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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第50話 魔女の試練と、銀色の飛翔

第50話 魔女の試練と、銀色の飛翔

 辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる非公式クラン『絆紋亭』の拠点は、今日という日もまた、世界中のどの場所よりも優しく、そして奇跡のような調和に満ちた朝を迎えていた。

 庭の中央にそびえ立つ精霊樹は、日を追うごとにその存在感を増し、今や拠点の絶対的な要として太く力強い幹を天へと伸ばしている。その豊かに茂った枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、庭全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。

 宝石蜘蛛のルリが編み上げた虹色の天蓋を透過して降り注ぐ朝日は、精霊樹の放つ淡い翠色の光と見事に混ざり合い、視界に入るものすべてをきらきらと輝かせている。魔力農園で育つ野菜たちは、その恩恵を受けて、朝ごとに一回りも二回りも大きく、鮮やかに色づき、はち切れんばかりの生命力を誇示していた。

「きゅるるーっ!」

「ウォンッ!」

「ピィィィッ!」

「ヒンッ♪」

「ルルゥッ♪」

「シャァンッ♪」

「きゅあぁっ♪」

「キュゥッ♪」

「ホゥッ♪」

「キュイィィッ♪」

「キュルルゥッ♪」

「パタパタッ♪」

 澄み切った青空を背景に、空色小竜のソラ、雷鳴の怪鳥ライ、黄金の天馬ルミナ、翡翠の風呼びシルフィ、星詠みの白梟ステラ、黄金の女王蜂メルティ、黄昏のグリフォンであるシエル、そして昨日新たに家族となったばかりの意思を持つ魔道具、銀色の空飛ぶ絨毯シルキーが楽しげに上空を旋回している。ルミナの放つ神聖な黄金の光、ライの纏う青白い雷光、ソラの美しい空色の鱗、シルフィが巻き起こすエメラルドグリーンのそよ風、ステラの星屑を散りばめたような銀色の羽ばたき、メルティの放つ黄金の鱗粉、シエルの夕空のような美しい翼、そしてシルキーの滑らかな銀色の布地が交差し、まるで空に生きた巨大な芸術作品が描かれているかのようだった。

 そんな賑やかな空の舞を地上から見上げながら、二匹の魔物が堂々たる足取りで庭を歩いていた。

 銀色のウルフである『フェル』と、純白のポーションラビットである『ピコ』だ。

 彼らは、俺が王都を追放され、この名もなき辺境の森にたどり着いたその日に、一番最初に俺の『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たちである。

 出会った当初は、フェルは群れからはぐれた傷だらけの狼であり、ピコはただの臆病な森の小動物に過ぎなかった。しかし今、フェルの銀色の毛並みは月明かりのように美しく気高い光を放ち、その体躯は一回りも二回りも大きくなり、森の王者のような風格を漂わせている。ピコもまた、その小さな体には信じられないほどの敏捷性と強靭な魔力を宿し、仲間たちを癒やす要として立派に成長を遂げていた。

 彼らの後ろを、瑠璃色の幼竜ラピス、紅蓮の精霊狐イグニス、大地の巨熊の幼獣ベル、幻影の小狐ファムといった幼い魔物たちが、よちよちと、しかし元気いっぱいに追いかけていた。フェルとピコは時折立ち止まり、幼い魔物たちが転ばないように優しく鼻先で促している。その姿は、この大家族の頼れる兄と姉そのものだった。

 縁側の特等席では、クリスタル・ゲッコーのルチルが鉱石の鱗を虹色に輝かせて日向ぼっこをし、精霊獣のミエルは優雅な足取りで精霊樹の周りを散歩している。クリア・スライムのスイと水妖の獺ミロは、庭に引かれた清らかな水路の中でパチャパチャと水を掛け合って遊び、人魚の少女シーナが、新設された『精霊の池』から嬉しそうに美しい歌声を響かせながらその様子を眺めていた。氷雪の幻獣マシロは、心地よい冷気を放ちながらミエルの足元で丸くなり、影猫のクロは元王都特級密偵であるシオンの肩の上からその平和な光景を眺め、月影の白蛇ルナは精霊樹の太い枝にその美しい銀白の体を巻きつけて、穏やかに目を細めていた。虹水晶の巨亀ダイヤは、その巨大な甲羅に朝の光を集めながら、のんびりと草を食んでいる。シエルの大切にしている卵は、精霊樹の特等席で安全に温められている。

「フェル、ピコ。今日もみんなの面倒を見てくれてありがとうな。お前たちがいてくれるから、俺は安心してこの場所を守れるんだ」

 俺ことレインは、縁側に腰掛けながら、足元にすり寄ってきた二匹の頭を順番に優しく撫でた。

「ウォンッ♪」

「キュイッ♪」

 フェルは嬉しそうに目を細めて俺の手に頬をすり寄せ、ピコは自慢の長い耳をピクピクと動かして俺の膝の上に飛び乗ってきた。

 王都の勇者パーティーにいた頃は、毎朝が息の詰まるようなプレッシャーと冷徹な命令の連続だった。自分がどれだけ尽くしても、誰からも感謝されず「無能」と切り捨てられ、すべての居場所を奪われた。睡眠時間すら削って剣を磨き、魔石を浄化し、食事を作り続けた日々は、ただ泥水のように冷たく苦しいだけのものだった。

 だが、今の俺には、こんなにも温かく、かけがえのない家族たちがいる。誰もが互いを尊重し、足りない部分を補い合い、笑顔を交わす。彼らは俺を頼りにしてくれ、俺も彼らを心から愛している。この『絆紋亭』こそが、俺にとっての絶対の帰る場所だった。

「さて、みんなのお腹が空く前に、朝飯の準備をするか。今日は魔力農園の野菜がとびきり美味しく育っているはずだからな」

 俺がそう呟くと、フェルとピコは力強く鳴き、ラピスやベルたちを連れて水路の方へと遊びに行かせてくれた。

   * * *

 一階の広々とした厨房へと降りると、そこにはすでに見習い魔導士のエリス、仕立屋のリナ、元王都特級密偵のシオン、元宮廷料理人のセシル、元聖騎士のフレア、天才錬金術師のノエル、流浪の精霊弓士ライラ、猫耳の行商人ミーア、そして元Sランク冒険者の剣聖シルヴィアがエプロン姿で立ち、手際よく調理を進めていた。

「あ、レイン様! おはようございますっ!」

「レインさん、おはようございます。今朝も魔力農園のお野菜がキラキラしてますよ。今日はリナさんが作ってくれた新しいエプロンで、みんな気合い入りまくりです!」

「皆さん、おはようございます! 今朝のメニューは、特製の魔力小麦で作った『とろとろ半熟卵とチーズのガレット』と、メルティちゃんの『黄金の霊蜜』を隠し味に使った自家製ソーセージ、そして新鮮なフルーツたっぷりのヨーグルトですよ!」

「私も、微力ながらお皿を並べるのをお手伝いさせていただいております!」

「あ、あのっ、おはようございます……。ティタンの火力調整機能を使って、フライパンの温度を完璧に保っています!」

「ふふっ、人間の料理というのは、見ていてとても興味深いですね。香ばしい匂いがたまりません」

「レイン様、おはようございますニャ! 今日も朝からごちそうですニャ!」

「剣の修行の前に、この素晴らしい朝食をいただけるのは至福だな」

 九人がそれぞれの持ち場から、明るく温かい笑顔で迎えてくれる。ミーアの猫耳がピコピコと嬉しそうに動いている。ノエルの背後では、心優しきゴーレムであるティタンが、その巨大な鉄の体で繊細に魔道コンロの火加減を調整していた。

 厨房いっぱいに広がるのは、ガレットの生地が香ばしく焼き上がる匂いと、霊蜜のコクが加わったソーセージから溢れる肉汁の暴力的なまでに食欲をそそる匂いだ。セシルが加わったことで、俺の『料理』スキルや『植物知識』との相乗効果が生まれ、そこに伝説のエリクサーの主原料でもある『黄金の霊蜜』が調味料として加わっている。その料理のクオリティは、もはや神々の食卓に並べても遜色のない次元に達していた。

 巨大な皿に盛りつけられたガレットは、香ばしく焼き上がった薄い生地の中央に、とろりとした半熟卵と濃厚なチーズが包み込まれ、ナイフを入れると黄身が滝のように溢れ出す。その横には、黄金の霊蜜の甘みとスパイスが完璧に調和したジューシーな自家製ソーセージと、シオンが寸分の狂いもなく均等に切り分けた色鮮やかな魔力野菜のサラダがたっぷりと添えられている。

 女戦士のアイラ、少女魔導士のルウ、老薬師のゴット、ドワーフの若き職人ドーラもリビングに集まり、「いただきます」の合図と共に賑やかな朝食が始まった。

「んんっ!? なんだこれ!? ガレットの生地がパリパリで、中の卵とチーズのコクが爆発するねぇ! このソーセージ、霊蜜の甘みが肉の旨味を引き立ててて、これなら無限に食えちまうよ!」

 アイラが豪快にガレットを頬張りながら、信じられないというように目を輝かせる。

「本当によ……セシルが来てから毎朝驚かされてるけど、今日のこれも別格ね。ソーセージの肉汁と霊蜜の相性が最高だわ。お肌の調子もまた一瞬で最高になっちゃった」

 ルウもうっとりとした表情を浮かべて、ソーセージを口に運ぶ。

「このお肉の旨味と霊蜜のコク……王都の宮廷料理ですら、これには足元にも及びません。涙が出るほど美味しいです……!」

 フレアは、美しい顔をほころばせながら、信じられないものを見るような目で肉を噛み締めていた。

「……美味しい。ただただ、美味しい……。呪いの痛みもなく、信頼できる仲間たちと囲む温かい食卓が、こんなにも心を震わせるものだったなんて……」

 シルヴィアは、自身の切り分けた野菜が入ったサラダを食べながら、感動の大粒の涙をポロポロとこぼしていた。

「ほっほっほ、伝説の霊蜜を使ったソーセージを朝から食うなど、王族が見たら卒倒するじゃろうな。寿命がさらに十年は延びた気分じゃわい」

 ゴットも満足そうに髭を撫でて笑う。

 テラスでは、魔物たちもそれぞれに用意された特製の朝食を夢中で食べている。ラピスやイグニス、ベル、ファムといった幼い魔物たちには、セシルが特別に消化の良い特製ミルク煮込みに霊蜜を垂らしてくれており、顔を突っ込んで美味しそうに頬張っていた。ソラやライ、ルミナたちも、上質な魔物肉や果実を存分に堪能している。ダイヤはたっぷりの魔力草を幸せそうに咀嚼し、ステラとシエルは専用に用意された極上の肉片を優雅に啄んでいた。シルキーは、俺たちが食事を楽しむ様子を、興味深そうに空中からパタパタと見守っている。

 誰もが満ち足りた顔で、笑い合いながら食卓を囲む。この他愛のない日常の風景こそが、俺にとって何よりの宝物だった。

   * * *

 和やかな朝食を終え、食後のティータイムを楽しんでいた時のことだ。

 ノエルとドーラが、昨晩持ち帰った魔導書を山積みにしたまま、ひどく興奮した様子でリビングに飛び込んできた。

「レインさん! 解読できました! 『銀糸の魔女』が遺した文献の一部が、ついに解読できたんです!」

「なんだって!? 何かすごいことが書いてあったのかい?」

 アイラが身を乗り出す。

「はい! この『銀色の空飛ぶ絨毯』……シルキーちゃんですが、どうやら未完成だったようなんです!」

「未完成? ちゃんと飛べてるし、意思まで持ってるのに?」

 俺が首を傾げると、ドーラが大きく頷いた。

「ああ。シルキーは今、搭乗者の魔力を推進力にして飛んでるだろ? でも、魔女の構想では、シルキー自身が周囲の魔力を吸収して無限に飛び続ける『永久機関』を搭載するはずだったんだ。そのための『核』となる素材が足りなくて、完成を見ずに眠りについていたらしい」

「無限に飛び続ける永久機関……! それが完成すれば、本当に世界の果てまでだって飛んでいけるわね!」

 ルウが目を輝かせる。

「それで、その足りない素材っていうのは何なんだ?」

 俺の問いに、ノエルがゴクリと息を飲み、一枚の羊皮紙を指差した。

「アシュタルの西にそびえる『嵐の霊峰』。その頂上付近に生息する、伝説の魔鳥『サンダーバード』の尾羽です……! しかも、ただの尾羽ではなく、雷を纏って抜け落ちたばかりの、最も魔力の純度が高い『雷鳴の尾羽』が必要だと記されています!」

「サンダーバードか……。Aランク上位の、嵐を司る凶悪な魔物だな。しかもその尾羽となると、生半可な覚悟じゃ手に入らないぞ」

 シオンが密偵としての冷静な知識を引き出す。

「嵐の霊峰……あそこは常に落雷が降り注ぐ危険地帯だ。空を飛ぶ魔物にとっても、非常に近寄りがたい場所だぞ」

 シルヴィアが腕を組み、険しい表情を浮かべる。

(パタパタ……シュン……)

 その話を聞いていたシルキーが、申し訳なさそうに端を垂れ下げ、俺の足元にすり寄ってきた。

(ごめんなさい……私、未完成だから……みんなに迷惑かけちゃう……?)

 俺の脳内に、シルキーの不安と悲しみの感情が流れ込んでくる。

「何を言ってるんだ。未完成だろうがなんだろうが、お前はもう俺たちの家族だ。迷惑なんて一つもかけてないさ」

 俺が優しくシルキーの布地を撫でると、シルキーは少しだけ嬉しそうに形を変えた。

「でも、お前が本当の力を取り戻したいなら、俺たちは全力で手伝うぞ。どうだ、一緒に行くか?」

(……! 行きたい! 私、もっと高く、もっと速く飛びたい!)

 シルキーがパタパタと端を動かし、強い意志を伝えてきた。

「よし、決まりだ。今回の探索パーティーは俺、アイラ、ルウ、フレア、シルヴィア、ライラ、そしてシルキーだ。魔物は、雷に耐性のあるライと、空中の索敵に長けたソラ、そしてフェルとピコを連れて行く。シオン、エリス、ゴットさん、ドーラ、ノエル、セシル、ミーアたちは、拠点の防衛と留守番をお願いできるか?」

「はいっ! ティタンと一緒に、拠点の外周防衛システムを完璧にしておきます!」

 エリスが元気よく頷き、ミーアも「お留守番しながら、お宝を入れる袋をたくさん用意しておきますニャ!」と猫耳を揺らした。

 こうして、シルキーの真の力を解放するため、俺たちはアシュタルの西にそびえる『嵐の霊峰』へと出発した。

   * * *

 アシュタルの街から馬車とフェルの背を借りて駆け抜け、半日ほど。

 視界が開けると、頂上付近が分厚い雷雲に覆われ、絶え間なく稲妻が降り注ぐ険しい山——『嵐の霊峰』がその威容を現した。

 山肌は落雷によって黒く焦げ、空気は常に帯電してビリビリと肌を刺すようだ。

「うわぁ……すごい雷ね。普通に立ってるだけでも感電しそう」

 ルウが杖を構えながら、身震いする。

「ライラ、空中の警戒を頼む。フェルとピコは、落雷の落ちにくい安全なルートを探ってくれ。ソラ、ライ、落雷の軌道を逸らしてくれ!」

「了解しました!」

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

「ピィィィッ!」

 俺の指示で、ソラとライが空高く舞い上がり、強力な風の刃と雷の障壁を展開して、俺たちに降り注ぐ落雷を次々と逸らしていく。フェルとピコは、地面の帯電状況を敏感に察知し、安全な足場を正確に案内してくれた。

 俺たちは、シルキーの導きと仲間たちの完璧な連携により、落雷の雨を掻き潜りながら霊峰の頂上へと近づいていった。

 やがて、頂上付近の開けた岩場に辿り着いた時だった。

「ピィィィィッ!!」

 上空で警戒していたライが、鋭い警告の鳴き声を上げた。

 見上げると、雷雲の中から、巨大な青白い鳥の影が姿を現した。

 体長は五メートルを超える。全身がバチバチと放電する青白い羽毛に覆われ、鋭い嘴と爪を持つ伝説の魔鳥——『サンダーバード』だ。

「ギャァァァァッ!!」

 サンダーバードは、縄張りに侵入した俺たちに対して激怒の咆哮を上げ、巨大な翼を羽ばたかせて無数の稲妻を降らせてきた。

「させません!『ホーリー・シールド』!」

 フレアが聖剣を掲げて神聖な光の盾を展開し、降り注ぐ稲妻を弾き返す。

「チッ、空から一方的に攻撃してきやがる! アタシの斧が届かないじゃないか!」

 アイラが悔しそうに舌打ちをする。

「私が撃ち落とします!『精霊の連なり矢』!」

 ライラの白銀の弓から放たれた光の矢がサンダーバードを狙うが、サンダーバードは雷のような速度で回避し、さらに強力な雷撃を放ってくる。

「私の炎も、あの雷雲の中じゃ威力が半減しちゃうわ!」

 ルウも焦りの表情を浮かべる。

(……私に任せて!)

 その時、シルキーが俺の前にふわりと浮かび上がり、強い意志を伝えてきた。

「シルキー? でもお前、まだ完全じゃないだろう!?」

(大丈夫! みんなの魔力があれば、私、どこまでだって飛べる!)

 シルキーは俺たちの足元に滑り込み、大きく布地を広げた。

「みんな、シルキーに乗れ! 空中戦を挑むぞ!」

 俺の言葉に、アイラ、ルウ、フレア、シルヴィア、ライラが躊躇なくシルキーに飛び乗る。

「よし、行くぞ!」

 俺が『絆紋』を通じて俺自身の魔力、そしてフェルやピコたち魔物の魔力をシルキーに注ぎ込む。

 すると、シルキーは銀色の光を激しく放ち、まるで一本の光の矢のように、凄まじい速度で雷雲の中へと飛び立っていった。

「うおおおっ!? 速えええっ!!」

 アイラが歓喜の声を上げる。

「すごい……! サンダーバードの雷を、全て回避しているわ!」

 ルウが目を丸くする。

 シルキーは、俺たちの魔力を受けて限界を超えた機動力を発揮し、降り注ぐ雷撃を紙一重で躱しながら、サンダーバードの懐へと一気に肉薄した。

「今だ! 総攻撃を仕掛けろ!」

「任せな! オラァッ!!『烈風大車輪』!」

 アイラがシルキーの上から戦斧を大回転させ、強力な突風を放つ。

「私の魔法も受けてみなさい!『フレイム・ストーム』!」

 ルウの放った巨大な炎の嵐が、サンダーバードを包み込む。

「はぁぁぁッ!!『絶技・白銀の飛燕』!!」

 シルヴィアの放った神速の斬撃が、空気を切り裂き、巨大な真空の刃となって放たれる。

「ギャァァァッ!?」

 三人の連携攻撃を受け、サンダーバードは体勢を大きく崩した。

 そして、その衝撃で、サンダーバードの尾羽から、最も純度の高い青白い雷光を纏った『雷鳴の尾羽』が一枚、抜け落ちて宙を舞った。

「ライラ、あの尾羽を!」

「はいっ!」

 ライラが素早く弓を下ろし、宙を舞う尾羽を見事にキャッチした。

「よし、目的のものは手に入れた! シルキー、離脱するぞ!」

 目的を達成した俺たちは、シルキーの驚異的な速度で雷雲を抜け出し、安全な霊峰の麓へと一気に離脱した。

 サンダーバードは、尾羽を一本失ったものの致命傷ではなく、俺たちが縄張りから去ったことを確認すると、再び雷雲の中へと姿を消していった。

   * * *

「ふぅ……間一髪だったな。みんな、怪我はないか?」

 麓に降り立った俺が声をかけると、アイラやルウたちが笑顔で頷いた。

「へへっ、シルキーの飛翔、最高だったよ! あんな空中戦ができるなんてな!」

 アイラが興奮冷めやらぬ様子でシルキーを撫でる。

(えへへ……みんなの魔力のおかげだよ!)

 シルキーも嬉しそうにパタパタと端を動かした。

「レインさん、これが『雷鳴の尾羽』です」

 ライラが、バチバチと放電する青白い美しい尾羽を差し出す。

「ああ、ありがとう。ノエルたちが喜ぶぞ。これで、シルキーの真の力が解放されるはずだ」

 俺は両手を広げ、右手の甲にある翠色の痣――『絆紋』の光を限界まで解放した。

 そして、『野戦調薬』と『魔導知識』、そして『建築・修繕』のスキルを総動員し、雷鳴の尾羽を特殊な魔法陣と共にシルキーの布地の中央へと編み込んでいく。

 翠色の温かな波紋と、青白い雷光が混ざり合い、シルキーの全身を包み込む。

「目覚めろ、シルキー!」

 俺が魔力を注ぎ込むと、パキィィィンッ!という清冽な音と共に、シルキーの銀色の布地がさらに眩く輝き、複雑な幾何学模様が脈打つように光り始めた。

 搭乗者の魔力を必要とせず、周囲の魔力を自然と吸収して無限に飛び続ける『永久機関』が、ついに完成したのだ。

(あたたかい……! 私、力が溢れてくる……! ありがとう、レイン! ありがとう、みんな!)

 シルキーは歓喜に満ちた感情を伝え、自らの意思で高く、高く空へと舞い上がった。その飛行は以前よりも遥かに滑らかで、力強く、そして美しかった。

 こうして、真の力を取り戻した銀色の空飛ぶ絨毯シルキーが、絆紋亭の完全な家族として、俺たちの空の守りをさらに強固なものにしてくれた。

   * * *

 その日の夕暮れ。

 真の力を解放したシルキーに乗って、俺たちはアシュタルの拠点へとあっという間に帰還した。

 拠点では、エリス、ゴット、ドーラ、ノエル、セシル、ミーアたち、そして幼い魔物たちが温かく出迎えてくれ、シルキーの美しい飛翔に拠点中が歓喜の声を上げた。特にドーラとノエルは、完成した永久機関を見て「魔女の遺産を完全に再現できた!」と感涙に咽んでいた。

 そして夜。

 庭の虹色の天蓋の下、精霊樹の優しい光に照らされながら、シルキーの完全復活を祝う宴が開かれた。

 セシルは、今日も腕を振るい、極上の料理を作り上げた。魔力農園の野菜をたっぷり使った色鮮やかなテリーヌ、最高品質の肉の特大ステーキ、そしてマシロの氷室で冷やした、黄金の霊蜜をたっぷり使った絶品のフルーツパフェ。

「シルキー! 完全復活おめでとう! これからは、アタシたちが背中を預け合う最高の仲間だ!」

 アイラが木製ジョッキを高々と掲げる。

 シルキーは、アイラの声に応えるように優雅に宙を舞い、ティタンの肩にふわりと乗って親睦を深めていた。ティタンも嬉しそうに「ギギ……」と音を鳴らしている。

「……信じられないほど、穏やかで美しい時間だ。毎日が新しい発見と喜びに満ちているな」

 シルヴィアが、ワイングラスを傾けながら、心からの笑顔を見せた。

「えへへ、私もこのクランに来てから、毎日が幸せでいっぱいですニャ!」

 ミーアが猫耳をピンと立てて、幸せそうにデザートを堪能している。

 テラスでは、フェルやピコ、ソラ、ライ、ルミナたち魔物組が、完全復活したシルキーを囲んで歓迎し、ラピスやイグニス、ベル、ファムといった幼い仲間たちが、シルキーの端に掴まって「空飛ぶ絨毯ごっこ」をして遊んでいた。メルティは空中から黄金の鱗粉を振りまいて宴を彩り、シエルは精霊樹の枝から穏やかにその様子を見守っている。シーナが精霊の池から美しい歌声を響かせ、ライラの竪琴がその場をさらに華やかにしていた。

 賑やかで、優しくて、誰もが誰かを必要とし、誰もが誰かに感謝している場所。

 王都で「足手まとい」と呼ばれ、すべてを失った俺の周りには、今、これほどまでに頼もしく、温かい家族たちがいる。

 急ぐ必要なんてない。俺たちの絆は、どんな伝説の魔道具よりも価値があり、この辺境の地で永遠に輝き続けていくのだから。

 星降る夜の下、笑い声と美しい音楽が、いつまでも絶えることなく響き渡っていた。

【現在のステータス】

名前:レイン

職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)

称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 森の守護者 / 大地の開拓者 / 導きの光 / 豊穣の主 / 呪い打ち砕く者

Lv:50(※サンダーバードとの空中戦とシルキーの完全修復によりアップ)

HP:520 / 520

MP:320 / 320

【スキル】

・生活魔法 Lv.10(極まる)

・剣術 Lv.4

・解体 Lv.8

・野営技術 Lv.10(極まる)

・野戦調薬 Lv.10(極まる)

・植物知識 Lv.10(極まる)

・建築・修繕 Lv.10(極まる)

・鑑定 Lv.9

・気配察知 Lv.10(極まる)

・魔導知識 Lv.10(極まる)

・料理 Lv.10(極まる)

【固有スキル】

絆紋きずなもん:対象の魔物(および心を持つ存在)と心を通わせ、警戒心を解き放つ。集った魔物たちと精霊樹の魔力を調和させ、巨大な隠蔽と浄化の絶対結界を形成している。

【クラン『絆紋亭』メンバー】

空色小竜ソラ:絆レベル5

・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5

・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5

・クリスタル・ゲッコー(ルチル):絆レベル5

・スピリット・フォーン(ミエル):絆レベル5

・クリア・スライム(スイ):絆レベル5

宝石蜘蛛ルリ:絆レベル5

・雷鳴の怪鳥ライ:絆レベル5

・シャドウ・キャット(クロ):絆レベル5

・水妖のミロ:絆レベル5

・氷雪の幻獣マシロ:絆レベル5

・黄金の天馬ルミナ:絆レベル5

・花纏いの黒豹フロリア:絆レベル5

・月影の白蛇ルナ:絆レベル5

・人魚の少女シーナ:絆レベル5

・瑠璃色の幼竜ラピス:絆レベル5

・紅蓮の精霊狐イグニス:絆レベル5

・翡翠の風呼び(シルフィ):絆レベル5

・大地の巨熊の幼獣ベル:絆レベル5

・心優しきゴーレム(ティタン):絆レベル5

・虹水晶の巨亀ダイヤ:絆レベル5

・星詠みの白梟ステラ:絆レベル5

・幻影の小狐ファム:絆レベル5

・黄金の女王蜂メルティ:絆レベル5

・黄昏のグリフォン(シエル):絆レベル5(※絆深化)

・銀色の空飛ぶ絨毯シルキー:絆レベル4(※真の力解放により絆深化)

・ウールシープの群れおよび森の小動物たち

・アイラ(女戦士・正式なクラン協力者)

・ルウ(魔導士・正式なクラン協力者)

・ゴット(薬師・正式なクラン協力者)

・エリス(見習い魔導士・クランメンバー)

・ドーラ(ドワーフの若き職人・クラン専属建築士兼鍛冶師)

・リナ(服飾職人・クラン専属仕立屋)

・シオン(元王都特級密偵・クラン専属防衛担当)

・セシル(元宮廷料理人・クラン専属料理人)

・フレア(元聖騎士・クラン専属護衛担当)

・ノエル(天才錬金術師・クラン専属錬金術師)

・ライラ(流浪の精霊弓士・クラン専属狩人)

・ミーア(猫耳の行商人・クラン専属商人)

・シルヴィア(元Sランク冒険者の剣聖・クラン専属剣術指南役)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

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