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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第49話 魔女の遺産と、銀色の空飛ぶ絨毯

第49話 魔女の遺産と、銀色の空飛ぶ絨毯

 辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる非公式クラン『絆紋亭』の拠点は、今日という日もまた、世界中のどの場所よりも優しく、そして奇跡のような調和に満ちた朝を迎えていた。

 庭の中央にそびえ立つ精霊樹は、日を追うごとにその存在感を増し、今や拠点の絶対的な要として太く力強い幹を天へと伸ばしている。その豊かに茂った枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、庭全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。

 宝石蜘蛛のルリが編み上げた虹色の天蓋を透過して降り注ぐ朝日は、精霊樹の放つ淡い翠色の光と見事に混ざり合い、視界に入るものすべてをきらきらと輝かせている。魔力農園で育つ野菜たちは、その恩恵を受けて、朝ごとに一回りも二回りも大きく、鮮やかに色づき、はち切れんばかりの生命力を誇示していた。

「きゅるるーっ!」

「ウォンッ!」

「ピィィィッ!」

「ヒンッ♪」

「ルルゥッ♪」

「シャァンッ♪」

「きゅあぁっ♪」

「キュゥッ♪」

「ホゥッ♪」

「キュイィィッ♪」

「キュルルゥッ♪」

 澄み切った青空を背景に、空色小竜のソラ、雷鳴の怪鳥ライ、黄金の天馬ルミナ、翡翠の風呼びシルフィ、星詠みの白梟ステラ、黄金の女王蜂メルティ、そして昨日新たに家族となったばかりの黄昏のグリフォンであるシエルが楽しげに上空を旋回している。ルミナの放つ神聖な黄金の光、ライの纏う青白い雷光、ソラの美しい空色の鱗、シルフィが巻き起こすエメラルドグリーンのそよ風、ステラの星屑を散りばめたような銀色の羽ばたき、メルティの放つ黄金の鱗粉、そしてシエルの夕空のような美しい翼が交差し、まるで空に生きた巨大な芸術作品が描かれているかのようだった。

 そんな賑やかな空の舞を地上から見上げながら、二匹の魔物が堂々たる足取りで庭を歩いていた。

 銀色のウルフである『フェル』と、純白のポーションラビットである『ピコ』だ。

 彼らは、俺が王都を追放され、この名もなき辺境の森にたどり着いたその日に、一番最初に俺の『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たちである。

 出会った当初は、フェルは群れからはぐれた傷だらけの狼であり、ピコはただの臆病な森の小動物に過ぎなかった。しかし今、フェルの銀色の毛並みは月明かりのように美しく気高い光を放ち、その体躯は一回りも二回りも大きくなり、森の王者のような風格を漂わせている。ピコもまた、その小さな体には信じられないほどの敏捷性と強靭な魔力を宿し、仲間たちを癒やす要として立派に成長を遂げていた。

 彼らの後ろを、瑠璃色の幼竜ラピス、紅蓮の精霊狐イグニス、大地の巨熊の幼獣ベル、幻影の小狐ファムといった幼い魔物たちが、よちよちと、しかし元気いっぱいに追いかけていた。フェルとピコは時折立ち止まり、幼い魔物たちが転ばないように優しく鼻先で促している。その姿は、この大家族の頼れる兄と姉そのものだった。

 縁側の特等席では、クリスタル・ゲッコーのルチルが鉱石の鱗を虹色に輝かせて日向ぼっこをし、精霊獣のミエルは優雅な足取りで精霊樹の周りを散歩している。クリア・スライムのスイと水妖の獺ミロは、庭に引かれた清らかな水路の中でパチャパチャと水を掛け合って遊び、人魚の少女シーナが、新設された『精霊の池』から嬉しそうに美しい歌声を響かせながらその様子を眺めていた。氷雪の幻獣マシロは、心地よい冷気を放ちながらミエルの足元で丸くなり、影猫のクロは元王都特級密偵であるシオンの肩の上からその平和な光景を眺め、月影の白蛇ルナは精霊樹の太い枝にその美しい銀白の体を巻きつけて、穏やかに目を細めていた。虹水晶の巨亀ダイヤは、その巨大な甲羅に朝の光を集めながら、のんびりと草を食んでいる。シエルの大切にしている卵は、精霊樹の特等席で安全に温められている。

「フェル、ピコ。今日もみんなの面倒を見てくれてありがとうな。お前たちがいてくれるから、俺は安心してこの場所を守れるんだ」

 俺ことレインは、縁側に腰掛けながら、足元にすり寄ってきた二匹の頭を順番に優しく撫でた。

「ウォンッ♪」

「キュイッ♪」

 フェルは嬉しそうに目を細めて俺の手に頬をすり寄せ、ピコは自慢の長い耳をピクピクと動かして俺の膝の上に飛び乗ってきた。

 王都の勇者パーティーにいた頃は、毎朝が息の詰まるようなプレッシャーと冷徹な命令の連続だった。自分がどれだけ尽くしても、誰からも感謝されず「無能」と切り捨てられ、すべての居場所を奪われた。睡眠時間すら削って剣を磨き、魔石を浄化し、食事を作り続けた日々は、ただ泥水のように冷たく苦しいだけのものだった。

 だが、今の俺には、こんなにも温かく、かけがえのない家族たちがいる。誰もが互いを尊重し、足りない部分を補い合い、笑顔を交わす。彼らは俺を頼りにしてくれ、俺も彼らを心から愛している。この『絆紋亭』こそが、俺にとっての絶対の帰る場所だった。

「さて、みんなのお腹が空く前に、朝飯の準備をするか。今日は魔力農園の野菜がとびきり美味しく育っているはずだからな」

 俺がそう呟くと、フェルとピコは力強く鳴き、ラピスやベルたちを連れて水路の方へと遊びに行かせてくれた。

   * * *

 一階の広々とした厨房へと降りると、そこにはすでに見習い魔導士のエリス、仕立屋のリナ、元王都特級密偵のシオン、元宮廷料理人のセシル、元聖騎士のフレア、天才錬金術師のノエル、流浪の精霊弓士ライラ、猫耳の行商人ミーア、そして元Sランク冒険者の剣聖シルヴィアがエプロン姿で立ち、手際よく調理を進めていた。

「あ、レイン様! おはようございますっ!」

「レインさん、おはようございます。今朝も魔力農園のお野菜がキラキラしてますよ。今日はリナさんが作ってくれた新しいエプロンで、みんな気合い入りまくりです!」

「皆さん、おはようございます! 今朝のメニューは、特製の魔力小麦で作った『とろとろ半熟卵とチーズのガレット』と、メルティちゃんの『黄金の霊蜜』を隠し味に使った自家製ソーセージ、そして新鮮なフルーツたっぷりのヨーグルトですよ!」

「私も、微力ながらお皿を並べるのをお手伝いさせていただいております!」

「あ、あのっ、おはようございます……。ティタンの火力調整機能を使って、フライパンの温度を完璧に保っています!」

「ふふっ、人間の料理というのは、見ていてとても興味深いですね。香ばしい匂いがたまりません」

「レイン様、おはようございますニャ! 今日も朝からごちそうですニャ!」

「剣の修行の前に、この素晴らしい朝食をいただけるのは至福だな」

 九人がそれぞれの持ち場から、明るく温かい笑顔で迎えてくれる。ミーアの猫耳がピコピコと嬉しそうに動いている。ノエルの背後では、心優しきゴーレムであるティタンが、その巨大な鉄の体で繊細に魔道コンロの火加減を調整していた。

 厨房いっぱいに広がるのは、ガレットの生地が香ばしく焼き上がる匂いと、霊蜜のコクが加わったソーセージから溢れる肉汁の暴力的なまでに食欲をそそる匂いだ。セシルが加わったことで、俺の『料理』スキルや『植物知識』との相乗効果が生まれ、そこに伝説のエリクサーの主原料でもある『黄金の霊蜜』が調味料として加わっている。その料理のクオリティは、もはや神々の食卓に並べても遜色のない次元に達していた。

 巨大な皿に盛りつけられたガレットは、香ばしく焼き上がった薄い生地の中央に、とろりとした半熟卵と濃厚なチーズが包み込まれ、ナイフを入れると黄身が滝のように溢れ出す。その横には、黄金の霊蜜の甘みとスパイスが完璧に調和したジューシーな自家製ソーセージと、シオンが寸分の狂いもなく均等に切り分けた色鮮やかな魔力野菜のサラダがたっぷりと添えられている。

 女戦士のアイラ、少女魔導士のルウ、老薬師のゴット、ドワーフの若き職人ドーラもリビングに集まり、「いただきます」の合図と共に賑やかな朝食が始まった。

「んんっ!? なんだこれ!? ガレットの生地がパリパリで、中の卵とチーズのコクが爆発するねぇ! このソーセージ、霊蜜の甘みが肉の旨味を引き立ててて、これなら無限に食えちまうよ!」

 アイラが豪快にガレットを頬張りながら、信じられないというように目を輝かせる。

「本当によ……セシルが来てから毎朝驚かされてるけど、今日のこれも別格ね。ソーセージの肉汁と霊蜜の相性が最高だわ。お肌の調子もまた一瞬で最高になっちゃった」

 ルウもうっとりとした表情を浮かべて、ソーセージを口に運ぶ。

「このお肉の旨味と霊蜜のコク……王都の宮廷料理ですら、これには足元にも及びません。涙が出るほど美味しいです……!」

 フレアは、美しい顔をほころばせながら、信じられないものを見るような目で肉を噛み締めていた。

「……美味しい。ただただ、美味しい……。呪いの痛みもなく、信頼できる仲間たちと囲む温かい食卓が、こんなにも心を震わせるものだったなんて……」

 シルヴィアは、自身の切り分けた野菜が入ったサラダを食べながら、感動の大粒の涙をポロポロとこぼしていた。

「ほっほっほ、伝説の霊蜜を使ったソーセージを朝から食うなど、王族が見たら卒倒するじゃろうな。寿命がさらに十年は延びた気分じゃわい」

 ゴットも満足そうに髭を撫でて笑う。

 テラスでは、魔物たちもそれぞれに用意された特製の朝食を夢中で食べている。ラピスやイグニス、ベル、ファムといった幼い魔物たちには、セシルが特別に消化の良い特製ミルク煮込みに霊蜜を垂らしてくれており、顔を突っ込んで美味しそうに頬張っていた。ソラやライ、ルミナたちも、上質な魔物肉や果実を存分に堪能している。ダイヤはたっぷりの魔力草を幸せそうに咀嚼し、ステラとシエルは専用に用意された極上の肉片を優雅に啄んでいた。

 誰もが満ち足りた顔で、笑い合いながら食卓を囲む。この他愛のない日常の風景こそが、俺にとって何よりの宝物だった。

   * * *

 和やかな朝食を終え、食後のティータイムを楽しんでいた時のことだ。

 ルウが、一枚の古ぼけた羊皮紙の地図をテーブルの上に広げた。

「ねえレイン、ちょっとこれを見て。昨日、街の古道具屋で埃を被ってたのを見つけて買ってきたんだけど……」

「古い地図だな。どこかの遺跡か?」

 俺が覗き込むと、ノエルやドーラも興味深そうに集まってきた。

「ただの遺跡じゃないわ。アシュタルの南、魔の森のさらに奥深くにあると言われる『銀糸の魔女の隠れ家』の地図よ。数百年前に実在したとされる伝説の魔女が、究極の魔道具の製法と、特殊な素材を隠した場所……らしいわ」

「銀糸の魔女……! それは錬金術師の間でも伝説となっている存在です! 彼女の残した文献や素材があれば、ティタンの機能を飛躍的に向上させたり、今まで作れなかった高度な魔道具が作れるかもしれません!」

 ノエルが丸い眼鏡をキラリと光らせて身を乗り出す。

「ほっほっほ、魔女の隠れ家か。珍しい薬草や、失われたポーションのレシピが見つかるかもしれんのう」

 ゴットも満足そうに髭を撫でる。

「なるほど、それは行く価値がありそうだな。だが、そんな伝説の場所なら、強力な防衛機構や魔物がいるんだろう?」

 俺の問いに、ルウは少し顔をしかめて頷いた。

「ええ。地図の端に警告文が書いてあるわ。『侵入者は、銀の糸と魔の機巧により永遠の眠りにつく』って。強力な罠と、ゴーレムのような魔法生物が守っている可能性が高いわ」

「よっしゃ、そういうことならアタシの出番だ! どんなゴーレムが出ようが、アタシの斧で粉砕してやるよ!」

 アイラが戦斧を背負い直して力強く立ち上がる。

「私も護衛として同行します。未知の罠や魔法生物から、レインさんたちを必ずお守りします!」

 フレアも聖剣の柄に手を添え、強い決意の瞳を見せた。

「隠れ家の探索と罠の解除なら、私にお任せください。どんな精巧な罠も見破ってみせます」

 シオンが静かに短剣の柄を確認する。

「私も行こう。この剣で、邪魔な機巧どもを切り捨ててみせる」

 シルヴィアが大剣を背負う。

「よし、今回の探索パーティーは俺、アイラ、ルウ、フレア、シオン、シルヴィア、そしてノエルだ。ノエルには遺物や罠の解析を頼む。魔物は、罠の探知に長けたフェルとピコ、魔法生物の動きを封じられるルリ、そして索敵にクロを連れて行く。エリス、ゴットさん、ドーラ、セシル、ライラ、ミーアたちは、拠点の防衛と留守番をお願いできるか?」

「はいっ! ティタンと一緒に、拠点の外周防衛システムを完璧にしておきます!」

 エリスが元気よく頷き、ミーアも「お留守番しながら、お宝を入れる袋をたくさん用意しておきますニャ!」と猫耳を揺らした。

 こうして、伝説の魔女の遺産を求めて、俺たちはアシュタルの南に広がる魔の森の奥深くへと出発した。

   * * *

 アシュタルの街から馬車と徒歩で半日ほど。

 鬱蒼とした魔の森を抜け、ルウの地図を頼りに進んでいくと、切り立った崖の割れ目に、蔦で隠された不自然なほど滑らかな石造りの入り口が現れた。ここが『銀糸の魔女の隠れ家』だ。

 入り口からは、冷たく乾燥した空気と、カチカチという微かな機械音が響いてきている。

「うわぁ……カビ臭いし、なんだか無機質で冷たい感じがするわね。罠がいっぱいありそう」

 ルウが杖を構えながら、慎重に入り口をくぐる。

「シオン、クロ、周囲の警戒と罠の探知を頼む。フェルとピコは、魔力や機械の匂いを追ってくれ。ノエルは魔力波長の解析を」

「了解です。クロ、影の探知を」

「にゃっ!」

「はいっ! 魔力探知機、起動します!」

 ノエルが自作のゴーグルを装着し、周囲を警戒する。

 俺たちはシオンとクロの案内で、巧妙に仕掛けられた魔法陣や、壁から飛び出す毒矢の罠を次々と回避しながら、隠れ家の深部へと進んでいった。

 やがて、巨大なドーム状の広間へと辿り着いた。広間の中央には、美しい銀色の布が掛けられた巨大な台座があり、その周囲には無数の本棚や錬金道具が手付かずのまま残されていた。

「これよ! これが魔女の隠れ家……お宝の山だわ!」

 ルウが目を輝かせる。

 だが、俺たちが広間に足を踏み入れた瞬間、ガシャン!という重い金属音が鳴り響き、部屋の四隅から、全身を銀色の糸のような金属で覆われた四体の巨大な機械人形——『シルバー・マリオネット』が姿を現した。

「チッ、歓迎のお出ましってわけかい! アタシの斧の錆にしてやるよ!」

 アイラが戦斧を構える。

「気をつけてください! あれはただのゴーレムじゃない、極細の『銀糸』で攻撃してくる厄介な魔法生物です!」

 ノエルが警告する。

 その言葉通り、シルバー・マリオネットたちは腕から無数の銀糸を放ち、広間中に張り巡らせて俺たちの動きを封じようとしてきた。その糸は刃のように鋭く、触れれば岩すらも容易く切断してしまう。

「させません!『ホーリー・シールド』!」

 フレアが聖剣を掲げて神聖な光の盾を展開し、迫り来る銀糸を弾き返す。

「アイラ、ルウ、シルヴィア! マリオネットの本体を叩け! ルリ、空中から強靭な糸で奴らの機動力を奪え! シオン、フェル、ピコ! 隙を作れ!」

「任せな! オラァッ!!『旋風大車輪』!」

 アイラが戦斧を大回転させ、張られた銀糸を強引に断ち切りながら突進する。

「エリスちゃんがいなくても、私一人で十分よ!『フレイム・バースト』!」

 ルウの放った灼熱の炎が、マリオネットの関節部分を焼き焦がす。

「はぁぁぁッ!!『絶技・白銀の飛燕』!!」

 シルヴィアの大剣が空気を切り裂き、一体のマリオネットを一刀両断にする。

「カチカチッ!」

 ルリが天井から急降下し、自身の強靭な『宝石の糸』をマリオネットたちに絡みつかせ、その動きを完全に封じ込める。

「了解です! クロ、影縛り!」

「にゃぁっ!」

 シオンが跳躍し、マリオネットの装甲の継ぎ目に短剣を突き立てる。クロが『シャドウ・バインド』で動きを遅延させる。

「ウォォォンッ!!」

「キュイッ!!」

 フェルが雷を纏った突進でマリオネットの脚を粉砕し、ピコが浄化の光を纏った『ホーリー・ムーン・キック』で魔力中枢を正確に破壊する。

 圧倒的な連携の前に、四体のシルバー・マリオネットは数分で完全に沈黙し、ただの鉄屑へと変わった。

   * * *

「ふぅ……手強かったけど、みんなのおかげで無傷だ。よし、お宝を確認しよう」

 俺が武器を収めると、ノエルとルウが真っ先に中央の台座へと駆け寄った。

 台座に掛けられていた銀色の布を取り払うと、そこには一枚の美しく精巧な『絨毯』が置かれていた。銀色の極細の糸で複雑な幾何学模様が編み込まれており、微かな魔力の光を放っている。

「これは……『銀色の空飛ぶ絨毯シルバー・フライング・カーペット』です! 文献でしか読んだことがありません! 搭乗者の魔力を推進力に変換して、空を自由に飛ぶことができる究極の魔道具……!」

 ノエルが震える手で絨毯に触れ、興奮の声を上げる。

「すごいわ! これがあれば、空の移動が格段に楽になるし、崖の上の素材採取だって簡単に行けるわね!」

 ルウも歓喜する。

 その時だった。

「……ん? なんだ、この感覚は?」

 俺の右手の甲の『絆紋』が、微かに、しかし確かな温もりを伴って光り始めた。

 その光は、台座に置かれた『空飛ぶ絨毯』に向かって伸びていく。

「え……? 絨毯が……光ってる?」

 ルウが驚いて一歩下がる。

 すると、まるで意思を持っているかのように、空飛ぶ絨毯がふわりと宙に浮き上がった。そして、その端をパタパタと動かして、俺の胸にすり寄ってきたのだ。

(……あたたかい……。長い間、ここで眠っていた……。あなたが、起こしてくれたの?)

 俺の脳内に、無機質な中にも純粋な好奇心を感じさせる、幼い子供のような感情が流れ込んできた。

「……意思を持っているのか?」

 俺が驚いて尋ねると、ノエルが丸い眼鏡を光らせて答えた。

「魔女の作った最高級の魔道具は、長年の魔力の蓄積によって『疑似的なアニマ』を宿すことがあると聞いたことがあります。ティタンと同じような状態かもしれません!」

「そうか。長い間、暗い部屋で退屈だったな。……俺の魔力が心地いいのか?」

 俺が絆紋の光を優しく流し込むと、絨毯は嬉しそうに形を変えて、俺に抱きつくように絡みついてきた。

(うん! あたたかくて、優しい匂い! 私、あなたと一緒に外を飛びたい!)

「よし、わかった。帰る場所がないなら、うちのクランに来い。うちにはティタンっていうゴーレムの友達もいるし、空を飛ぶ仲間もたくさんいるぞ」

 俺がそう言うと、フェルやピコ、ルリたちも優しく鳴き声を上げて歓迎の意を示した。

 空飛ぶ絨毯は嬉しそうにパタパタと端を動かし、俺の周りをくるくると飛び回った。

 こうして、意思を持つ魔道具、銀色の空飛ぶ絨毯が、絆紋亭の新しい家族として加わることになった。名前は、その滑らかな布地から『シルキー』と名付けた。

   * * *

 その日の夕暮れ。

 大量の魔導書や錬金素材、そして新しい家族であるシルキーを連れて、俺たちはアシュタルの拠点へと帰還した。シルキーは俺たちを乗せて空を飛んで帰ることもできたが、初日はフェルたちの背中に乗せてゆっくりと景色を見せてやった。

 拠点では、エリス、ゴット、ドーラ、セシル、ミーアたち、そして幼い魔物たちが温かく出迎えてくれ、新しい仲間と大量の宝物の無事に拠点中が歓喜の声を上げた。特にドーラとノエルは、持ち帰った魔導書を見て「これで新しい時代が作れる!」と徹夜の準備を始めていた。

 そして夜。

 庭の虹色の天蓋の下、精霊樹の優しい光に照らされながら、シルキーの歓迎会が開かれた。

 セシルは、今日も腕を振るい、極上の料理を作り上げた。魔力農園の野菜をたっぷり使った色鮮やかなパエリア、最高品質の肉の特大ロースト、そしてマシロの氷室で冷やした絶品のフルーツポンチ。

「シルキー! うちのクランへようこそ! これからは、アタシたちが背中を預け合う最高の仲間だ!」

 アイラが木製ジョッキを高々と掲げる。

 シルキーは、アイラの声に応えるように優雅に宙を舞い、ティタンの肩にふわりと乗って親睦を深めていた。ティタンも嬉しそうに「ギギ……」と音を鳴らしている。

「……信じられないほど、穏やかで美しい時間だ。毎日が新しい発見と喜びに満ちているな」

 シルヴィアが、ワイングラスを傾けながら、心からの笑顔を見せた。

「えへへ、お宝もたくさん手に入って、私も商売の腕が鳴りますニャ!」

 ミーアが猫耳をピンと立てて、幸せそうにデザートを堪能している。

 テラスでは、フェルやピコ、ソラ、ライ、ルミナたち魔物組が、新しい仲間であるシルキーを囲んで歓迎し、ラピスやイグニス、ベル、ファムといった幼い仲間たちが、シルキーの端に掴まって「空飛ぶ絨毯ごっこ」をして遊んでいた。メルティは空中から黄金の鱗粉を振りまいて宴を彩り、シエルは精霊樹の枝から穏やかにその様子を見守っている。シーナが精霊の池から美しい歌声を響かせ、ライラの竪琴がその場をさらに華やかにしていた。

 賑やかで、優しくて、誰もが誰かを必要とし、誰もが誰かに感謝している場所。

 王都で「足手まとい」と呼ばれ、すべてを失った俺の周りには、今、これほどまでに頼もしく、温かい家族たちがいる。

 急ぐ必要なんてない。俺たちの絆は、どんな伝説の魔道具よりも価値があり、この辺境の地で永遠に輝き続けていくのだから。

 星降る夜の下、笑い声と美しい音楽が、いつまでも絶えることなく響き渡っていた。

【現在のステータス】

名前:レイン

職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)

称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 森の守護者 / 大地の開拓者 / 導きの光 / 豊穣の主 / 呪い打ち砕く者

Lv:49(※シルバー・マリオネットの討伐と隠れ家の探索によりアップ)

HP:510 / 510

MP:310 / 310

【スキル】

・生活魔法 Lv.10(極まる)

・剣術 Lv.4

・解体 Lv.8

・野営技術 Lv.10(極まる)

・野戦調薬 Lv.10(極まる)

・植物知識 Lv.10(極まる)

・建築・修繕 Lv.10(極まる)

・鑑定 Lv.9(※レベルアップ)

・気配察知 Lv.10(極まる)

・魔導知識 Lv.10(極まる)

・料理 Lv.10(極まる)

【固有スキル】

絆紋きずなもん:対象の魔物(および心を持つ存在)と心を通わせ、警戒心を解き放つ。集った魔物たちと精霊樹の魔力を調和させ、巨大な隠蔽と浄化の絶対結界を形成している。

【クラン『絆紋亭』メンバー】

空色小竜ソラ:絆レベル5

・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5

・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5

・クリスタル・ゲッコー(ルチル):絆レベル5

・スピリット・フォーン(ミエル):絆レベル5

・クリア・スライム(スイ):絆レベル5

宝石蜘蛛ルリ:絆レベル5

・雷鳴の怪鳥ライ:絆レベル5

・シャドウ・キャット(クロ):絆レベル5

・水妖のミロ:絆レベル5

・氷雪の幻獣マシロ:絆レベル5

・黄金の天馬ルミナ:絆レベル5

・花纏いの黒豹フロリア:絆レベル5

・月影の白蛇ルナ:絆レベル5

・人魚の少女シーナ:絆レベル5

・瑠璃色の幼竜ラピス:絆レベル5

・紅蓮の精霊狐イグニス:絆レベル5

・翡翠の風呼び(シルフィ):絆レベル5

・大地の巨熊の幼獣ベル:絆レベル5

・心優しきゴーレム(ティタン):絆レベル5

・虹水晶の巨亀ダイヤ:絆レベル5

・星詠みの白梟ステラ:絆レベル5

・幻影の小狐ファム:絆レベル5

・黄金の女王蜂メルティ:絆レベル5

・黄昏のグリフォン(シエル):絆レベル4(※絆深化)

・銀色の空飛ぶ絨毯シルキー:新規合流 / 絆レベル3

・ウールシープの群れおよび森の小動物たち

・アイラ(女戦士・正式なクラン協力者)

・ルウ(魔導士・正式なクラン協力者)

・ゴット(薬師・正式なクラン協力者)

・エリス(見習い魔導士・クランメンバー)

・ドーラ(ドワーフの若き職人・クラン専属建築士兼鍛冶師)

・リナ(服飾職人・クラン専属仕立屋)

・シオン(元王都特級密偵・クラン専属防衛担当)

・セシル(元宮廷料理人・クラン専属料理人)

・フレア(元聖騎士・クラン専属護衛担当)

・ノエル(天才錬金術師・クラン専属錬金術師)

・ライラ(流浪の精霊弓士・クラン専属狩人)

・ミーア(猫耳の行商人・クラン専属商人)

・シルヴィア(元Sランク冒険者の剣聖・クラン専属剣術指南役)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

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