砕した。

「今だ、レイン!!」

 アイラたちの叫びと共に、邪神の無防備な赤紫色の核が俺の目の前に晒された。

 俺は大地を蹴り、宙へと跳躍した。

 手にした長剣に、『万物の調和と極限浄化』の翠色の光を限界まで纏わせる。剣身はもはや金属ではなく、純粋な光の刃へと変貌していた。

『――ギィ…………ヂィィィィ…………!?』

 邪神が初めて、明確な『恐怖』の意思を露わにし、無数の触手で俺を串刺しにしようと迫る。

 だが、遅い。

「これで、終わりだぁぁぁッ!!」

 俺は振り被った光の剣を、邪神の脈打つ核の中心へと、渾身の力で突き立てた。

 ドスゥゥゥンッ……!!

 その瞬間。

 音という音が、世界から消え去った。

 邪神の核から放たれていた赤紫色の禍々しい光が、俺の剣から溢れ出す翠色の光に飲み込まれていく。

『調和』の力は、邪神という存在そのものを『この世界にあってはならない異物』として認識し、本来の清らかなマナへと強制的に還元し始めたのだ。

『――――――――――――ッ!?!?』

 声にならない断末魔の絶叫が、空間を震わせた。

 漆黒の泥が、ドロドロと溶けるように崩れ落ち、純白の光の粒子となって天へと昇っていく。触手も、無数の目玉も、空間を歪めていた瘴気も、すべてが優しい翠色の光に包まれ、浄化されていく。

 やがて、数千年の長きにわたり封印され、魔王軍の手によって復活した『深淵の邪神』は、熱砂の死漠から完全にその姿を消し去った。

「やった……。完全に、浄化されたわ!」

 ルウが杖を杖を地に落とし、へたり込みながら歓喜の声を上げる。

「ガハハ! 見たか、あのデカブツが光になって消えちまったぜ!」

 アイラも戦斧を放り出し、大の字になって砂の上に倒れ込んだ。

 俺は剣を鞘に収め、すぐさま倒れているゼットの元へと駆け寄った。

「ゼット!」

 邪神のレーザーを真っ向から受けたゼットの甲殻は、無惨に溶け落ちていた。

 だが、邪神を浄化し終えた『絆紋』の光が、まだ周囲の大気に色濃く残っていた。俺はゼットの傷口に手を当て、残存する浄化の魔力をすべて彼の体へと注ぎ込んだ。

 すると、奇跡が起きた。

 溶け落ちていた茶褐色の甲殻が、眩い黄金色の輝きを放ちながら再生し始めたのだ。邪神の攻撃という極限の負荷に耐え抜いたことで、ゼットの肉体が一段階上の次元へと進化したのである。

「ギ、ギチィ……♪」

(マスター……俺は、生きてるのか……?)

「ああ、生きてるぞ。それに、なんだか前よりずっと頑丈でピカピカになったな」

 俺が涙ぐみながらゼットの黄金のハサミを撫でると、ゼットは嬉しそうにハサミをカチカチと鳴らし、俺の胸に頭を擦り寄せてきた。

「ウォンッ♪」

「キュイッ♪」

 フェルとピコも駆け寄り、ゼットの無事を祝うようにその黄金の甲殻をペロペロと舐め回した。

 その時。

 邪神の核が浄化され、完全に消滅したはずの空間から、ポワァン……と小さな光の球が浮かび上がってきた。

「なんだ、あれは?」

 警戒して剣に手をかけるシルヴィアを制し、俺はその光の球へと近づいた。

 光がゆっくりと形を成していく。現れたのは、黄金に輝く美しい羽を持つ、手のひらサイズの小さな鳥――『太陽の精霊鳥』だった。

「ピーッ、ピヨッ♪」

 その小鳥は、邪神の禍々しさなど微塵も感じさせない、純粋で温かい魔力を放ちながら、俺の肩にふわりと着地した。

(ありがとう、心優しき人。私はこの砂漠の本来の主。長きにわたり邪神に取り込まれ、自我を失っていました。あなたの光が、私を再びこの世界に呼び戻してくれたのです)

 小鳥から、高貴で清らかな思念が伝わってくる。

「お前が、砂漠の本来の主だったのか。……無事でよかった」

(私は一度力を失い、このような小さな姿になってしまいました。どうか、あなたのその温かい光の側で、再び力を取り戻すまで共にいさせてはくれませんか?)

「もちろんだ。俺たちのクランは、いつでも新しい家族を歓迎する。お前の名前は……『ソル』だ。よろしくな、ソル」

「ピヨッ♪」

 ソルは嬉しそうに鳴き、俺の頬にその温かい羽を擦り寄せた。

「レインさーん!!」

 砂丘の向こうから、太陽の民の戦士カシムが、数十人の村人たちを連れて駆け寄ってくるのが見えた。彼らの顔には、邪神の気配が完全に消え去ったことへの驚愕と歓喜が浮かんでいる。

「レインさん! 空を覆っていたあの黒い瘴気が、一瞬で光に変わって……! もしかして、あなたが邪神を倒したんですか!?」

「倒したというか、本来の形に戻しただけだよ。……これで、君たちの砂漠も安全だ」

 俺が微笑むと、カシムは感極まってその場に泣き崩れた。

 その時、カシムの後ろから、美しい民族衣装を身に纏い、顔を薄いベールで隠した一人の若い女性が進み出てきた。

「兄様、泣いてばかりでは恩人の方に失礼ですわ」

 彼女は鈴を転がすような澄んだ声でカシムを窘めると、俺の前に跪き、深く頭を下げた。

「私は太陽の民の巫女、ナディアと申します。私たちの故郷と、精霊たるガエン様を救っていただき、心より感謝申し上げます。……レイン様。私たちの村は、魔王軍の瘴気によって土地が枯れ、長らく苦しい生活を強いられてきました。もし許されるならば、私をあなた様のクランの末席に加え、その偉大な光の下で仕えさせてはいただけないでしょうか。私の持つ『砂漠の祈り』の魔法は、きっと皆様のお役に立つはずです」

 ナディアの真摯な申し出に、俺はアイラたちと顔を見合わせた。

「マスター、いいんじゃない? 砂漠や暑い地域の知識を持ってる人がいれば、今後の活動の幅も広がるわよ」

 ルウが賛成するように頷く。

「わかった。ナディア、俺たちのクラン『絆紋亭』へようこそ。君の魔法、頼りにしてるよ」

「はいっ! 粉骨砕身、お仕えいたしますわ!」

 こうして、魔王軍の野望を打ち砕き、深淵の邪神を完全に浄化した俺たち東方遠征・選抜部隊は、黄金の甲殻を得て進化したゼット、太陽の精霊鳥ソル、そして砂漠の巫女ナディアという新たな家族を迎え入れ、アシュタルの街へと帰還の途につくのだった。

   * * *

【閑話 魔王の恐怖と、崩壊する玉座】

 大陸の最北端、陽の光さえも届かぬ常闇の地にそびえ立つ、魔王城。

 その最深部にある謁見の間には、絶望的な血と腐肉の臭いが充満していた。

「ぎぃぃぃぃっ……! 痛い、痛いぃぃっ! わたくしの顔が、わたくしの美しい肌がぁぁっ!!」

 第二軍団長、妖将カーミラが、床を転げ回りながら絶叫していた。彼女の右半身は邪神の瘴気に触れたことで完全にドロドロに溶け落ち、醜いアンデッドの骨格が剥き出しになっている。どんな高度な回復魔法をかけても、肉体は再生する傍から崩れ落ちていく。

「クソッ……! あの邪神め、敵味方の区別すらつかぬただの破壊の権化ではないか! 我輩の右腕が……力を込めることすらできん!」

 第一軍団長、獣王バランもまた、右腕を根元から消失し、残された肉体も瘴気の浸食によってどす黒く変色し、激しい痛みに悶え苦しんでいた。

「……だから、言っただろう。アレは制御できる代物ではないと」

 第三軍団長、智将ベルフェは、辛うじて転移魔法を発動させたものの、左半身の骨が完全に消滅し、残った右腕で体を支えながら力なく壁にもたれかかっていた。

 魔王ゼアノスは、玉座から無言で三人の無惨な姿を見下ろしていた。

 四天王の竜将ドラグ・ゾルを失い、残る三人もこの有様。魔王軍の最高戦力は、事実上完全に崩壊したと言っていい。

 だが、彼らの犠牲と引き換えに、深淵の邪神は目覚めたのだ。

 あの絶対的な破壊の力があれば、忌まわしいアシュタルの街も、あの『絆紋』を持つ得体の知れない青年も、必ず魂ごと消滅するはずだ。

「……よくやった。お前たちの犠牲は無駄にはならん」

 魔王ゼアノスが、低い声で労いの言葉をかけようとした、その時だった。

 ――ピキィィィンッ……!!

 魔王城の謁見の間に設置されていた、東の大陸の様子を監視するための巨大な『遠見の魔水晶』が、突如として甲高い音を立ててヒビ割れたのだ。

「な、なんだ……!?」

 ベルフェが驚いて残った右目で魔水晶を睨みつける。

 水晶に映し出されていたのは、黒い泥となって砂漠を飲み込もうとしていた深淵の邪神の姿だった。

 だが、その映像は今、信じられない光景を映し出していた。

 邪神の中心部で、眩いばかりの『翠色の光』が爆発したのだ。

 その光は、邪神の漆黒の泥を次々と浄化し、純白の光の粒子へと変えていく。

 邪神が苦痛に身悶えし、やがてその巨大な質量が、嘘のように空気中へと溶け、完全に消滅していく様が、魔水晶越しにはっきりと映し出されていた。

「…………は?」

 バランが、痛みを忘れて間抜けな声を漏らした。

「ば、莫迦な……! 邪神が……深淵の絶望が……消滅した……?」

 カーミラも、残された左目でその光景を見て、恐怖に全身を震わせた。

 そして、魔水晶の映像は、邪神を浄化した張本人――光輝く剣を手にした一人の青年と、その周囲で彼を守るように立ち並ぶ魔物たちの姿を映し出した。

 青年は、魔王城の監視など気にも留めていない様子で、溶け落ちた巨大な蠍の魔物に優しく手を当て、治癒の光を注いでいた。

 パリンッ!!

 魔水晶が完全に砕け散り、謁見の間は再び重苦しい静寂に包まれた。

「……あれは、幻影か?」

 バランが、震える声でベルフェに尋ねる。

「いや……現実だ。我々四天王三人が束になっても、一瞬で肉体を崩壊させられたあの邪神を……あの青年は、たった一撃で、完全に『浄化』しおったのだ……」

 ベルフェの言葉に、絶望という二文字が謁見の間に重くのしかかった。

 魔王ゼアノスは、玉座に深く腰掛けたまま、微動だにしなかった。

 しかし、その兜の奥の赤い双眸は、かつてないほどの『恐怖』に見開かれていた。

 彼の指先は小刻みに震え、玉座の黒曜石を削る音だけが、静かな部屋に響き渡る。

 魔王軍最強の四天王を子供扱いし、神話の邪神すらも一撃で浄化する存在。

 それはもはや、人間の冒険者などではない。魔族という存在そのものをこの世界から消し去るために遣わされた、神の代行者か何かだ。

「……勝てぬ」

 魔王ゼアノスの口から、無意識のうちにその言葉が漏れ出た。

「魔、魔王様……!?」

「我々は、致命的な過ちを犯した。あの青年に関わるべきではなかった。奴は、我々が触れてはならない『絶対的な調和の理』そのものだ」

 ゼアノスは立ち上がり、悲痛な声で命令を下した。

「全軍に告げよ!! 直ちに魔王領の全ての門を閉ざし、絶対防壁を展開しろ!! 外界との接触を完全に断ち、魔王城を地下深くへと封印するのだ!! あの光が、我々の領域に届く前に!!」

 魔王の絶叫が、暗く冷たい魔王城に響き渡る。

 人間を狩り、世界を恐怖で支配していた魔王軍は今、たった一人の青年の存在によって、狩られる側の哀れな獲物へと転落し、絶望の中で完全に引きこもる決断を下したのだった。

 遠く離れた砂漠では、そんな魔王の恐怖など知る由もなく、レインたちが新しい家族と共に、アシュタルへの帰路を笑顔で歩み始めていた。

【現在のステータス】

名前:レイン

職業:Sランク冒険者(特級クラン『絆紋亭』マスター / 自治区代表)

称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 導きの光 / 豊穣の主 / 浄水の守り手 / 迷いを導く者 / 真理を導く者 / 絆の真髄を知る者 / 竜を解放する者 / 独立同盟の盟友 / 熱砂を歩む者 / 深淵を浄化せし者

Lv:75(※深淵の邪神の完全浄化により限界突破レベルアップ)

HP:780 / 780

MP:580 / 580

【固有スキル】

絆紋きずなもん:対象と心を通わせる。万物を調和させ、極限の浄化と最適化を行う絶対的な力。邪神の呪詛すらも無効化する。

【クラン『絆紋亭』メンバー(一部抜粋)】

・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5

・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5

空色小竜ソラ:絆レベル5

・漆黒のノヴァ:絆レベル5(※絆深化)

・砂塵の魔蠍ゼット:絆レベル5(※黄金甲殻への進化)

・紅蓮の火蜥蜴ガエン:絆レベル4(※絆深化)

・太陽の精霊鳥ソル:新規合流 / 絆レベル3

・アイラ(女戦士・Sランク)

・ルウ(魔導士・Sランク)

・シルヴィア(剣聖・Sランク)

・シオン(密偵・Sランク)

・ナディア(砂漠の巫女・新規加入)

(※その他拠点防衛メンバー多数)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

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