↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/127

第45話 閑話:偽りの条約と、愚者たちの末路

第45話 閑話:偽りの条約と、愚者たちの末路

 大陸の南方に位置する大国、聖ファルシア王国。

 かつては人類の希望の象徴であった白亜の王都グランゼルと同盟を結び、共に魔王軍の脅威に立ち向かうと誓い合ったこの国は今、華やかな祝宴の熱気に包まれていた。

 王城の最も広大な大広間には、豪華絢爛なシャンデリアが眩い光を放ち、運び込まれた最高級のワインや山海の珍味がテーブルを埋め尽くしている。着飾った貴族たちは、グラスを打ち鳴らし、高笑いを響かせながら、一つの「朗報」に酔いしれていた。

「聞いたか? グランゼル王国がついに滅亡したそうだ。魔王軍の先陣が王都を突破し、国王も行方不明だとか」

「ほっほっほ、自業自得というやつですな。魔石の備蓄が腐敗し、結界すら維持できなかったなどと、呆れて果てて言葉も出ませんぞ」

「我らがファルシア王国は賢明でしたな。グランゼルの要請を無視し、いち早く魔王軍と『不可侵条約』を結んだのですから。これで我が国は永遠に安泰です!」

 玉座に腰掛けるファルシア国王もまた、満足げにワイングラスを傾けていた。

 グランゼル王国を見捨てたことへの罪悪感など、彼らの心には微塵も存在しない。自分たちさえ助かればそれでいい。圧倒的な力を持つ魔王軍に対し、莫大な貢物と引き換えに不可侵条約をもぎ取った自分の外交手腕を、国王は心の底から誇っていた。

「皆の者、大いに飲むが良い! 愚かなグランゼルの連中は魔王の餌食となったが、我がファルシアは永遠の平和を手に入れたのだ!」

 しかし、彼らは根本的な事実を何一つ理解していなかった。

 グランゼル王国の地下にあった莫大な魔石の備蓄が、なぜ数百年間も純度を保ち続けていたのかを。

 それが定期的なメンテナンスによるものではなく、勇者パーティーの荷物持ちであった一人の青年——レインの持つ『絆紋』の浄化の力が、無意識のうちに大陸全土に繋がる魔力脈の瘴気を祓い続けていたからだということを。

 レインが追放され、グランゼルの魔力脈が完全に汚染された影響は、すでにこのファルシア王国にも水面下でじわりじわりと忍び寄っていた。

 王城の地下深く、国全体を覆う防壁の要である『大魔力炉』では、管理の魔導士たちが青ざめた顔で計器を見つめていた。

「ば、馬鹿な……! 魔力炉の純度が急激に低下している! グランゼルの方角から、信じられない濃度の瘴気が流れ込んできているぞ!」

「魔石が黒く変色していく……! このままでは、結界が保てない!」

 だが、その悲痛な報告が祝宴に酔いしれる王の耳に届くことは、まだなかった。

   * * *

 一方、ファルシア王国の王都の片隅、悪臭の漂う裏路地。

 そこでは、かつての栄光から完全に転落した一人の女が、泥水の中で震えていた。

 元勇者パーティー『暁の剣』の斥候、ミラである。

 数週間前、魔王軍がグランゼル王都に侵攻を開始した際、ミラは勇者アレクや他の仲間たちを即座に見捨て、自身の持つ隠密スキルをフル活用して単独でファルシア王国へと逃げ延びた。

「私だけは、私だけは生き残るのよ……!」

 そう嘯きながら、彼女は得意げに国境を越えた。しかし、彼女を待っていた現実はあまりにも過酷だった。

 彼女の装備は、数日も経たないうちに使い物にならなくなった。

 隠密行動に不可欠な特殊な革鎧は、関節部分のオイルが切れ、動くたびにギシギシと音を立てるようになった。愛用していたダガーは、魔物の血脂がこびりついて錆びつき、少し硬い木を切ろうとしただけで呆気なく折れてしまった。

 これまでは、彼女が寝ている間にレインが何時間もかけて革鎧のほつれを縫い直し、オイルを塗り、ダガーを鏡のように磨き上げてくれていた。彼女はただ、爪の汚れを気にしながら「ちゃんと手入れしておきなさいよ」と命令するだけだった。

 自分自身の力で装備のメンテナンスなど一度もしたことがなかったミラは、武器の手入れ方法すら知らなかったのだ。

 さらには、斥候としての「罠の感知」や「魔物の気配察知」も、実は彼女自身の能力ではなく、レインが『絆紋』を通じて周囲の森の小動物たちから得た情報を、さりげなく彼女に伝達し、誘導していただけだった。

 そのサポートを失ったミラは、ファルシア王国への道中で何度も魔物の奇襲を受け、毒沼にはまり、盗賊の罠にまんまと引っかかった。

「あ、ああ……どうして、どうして私がこんな目に……っ!」

 現在のミラは、美しい金髪は泥とシラミにまみれ、かつて手入れを欠かさなかった爪は割れて黒く汚れきっていた。盗賊に身包みを剥がされ、奴隷商人に売り飛ばされた彼女は、今やファルシア王国の地下労働施設から逃げ出した手配犯として、追われる身となっていた。

「おい、あそこにいたぞ! 逃げ出した奴隷だ!」

 裏路地の入り口に、松明を持った荒くれ者たちの姿が現れた。

「ひぃっ……! 来ないで、私は勇者パーティーの……!」

「はっ、グランゼルが滅んだのに勇者もクソもあるか! さっさと捕まえて拷問部屋にぶち込め!」

 逃げようと立ち上がったミラだったが、手入れされていない粗悪な靴の底が剥がれ、無様に泥水の中へ顔から転び込んだ。

「痛い……痛いよぉ……! レイン……! レイン、どこにいるの!? 早く私のダガーを研いでよ! 靴を直してよぉッ!」

 彼女の口から出るのは、かつて「無能」と見下し、追放に加担した青年の名前だけだった。しかし、彼女を助けに来る温かい手は存在しない。

 荒くれ者たちの蹴りがミラの腹に深く突き刺さり、彼女の悲鳴が裏路地に虚しく響き渡った。彼女の惨めな末路は、誰に知られることもなく深い闇の中へと消えていった。

   * * *

 同じ頃、祝宴が続くファルシア王城の大広間。

 突如として、城全体を激しい揺れが襲った。

「な、なんだ!? 地震か!?」

「きゃぁぁっ! シャンデリアが!」

 天井から吊るされていた巨大なシャンデリアが落下し、豪華なテーブルを粉々に砕く。貴族たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、血まみれの近衛騎士が大広間の扉を蹴破って転がり込んできた。

「へ、陛下!! 一大事でございます!!」

「騒々しいぞ! 何事だ!」

「ま、魔王軍が……魔王軍の主力部隊が、国境を越えて我が国に侵攻を開始しました! 王都の結界は瘴気によって完全に崩壊し、防衛線はすでに突破されました!!」

「な、なんだと……!? 馬鹿なことを言うな!」

 ファルシア国王は玉座から転げ落ちるようにして立ち上がった。

「我々は魔王軍と不可侵条約を結んでいるのだぞ! 莫大な金と物資を貢いだのだ! 侵攻などあり得ん!」

「そ、それが……魔王軍の幹部は、『人間の書いた紙切れなど、魔族にとっては何の価値もない。ただの目眩ましだ』と……!」

「ば、馬鹿な……騙したというのか……! 悪魔どもめ!」

 その時、大広間の巨大な窓ガラスが粉々に吹き飛び、外から漆黒の翼を持つ巨大な魔族の幹部が姿を現した。

『クックック……愚かな人間どもよ。自分たちだけが助かると本気で信じていたのか?』

「ひぃぃっ! 助けてくれ!」

『貴様らの結界の要であったグランゼルの魔力脈は、すでに完全に腐り落ちた。もはやこの大陸に、我ら魔王軍の進撃を阻むものは何一つ存在しない。貴様らには、最高の絶望を味わわせてやろう』

 漆黒の炎が大広間を包み込み、ファルシア国王の絶望の悲鳴が王城に木霊した。

 他者を見捨て、自分たちの保身だけを考えた愚か者たちの国は、魔王軍の圧倒的な蹂躙の前に、一夜にして火の海へと沈んでいった。

 彼らもまた、自分たちを人知れず守っていた『真の守護者』の存在に気づくことすらできず、傲慢さの代償を命で支払うこととなったのだ。

   * * *

 愚か者たちが業火に焼かれ、絶望に沈んでいく世界の中央部。

 そこから遥か遠く離れた、大陸の最果てに位置する辺境の街アシュタル。

 その東のはずれにある小高い丘の拠点『絆紋亭』では、世界の終わりが近づいていることなど微塵も感じさせない、信じられないほど穏やかで、眩いばかりの幸福に満ちた朝の時間が流れていた。

「ほーら、みんな! 今日は魔力農園で採れたての新鮮なトマトと、ミーアが仕入れてくれた最高級のチーズを使った、セシル特製の『とろけるチーズと野菜のホットサンド』だぞ!」

 雲一つない青空の下、宝石蜘蛛のルリが編み上げた虹色の天蓋と、大きく枝葉を広げた精霊樹の優しい翠色の光に守られた庭のテラス。

 俺ことレインは、焼き立てで香ばしい匂いを放つ大量のホットサンドが積まれた大皿をテーブルの中央に置きながら、満面の笑みで声を上げた。

「わぁぁっ! レイン様、セシルさん、すっごく美味しそうな匂いですっ!」

 見習い魔導士のエリスが満面の笑みで両手を上げ、一番に駆け寄ってくる。

「ガハハ! とろけるチーズとカリカリのパンの匂い! それにマシロの氷室でキンキンに冷やした朝からの一杯! これ以上の贅沢はないねぇ!」

 巨大な戦斧を傍らに置いた女戦士アイラが、早くも木製のジョッキを傾けている。

「本当によ。ノエルが作ってくれた特製の魔道オーブンのおかげで、パンの焼き加減が完璧だわ」

 少女魔導士のルウがツンとした態度を崩しきれないながらも、頬を緩ませる。

「ほっほっほ、このホットサンドには、ワシとドーラで調合した滋養強壮のハーブが隠し味に入っておるぞ」

 老薬師のゴットが穏やかに髭を撫でる。

「えへへ、私が王都の商人から買い付けた幻のチーズ、絶対に美味しいはずですニャ!」

 猫耳の行商人ミーアが、自慢げに猫耳をピコピコと動かした。

 ドーラ、リナ、シオン、フレア、ノエル、ライラ、セシルも、それぞれの持ち場から笑顔で食卓へと集まってくる。

 王都やギルドから逃れてきた彼女たちの顔には、かつての絶望や怯えの色は一切なく、ただこの場所への深い愛情と、仲間たちへの絶対の信頼だけが満ちていた。

「きゅるるーっ!!」

「ウォンッ!」

「ピィィィッ!」

「ヒンッ♪」

「ルルゥッ♪」

「ホゥッ♪」

「キュゥッ♪」

 俺の周りでは、空色小竜のソラ、銀色のウルフのフェル、雷鳴の怪鳥ライ、黄金の天馬ルミナ、花纏いの黒豹フロリア、翡翠の風呼びシルフィ、そして星詠みの白梟ステラが、自分たちの分の特製プレートを心待ちにして尻尾を振り、羽ばたいている。

 フェルと並んで、ポーションラビットのピコがピョンピョンと跳ね回り、昨日新たに家族となったばかりの幻影の小狐ファムが、二本の尻尾を揺らしながらフェルの背中に乗って甘えていた。

 新設された『精霊の池』では、月影の白蛇ルナが優雅に鎌首をもたげ、水妖の獺ミロとクリア・スライムのスイが水しぶきを上げ、人魚の少女シーナが美しい歌声で食事の時間を彩っている。

 氷雪の幻獣マシロは俺の足元で冷気を放ちながら心地よさそうに丸くなり、影猫のクロはシオンの肩からホットサンドのチーズを狙っている。

 そして、大地の巨熊の幼獣ベル、紅蓮の精霊狐イグニス、瑠璃色の幼竜ラピスの三匹の幼い魔物たちが、ゴーレムのティタンの巨大な足元でじゃれ合いながら、セシルが用意した特製ミルクを心待ちにしていた。巨大な虹水晶の巨亀ダイヤは、穏やかに首を伸ばして新鮮な魔力草を食んでいる。

 賑やかで、優しくて、誰もが誰かを必要とし、誰もが誰かに感謝している場所。

 かつて王都で「足手まとい」と呼ばれ、すべてを失ったと思っていた俺の周りには、今、これほどまでに美しく、気高く、そして温かい家族たちがいる。

 世界を救う勇者のような大義や、歴史に名を残すような名誉なんて、やっぱり俺には必要ない。ただ、この愛おしい『帰る場所』を守り、仲間たちと共に美味しい飯を食い、笑い合う。それだけで、俺の人生はこれ以上ないほどに完璧だった。

「さあ、みんな! 冷めないうちに食べよう! いただきます!」

「「「いただきます!!」」」

 ぽかぽかとした太陽の光が、絆紋亭の庭を優しく照らし出す。

 サクッとしたパンの食感と共に、濃厚なチーズと新鮮なトマトの酸味が口いっぱいに広がり、俺は思わず幸福の溜息を漏らした。

 俺は、仲間たちと魔物たちの笑い声を聞きながら、どこまでも高く青く澄み渡る辺境の空を見上げ、深い、深い幸福の深呼吸をした。

 はるか遠くで、かつて俺を見下した者たちが自らの傲慢さの代償を払い、愚かな国が業火に沈んでいようとも、俺たちの穏やかで幸せな冒険譚は、これからもこの場所で、ゆっくりと、そしてどこまでも温かく紡がれていくのだ。

【現在のステータス】

名前:レイン

職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)

称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 森の守護者 / 大地の開拓者 / 導きの光

Lv:45

HP:470 / 470

MP:270 / 270

【スキル】

・生活魔法 Lv.10(極まる)

・剣術 Lv.3

・解体 Lv.8

・野営技術 Lv.10(極まる)

・野戦調薬 Lv.10(極まる)

・植物知識 Lv.10(極まる)

・建築・修繕 Lv.10(極まる)

・鑑定 Lv.7

・気配察知 Lv.10(極まる)

・魔導知識 Lv.10(極まる)

・料理 Lv.10(極まる)

【固有スキル】

絆紋きずなもん:対象の魔物(および心を持つ存在)と心を通わせ、警戒心を解き放つ。集った魔物たちと精霊樹の魔力を調和させ、巨大な隠蔽と浄化の絶対結界を形成している。

【クラン『絆紋亭』メンバー】

空色小竜ソラ:絆レベル5

・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5

・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5

・クリスタル・ゲッコー(ルチル):絆レベル5

・スピリット・フォーン(ミエル):絆レベル5

・クリア・スライム(スイ):絆レベル5

宝石蜘蛛ルリ:絆レベル5

・雷鳴の怪鳥ライ:絆レベル5

・シャドウ・キャット(クロ):絆レベル5

・水妖のミロ:絆レベル5

・氷雪の幻獣マシロ:絆レベル5

・黄金の天馬ルミナ:絆レベル5

・花纏いの黒豹フロリア:絆レベル5

・月影の白蛇ルナ:絆レベル5

・人魚の少女シーナ:絆レベル5

・瑠璃色の幼竜ラピス:絆レベル5

・紅蓮の精霊狐イグニス:絆レベル5

・翡翠の風呼び(シルフィ):絆レベル5

・大地の巨熊の幼獣ベル:絆レベル5

・心優しきゴーレム(ティタン):絆レベル5

・虹水晶の巨亀ダイヤ:絆レベル5

・星詠みの白梟ステラ:絆レベル5(※絆深化)

・幻影の小狐ファム:絆レベル4(※絆深化)

・ウールシープの群れおよび森の小動物たち

・アイラ(女戦士・正式なクラン協力者)

・ルウ(魔導士・正式なクラン協力者)

・ゴット(薬師・正式なクラン協力者)

・エリス(見習い魔導士・クランメンバー)

・ドーラ(ドワーフの若き職人・クラン専属建築士兼鍛冶師)

・リナ(服飾職人・クラン専属仕立屋)

・シオン(元王都特級密偵・クラン専属防衛担当)

・セシル(元宮廷料理人・クラン専属料理人)

・フレア(元聖騎士・クラン専属護衛担当)

・ノエル(天才錬金術師・クラン専属錬金術師)

・ライラ(流浪の精霊弓士・クラン専属狩人)

・ミーア(猫耳の行商人・クラン専属商人)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。