第53話 灼熱の火口と、焔の不死鳥
第53話 灼熱の火口と、焔の不死鳥
辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる非公式クラン『絆紋亭』の拠点は、今日という日もまた、世界中のどの場所よりも優しく、そして奇跡のような調和に満ちた朝を迎えていた。
庭の中央にそびえ立つ精霊樹は、日を追うごとにその存在感を増し、今や拠点の絶対的な要として太く力強い幹を天へと伸ばしている。その豊かに茂った枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、庭全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。
宝石蜘蛛のルリが編み上げた虹色の天蓋を透過して降り注ぐ朝日は、精霊樹の放つ淡い翠色の光と見事に混ざり合い、視界に入るものすべてをきらきらと輝かせている。魔力農園で育つ野菜たちは、その恩恵を受けて、朝ごとに一回りも二回りも大きく、鮮やかに色づき、はち切れんばかりの生命力を誇示していた。
「きゅるるーっ!」
「ウォンッ!」
「ピィィィッ!」
「ヒンッ♪」
「ルルゥッ♪」
「シャァンッ♪」
「きゅあぁっ♪」
「キュゥッ♪」
「ホゥッ♪」
「キュイィィッ♪」
「キュルルゥッ♪」
「パタパタッ♪」
「プゥゥッ♪」
澄み切った青空を背景に、空色小竜のソラ、雷鳴の怪鳥ライ、黄金の天馬ルミナ、翡翠の風呼びシルフィ、星詠みの白梟ステラ、黄金の女王蜂メルティ、黄昏のグリフォンであるシエル、そして意思を持つ魔道具である銀色の空飛ぶ絨毯シルキーが楽しげに上空を旋回している。ルミナの放つ神聖な黄金の光、ライの纏う青白い雷光、ソラの美しい空色の鱗、シルフィが巻き起こすエメラルドグリーンのそよ風、ステラの星屑を散りばめたような銀色の羽ばたき、メルティの放つ黄金の鱗粉、シエルの夕空のような美しい翼、そしてシルキーの滑らかな銀色の布地が交差し、まるで空に生きた巨大な芸術作品が描かれているかのようだった。
そんな賑やかな空の舞を地上から見上げながら、二匹の魔物が堂々たる足取りで庭を歩いていた。
銀色のウルフである『フェル』と、純白のポーションラビットである『ピコ』だ。
彼らは、俺が王都を追放され、この名もなき辺境の森にたどり着いたその日に、一番最初に俺の『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たちである。
出会った当初は、フェルは群れからはぐれた傷だらけの狼であり、ピコはただの臆病な森の小動物に過ぎなかった。しかし今、フェルの銀色の毛並みは月明かりのように美しく気高い光を放ち、その体躯は一回りも二回りも大きくなり、森の王者のような風格を漂わせている。ピコもまた、その小さな体には信じられないほどの敏捷性と強靭な魔力を宿し、仲間たちを癒やす要として立派に成長を遂げていた。
彼らの後ろを、瑠璃色の幼竜ラピス、紅蓮の精霊狐イグニス、大地の巨熊の幼獣ベル、幻影の小狐ファム、夢紡ぎの獏ネム、そして先日仲間になったばかりの癒しの水妖精ディーネといった幼い魔物や精霊たちが、よちよちと、しかし元気いっぱいに追いかけていた。フェルとピコは時折立ち止まり、幼い魔物たちが転ばないように優しく鼻先で促している。その姿は、この大家族の頼れる兄と姉そのものだった。
縁側の特等席では、クリスタル・ゲッコーのルチルが鉱石の鱗を虹色に輝かせて日向ぼっこをし、精霊獣のミエルは優雅な足取りで精霊樹の周りを散歩している。クリア・スライムのスイと水妖の獺ミロは、庭に引かれた清らかな水路の中でパチャパチャと水を掛け合って遊び、人魚の少女シーナが、新設された『精霊の池』から嬉しそうに美しい歌声を響かせながらその様子を眺めていた。氷雪の幻獣マシロは、心地よい冷気を放ちながらミエルの足元で丸くなり、影猫のクロは元王都特級密偵であるシオンの肩の上からその平和な光景を眺め、月影の白蛇ルナは精霊樹の太い枝にその美しい銀白の体を巻きつけて、穏やかに目を細め、花纏いの黒豹フロリアは木陰で優雅に毛繕いをしている。虹水晶の巨亀ダイヤは、その巨大な甲羅に朝の光を集めながら、のんびりと草を食んでいる。シエルの大切にしている卵は、精霊樹の特等席で安全に温められ、微かな魔力の脈動を放っていた。
「フェル、ピコ。今日もみんなの面倒を見てくれてありがとうな。お前たちがいてくれるから、俺は安心してこの場所を守れるんだ」
俺ことレインは、縁側に腰掛けながら、足元にすり寄ってきた二匹の頭を順番に優しく撫でた。
「ウォンッ♪」
「キュイッ♪」
フェルは嬉しそうに目を細めて俺の手に頬をすり寄せ、ピコは自慢の長い耳をピクピクと動かして俺の膝の上に飛び乗ってきた。
王都の勇者パーティーにいた頃は、毎朝が息の詰まるようなプレッシャーと冷徹な命令の連続だった。自分がどれだけ尽くしても、誰からも感謝されず「無能」と切り捨てられ、すべての居場所を奪われた。睡眠時間すら削って剣を磨き、魔石を浄化し、食事を作り続けた日々は、ただ泥水のように冷たく苦しいだけのものだった。
だが、今の俺には、こんなにも温かく、かけがえのない家族たちがいる。誰もが互いを尊重し、足りない部分を補い合い、笑顔を交わす。彼らは俺を頼りにしてくれ、俺も彼らを心から愛している。この『絆紋亭』こそが、俺にとっての絶対の帰る場所だった。
「さて、みんなのお腹が空く前に、朝飯の準備をするか。今日は魔力農園の野菜がとびきり美味しく育っているはずだからな」
俺がそう呟くと、フェルとピコは力強く鳴き、ラピスやベルたちを連れて水路の方へと遊びに行かせてくれた。
* * *
一階の広々とした厨房へと降りると、そこにはすでに見習い魔導士のエリス、仕立屋のリナ、元王都特級密偵のシオン、元宮廷料理人のセシル、元聖騎士のフレア、天才錬金術師のノエル、流浪の精霊弓士ライラ、猫耳の行商人ミーア、元Sランク冒険者の剣聖シルヴィア、そして昨日新たに仲間となった元宮廷魔導水質管理官のアクアがエプロン姿で立ち、手際よく調理を進めていた。
「あ、レイン様! おはようございますっ!」
「レインさん、おはようございます。今朝も魔力農園のお野菜がキラキラしてますよ。今日はアクアさんが清らかな水を使って、最高に美味しいスープを煮込んでくれているんです!」
「皆さん、おはようございます! 今朝のメニューは、特製の魔力小麦と新鮮なミルクで作った『ふんわり厚焼きパンケーキ』と、アクアさんの浄水で煮込んだ『ゴロゴロ野菜と魔獣肉のポトフ』、そしてメルティちゃんの『黄金の霊蜜』をたっぷりかけたフルーツの盛り合わせですよ!」
「私も、微力ながらお水加減の調整をお手伝いさせていただいております!」
「あ、あのっ、おはようございます……。ティタンの火力調整機能を使って、大鍋の温度を完璧に保っています!」
「ふふっ、人間の料理というのは、見ていてとても興味深いですね。甘い香りとスープの匂いがたまりません」
「レイン様、おはようございますニャ! 今日も朝からごちそうですニャ!」
「剣の修行の前に、この素晴らしい朝食をいただけるのは至福だな」
十人がそれぞれの持ち場から、明るく温かい笑顔で迎えてくれる。ミーアの猫耳がピコピコと嬉しそうに動いている。ノエルの背後では、心優しきゴーレムであるティタンが、その巨大な鉄の体で繊細に魔道コンロの火加減を調整していた。
厨房いっぱいに広がるのは、パンケーキがバターと共に甘く焼き上がる匂いと、大鍋の中で肉と野菜の旨味が極上の水に溶け出す暴力的なまでに食欲をそそる匂いだ。セシルが加わったことで、俺の『料理』スキルや『植物知識』との相乗効果が生まれ、そこに伝説のエリクサーの主原料でもある『黄金の霊蜜』、さらにはアクアが魔法で極限まで不純物を取り除いた『究極の浄水』が加わっている。その料理のクオリティは、もはや神々の食卓に並べても遜色のない次元に達していた。
巨大なスープボウルに盛りつけられたポトフは、澄み切った黄金色のスープの中に、シオンが寸分の狂いもなく均等に切り分けたニンジンやジャガイモ、そしてシルヴィアが芸術的な剣技で一口大に切り分けたホロホロの魔獣肉がたっぷりと沈んでおり、湯気と共に立ち上る深い旨味の香りがたまらない。その横には、まるで雲のように厚く焼き上げられたパンケーキが山積みにされ、黄金の霊蜜が惜しげもなくかけられている。
女戦士のアイラ、少女魔導士のルウ、老薬師のゴット、ドワーフの若き職人ドーラもリビングに集まり、「いただきます」の合図と共に賑やかな朝食が始まった。
「んんっ!? なんだこれ!? このポトフ、水が綺麗だからか野菜と肉の旨味がストレートに爆発してるねぇ! パンケーキも霊蜜の甘さと合わさって、無限に食えちまうよ!」
アイラが豪快に肉を頬張りながら、信じられないというように目を輝かせる。
「本当によ……セシルが来てから毎朝驚かされてるけど、今日のこれも別格ね。スープの透明感が尋常じゃないわ。お肌の調子もまた一瞬で最高になっちゃった」
ルウもうっとりとした表情を浮かべて、スープを口に運ぶ。
「このスープの優しさとパンケーキの柔らかさ……王都の宮廷料理ですら、これには足元にも及びません。涙が出るほど美味しいです……!」
フレアは、美しい顔をほころばせながら、信じられないものを見るような目でパンケーキを噛み締めていた。
「……美味しい。ただただ、美味しい……。呪いの痛みもなく、信頼できる仲間たちと囲む温かい食卓が、こんなにも心を震わせるものだったなんて……」
シルヴィアは、自身の切り分けた肉が入ったスープを食べながら、感動の大粒の涙をポロポロとこぼしていた。
「ほっほっほ、伝説の霊蜜を使ったパンケーキを朝から食うなど、王族が見たら卒倒するじゃろうな。寿命がさらに十年は延びた気分じゃわい」
ゴットも満足そうに髭を撫でて笑う。
テラスでは、魔物たちもそれぞれに用意された特製の朝食を夢中で食べている。ラピスやイグニス、ベル、ファム、ネム、ディーネといった幼い仲間たちには、セシルが特別に消化の良い特製ミルク煮込みに霊蜜を垂らしてくれており、顔を突っ込んで美味しそうに頬張っていた。ソラやライ、ルミナたちも、上質な魔物肉や果実を存分に堪能している。ダイヤはたっぷりの魔力草を幸せそうに咀嚼し、ステラとシエルは専用に用意された極上の肉片を優雅に啄んでいた。シルキーは、俺たちが食事を楽しむ様子を、興味深そうに空中からパタパタと見守っている。
誰もが満ち足りた顔で、笑い合いながら食卓を囲む。この他愛のない日常の風景こそが、俺にとって何よりの宝物だった。
* * *
和やかな朝食を終え、食後のハーブティーを楽しんでいた時のことだ。
日課の情報収集から戻ったミーアが、少し焦った様子でリビングに飛び込んできた。
「レイン様、大変ですニャ! アシュタルの街の冒険者ギルドで、またしても緊急のSOSが発信されていますニャ!」
「SOS? またどこかの水源か森が汚染されたのか?」
俺が尋ねると、ミーアは首を横に振り、息を切らしながら説明を始めた。
「いえ、今回は南にある『紅蓮の活火山』ですニャ! ここ数日、火山の活動が異常に活発になっていて、周囲の気温が急上昇しているらしいのです。その原因を調査しに行ったギルドの精鋭パーティーが、火山の中腹で強力な炎の魔物の大群に包囲されてしまい、帰還不能になっているそうですニャ!」
「紅蓮の活火山……。常にマグマが煮え滾る過酷な環境ですね。炎の魔物が大群で押し寄せてくれば、いくら精鋭でも全滅は免れません」
シオンが密偵としての冷静な顔つきになる。
「ほっほっほ、火山の異常な活性化となると、ただの自然現象ではないじゃろう。強力な火属性の魔物が誕生したか、あるいは火山そのものの魔力脈が暴走しておる可能性が高い」
ゴットが険しい表情で髭を撫でる。
「火山の噴火なんて起きたら、アシュタルの街にも火山灰や溶岩の被害が及ぶかもしれないわね。放っておけないわ」
ルウが杖を握りしめる。
「冒険者の仲間がピンチなら、見過ごすわけにはいかないね! よっしゃ、その炎の化け物ども、アタシの斧でカチ割ってやるよ!」
アイラが戦斧を背負い直して立ち上がる。
「私も行きます。罪なき人々を守るため、私の聖剣で活路を開きます!」
フレアが聖剣の柄に手を添える。
「灼熱の環境か。私の錬金術で、耐熱コートと冷却ポーションを急いで調合します!」
ノエルが丸い眼鏡を光らせて工房へと走る。
「炎の魔物相手なら、私の水魔法でサポートできます! ディーネと一緒に頑張ります!」
アクアも決意に満ちた表情で立ち上がった。
「俺も行こう。火炎など、我が剣気で切り裂いてみせる」
シルヴィアが大剣を背負って頷いた。
「よし、決まりだ。今回の探索パーティーは俺、アイラ、ルウ、フレア、シオン、シルヴィア、そしてアクアだ。魔物は、炎に耐性のあるイグニス、冷却と水による支援ができるマシロとシーナ、そして空からの索敵と移動のためにシルキーとソラを連れて行く。フェルとピコも、もちろん頼むぞ。エリス、ゴットさん、ドーラ、ノエル、セシル、ライラ、ミーアたちは、拠点の防衛と留守番をお願いできるか?」
「はいっ! ティタンと一緒に、拠点の外周防衛システムを完璧にしておきます!」
エリスが元気よく頷き、ミーアも「お留守番しながら、火傷用の軟膏をたくさん用意しておきますニャ!」と猫耳を揺らした。
ノエルが急いで調合してくれた耐熱コートを羽織り、俺たちはアシュタルの南に位置する『紅蓮の活火山』へと急ぎ出発した。
* * *
アシュタルの街から馬車とフェルの背、そしてシルキーの飛翔を駆使して約二時間。
視界が開けると、黒々とした岩肌から赤々とした溶岩が流れ出し、噴煙を上げる巨大な山——『紅蓮の活火山』がその威容を現した。周囲の空気は揺らぐほどに熱く、呼吸をするだけで喉が焼けつくようだ。
「うわぁ……信じられないくらい暑いわ。ノエルちゃんの耐熱コートがなかったら、干からびちゃいそう」
ルウが汗を拭いながら顔をしかめる。
「マシロ、周囲に冷却の結界を頼む。アクアとディーネも、水魔法で気温を下げてくれ」
「キュゥ♪」
「はいっ! ディーネ、お願い!」
マシロの冷気と、アクアとディーネが展開する清らかな水の結界が、俺たちの周囲の熱を中和し、快適な空間を作り出してくれた。
「シオン、空からの索敵はシルキーとソラに任せて、地上の警戒を。フェルとピコは、冒険者たちの匂いを追ってくれ」
「了解です。クロ、影の探知を」
「にゃっ!」
「ウォンッ!」
「キュイッ!」
俺たちはフェルとピコの案内で、溶岩が川のように流れる危険な山道を慎重に進んでいく。
やがて、火山の中腹にある広大なカルデラ跡へと辿り着いた。
そこで俺たちが目にしたのは、絶望的な光景だった。
「くそっ……! 数が多すぎる! 魔法使い、魔力はまだ持つか!?」
「もう限界です! ポーションも底を尽きました……!」
数人の冒険者たちが、岩場を背にして円陣を組み、必死に剣や魔法を振るっている。
彼らを取り囲んでいるのは、全身が燃え盛る岩でできた無数の魔物——『フレイム・ゴーレム』や『ヘル・ハウンド』の大群だ。
だが、俺の目を最も惹きつけたのは、冒険者たちの陣形の中心で、竪琴をかき鳴らしながら必死に防壁魔法と支援魔法を展開し続けている一人の女性の姿だった。
色鮮やかな踊り子のような薄布を纏い、長く波打つ紫色の髪を揺らす、流浪の吟遊詩人だ。彼女の奏でる音色が、冒険者たちの士気をギリギリで保ち、炎のダメージを軽減している。
そして、その吟遊詩人の胸の中には、まだ小さな、燃えるような赤い羽毛を持つ鳥の雛が抱きかかえられていた。
それは、伝説の幻獣——『焔の不死鳥』の雛だった。
「あれは……流浪の吟遊詩人、カノンではありませんか!? 彼女の支援魔法で、なんとか持ち堪えているようです!」
シオンが驚きの声を上げた。
「不死鳥の雛……。おそらく、火山の異常な活性化は、あの雛が生まれ、強大な魔力を無意識に放っているからだ。そして、炎の魔物たちは、あの雛の純粋な魔力を喰らうために集まってきたんだな」
俺が状況を即座に把握する。
「ギャァァァッ!!」
巨大なフレイム・ゴーレムが、冒険者たちの陣形を力任せに突破し、吟遊詩人カノンと不死鳥の雛に向かって燃え盛る拳を振り下ろそうとした。
「きゃぁぁっ!?」
カノンが雛を庇うように背を向ける。
「させない!!」
俺が叫ぶより早く、俺の最古参の相棒たちが動いていた。
「ウォォォンッ!!」
「キュイッ!!」
銀色の閃光と、純白の弾丸が、灼熱の空気を引き裂いて駆け抜けた。
フェルは目にも留まらぬ速度でゴーレムの側面に回り込み、その全身から青白い雷光を立ち昇らせた。
『白銀の迅雷』!
雷を纏ったフェルの強烈な突進が、ゴーレムの溶岩の装甲を粉砕し、その巨体を大きく吹き飛ばす。
そして、フェルが作った隙を見逃さず、ピコが驚異的な跳躍力で空高く舞い上がった。ピコの体から、俺の『野戦調薬』の魔力を受け継いだ浄化と破壊の光が溢れ出す。
『浄化の月面蹴り(ホーリー・ムーン・キック)』!
空中で体を捻り、光を纏った強烈な両足蹴りが、別のゴーレムの頭部にクリーンヒットする。ドゴォォォンッ!という轟音と共に、炎の魔物の頭部が粉々に砕け散った。
「な、なんだ……!? 狼と、兎……?」
カノンと冒険者たちが、驚愕に目を見開いて尻餅をつく。
「レインの相棒たちにばかり、いい格好はさせないよ! オラァッ!!」
アイラが戦斧に闘気を纏わせ、跳躍してヘル・ハウンドの群れをなぎ払う。
「聖なる光よ、邪悪を退けよ!『ホーリー・スラッシュ』!」
フレアの聖剣が眩い光を放ち、炎の魔物たちを浄化の光で両断する。
「水よ、灼熱を鎮めなさい!『アクア・バースト』!」
アクアの放った強力な水流が、ゴーレムたちの炎を瞬時に冷却し、動きを鈍らせる。
「絶技・白銀の飛燕!!」
シルヴィアの放った神速の斬撃が、鈍ったゴーレムたちを次々と一刀両断にしていく。
「シオン、ルウ! とどめだ!」
「了解です! クロ、影縛り!」
「にゃぁっ!」
シオンが跳躍し、魔物たちの死角から短剣を突き立てる。クロが『シャドウ・バインド』で動きを完全に封じ込めた。
「私の魔法で凍りつきなさい!『ブリザード・ランス』!」
ルウの放った無数の氷の槍が、残った炎の魔物たちの魔力核を正確に貫いた。
「グォォォォォッ……!!」
断末魔の悲鳴を上げ、炎の魔物たちは次々と崩れ落ち、ただの黒い岩塊となって沈黙した。
圧倒的な連携の前に、ギルドの精鋭たちを全滅寸前まで追い詰めた大群は、ものの数分で討伐された。
* * *
「ふぅ……手強かったけど、これで冒険者たちも無事だな」
俺が武器を収めると、仲間たちも安堵の息を吐いた。
俺はすぐさま、岩場に倒れ込んでいる吟遊詩人カノンと、不死鳥の雛の元へと駆け寄った。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
「あ、あなたたちは……? どうして、こんな危険な火山に、これほどの強者たちが……」
カノンは、信じられないものを見るような目で俺たちを見上げていた。
「俺はレイン。絆紋亭のマスターだ。ギルドからのSOSを聞いて助けに来たんだ」
俺が手を差し伸べると、カノンは震える手でそれを取り、立ち上がった。
「ありがとうございます……。私は流浪の吟遊詩人、カノンと申します。この子を……魔物の群れから守ろうとして、逃げ遅れてしまって……」
カノンの腕の中で、不死鳥の雛が弱々しく鳴いた。
「ピィィ……」
雛の体からは過剰な魔力が漏れ出し、それが自身を苦しめているようだった。まだ幼すぎるため、膨大な炎の魔力を制御しきれていないのだ。
「……無理もない。不死鳥の魔力は強大すぎる。このままでは、自身の炎で燃え尽きてしまう」
俺は両手を広げ、右手の甲にある翠色の痣――『絆紋』の光を限界まで解放した。
翠色の温かな波紋が、灼熱の空気を押し退けるように広がり、カノンと不死鳥の雛の体を優しく包み込む。
俺はノエルの作ってくれた特製の冷却ポーションを取り出し、絆紋の光と共に雛の体に優しく注ぎ込んだ。
すると、暴走していた炎の魔力がみるみるうちに落ち着き、雛の呼吸が穏やかになっていった。
「すごい……一瞬で、不死鳥の魔力暴走を鎮めてしまうなんて……。それに、この温かい光……」
カノンが感嘆の声を漏らす。
「ピィッ♪」
苦しみが消えた不死鳥の雛は、元気を取り戻してカノンの腕から飛び立ち、俺の肩にふわりと乗って甘えるように頬をすり寄せてきた。
(あたたかい……。あなた、優しい匂いがするの。助けてくれて、ありがとう!)
「カノン、君は自分の命を懸けて、この小さな命を守ろうとしたんだな。立派だったよ」
俺が微笑みかけると、カノンの目から大粒の涙が零れ落ちた。
「私……世界中を旅して詩を歌ってきましたが、こんなにも純粋で、温かい心に触れたのは初めてです……」
「帰る場所がないなら、うちのクランに来ないか? うちの庭には、どんな魔物でも受け入れる精霊樹がある。君のその素晴らしい歌声と竪琴の音色を、うちの家族たちにも聞かせてくれないか?」
俺が手を差し出すと、アイラやルウ、フレアたちも温かく頷き、フェルやピコが優しく鳴き声を上げて歓迎の意を示した。
カノンは、涙を拭い、俺の差し出した手と、温かい仲間たちの姿を見て、満面の笑みを浮かべた。
「……はいっ! 私、レイン様と皆様の冒険譚を、世界で一番美しい詩にして歌い継ぎます!」
こうして、流浪の吟遊詩人カノンと、焔の不死鳥の雛が、絆紋亭の新しい家族として加わることになった。不死鳥の雛の名前は、その美しい炎の羽毛から『フィア』と名付けた。
助け出された冒険者たちは、俺たちに何度も頭を下げて感謝し、共にアシュタルの街へと帰還の途についた。
* * *
その日の夕暮れ。
新しい家族であるカノンとフィアを連れて、俺たちはアシュタルの拠点へと帰還した。
拠点では、エリス、ゴット、ドーラ、ノエル、セシル、ミーアたち、そして幼い魔物たちが温かく出迎えてくれ、新しい仲間の加入と、冒険者たちの無事な救出に拠点中が歓喜の声を上げた。カノンは精霊樹の美しさと、多様な魔物たちが共存する光景を見て、「まるで神話の世界に迷い込んだようです!」と感動の涙を流していた。
そして夜。
庭の虹色の天蓋の下、精霊樹の優しい光に照らされながら、カノンとフィアの歓迎会が開かれた。
セシルは、今日も腕を振るい、極上の料理を作り上げた。魔力農園の野菜をたっぷり使った色鮮やかなバーベキュー串、最高品質の肉の特大ステーキ、そしてマシロの氷室で冷やした、黄金の霊蜜をたっぷり使った絶品のフルーツソルベ。
「カノン! フィア! うちのクランへようこそ! これからは、アタシたちが背中を預け合う最高の仲間だ!」
アイラが木製ジョッキを高々と掲げる。
「は、はいっ! ありがとうございます! こんなに温かくて美味しい食卓、夢のようです……!」
カノンは、初めて味わう極上の料理に目を輝かせながら、夢中で頬張っていた。フィアも嬉しそうに上空を飛び回り、イグニスと共に小さな炎の花火を打ち上げて遊んでいる。
「……信じられないほど、穏やかで美しい時間だ。毎日が新しい発見と喜びに満ちているな」
シルヴィアが、ワイングラスを傾けながら、心からの笑顔を見せた。
「えへへ、私もこのクランに来てから、毎日が幸せでいっぱいですニャ!」
ミーアが猫耳をピンと立てて、幸せそうにデザートを堪能している。
テラスでは、フェルやピコ、ソラ、ライ、ルミナたち魔物組が、新しい仲間であるフィアを囲んで歓迎し、ラピスやベル、ファム、ネム、ディーネといった幼い仲間たちが、フィアの温かい羽毛にすり寄っていた。メルティは空中から黄金の鱗粉を振りまいて宴を彩り、シエルは精霊樹の枝から穏やかにその様子を見守り、シルキーは気持ちよさそうに空中を漂っている。シーナとミロが精霊の池から美しいハーモニーを響かせ、ライラとカノンの二つの竪琴が、かつてないほど美しく、そして壮大な音楽を奏でていた。
賑やかで、優しくて、誰もが誰かを必要とし、誰もが誰かに感謝している場所。
王都で「足手まとい」と呼ばれ、すべてを失った俺の周りには、今、これほどまでに頼もしく、温かい家族たちがいる。
急ぐ必要なんてない。俺たちの絆は、どんな灼熱の炎にも負けず、この辺境の地で永遠に温かく輝き続けていくのだから。
星降る夜の下、笑い声と美しい音楽が、いつまでも絶えることなく響き渡っていた。
【現在のステータス】
名前:レイン
職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)
称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 森の守護者 / 大地の開拓者 / 導きの光 / 豊穣の主 / 呪い打ち砕く者 / 悪夢を晴らす者 / 浄水の守り手 / 炎を鎮める者
Lv:53(※炎の魔物の大群討伐と不死鳥の救出によりアップ)
HP:550 / 550
MP:350 / 350
【スキル】
・生活魔法 Lv.10(極まる)
・剣術 Lv.4
・解体 Lv.8
・野営技術 Lv.10(極まる)
・野戦調薬 Lv.10(極まる)
・植物知識 Lv.10(極まる)
・建築・修繕 Lv.10(極まる)
・鑑定 Lv.9
・気配察知 Lv.10(極まる)
・魔導知識 Lv.10(極まる)
・料理 Lv.10(極まる)
【固有スキル】
・絆紋:対象の魔物(および心を持つ存在)と心を通わせ、警戒心を解き放つ。集った魔物たちと精霊樹の魔力を調和させ、巨大な隠蔽と浄化の絶対結界を形成している。
【クラン『絆紋亭』メンバー】
・空色小竜:絆レベル5
・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5
・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5
・クリスタル・ゲッコー(ルチル):絆レベル5
・スピリット・フォーン(ミエル):絆レベル5
・クリア・スライム(スイ):絆レベル5
・宝石蜘蛛:絆レベル5
・雷鳴の怪鳥:絆レベル5
・シャドウ・キャット(クロ):絆レベル5
・水妖の獺:絆レベル5
・氷雪の幻獣:絆レベル5
・黄金の天馬:絆レベル5
・花纏いの黒豹:絆レベル5
・月影の白蛇:絆レベル5
・人魚の少女:絆レベル5
・瑠璃色の幼竜:絆レベル5
・紅蓮の精霊狐:絆レベル5
・翡翠の風呼び(シルフィ):絆レベル5
・大地の巨熊の幼獣:絆レベル5
・心優しきゴーレム(ティタン):絆レベル5
・虹水晶の巨亀:絆レベル5
・星詠みの白梟:絆レベル5
・幻影の小狐:絆レベル5
・黄金の女王蜂:絆レベル5
・黄昏のグリフォン(シエル):絆レベル5
・銀色の空飛ぶ絨毯:絆レベル5
・夢紡ぎの獏:絆レベル5(※絆深化)
・癒しの水妖精:絆レベル4(※絆深化)
・焔の不死鳥の雛:新規合流 / 絆レベル3
・ウールシープの群れおよび森の小動物たち
・アイラ(女戦士・正式なクラン協力者)
・ルウ(魔導士・正式なクラン協力者)
・ゴット(薬師・正式なクラン協力者)
・エリス(見習い魔導士・クランメンバー)
・ドーラ(ドワーフの若き職人・クラン専属建築士兼鍛冶師)
・リナ(服飾職人・クラン専属仕立屋)
・シオン(元王都特級密偵・クラン専属防衛担当)
・セシル(元宮廷料理人・クラン専属料理人)
・フレア(元聖騎士・クラン専属護衛担当)
・ノエル(天才錬金術師・クラン専属錬金術師)
・ライラ(流浪の精霊弓士・クラン専属狩人)
・ミーア(猫耳の行商人・クラン専属商人)
・シルヴィア(元Sランク冒険者の剣聖・クラン専属剣術指南役)
・アクア(元宮廷魔導水質管理官・クラン専属水場管理係)
・カノン(流浪の吟遊詩人・クラン専属音楽家として新規加入)
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~
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