第4話 もふもふたちの行進と、廃屋の改修作業
第4話 もふもふたちの行進と、廃屋の改修作業
アシュタルの街で生活を始めてから、どれくらいの月日が経ただろうか。
王都での日々がまるで遠い夢の出来事のように思えるほど、この辺境の街での毎日は穏やかで、そしてどこか賑やかに過ぎ去っていった。
今日も朝の光がアシュタルの石畳を柔らかく照らし出す中、俺ことレインは宿のベッドから体を起こした。と同時に、枕元で丸くなっていた小竜のソラが「きゅるる……」と可愛い寝言をもらしながら、もそもそと起きてきた。
「おはよう、ソラ。今日もいい天気だな」
「きゅっ!」
ソラは翼をパタパタと動かして俺の肩に飛び乗ると、定位置である首元にすりりと体を預けてきた。その温もりを感じながら、俺は部屋を出て一階の食堂へと降りる。
宿の主人が出してくれた熱々の野菜スープと焼き立てのパンを美味しく平らげ、俺たちは今日の予定を確認するために冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの掲示板の前には、相変わらず多くの冒険者たちが群がっている。
「お、レインじゃないか。今日も早いな」
声をかけてきたのは、昨日も顔を合わせたギルドの赤毛の受付嬢だった。彼女は俺の顔を見るなり、嬉しそうに微笑んだ。
「おはようございます。今日も何か、手頃な採取の依頼はありますか?」
「ふふ、レインさんにお願いすると依頼の完了スピードが早くて正確だから、みんな大喜びですよ。あ、そうだ。ちょうど西の森の周辺で、ちょっとした『お使い』の依頼が出てるんですが……受けてくれませんか?」
彼女が指し示した羊皮紙には、『西の森の木苺の採取と、害虫駆除。報酬:銀貨二枚』と書かれていた。
木苺は甘酸っぱくて美味しく、街の子供たちにも大人気の果物だ。害虫といっても、少し大きめのハチの巣を安全に退避させる程度のもので、危険度は極めて低い。
「分かりました。これならすぐに終わりますね。受けていきます」
「ありがとうございます! 気をつけて行ってきてくださいね」
ギルドを後にした俺は、ソラを肩に乗せ、のんびりと西の森へと歩みを進めた。
アシュタルの街を出て街道を少し歩き、木々の緑が濃くなる小道に入ると、爽やかな風が吹き抜ける。森の動物たちや小鳥のさえずりが心地よく、歩いているだけで心が癒されていくのを感じた。
「さて、まずは木苺を探すか。甘くて美味しそうなやつを選ばないとだな」
「きゅるっ!」
ソラも嬉しそうに辺りをキョロキョロと見回している。
西の森の奥へと進み、陽当たりの良い開けた場所に出ると、鮮やかな赤色に実った木苺の茂みが見えてきた。大粒で、いかにもジューシーそうだ。
「お、すごい豊作だな。これならすぐに見つかる……っと」
俺が籠を下ろして木苺を摘み始めようとしたその時、背後の茂みからガサリと大きな音が響いた。
反射的に身構えた俺の前に、ソラが「グルルッ!」と小さな威嚇の声をあげて飛び出す。しかし、茂みから出てきたのは恐ろしい魔物などではなく、モフモフとした毛並みが特徴的な、愛らしい生き物たちだった。
「……あれは、ウールシープの群れか?」
そこにいたのは、極上の羊毛を纏った丸々としたウールシープたちが数匹。だが、よく見ると彼らは慌てふためいており、先頭にいた一匹の親羊が、前足を痛そうに引きずっていた。
周囲の草むらには、野生のツタが複雑に絡まり、彼らの足を縛り付けている。どうやら、森の奥で別の魔物に追われて逃げてきた拍子に、厄介な絡みツタの罠に引っかかってしまったらしい。
(助けて……動けないよぅ……痛いよぅ……!)
ウールシープたちの恐怖と助けを求める感情が、直接脳内に流れ込んでくる。
俺は持っていた籠をそっと地面に置くと、両手を広げてゆっくりと近づいた。
「大丈夫だ、怖がらないでくれ。今、そのツタを切ってあげるから」
俺の右手の甲に刻まれた翠色の痣が淡い光を放ち、温かな波紋がウールシープの群れを包み込んだ。
途端に、パニックを起こしていた彼らの瞳から恐怖の色がスーッと消え去り、穏やかな安心感に満たされていく。ウールシープたちは「メェ~」と穏やかな鳴き声をあげ、俺の服の裾や手に頭を擦りつけてきた。
「よしよし、おとなしくしててくれよ」
俺はナイフを使って足に絡みついたツタを丁寧に取り除き、傷ついた部分に優しく薬草の軟膏を塗ってやった。
数分後、すべての処置が終わり、ウールシープたちはすっかり元気を取り戻した。
「ほら、もう大丈夫だ。安全な場所へ帰りな」
そう言って立ち上がった俺を見て、ウールシープの一匹が「メェ!」と嬉しそうに鳴き、さらに後ろからぞろぞろと別の動物たちが姿を現した。
フォレストラビット、羽の生えた小鳥の魔物、さらには木陰から顔を覗かせる小さなフォックス型の魔物まで。気づけば、俺の周囲は数えきれないほどの「もふもふ」とした魔物たちに囲まれていた。
「……えっと、君たちもみんな、俺についてくるつもりか?」
「きゅるるー!」
「メェ~♪」
それぞれが嬉しそうに鳴き声をあげ、俺の足元に体を擦りつけてくる。みんな、どこかしらに怪我をしていたり、過去に人間のせいで怖い思いをしたりした者たちばかりだった。俺の持つ『絆紋』の力と優しさに触れ、安心して集まってきてしまったらしい。
ソラは肩の上から「私のお友達だぞ!」と言わんばかりに胸を張って見せている。
「はぁ……これじゃあ、まるで動物園だな」
苦笑いを浮かべながらも、俺は全員の頭を優しく撫でてやった。
だが、このまま大量の魔物たちを連れてアシュタルの街に戻れば、門の衛兵や街の住人たちが驚き、大騒ぎになってしまうだろう。ペットとして飼うには数が多すぎるし、何より彼ら自身が安心して過ごせる「居場所」が必要だった。
「みんな、街にそのまま連れていくわけにはいかないんだ。だから……俺たちだけの、安全で広いお家を作ろうか」
俺がそう呟くと、魔物たちはまるで言葉を理解したかのように、一斉に「クゥン!」と嬉しそうに鳴いた。
その日の午後、俺はアシュタルの街のはずれ、普段は誰も近づかない静かな森の小高い丘の上にある「打ち捨てられた古い廃屋」の前に立っていた。
かつては開拓民の農家だったのだろうが、長年放置されていたため、屋根の一部は崩れかけ、庭は雑草が生い茂り、窓ガラスも割れていた。しかし、頑丈な石造りの土台と太い柱はしっかりしており、広大な庭と豊かな自然に囲まれたその場所は、拠点にするには最高の環境だった。
「ここを、俺たちみんなの家にしよう」
俺がそう宣言すると、ソラは嬉しそうに空へ向かって小さな火花を飛ばし、ウールシープたちは庭の雑草をモグモグと綺麗に食べ始め、他の魔物たちもそれぞれの特技を活かして片付けを手伝い始めた。
かつて勇者パーティーで「足手まとい」と嘲られ、自分の居場所を失った俺が、今、たくさんの心優しき魔物たちに囲まれて、自分自身の手で新しい「帰る場所」を作ろうとしている。
胸の奥が、温かく満たされていくのを感じた。
――日暮れまでに、このボロボロの廃屋をピカピカに改装して、みんなが安心して眠れる最高のお城にしてやるとしよう。
【現在のステータス】
名前:レイン
職業:冒険者(元・勇者パーティー裏方担当)
称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者
Lv:15
HP:170 / 170
MP:30 / 30
【スキル】
・生活魔法 Lv.5
・剣術 Lv.2
・解体 Lv.5
・野営技術 Lv.7
・野戦調薬 Lv.4
・植物知識 Lv.3
・建築・修繕 Lv.3(NEW)
【固有スキル】
・絆紋:対象の魔物と心を通わせ、警戒心を解き放つ。深い絆を結んだ魔物と感覚や力を共有できる。
【従魔・クランメンバー】
・空色小竜(名前:ソラ)
・ウールシープの群れ
・フォレストラビット等の小動物魔物たち
状態:拠点改装の手伝い中 / 絆レベル深化
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