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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第48話 黄昏の絶崖と、誇り高き幻獣

第48話 黄昏の絶崖と、誇り高き幻獣

 辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる非公式クラン『絆紋亭』の拠点は、今日という日もまた、世界中のどの場所よりも優しく、そして奇跡のような調和に満ちた朝を迎えていた。

 庭の中央にそびえ立つ精霊樹は、日を追うごとにその存在感を増し、今や拠点の絶対的な要として太く力強い幹を天へと伸ばしている。その豊かに茂った枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、庭全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。

 宝石蜘蛛のルリが編み上げた虹色の天蓋を透過して降り注ぐ朝日は、精霊樹の放つ淡い翠色の光と見事に混ざり合い、視界に入るものすべてをきらきらと輝かせている。魔力農園で育つ野菜たちは、その恩恵を受けて、朝ごとに一回りも二回りも大きく、鮮やかに色づき、はち切れんばかりの生命力を誇示していた。

「きゅるるーっ!」

「ウォンッ!」

「ピィィィッ!」

「ヒンッ♪」

「ルルゥッ♪」

「シャァンッ♪」

「きゅあぁっ♪」

「キュゥッ♪」

「ホゥッ♪」

「キュイィィッ♪」

 澄み切った青空を背景に、空色小竜のソラ、雷鳴の怪鳥ライ、黄金の天馬ルミナ、翡翠の風呼びであるシルフィ、星詠みの白梟ステラ、そして黄金の女王蜂メルティが楽しげに上空を旋回している。ルミナの放つ神聖な黄金の光、ライの纏う青白い雷光、ソラの美しい空色の鱗、シルフィが巻き起こすエメラルドグリーンのそよ風、ステラの星屑を散りばめたような銀色の羽ばたき、メルティの放つ黄金の鱗粉が交差し、まるで空に生きた巨大な芸術作品が描かれているかのようだった。

 そんな賑やかな空の舞を地上から見上げながら、二匹の魔物が堂々たる足取りで庭を歩いていた。

 銀色のウルフである『フェル』と、純白のポーションラビットである『ピコ』だ。

 彼らは、俺が王都を追放され、この名もなき辺境の森にたどり着いたその日に、一番最初に俺の『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たちである。

 出会った当初は、フェルは群れからはぐれた傷だらけの狼であり、ピコはただの臆病な森の小動物に過ぎなかった。しかし今、フェルの銀色の毛並みは月明かりのように美しく気高い光を放ち、その体躯は一回りも二回りも大きくなり、森の王者のような風格を漂わせている。ピコもまた、その小さな体には信じられないほどの敏捷性と強靭な魔力を宿し、仲間たちを癒やす要として立派に成長を遂げていた。

 彼らの後ろを、瑠璃色の幼竜ラピス、紅蓮の精霊狐イグニス、大地の巨熊の幼獣ベル、幻影の小狐ファムといった幼い魔物たちが、よちよちと、しかし元気いっぱいに追いかけていた。フェルとピコは時折立ち止まり、幼い魔物たちが転ばないように優しく鼻先で促している。その姿は、この大家族の頼れる兄と姉そのものだった。

 縁側の特等席では、クリスタル・ゲッコーのルチルが鉱石の鱗を虹色に輝かせて日向ぼっこをし、精霊獣のミエルは優雅な足取りで精霊樹の周りを散歩している。クリア・スライムのスイと水妖の獺ミロは、庭に引かれた清らかな水路の中でパチャパチャと水を掛け合って遊び、人魚の少女シーナが、新設された『精霊の池』から嬉しそうに美しい歌声を響かせながらその様子を眺めていた。氷雪の幻獣マシロは、心地よい冷気を放ちながらミエルの足元で丸くなり、影猫のクロは元王都特級密偵であるシオンの肩の上からその平和な光景を眺め、月影の白蛇ルナは精霊樹の太い枝にその美しい銀白の体を巻きつけて、穏やかに目を細めていた。虹水晶の巨亀ダイヤは、その巨大な甲羅に朝の光を集めながら、のんびりと草を食んでいる。

「フェル、ピコ。今日もみんなの面倒を見てくれてありがとうな。お前たちがいてくれるから、俺は安心してこの場所を守れるんだ」

 俺ことレインは、縁側に腰掛けながら、足元にすり寄ってきた二匹の頭を順番に優しく撫でた。

「ウォンッ♪」

「キュイッ♪」

 フェルは嬉しそうに目を細めて俺の手に頬をすり寄せ、ピコは自慢の長い耳をピクピクと動かして俺の膝の上に飛び乗ってきた。

 王都の勇者パーティーにいた頃は、毎朝が息の詰まるようなプレッシャーと冷徹な命令の連続だった。自分がどれだけ尽くしても、誰からも感謝されず「無能」と切り捨てられ、すべての居場所を奪われた。睡眠時間すら削って剣を磨き、魔石を浄化し、食事を作り続けた日々は、ただ泥水のように冷たく苦しいだけのものだった。

 だが、今の俺には、こんなにも温かく、かけがえのない家族たちがいる。誰もが互いを尊重し、足りない部分を補い合い、笑顔を交わす。彼らは俺を頼りにしてくれ、俺も彼らを心から愛している。この『絆紋亭』こそが、俺にとっての絶対の帰る場所だった。

「さて、みんなのお腹が空く前に、朝飯の準備をするか。今日は昨日から仕込んでおいた極上肉のローストがあるからな」

 俺がそう呟くと、フェルとピコは力強く鳴き、ラピスやベルたちを連れて水路の方へと遊びに行かせてくれた。

   * * *

 一階の広々とした厨房へと降りると、そこにはすでに見習い魔導士のエリス、仕立屋のリナ、元王都特級密偵のシオン、元宮廷料理人のセシル、元聖騎士のフレア、天才錬金術師のノエル、流浪の精霊弓士ライラ、猫耳の行商人ミーア、そして昨日新たに家族となったばかりの元Sランク冒険者の剣聖シルヴィアがエプロン姿で立ち、手際よく調理を進めていた。

「あ、レイン様! おはようございますっ!」

「レインさん、おはようございます。今朝はシルヴィアさんがお野菜のカットを手伝ってくれているんですが……見てください、この見事な包丁さばき!」

 セシルが興奮気味に指差した先では、シルヴィアが真剣な表情でまな板に向かい、トントンと小気味よい音を立てて野菜を寸分の狂いもなくみじん切りにしていた。

「ふ、ふふっ。剣の修行に比べれば、野菜を切ることなど造作もない。だが……こんなに穏やかな気持ちで刃物を握ったのは、何年ぶりだろうか」

 シルヴィアは、長年の呪いから解放された美しい顔をほころばせ、少し照れくさそうに笑った。

「皆さん、おはようございます! 今朝のメニューは、レインさんが昨日から仕込んでくれた『特製ダレに漬け込んだワイルド・ボアの厚切りステーキ』と、メルティちゃんの『黄金の霊蜜』を隠し味に使ったハニーマスタードソース、そしてふかふかの焼きたてパンと、シルヴィアさんが切ってくれた野菜がたっぷりのコンソメスープですよ!」

「私も、微力ながらお皿を並べるのをお手伝いさせていただいております!」

「あ、あのっ、おはようございます……。ティタンの火力調整機能を使って、フライパンの温度を完璧に保っています!」

「ふふっ、人間の料理というのは、見ていてとても興味深いですね。お肉の焼ける匂いがたまりません」

「レイン様、おはようございますニャ! 今日も朝からごちそうですニャ!」

 九人がそれぞれの持ち場から、明るく温かい笑顔で迎えてくれる。ミーアの猫耳がピコピコと嬉しそうに動いている。ノエルの背後では、心優しきゴーレムであるティタンが、その巨大な鉄の体で繊細に魔道コンロの火加減を調整していた。

 厨房いっぱいに広がるのは、極厚のステーキ肉が熱い鉄板で焼ける暴力的なまでに食欲をそそる匂いと、ハニーマスタードソースの甘酸っぱくも芳醇な香りだ。セシルが加わったことで、俺の『料理』スキルや『植物知識』との相乗効果が生まれ、そこに伝説のエリクサーの主原料でもある『黄金の霊蜜』が調味料として加わっている。その料理のクオリティは、もはや神々の食卓に並べても遜色のない次元に達していた。

 巨大な皿に盛りつけられた厚切りステーキは、外側は香ばしくカリッと焼き上げられ、ナイフを入れると中は絶妙なミディアムレアの薄紅色をしており、熱々の肉汁がジュワリと溢れ出す。そこに黄金の霊蜜の甘みとマスタードの酸味が完璧に調和した特製ソースがたっぷりと掛けられ、宝石のようにキラキラと輝いていた。その横には、シルヴィアが芸術的な精度で切り分けた野菜がふんだんに入った、澄み切った黄金色のコンソメスープが添えられている。

 女戦士のアイラ、少女魔導士のルウ、老薬師のゴット、ドワーフの若き職人ドーラもリビングに集まり、「いただきます」の合図と共に賑やかな朝食が始まった。

「んんっ!? なんだこれ!? 口に入れた瞬間、肉の旨味が爆発したぞ!? このハニーマスタードソース、霊蜜の奥深い甘みが肉の脂を完璧に包み込んで、全くくどくない! これなら無限に食えちまうよ!」

 アイラが豪快に肉を頬張りながら、信じられないというように目を輝かせる。

「本当によ……セシルが来てから毎朝驚かされてるけど、今日のステーキも別格ね。スープの野菜も、切り方が均一だから火の通りが完璧で、口当たりが最高だわ」

 ルウもうっとりとした表情を浮かべて、スープを口に運ぶ。

「このお肉の柔らかさとソースのコク……王都の宮廷料理ですら、これには足元にも及びません。涙が出るほど美味しいです……!」

 フレアは、美しい顔をほころばせながら、信じられないものを見るような目で肉を噛み締めていた。

「……美味しい。ただただ、美味しい……。呪いの痛みもなく、信頼できる仲間たちと囲む温かい食卓が、こんなにも心を震わせるものだったなんて……」

 シルヴィアは、自身の切り分けた野菜が入ったスープを飲みながら、感動の大粒の涙をポロポロとこぼしていた。

「ほっほっほ、伝説の霊蜜を使ったソースで肉を食うなど、王族が見たら卒倒するじゃろうな。寿命がさらに十年は延びた気分じゃわい」

 ゴットも満足そうに髭を撫でて笑う。

 テラスでは、魔物たちもそれぞれに用意された特製の朝食を夢中で食べている。ラピスやイグニス、ベル、ファムといった幼い魔物たちには、セシルが特別に消化の良い特製ミルク煮込みに霊蜜を垂らしてくれており、顔を突っ込んで美味しそうに頬張っていた。ソラやライ、ルミナたちも、上質な魔物肉や果実を存分に堪能している。ダイヤはたっぷりの魔力草を幸せそうに咀嚼し、ステラは専用に用意された極上の肉片を優雅に啄んでいた。

 誰もが満ち足りた顔で、笑い合いながら食卓を囲む。この他愛のない日常の風景こそが、俺にとって何よりの宝物だった。

   * * *

 和やかな朝食を終え、食後のティータイムを楽しんでいた時のことだ。

 買い出しと情報収集のために早朝からアシュタルの街へと出向いていたミーアが、慌てた様子で拠点に駆け込んできた。

「レイン様、大変ですニャ! 冒険者ギルドで、緊急の討伐依頼が張り出されていましたニャ!」

「緊急依頼? アシュタルの近くで何か起きたのか?」

 俺が立ち上がると、ミーアは息を切らしながら頷いた。

「アシュタルの北西にある『黄昏の絶崖』で、強力な猛毒を持つ『ポイズン・ワイバーン(猛毒の飛竜)』の群れが異常発生しているらしいのですニャ。このまま放っておけば、風に乗って毒がアシュタルの街の農地にまで被害を及ぼすかもしれないと、ギルドマスターが直々にSランク級の依頼を出していましたニャ!」

「黄昏の絶崖……。常に夕暮れのような特殊な魔力場が展開されている険しい崖ですね。ワイバーンの群れとなれば、生半可な冒険者では毒の雨を降らされて全滅するでしょう」

 シオンが密偵としての冷静な分析を口にする。

「ポイズン・ワイバーンだと? チッ、空を飛ぶ魔物の大群は厄介だね。アタシの斧が届かない場所から毒を撒き散らす気かい」

 アイラが眉をひそめる。

「空の敵なら、私の魔法の出番ね。それに、ライラの弓もあるわ」

 ルウが自信ありげに杖を回した。

「私も行こう。この命と剣、レイン殿のために振るうと決めたのだ。ワイバーン程度、私の大剣で叩き落としてみせる」

 シルヴィアが、力強く立ち上がり、身の丈ほどもある大剣を背負った。その瞳には、長年の呪いから解放された剣聖としての圧倒的な覇気が宿っていた。

「私も護衛として同行します。レインさんに、毒の一滴たりとも触れさせません!」

 フレアも聖剣の柄に手を添える。

「よし、今回の討伐パーティーは俺、アイラ、ルウ、フレア、ライラ、そしてシルヴィアだ。魔物は、空からの奇襲に備えてソラとライ、索敵と地上の制圧にフェルとピコを連れて行く。シオン、エリス、ゴットさん、ドーラ、ノエル、セシル、ミーアたちは、拠点の防衛と留守番をお願いできるか?」

「はいっ! ティタンと一緒に、拠点の外周防衛システムを完璧にしておきます!」

 ノエルが丸い眼鏡を光らせて元気よく頷き、ミーアも「お留守番しながら、解毒ポーションの在庫を確認しておきますニャ!」と猫耳を揺らした。

 こうして、街の危機を救うため、俺たちはアシュタルの北西に位置する『黄昏の絶崖』へと出発した。

   * * *

 アシュタルの街から馬車とフェルの背を借りて駆け抜け、数時間。

 視界が開けると、常に夕日のような赤黒い光に照らされた、見上げるほどに高く険しい岩壁――『黄昏の絶崖』がその威容を現した。特殊な魔力場により、昼間であってもこの一帯だけは異様な黄昏色に染まっている。

 そして、その崖の上空には、数十頭にも及ぶ暗緑色の飛竜――『ポイズン・ワイバーン』が、耳障りな金切り声を上げながら群れを成して飛び回っていた。

「うわぁ……すごい数ね。あいつらが全部毒を吐いたら、下は地獄絵図になるわ」

 ルウが杖を構えながら、上空を睨みつける。

「ライラ、空中の警戒を頼む。フェルとピコは、崖の死角からの奇襲に備えてくれ。ソラ、ライ、ワイバーンの軌道を乱してくれ!」

「了解しました!」

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

「ピィィィッ!」

 俺の指示で、ソラとライが空高く舞い上がり、強力な風の刃と雷の障壁を展開してワイバーンの群れを牽制し始めた。

 だが、ワイバーンたちの様子が少しおかしかった。彼らは俺たちに攻撃を仕掛けてくるというよりも、崖の中腹にある『巨大な岩の出っ張り』に向かって、執拗に毒液を吐きかけ、群がっているように見えた。

「レインさん、見てください! ワイバーンの群れが、一匹の魔物を集中攻撃しています!」

 フレアが指差した先。

 崖の中腹に孤立した岩棚の上で、ポイズン・ワイバーンの大群を相手に、満身創痍で孤軍奮闘している一体の美しい魔物がいた。

 ライオンの強靭な胴体に、巨大な鷲の頭と黄金色の翼を持つ幻獣――Aランク相当の『黄昏のグリフォン(トワイライト・グリフォン)』だ。

 通常、誇り高きグリフォンは群れを作らず、単独で行動する強力な魔物だ。その黄金の翼は夕日のような美しい輝きを放っているが、今は無数のワイバーンの毒爪によって引き裂かれ、赤黒い血を流していた。

 それでも、グリフォンは決して岩棚から逃げ出そうとはしなかった。

 よく見ると、彼女の背後の岩の隙間に、淡い光を放つ『一つの卵』が大切に守られていたのだ。

(……奪わせない。私の子どもは、絶対に……!)

 俺の脳内に、黄昏のグリフォンからの、母としての強烈な決意と、悲痛な叫びが流れ込んできた。

 彼女は、自分の卵を狙うワイバーンの群れから、たった一匹で子どもを守り抜こうとしていたのだ。

「……あんな卑劣な真似、見過ごせるわけがない! みんな、あのグリフォンを援護するぞ!」

 俺が剣を抜いて叫ぶと、仲間たちも一斉に闘気を爆発させた。

「任せておけ。あのような下劣な羽虫ども、私の剣で叩き落としてやる」

 シルヴィアが、静かに、しかし絶対的な覇気を纏って前に出た。

 彼女は身の丈ほどもある大剣を軽々と構えると、足元の岩を砕くほどの踏み込みで一気に崖の斜面を駆け上がった。

「はぁぁぁッ!!『絶技・白銀の飛燕』!!」

 シルヴィアの放った神速の斬撃が、空気を切り裂き、巨大な真空の刃となって上空へと放たれる。その一撃は、岩棚に群がっていた数頭のポイズン・ワイバーンを、分厚い鱗ごと一瞬で両断し、空から叩き落とした。

「す、すごい……! 空を飛ぶ飛竜を、剣圧だけで……!」

 フレアが驚愕の声を上げる。

「レインの仲間たちにばかり、いい格好はさせないよ! オラァッ!!『旋風大車輪』!」

 アイラが戦斧を大回転させ、低空に降りてきたワイバーンを粉砕する。

「私の魔法も受けてみなさい!『フレイム・ストーム』!」

 ルウの放った巨大な炎の嵐が、ワイバーンの群れを包み込み、その羽を焼き焦がす。

「風の精霊たちよ、我が矢に宿りて邪悪を穿てッ!」

 ライラの白銀の弓から放たれた無数の光の矢が、正確に飛竜たちの急所を貫き、次々と墜落させていく。

「ギャァァァッ!!」

 仲間の多くを失い、怒り狂ったワイバーンのボス個体が、巨大な毒の顎を開いてシルヴィアへと急降下してきた。

「させません!『ホーリー・シールド』!」

 フレアが聖剣を掲げて神聖な光の盾を展開し、ボスの毒液を完璧に防ぐ。

「フェル、ピコ! ボスを叩くぞ!」

「ウォォォンッ!!」

「キュイッ!!」

 銀色の閃光と、純白の弾丸が、崖の斜面を駆け上がった。

 フェルは目にも留まらぬ速度で空中の岩場を蹴って跳躍し、その全身から青白い雷光を立ち昇らせた。

『白銀の迅雷シルバー・ストライク』!

 雷を纏ったフェルの強烈な牙が、ボスの翼を根元から噛み砕き、その巨体を崖に叩きつける。

 そして、フェルが作った隙を見逃さず、ピコが驚異的な跳躍力で空高く舞い上がった。ピコの体から、俺の『野戦調薬』の魔力を受け継いだ浄化と破壊の光が溢れ出す。

『浄化の月面蹴り(ホーリー・ムーン・キック)』!

 空中で体を捻り、光を纏った強烈な両足蹴りが、もがくボスの脳天にクリーンヒットする。ドゴォォォンッ!という轟音と共に、ポイズン・ワイバーンのボスは完全に沈黙した。

 ボスを失った残りの群れは、恐れをなして遠くの空へと逃げ去っていった。

   * * *

 戦闘が終わると、黄昏のグリフォンは力を使い果たしたように、卵の傍らに力なく倒れ込んだ。

「グルゥゥ……」

 俺は武器を収め、ゆっくりと彼女の元へと近づいた。グリフォンは残った力を振り絞って威嚇しようとするが、その瞳にはもう戦う力は残っていなかった。全身がワイバーンの毒に冒され、命の灯火が消えかかっている。

「大丈夫だ。俺たちは敵じゃない。君と、君の子どもを助けに来たんだ」

 俺は両手を広げ、右手の甲にある翠色の痣――『絆紋』の光を限界まで解放した。

 翠色の温かな波紋が、黄昏の絶崖の乾いた空気の中を広がり、傷ついたグリフォンの体を優しく包み込む。

 絆紋の波動が彼女の心に届いた瞬間、張り詰めていた警戒心がスッと解け、彼女の瞳から敵意が消え去った。

(この光……なんて優しくて、あたたかい……。あなたは、私たちを傷つけないのですね……)

「今、痛いのを取ってあげるからな」

 俺は『野戦調薬』で作った特製の超回復ポーションと解毒薬を取り出し、彼女の傷口に優しく塗り込み、絆紋の浄化の光を流し込んだ。

 すると、毒に侵されて黒ずんでいた傷口がみるみるうちに塞がり、失われていた黄金色の美しい羽が息を吹き返したように再生していった。

「キュルルゥッ♪」

 痛みが消え、力がみなぎってきたことに気づいたグリフォンは、嬉しそうに喉を鳴らし、立ち上がった。そして、俺の胸にその誇り高くも美しい黄金の頭をすり寄せてきた。

(ありがとう……あたたかい人。私と、私の子どもを救ってくれて、本当にありがとう……)

 俺の心に、夕日のように温かく、深い愛情と感謝の感情が流れ込んでくる。

「怪我はもう大丈夫だ。よく一人で卵を守り抜いたな、立派だったぞ」

 俺が微笑みかけると、グリフォンは背後の卵を愛おしそうに見つめた。

(……あたたかい人。もしよければ、私たちを、あなたの群れに入れてはくれないでしょうか。この子を、安全で優しい場所で育てたいのです……)

「ああ、もちろん大歓迎だ。うちの庭には、どんな外敵も寄せ付けない結界がある。ソラやライ、ステラたち空を飛ぶ仲間もたくさんいるぞ」

 俺が手を差し出すと、フェルやピコ、ルミナたちも優しく鳴き声を上げて歓迎の意を示した。

 黄昏のグリフォンは、俺の差し出した手と、温かい仲間たちの姿を見て、歓喜に黄金の翼を大きく羽ばたかせた。

 こうして、誇り高き幻獣、黄昏のグリフォンが、絆紋亭の新しい家族として加わることになった。名前は、その美しい夕空のような色から『シエル』と名付けた。

   * * *

 その日の夕暮れ。

 シエルと、彼女の大切な卵を慎重に運び、俺たちはアシュタルの拠点へと帰還した。

 拠点では、エリス、ゴット、ドーラ、ノエル、セシル、ミーアたち、そして幼い魔物たちが温かく出迎えてくれ、新しい仲間の加入と、卵の無事に拠点中が歓喜の声を上げた。

 シエルの卵は、精霊樹の最も太く安全な枝の上に、ドーラとノエルが特製の魔力保温の巣を作って安置され、シエルは満足そうにその上で丸くなった。

 そして夜。

 庭の虹色の天蓋の下、精霊樹の優しい光に照らされながら、シエルの歓迎会が開かれた。

 セシルは、今日も腕を振るい、極上の料理を作り上げた。魔力農園の野菜をたっぷり使った色鮮やかなグラタン、ワイバーンの討伐報酬で得た高品質な肉の特大ロースト、そしてマシロの氷室で冷やした絶品のフルーツタルト。

「シエル! うちのクランへようこそ! これからは、アタシたちが背中を預け合う最高の仲間だ!」

 アイラが木製ジョッキを高々と掲げる。

「キュルルゥッ♪」

 シエルは、アイラの声に応えるように優雅に鳴き、セシルが用意した特製の上質な肉片を嬉しそうに啄んでいた。

「……信じられないほど、穏やかで美しい時間だ。私は、この場所に出会うために、あんな苦しい呪いの旅を続けていたのかもしれないな」

 シルヴィアが、ワイングラスを傾けながら、心からの笑顔を見せた。

「えへへ、私もこのクランに来てから、毎日が幸せでいっぱいですニャ!」

 ミーアが猫耳をピンと立てて、幸せそうにデザートを堪能している。

 テラスでは、フェルやピコ、ソラ、ライ、ルミナたち魔物組が、新しい仲間であるシエルを囲んで歓迎し、ラピスやイグニス、ベル、ファムといった幼い仲間たちが、シエルの黄金の翼にすり寄って甘えていた。メルティは空中から黄金の鱗粉を振りまいて宴を彩り、シーナが精霊の池から美しい歌声を響かせ、ライラの竪琴がその場をさらに華やかにしていた。

 賑やかで、優しくて、誰もが誰かを必要とし、誰もが誰かに感謝している場所。

 王都で「足手まとい」と呼ばれ、すべてを失った俺の周りには、今、これほどまでに頼もしく、温かい家族たちがいる。

 急ぐ必要なんてない。俺たちの絆は、この夕日のように美しく温かく、この辺境の地で永遠に輝き続けていくのだから。

 星降る夜の下、笑い声と美しい音楽が、いつまでも絶えることなく響き渡っていた。

【現在のステータス】

名前:レイン

職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)

称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 森の守護者 / 大地の開拓者 / 導きの光 / 豊穣の主 / 呪い打ち砕く者

Lv:48(※ポイズン・ワイバーンの群れの討伐とトワイライト・グリフォンの救出によりアップ)

HP:500 / 500

MP:300 / 300

【スキル】

・生活魔法 Lv.10(極まる)

・剣術 Lv.4

・解体 Lv.8

・野営技術 Lv.10(極まる)

・野戦調薬 Lv.10(極まる)

・植物知識 Lv.10(極まる)

・建築・修繕 Lv.10(極まる)

・鑑定 Lv.8

・気配察知 Lv.10(極まる)

・魔導知識 Lv.10(極まる)

・料理 Lv.10(極まる)

【固有スキル】

絆紋きずなもん:対象の魔物(および心を持つ存在)と心を通わせ、警戒心を解き放つ。集った魔物たちと精霊樹の魔力を調和させ、巨大な隠蔽と浄化の絶対結界を形成している。

【クラン『絆紋亭』メンバー】

空色小竜ソラ:絆レベル5

・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5(※群を抜く制圧力により戦闘力がさらに進化)

・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5(※群を抜く制圧力により戦闘力がさらに進化)

・クリスタル・ゲッコー(ルチル):絆レベル5

・スピリット・フォーン(ミエル):絆レベル5

・クリア・スライム(スイ):絆レベル5

宝石蜘蛛ルリ:絆レベル5

・雷鳴の怪鳥ライ:絆レベル5

・シャドウ・キャット(クロ):絆レベル5

・水妖のミロ:絆レベル5

・氷雪の幻獣マシロ:絆レベル5

・黄金の天馬ルミナ:絆レベル5

・花纏いの黒豹フロリア:絆レベル5

・月影の白蛇ルナ:絆レベル5

・人魚の少女シーナ:絆レベル5

・瑠璃色の幼竜ラピス:絆レベル5

・紅蓮の精霊狐イグニス:絆レベル5

・翡翠の風呼び(シルフィ):絆レベル5

・大地の巨熊の幼獣ベル:絆レベル5

・心優しきゴーレム(ティタン):絆レベル5

・虹水晶の巨亀ダイヤ:絆レベル5

・星詠みの白梟ステラ:絆レベル5

・幻影の小狐ファム:絆レベル5

・黄金の女王蜂メルティ:絆レベル5(※絆深化)

・黄昏のグリフォン(シエル):新規合流 / 絆レベル3

・ウールシープの群れおよび森の小動物たち

・アイラ(女戦士・正式なクラン協力者)

・ルウ(魔導士・正式なクラン協力者)

・ゴット(薬師・正式なクラン協力者)

・エリス(見習い魔導士・クランメンバー)

・ドーラ(ドワーフの若き職人・クラン専属建築士兼鍛冶師)

・リナ(服飾職人・クラン専属仕立屋)

・シオン(元王都特級密偵・クラン専属防衛担当)

・セシル(元宮廷料理人・クラン専属料理人)

・フレア(元聖騎士・クラン専属護衛担当)

・ノエル(天才錬金術師・クラン専属錬金術師)

・ライラ(流浪の精霊弓士・クラン専属狩人)

・ミーア(猫耳の行商人・クラン専属商人)

・シルヴィア(元Sランク冒険者の剣聖・クラン専属剣術指南役)

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