第47話 呪われた剣聖と、黄金の朝食
第47話 呪われた剣聖と、黄金の朝食
辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる非公式クラン『絆紋亭』の拠点は、今日という日もまた、世界中のどの場所よりも優しく、そして奇跡のような調和に満ちた朝を迎えていた。
庭の中央にそびえ立つ精霊樹は、日を追うごとにその存在感を増し、今や拠点の絶対的な要として太く力強い幹を天へと伸ばしている。その豊かに茂った枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、庭全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。
宝石蜘蛛のルリが編み上げた虹色の天蓋を透過して降り注ぐ朝日は、精霊樹の放つ淡い翠色の光と見事に混ざり合い、視界に入るものすべてをきらきらと輝かせている。魔力農園で育つ野菜たちは、その恩恵を受けて、朝ごとに一回りも二回りも大きく、鮮やかに色づき、はち切れんばかりの生命力を誇示していた。
「きゅるるーっ!」
「ウォンッ!」
「ピィィィッ!」
「ヒンッ♪」
「ルルゥッ♪」
「シャァンッ♪」
「きゅあぁっ♪」
「キュゥッ♪」
「ホゥッ♪」
「キュイィィッ♪」
澄み切った青空を背景に、空色小竜のソラ、雷鳴の怪鳥ライ、黄金の天馬ルミナ、翡翠の風呼びであるシルフィ、星詠みの白梟ステラ、そして昨日新たに家族となったばかりの黄金の女王蜂メルティが楽しげに上空を旋回している。ルミナの放つ神聖な黄金の光、ライの纏う青白い雷光、ソラの美しい空色の鱗、シルフィが巻き起こすエメラルドグリーンのそよ風、ステラの星屑を散りばめたような銀色の羽ばたき、そしてメルティの放つ黄金の鱗粉が交差し、まるで空に生きた巨大な芸術作品が描かれているかのようだった。
そんな賑やかな空の舞を地上から見上げながら、二匹の魔物が堂々たる足取りで庭を歩いていた。
銀色のウルフである『フェル』と、純白のポーションラビットである『ピコ』だ。
彼らは、俺が王都を追放され、この名もなき辺境の森にたどり着いたその日に、一番最初に俺の『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たちである。
出会った当初は、フェルは群れからはぐれた傷だらけの狼であり、ピコはただの臆病な森の小動物に過ぎなかった。しかし今、フェルの銀色の毛並みは月明かりのように美しく気高い光を放ち、その体躯は一回りも二回りも大きくなり、森の王者のような風格を漂わせている。ピコもまた、その小さな体には信じられないほどの敏捷性と強靭な魔力を宿し、仲間たちを癒やす要として立派に成長を遂げていた。
彼らの後ろを、瑠璃色の幼竜ラピス、紅蓮の精霊狐イグニス、大地の巨熊の幼獣ベル、そして幻影の小狐ファムといった幼い魔物たちが、よちよちと、しかし元気いっぱいに追いかけていた。フェルとピコは時折立ち止まり、幼い魔物たちが転ばないように優しく鼻先で促している。その姿は、この大家族の頼れる兄と姉そのものだった。
「フェル、ピコ。今日もみんなの面倒を見てくれてありがとうな。お前たちがいてくれるから、俺は安心してこの場所を守れるんだ」
俺ことレインは、縁側に腰掛けながら、足元にすり寄ってきた二匹の頭を順番に優しく撫でた。
「ウォンッ♪」
「キュイッ♪」
フェルは嬉しそうに目を細めて俺の手に頬をすり寄せ、ピコは自慢の長い耳をピクピクと動かして俺の膝の上に飛び乗ってきた。
王都の勇者パーティーにいた頃は、毎朝が息の詰まるようなプレッシャーと冷徹な命令の連続だった。自分がどれだけ尽くしても、誰からも感謝されず「無能」と切り捨てられ、すべての居場所を奪われた。睡眠時間すら削って剣を磨き、魔石を浄化し、食事を作り続けた日々は、ただ泥水のように冷たく苦しいだけのものだった。
だが、今の俺には、こんなにも温かく、かけがえのない家族たちがいる。誰もが互いを尊重し、足りない部分を補い合い、笑顔を交わす。彼らは俺を頼りにしてくれ、俺も彼らを心から愛している。この『絆紋亭』こそが、俺にとっての絶対の帰る場所だった。
「さて、みんなのお腹が空く前に、朝飯の準備をするか。今日はメルティの持ってきてくれた『黄金の霊蜜』を使ってみる約束だったからな」
俺がそう呟くと、フェルとピコは力強く鳴き、ラピスやベルたちを連れて水路の方へと遊びに行かせてくれた。
* * *
一階の広々とした厨房へと降りると、そこにはすでに見習い魔導士のエリス、仕立屋のリナ、元王都特級密偵のシオン、元宮廷料理人のセシル、元聖騎士のフレア、天才錬金術師のノエル、流浪の精霊弓士ライラ、そして猫耳の行商人ミーアがエプロン姿で立ち、手際よく調理を進めていた。
「あ、レイン様! おはようございますっ!」
「レインさん、おはようございます。今朝はメルティちゃんの黄金の霊蜜を使えるということで、セシルさんが朝から気合い入りまくりですよ!」
「皆さん、おはようございます! 今朝のメニューは、特製の魔力小麦で作った『焼きたての厚切りフレンチトースト』に、黄金の霊蜜をたっぷりと染み込ませたものと、霊蜜で照り焼きにした自家製厚切りベーコンですよ!」
「私も、微力ながらパンを分厚く切るのをお手伝いさせていただいております!」
「あ、あのっ、おはようございます……。ティタンの火力調整機能を使って、フライパンの温度を完璧に保っています!」
「ふふっ、人間の料理というのは、見ていてとても興味深いですね。甘い香りがたまりません」
「レイン様、おはようございますニャ! 霊蜜の甘い匂いで、お腹がペコペコですニャ!」
八人がそれぞれの持ち場から、明るく温かい笑顔で迎えてくれる。ミーアの猫耳がピコピコと嬉しそうに動いている。ノエルの背後では、心優しきゴーレムであるティタンが、その巨大な鉄の体で繊細に魔道コンロの火加減を調整していた。
厨房いっぱいに広がるのは、バターがたっぷりと溶けたフライパンでパンが焼ける甘く幸せな香りと、厚切りベーコンから滲み出た肉汁に黄金の霊蜜が絡んで焦げる、暴力的なまでに食欲をそそる匂いだ。セシルが加わったことで、俺の『料理』スキルや『植物知識』との相乗効果が生まれ、そこに伝説のエリクサーの主原料でもある『黄金の霊蜜』が調味料として加わったのだ。その料理のクオリティは、もはや神々の食卓に並べても遜色のない次元に達していた。
巨大な皿に盛りつけられたフレンチトーストは、まるで雲のようにふっくらと膨らんでおり、表面はカリッと、中はプリンのようにとろとろに仕上がっている。そこにメルティの黄金の霊蜜がたっぷりと掛けられ、宝石のようにキラキラと輝いていた。その横には、霊蜜の照り焼きソースが絡んだ極厚の自家製ベーコンと、シオンが寸分の狂いもなく均等に切り分けた色鮮やかな魔力野菜のサラダがたっぷりと添えられ、フレッシュなトマトの酸味が食欲をさらに引き立てた。
女戦士のアイラ、少女魔導士のルウ、老薬師のゴット、ドワーフの若き職人ドーラもリビングに集まり、「いただきます」の合図と共に賑やかな朝食が始まった。
「んんっ!? なんだこれ!? 口に入れた瞬間、フレンチトーストが溶けて消えたぞ!? それにこの霊蜜の甘み、ただ甘いだけじゃなくて、体の奥底から力が湧いてくるような奥深さだ! ベーコンの塩気と合わせると、無限に食えちまうよ!」
アイラが豪快にパンを頬張りながら、信じられないというように目を輝かせる。
「本当によ……セシルが来てから毎朝驚かされてるけど、今日のこれは別格ね。霊蜜の魔力が全身の細胞を活性化させていくのがわかるわ。お肌の調子も一瞬で最高になっちゃった」
ルウもうっとりとした表情を浮かべて、ベーコンを口に運ぶ。
「このベーコンの旨味と霊蜜のコク……王都の宮廷料理ですら、これには足元にも及びません。涙が出るほど美味しいです……!」
フレアは、美しい顔をほころばせながら、信じられないものを見るような目で肉を噛み締めていた。
「……驚きました。精霊の森で数百年生きてきましたが、これほどまでに生命力に溢れ、心を満たす食事は初めてです。メルティの霊蜜が、レインさんたちの料理と見事に調和していますね」
ライラが、エルフ特有の優雅な所作でサラダを味わいながら、感動の涙を浮かべていた。
「ほっほっほ、伝説の霊蜜を朝からトーストにかけて食うなど、王族が見たら卒倒するじゃろうな。寿命が十年は延びた気分じゃわい」
ゴットも満足そうに髭を撫でて笑う。
テラスでは、魔物たちもそれぞれに用意された特製の朝食を夢中で食べている。ラピスやイグニス、ベル、ファムといった幼い魔物たちには、セシルが特別に消化の良い特製ミルク煮込みに霊蜜を垂らしてくれており、顔を突っ込んで美味しそうに頬張っていた。ソラやライ、ルミナたちも、上質な魔物肉や果実を存分に堪能している。ダイヤはたっぷりの魔力草を幸せそうに咀嚼し、ステラは専用に用意された極上の肉片を優雅に啄んでいた。
メルティは自分の霊蜜が皆に喜ばれているのを見て、「キュイィィッ♪」と誇らしげに空中を舞いながら、花々の間を嬉しそうに飛び回っていた。
誰もが満ち足りた顔で、笑い合いながら食卓を囲む。この他愛のない日常の風景こそが、俺にとって何よりの宝物だった。
* * *
和やかな朝食を終え、食後のティータイムを楽しんでいた時のことだ。
突如として、庭の奥からフェルとピコの鋭い警戒の声が響き渡った。
「ウォォォンッ!!」
「キュイッ!!」
「どうした、フェル、ピコ?」
俺が立ち上がると、シオンも瞬時に密偵の顔つきに戻り、腰の短剣に手をかけた。
「……レインさん、北の『黒曜の谷』の方角から、すさまじい邪気と血の匂いが風に乗って流れてきました。何者かが、強力な魔物と死闘を繰り広げているようです」
「黒曜の谷か……。あそこは強力なアンデッドや呪われた魔物が巣食う危険地帯だ。ただの冒険者なら一瞬で命を落とすぞ」
俺が眉をひそめると、フェルが俺の服の裾を咥え、北の方角を指し示すように引っ張った。
「フェル、助けに行きたいのか?」
「ウォンッ!」
「キュイッ!」
フェルとピコが力強く頷く。彼らは、俺が追放された日に手を差し伸べてくれた時のことを覚えているのだ。傷つき、死にかけている者を放っておけないという優しさは、間違いなくこのクランの魂そのものだった。
「わかった、行こう。アイラ、フレア、シオン、ライラ! 出陣だ。ルウたちは拠点の防衛をお願いできるか?」
「任せな! どんなアンデッドだろうが、アタシの斧で粉砕してやる!」
アイラが戦斧を背負い直して力強く立ち上がる。
「私も行きます。聖騎士の力は、邪悪な呪いを祓うためにあるのですから!」
フレアも聖剣の柄に手を添え、強い決意の瞳を見せた。
「上空からの援護と索敵は私にお任せを」
ライラが白銀の弓を手に取る。
「よし、魔物はフェル、ピコ、そして空からの索敵にソラとステラを連れて行く。エリス、ゴットさん、ドーラ、ノエル、セシル、ミーアたちは、拠点の防衛を頼む!」
「はいっ! ティタンと一緒に、拠点の外周防衛システムを完璧にしておきます!」
ノエルが丸い眼鏡を光らせて元気よく頷いた。
こうして、未知の死闘の気配を追って、俺たちはアシュタルの北に位置する『黒曜の谷』へと出発した。
* * *
アシュタルの街から馬車とフェルの背を借りて駆け抜け、一時間ほど。
視界から緑が消え、ゴツゴツとした黒い岩肌が剥き出しになった『黒曜の谷』へと足を踏み入れた。谷の底には淀んだ霧が立ち込め、むせ返るような死臭と邪気が漂っている。
「うっ……嫌な空気ね。呼吸するだけで肺が汚れそうだわ」
アイラが顔をしかめる。
「シオン、ライラ、周囲の警戒を。フェルとピコは、血の匂いの元へ案内してくれ」
「了解です。クロ、影の探知を」
「にゃっ!」
フェルとピコの先導で谷の奥深くへと進むと、開けた岩場から激しい剣戟の音と、魔物の咆哮が聞こえてきた。
俺たちが物陰からそっと覗き込むと、そこには信じられない光景が広がっていた。
「はぁぁぁぁッ!!」
一人の女性が、巨大な魔物と単独で死闘を繰り広げていたのだ。
彼女は、かつて白銀だったと思われる、今は泥と血にまみれたボロボロの軽鎧を纏い、長く美しい銀髪を振り乱しながら、身の丈ほどもある大剣を振るっていた。
その剣筋は、素人の俺が見てもわかるほど洗練され、無駄がなく、美しかった。まさに『剣聖』と呼ぶにふさわしい絶技。
しかし、彼女の動きはひどく鈍かった。よく見ると、彼女の右腕から首筋にかけて、ドス黒い泥のような『呪いの痣』が浸食しており、それが彼女の体力と魔力をゴリゴリと削り取っているのがわかった。
そして、彼女を取り囲んでいるのは、体長が三メートルを超える首なしの騎士——Aランク相当のアンデッド魔物『カース・デュラハン(呪縛の首なし騎士)』が三体。
彼らは、強力な呪いを帯びた黒い大剣を振り回し、弱り切った女性をじわじわと追い詰めていた。
「あれは……王都の冒険者ギルドで『剣聖』と謳われた、Sランク冒険者のシルヴィア殿ではありませんか!?」
フレアが驚愕の声を上げた。
「剣聖シルヴィア? どうしてそんな大物冒険者が、こんな辺境の谷でボロボロになっているんだ?」
「わかりません……。彼女は数年前、強力な魔神の呪いを受け、治療法を求めて姿を消したと聞いていましたが……まさか、こんなところで……!」
「ガァァァッ!!」
カース・デュラハンの一体が、シルヴィアの死角から呪いの大剣を振り下ろした。
「くっ……体が、動か……!」
シルヴィアが大剣で受け止めようとするが、呪いの激痛に顔を歪め、体勢を崩してしまう。
「危ないっ!」
俺が叫ぶより早く、俺の最古参の相棒たちが動いていた。
「ウォォォンッ!!」
「キュイッ!!」
銀色の閃光と、純白の弾丸が、谷底を駆け抜けた。
フェルは目にも留まらぬ速度でシルヴィアの前に飛び出し、その全身から青白い雷光を立ち昇らせた。
『白銀の迅雷』!
雷を纏ったフェルの強烈な突進が、デュラハンの大剣を弾き飛ばし、その巨大な鎧の胴体を大きく凹ませた。
そして、フェルが作った隙を見逃さず、ピコが驚異的な跳躍力で空高く舞い上がった。ピコの体から、俺の『野戦調薬』の魔力を受け継いだ浄化と破壊の光が溢れ出す。
『浄化の月面蹴り(ホーリー・ムーン・キック)』!
空中で体を捻り、光を纏った強烈な両足蹴りが、残った二体のデュラハンの胸部装甲にクリーンヒットする。ドゴォォォンッ!という轟音と共に、呪いの鎧が粉砕され、二体のアンデッドは黒い霧となって消滅した。
「な、なんだ……!? 狼と、兎……?」
シルヴィアが、驚愕に目を見開いて尻餅をつく。
「レインの相棒たちにばかり、いい格好はさせないよ! オラァッ!!」
アイラが戦斧に闘気を纏わせ、跳躍して残る一体のデュラハンの脳天を叩き割る。
「聖なる光よ、邪悪を退けよ!『ホーリー・スラッシュ』!」
フレアの聖剣が眩い光を放ち、砕け散ったデュラハンの残骸ごと、谷底の邪気を完全に浄化して消し去った。
一瞬の出来事だった。Sランク冒険者であるシルヴィアを死の淵まで追い詰めた強力なアンデッドたちが、俺たちの連携の前に、ものの数秒で塵と化したのだ。
* * *
「だ、誰だお前たちは……。なぜ、私を助けた……?」
シルヴィアは、大剣を杖代わりにして立ち上がろうとしたが、呪いの痛みに耐えきれず、再びその場に倒れ込みそうになった。
「無理するな。俺はレイン。絆紋亭のマスターだ。フレア、彼女を支えてやってくれ」
「はい。シルヴィア殿、しっかりしてください!」
フレアが駆け寄り、シルヴィアの体を優しく支える。
「フレア……? 王都の聖騎士フレアか……? どうして、お前がこんな辺境に……」
「話は後です。それより、その呪い……ひどい状態ですね。このままでは命に関わります」
シルヴィアの右腕の呪いは、すでに首筋から心臓の近くまで黒い泥のように浸食し、脈打つたびに彼女の生命力を奪っていた。
「……構うな。これは、魔神から受けた『死の呪縛』。王都の最高位の神官ですら解けなかった、不治の呪いだ。私は……もうすぐ自分が呪いに完全に飲まれ、理性を失った化け物になることを悟った。だから、誰にも迷惑をかけないこの辺境の谷で、戦いの中で静かに死のうと思ったのだ……」
シルヴィアが、自嘲気味に笑い、目を閉じた。
「……勝手に諦めるな。俺が治してやる」
俺がそう言うと、シルヴィアは驚いたように目を開けた。
「馬鹿な……神官でもないお前に、この呪いが解けるはずが……!」
「俺を信じろ。それに、俺には最高の相棒と、最高の素材がある」
俺は両手を広げ、右手の甲にある翠色の痣――『絆紋』の光を限界まで解放した。
そして、腰のポーチから、今朝メルティから貰ったばかりの『黄金の霊蜜』を取り出し、それを俺の『野戦調薬』で作り上げた最高級の解呪ポーションと混ぜ合わせた。
翠色の温かな波紋が、黒曜の谷の邪気を押し退けるように広がり、シルヴィアの体を優しく包み込む。
「この光……なんて優しくて、純粋な魔力……。それに、この甘い香りは……?」
「少し熱くなるぞ」
俺は、黄金の霊蜜を混ぜ合わせたポーションをシルヴィアの呪いの痣に直接振りかけ、そこに絆紋の浄化の光と、ピコの癒やしの魔力を同時に注ぎ込んだ。
「くぅぅっ……!!」
シルヴィアが苦悶の声を漏らす。
黄金の霊蜜の持つ究極の生命力と、絆紋の浄化の力が反発し合いながら、呪いの黒い泥を細胞の奥底から強引に焼き尽くし、分解していく。
「消えろッ!!」
俺が魔力を極限まで高めると、パキィィィンッ!というガラスが割れるような音と共に、シルヴィアの体を縛っていた魔神の呪いが、完全に黒い霧となって霧散した。
跡に残ったのは、白磁のように美しい、傷一つないシルヴィアの肌だった。
「あ……あぁ……」
シルヴィアは、自身の右腕を信じられないといった様子で何度も見つめ、そして両手で顔を覆って泣き崩れた。
「痛みが……消えた。呪いが、消えた……。私は、死ななくて、いいのか……?」
「ああ。もう大丈夫だ。よく一人で耐え抜いたな」
俺が優しく頭を撫でると、シルヴィアは俺の胸に縋り付くようにして、子どものように声を上げて泣いた。フェルとピコが、彼女を慰めるようにそっと寄り添い、その頬を舐めてやった。
「……シルヴィア。帰る場所がないなら、うちのクランに来ないか? うちには、君と同じように居場所を失ったけど、互いを思いやれる最高の家族たちが待ってる。君のその剣の腕、うちの護衛や指導役として貸してくれないか?」
俺が手を差し出すと、アイラやフレア、シオンたちも温かく頷き、フェルやピコが優しく鳴き声を上げて歓迎の意を示した。
シルヴィアは、涙で濡れた顔を上げ、俺の差し出した手と、温かい仲間たちの姿を見て、満面の笑みを浮かべた。
「……はいっ! この命、そして私の剣のすべてを、レイン様と皆様のために捧げます!」
こうして、元Sランク冒険者である剣聖シルヴィアが、絆紋亭の新しい家族として加わることになった。
* * *
その日の夕暮れ。
新しい家族であるシルヴィアを連れて、俺たちはアシュタルの拠点へと帰還した。
拠点では、エリス、ゴット、ドーラ、ノエル、セシル、ミーアたちが温かく出迎えてくれ、新しい人間の仲間の加入に拠点中が歓喜の声を上げた。特にフレアは、かつて王都で憧れていた剣聖の加入に大興奮し、すぐに剣の稽古をお願いしていた。
そして夜。
庭の虹色の天蓋の下、精霊樹の優しい光に照らされながら、シルヴィアの歓迎会が開かれた。
セシルは、今朝の『黄金の霊蜜』をふんだんに使用した、究極のフルコースを作り上げた。霊蜜で艶やかにコーティングされたワイバーン肉の極上ロースト、霊蜜と果実の爽やかなサラダ、そしてマシロの氷室で冷やした、霊蜜とチーズを合わせた特製ハニータルト。
「シルヴィア! うちのクランへようこそ! これからは、アタシたちが背中を預け合う最高の仲間だ!」
アイラが木製ジョッキを高々と掲げる。
「あ、ありがとうございます……! こんなに温かい歓迎を受けたのは、冒険者になって初めてです……!」
シルヴィアは、長年の呪いの苦しみから解放された安堵と、初めて味わう温かい料理のあまりの美味しさに、ポロポロと涙をこぼしながら夢中でロースト肉を頬張っていた。
テラスでは、フェルやピコ、ソラ、ライ、ルミナたち魔物組が、新しい仲間であるシルヴィアを囲んで歓迎し、ラピスやイグニス、ベル、ファムといった幼い仲間たちが、シルヴィアの膝の上によじ登って甘えていた。メルティは空中から黄金の鱗粉を振りまいて宴を彩り、シーナが精霊の池から美しい歌声を響かせ、ライラの竪琴がその場をさらに華やかにしていた。
賑やかで、優しくて、誰もが誰かを必要とし、誰もが誰かに感謝している場所。
王都で「足手まとい」と呼ばれ、すべてを失った俺の周りには、今、これほどまでに頼もしく、温かい家族たちがいる。
急ぐ必要なんてない。俺たちの絆は、どんな呪いよりも強く、どんな魔法よりも優しく、この辺境の地で永遠に輝き続けていくのだから。
星降る夜の下、笑い声と美しい音楽が、いつまでも絶えることなく響き渡っていた。
【現在のステータス】
名前:レイン
職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)
称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 森の守護者 / 大地の開拓者 / 導きの光 / 豊穣の主 / 呪い打ち砕く者
Lv:47(※カース・デュラハンの討伐とシルヴィアの救出によりアップ)
HP:490 / 490
MP:290 / 290
【スキル】
・生活魔法 Lv.10(極まる)
・剣術 Lv.4(※シルヴィアの動きを観察しアップ)
・解体 Lv.8
・野営技術 Lv.10(極まる)
・野戦調薬 Lv.10(極まる)
・植物知識 Lv.10(極まる)
・建築・修繕 Lv.10(極まる)
・鑑定 Lv.8
・気配察知 Lv.10(極まる)
・魔導知識 Lv.10(極まる)
・料理 Lv.10(極まる)
【固有スキル】
・絆紋:対象の魔物(および心を持つ存在)と心を通わせ、警戒心を解き放つ。集った魔物たちと精霊樹の魔力を調和させ、巨大な隠蔽と浄化の絶対結界を形成している。
【クラン『絆紋亭』メンバー】
・空色小竜:絆レベル5
・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5(※シルヴィア救出の連携により戦闘力がさらに進化)
・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5(※シルヴィア救出の連携により戦闘力がさらに進化)
・クリスタル・ゲッコー(ルチル):絆レベル5
・スピリット・フォーン(ミエル):絆レベル5
・クリア・スライム(スイ):絆レベル5
・宝石蜘蛛:絆レベル5
・雷鳴の怪鳥:絆レベル5
・シャドウ・キャット(クロ):絆レベル5
・水妖の獺:絆レベル5
・氷雪の幻獣:絆レベル5
・黄金の天馬:絆レベル5
・花纏いの黒豹:絆レベル5
・月影の白蛇:絆レベル5
・人魚の少女:絆レベル5
・瑠璃色の幼竜:絆レベル5
・紅蓮の精霊狐:絆レベル5
・翡翠の風呼び(シルフィ):絆レベル5
・大地の巨熊の幼獣:絆レベル5
・心優しきゴーレム(ティタン):絆レベル5
・虹水晶の巨亀:絆レベル5
・星詠みの白梟:絆レベル5
・幻影の小狐:絆レベル5
・黄金の女王蜂:絆レベル4(※絆深化)
・ウールシープの群れおよび森の小動物たち
・アイラ(女戦士・正式なクラン協力者)
・ルウ(魔導士・正式なクラン協力者)
・ゴット(薬師・正式なクラン協力者)
・エリス(見習い魔導士・クランメンバー)
・ドーラ(ドワーフの若き職人・クラン専属建築士兼鍛冶師)
・リナ(服飾職人・クラン専属仕立屋)
・シオン(元王都特級密偵・クラン専属防衛担当)
・セシル(元宮廷料理人・クラン専属料理人)
・フレア(元聖騎士・クラン専属護衛担当)
・ノエル(天才錬金術師・クラン専属錬金術師)
・ライラ(流浪の精霊弓士・クラン専属狩人)
・ミーア(猫耳の行商人・クラン専属商人)
・シルヴィア(元Sランク冒険者の剣聖・クラン専属剣術指南役として新規加入)
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