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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第73話 焦熱の砂漠と、紅蓮の火蜥蜴

第73話 焦熱の砂漠と、紅蓮の火蜥蜴

 大陸の東部。生命の息吹を拒絶するかのように、見渡す限りの赤茶けた砂がうねる『熱砂の死漠』。

 日中は灼熱の太陽が大地を焼き焦がし、夜は骨の髄まで凍りつくような極寒が支配するこの過酷な地に、今、おぞましい暗雲と瘴気が渦巻いていた。

 砂漠の中心部にぽっかりと口を開けた、巨大なすり鉢状の古代遺跡。

 その最深部には、神話の時代に封印されたという『深淵の邪神』を縛り付ける、巨大な黄金の鎖が幾重にも張り巡らされていた。

 そして現在、その黄金の鎖を断ち切るべく、魔王軍の残存戦力が総力を挙げて呪いの儀式を執り行っていたのである。

「ええいっ! まだ解けぬのか、この忌々しい鎖は!」

 第一軍団長である獣王バランが、苛立ちに任せて巨大な戦槌を砂漠の岩山に叩きつけた。轟音と共に岩山が粉砕されるが、彼の苛立ちは全く収まる気配がない。

「落ち着け、バラン。これは神話の時代から続く神聖な封印だ。我ら魔族の瘴気を真っ向から弾き返す力を持っている。力任せに壊せるものではない」

 第三軍団長、智将ベルフェが、骸骨の指先でカタカタと魔導書をめくりながら冷や汗を流していた(もっとも、彼に汗を流す皮膚はないのだが)。

 遺跡の底では、魔王軍の尖兵であるオークやゴブリンたちが、次々と「生贄」として黒い炎の立ち上る魔法陣へと放り込まれていた。彼らの断末魔と絶望の魂をエネルギーに変換し、少しずつ黄金の鎖を腐食させようという強引な手段である。

 しかし、黄金の鎖は強烈な浄化の光を放ち、生贄となった魔族たちの瘴気を蒸発させていく。鎖を一本腐食させるのにも、数千の魔族の命がすり減っていくのだ。

「あぁ、暑苦しい……。わたくしの美しい肌が、この不毛な砂と熱風でカサカサになってしまいますわ」

 第二軍団長、妖将カーミラが、日傘を差しながら不機嫌そうにため息を吐いた。

「そもそも、あの辺境の街にいるという一人の青年のために、なぜ我々がこれほどの労力と犠牲を払わねばならないの? ドラグ・ゾルが敗れたとはいえ、魔王様も少し過敏になりすぎでは……」

「黙れ、カーミラ。魔王様の決定は絶対だ」

 バランが鋭く睨みつける。

「それに、あの『絆紋』とやらを持つ青年……奴の力は本物だ。報告によれば、我々の呪縛を無効化するだけでなく、魔獣の能力を限界以上に引き出すという。このまま放置すれば、いずれ奴らはこの砂漠にまで到達し、我々の儀式を邪魔しに来るだろう」

「……その通りだ。だからこそ、奴らが来る前にこの封印を解き、邪神の力で大陸ごと奴らを消滅させねばならない」

 ベルフェは空を見上げ、不気味な青い炎の瞳を細めた。

「急げ! さらに生贄を投入しろ! 深淵の邪神が目覚めれば、あの小賢しい冒険者どもなど、瞬きする間に塵となるわ!」

 魔王軍の幹部たちは、焦燥感に駆られながら、無謀とも言える封印解除の儀式を強行していた。彼らの心には、かつて人間を蹂躙していた頃の絶対的な余裕はすでになく、未知の『天敵』に対する得体の知れない恐怖が根付いていたのである。

絆紋亭の出陣と、独立同盟の支援

 魔王軍が砂漠で焦燥に駆られている頃。

 辺境の街アシュタルの『絆紋亭』拠点では、東の砂漠へと向かう遠征選抜部隊の出発準備が、慌ただしくも活気に満ちた空気の中で進められていた。

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

 朝陽を浴びて輝く精霊樹の下、俺の最古参の相棒である銀狼のフェル、白兎のピコ、空色小竜のソラが、真新しい装備を身に着けて元気に駆け回っていた。

 彼らが身に纏っているのは、クラン専属の仕立屋リナと、天才錬金術師ノエルが共同開発した『氷糸の冷却マント』である。砂漠の殺人的な熱線を反射し、内側に微弱な氷属性の魔力を循環させることで、常に快適な温度を保つという優れものだ。

「よしよし、よく似合ってるぞ。これで砂漠の暑さも平気だな」

 俺が三匹の頭を撫でると、彼らは嬉しそうに目を細めて尻尾を振った。

 今回の遠征は、過酷な環境と強敵が予想されるため、精鋭を絞った選抜部隊での行動となる。

【東方遠征・選抜部隊】

人間組: レイン(マスター)、アイラ(戦士)、ルウ(魔導士)、シルヴィア(剣聖)、シオン(密偵)

魔物組: フェル(銀狼)、ピコ(白兎)、ソラ(空色小竜)、ノヴァ(漆黒の竜)、ゼット(砂塵の魔蠍)

 特に、砂漠の環境に完全適応している砂塵の魔蠍ゼットと、圧倒的な飛行能力と戦闘力を持つ漆黒の竜ノヴァの存在は、今回の遠征において最大の切り札となるはずだ。

「レイン殿、準備は整ったようだな」

 拠点にやってきたのは、アシュタルの領主であり、新たに『独立同盟』の盟友となったアルベルト辺境伯と、ギルドマスターのバルカンだった。

 彼らの後ろには、数十台もの馬車が連なり、大量の物資が積まれている。

「辺境伯様、マスター。わざわざ見送りに来ていただいたのですか?」

「当然だ。貴方たちは、このアシュタル、いや、世界を救うために死地へと赴くのだからな。……我々『独立同盟』からの最大限の支援物資だ。水、食料、特製のポーション、そして魔力回復の霊薬。遠慮なく使ってくれ」

 辺境伯はそう言うと、俺の手を固く握りしめた。

「レイン、アシュタルの防衛は俺たちギルドと、残ったクランメンバーに任せておけ! マキアやドーラたちが作ってくれた防衛設備があれば、魔王軍の残党が何千来ようがビクともしねえよ!」

 バルカンも豪快に笑いながら親指を立てる。

 拠点に残るフレアやセリア、ノエル、セシル、そしてルカたちも、心配そうな顔をしながらも、力強く見送りの手を振ってくれている。

「みんな、ありがとう。必ず魔王軍の企みを潰して、全員無事で帰ってくる。……よし、出発だ!」

 俺の号令と共に、アイラたちが力強く応え、フェルたちが雄叫びを上げた。

 黒竜ノヴァの広大な背中に俺たち人間組が乗り込み、ゼットが砂を巻き上げて地を這うように進む。

 アシュタルの温かい居場所を守るため、俺たち『絆紋亭』の精鋭部隊は、熱砂の死漠へと向けて出陣した。

熱砂の死漠と、紅蓮の戦い

 アシュタルから東へ飛び続けること二日。

 緑豊かだった景色は次第に姿を消し、眼下には地平線の彼方まで続く赤茶けた砂漠が広がっていた。

(マスター、この先の砂丘の向こうに、微弱ですが戦闘の気配と、嫌な魔力の澱みを感じます)

 上空を並走するように飛んでいた空色小竜のソラが、思念伝達で報告をしてきた。

「戦闘の気配? 魔王軍か?」

(いえ、魔王軍の瘴気と、もう一つ……とても純粋で、しかし怒りに満ちた炎の魔力です)

「ノヴァ、ゼット! 急行してくれ!」

(承知した、我が主よ)

 ノヴァが巨大な翼を羽ばたかせ、一気に砂丘を越える。

 そこに広がっていたのは、砂漠の環境が歪んでしまうほどの激しい戦闘の跡だった。

 砂丘の盆地で、数十匹の巨大な『魔蟲デス・ワーム』の群れが、一匹の魔物を取り囲んで攻撃を仕掛けていた。

 魔蟲たちの体からは、魔王軍特有の赤黒い瘴気が漏れ出している。おそらく、魔王軍の邪神復活の儀式から漏れ出した負の魔力によって、砂漠の原生生物が狂暴化し、変異してしまったのだろう。

 そして、その狂暴化した魔蟲の群れに単騎で立ち向かっていたのは、体長五メートルを超える、紅蓮の鱗に覆われた巨大なトカゲ――『火蜥蜴フレイム・サラマンダー』だった。

「ギャルルルォォォッ!!」

 火蜥蜴は口から灼熱の炎を吐き出し、魔蟲たちを焼き払おうとするが、多勢に無勢。さらに魔蟲の吐き出す猛毒の酸を浴び、その美しい紅蓮の鱗はボロボロに焼け焦げ、体力を激しく消耗していた。

「おい、見ろ! あの火蜥蜴の背中の後ろ!」

 アイラが指差した先。火蜥蜴が必死に庇うように立ち塞がっているその後方には、砂漠の民と思われる民族衣装を着た一人の人間の青年が倒れていた。

「あの火蜥蜴、自分が傷つくのも構わずに、あの人間を守っているのか……!」

 ルウが驚きの声を上げる。

「見過ごせないな。みんな、援護するぞ!」

 俺が剣を抜き放つと、仲間たちは待ってましたとばかりに動き出した。

「オラァァァッ!! アタシの斧でミンチにしてやるよ!」

 アイラがノヴァの背から跳躍し、凄まじい落下の勢いを乗せた戦斧で、火蜥蜴に迫っていた巨大な魔蟲の頭部を一撃で粉砕する。

「燃え尽きなさい!『インフェルノ・バースト』!」

 ルウの杖から放たれた爆炎が、後方に群がっていた魔蟲たちを一網打尽に焼き払う。

「ウォォォンッ!」

「キュイッ!」

 フェルが青白い雷光を纏って砂原を駆け抜け、魔蟲の群れを次々と痺れさせて動きを止める。そこにピコが弾丸のようなスピードで飛び込み、浄化の光を纏ったキックで魔蟲の急所を的確にぶち抜いていった。

「絶技・白銀の飛燕!」

 シルヴィアの神速の斬撃が閃き、シオンが影から音もなく魔蟲の急所を切り裂く。

 そして、砂漠の環境において無類の強さを誇る砂塵の魔蠍ゼットが、砂の中から奇襲をかけ、巨大なハサミで魔蟲を真っ二つに両断した。

 俺たちの圧倒的な武力介入により、数十匹いた変異魔蟲の群れは、ものの数分で完全に殲滅された。

新たな絆と、砂漠の民

「ふぅ……片付いたな」

 俺が剣を鞘に収めると、仲間たちも警戒を解いた。

 しかし、守られていた火蜥蜴は、血だらけの体を震わせながらも、俺たちに対して警戒の唸り声を上げ、倒れている青年の前に立ち塞がった。

「グルルルル……ッ!」

(近づくな……! この人間の命は、俺が守る……!)

 火蜥蜴から伝わってくるのは、圧倒的な敵意ではなく、自己犠牲を伴う強い『庇護』の感情だった。

「大丈夫だ、敵じゃない。俺たちは通りすがりの冒険者だ。君と、その彼を助けに来たんだ」

 俺は両手を広げ、敵意がないことを示しながら、ゆっくりと火蜥蜴へと歩み寄った。そして、右手の甲にある『絆紋』の光を灯した。

 翠色の温かな波紋が、砂漠の熱気を和らげるように広がり、火蜥蜴の巨体を優しく包み込む。

『万物の調和と極限浄化』の力が、火蜥蜴の傷口に付着していた魔蟲の猛毒を瞬時に浄化し、焼け焦げていた紅蓮の鱗を元通りに再生させていく。

「グル……?」

(痛みが……消えた? お前は、何者だ……?)

 火蜥蜴の赤い瞳から警戒が解け、驚きと安堵の色が浮かんだ。

「俺はレイン。お前、本当に優しいヤツだな。自分の身を呈して人間を守るなんて」

 俺が微笑みかけながら火蜥蜴の鼻先を撫でると、火蜥蜴は気持ちよさそうに目を細め、俺の手にすり寄ってきた。

(あたたかい……。お前の光は、砂漠の太陽よりも温かくて、優しい)

 その時、火蜥蜴の後ろで倒れていた青年が、うめき声を上げて目を覚ました。

「う、ううん……ここは……? そうだ、俺は魔蟲の群れに襲われて……ガエン! 無事か!?」

 青年は跳ね起きると、火蜥蜴の無事な姿を見て安堵の涙を流し、その巨体に抱きついた。

「良かった……! お前が俺を庇って大怪我を……あれ、傷が治ってる?」

「彼ならもう大丈夫だ。俺の魔法で治癒しておいたよ」

 俺が声をかけると、青年は驚いて振り返った。

「あ、あなたたちは……?」

「俺はアシュタルの『絆紋亭』というクランのマスターをしている、レインだ。君は?」

「俺はカシム! この砂漠に住む遊牧民『太陽の民』の戦士です」

 カシムと名乗った青年は、深く頭を下げた。

「俺は集落の偵察に出たところを、突然狂暴化した魔蟲の群れに襲われました。その時、この辺りの主である火蜥蜴のガエンが助けに入ってくれて……。レインさん、俺たちを救っていただき、本当にありがとうございます!」

「気にしないでくれ。それより、この火蜥蜴……ガエンとは知り合いなのか?」

「はい。ガエンはこの砂漠の精霊に近い存在で、俺たち太陽の民とは昔から共存関係にありました。でも、数日前から砂漠の中心にある『禁忌の遺跡』から恐ろしい瘴気が漏れ出し始めて……砂漠の魔物たちがおかしくなってしまったんです」

 カシムの言葉に、シオンが険しい表情で頷く。

「おそらく、魔王軍が邪神の封印を解く儀式を強行している余波ですね」

「魔王軍!? 奴らが、あの深淵の邪神を復活させようとしているのか!?」

 カシムが青ざめる。

「俺たちの集落も、このままじゃ瘴気に飲み込まれてしまう……!」

「カシム、君の集落を安全な場所へ避難させることはできるか? 俺たちはこれから、その魔王軍を止めに行く」

 俺が言うと、カシムは驚きつつも、強い決意の目で頷いた。

「はい! 集落の皆を連れて、アシュタルの方向へ避難します。……ガエン」

 カシムが火蜥蜴を振り返る。

「お前は、レインさんたちと一緒に行ってくれ。この砂漠を、俺たちの故郷を救うために!」

「ギャルォォォンッ!!」

 火蜥蜴ガエンは、力強く咆哮を上げ、俺の前に進み出て頭を垂れた。

(俺も連れて行ってくれ、レイン。お前のその温かい光と共に、故郷を汚す者どもを焼き尽くしたい)

「わかった。よろしく頼むぞ、ガエン。君の炎は、最高に心強い」

 俺がガエンの額に手を当てると、再び『絆紋』の光が強く輝き、俺たちの間に新たな、そして強固な家族の絆が結ばれた。

 カシムが避難のために集落へと駆け出していくのを見送り、俺たちは新たな仲間である紅蓮の火蜥蜴ガエンを加え、魔王軍が待ち受ける砂漠の中心、『禁忌の遺跡』へと歩みを進めるのだった。

 【現在のステータス】

名前:レイン

職業:Sランク冒険者(特級クラン『絆紋亭』マスター / 自治区代表)

称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 導きの光 / 豊穣の主 / 浄水の守り手 / 迷いを導く者 / 真理を導く者 / 絆の真髄を知る者 / 竜を解放する者 / 独立同盟の盟友 / 熱砂を歩む者

Lv:72(※砂漠の魔蟲殲滅と新たな絆の結実によりアップ)

HP:740 / 740

MP:540 / 540

【固有スキル】

絆紋きずなもん:対象と心を通わせる。万物を調和させ、極限の浄化と最適化を行う絶対的な力。

【クラン『絆紋亭』東方遠征・選抜部隊】

・レイン(マスター)

・アイラ(女戦士・Sランク)

・ルウ(魔導士・Sランク)

・シルヴィア(剣聖・Sランク)

・シオン(密偵・Sランク)

・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5

・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5

空色小竜ソラ:絆レベル5

・漆黒のノヴァ:絆レベル4(※絆深化)

・砂塵の魔蠍ゼット:絆レベル5

・紅蓮の火蜥蜴ガエン:新規合流 / 絆レベル3

(※その他拠点防衛メンバー多数)

過酷な熱砂の死漠で、魔王軍が待ち受ける禁忌の遺跡。俺たち絆紋亭の絆の光は、深淵の邪神の目覚めを止めることができるのだろうか?

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

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