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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第28話 星降る洞窟と、氷雪の幻獣

第28話 星降る洞窟と、氷雪の幻獣

 辺境の街アシュタルの東に位置する小高い丘。非公式クラン『絆紋亭』の拠点には、今朝もまた世界中のどこよりも優しく、そして活気に満ちた空気が流れていた。

 東の空から差し込む朝日は、拠点の庭全体をすっぽりと覆う巨大な虹色の天蓋――宝石蜘蛛のルリが編み上げた特製の結界網――を透過し、キラキラと七色のプリズムとなってハーブガーデンに降り注いでいる。その神々しいほどの光のシャワーの下で、クランの魔物たちはすでに元気いっぱいに一日を始めていた。

「きゅるるーっ!」

「ウォンッ!」

「ピィィィッ!」

 澄み切った青空を背景に、空色小竜のソラと雷鳴の怪鳥ライが楽しげに上空を旋回し、地上では銀色のウルフであるフェルが、その二つの影を追いかけるようにして駆け回っている。フェルは、かつて群れからはぐれて傷ついていた頃の面影など微塵もなく、今やこの絆紋亭の魔物たちを束ねる頼もしい長兄のような風格を漂わせていた。

 そのフェルの背中をめがけて、純白のポーションラビットであるピコが、虹色の糸のトランポリンを利用してぴょんぴょんと飛び乗る。フェルは嫌がる素振りも見せず、ピコを乗せたまま庭を駆け抜け、種族を超えた深い絆を見せつけていた。

 縁側の特等席では、クリスタル・ゲッコーのルチルが鉱石の鱗を虹色に輝かせて日向ぼっこをし、精霊獣のミエルは優雅な足取りで庭に咲く朝露に濡れたハーブの香りを嗅いでいる。クリア・スライムのスイと水妖の獺ミロは、庭に引かれた清らかな水路の中でパチャパチャと水を掛け合って遊び、新しく加わった影猫のクロは、シオンの肩の上からその様子を眠たげな瞳で眺めていた。

「みんな、今日も元気だな」

 俺ことレインは、窓辺からその光景を眺め、自然と口元を緩めた。

 俺の肩には、専属の仕立屋としてクランに加わったリナが仕立ててくれた、虹色のマントが羽織られている。ルリの糸を極限まで薄くしなやかに織り上げたそのマントは、羽のように軽いにもかかわらず、驚くほどの強度と魔力耐性を誇り、常に温かな魔力で体を包み込んでくれる。

 王都の勇者パーティーにいた頃は、毎朝が苦痛の連続だった。冷たい井戸水で顔を洗う暇もなく、ただ「無能」と罵られないように必死に雑用をこなすだけの地獄のような時間。

 それが今では、こんなにも美しく、愛おしい命たちに囲まれて、深呼吸をするだけで心が満たされていく。

「さて、みんなのお腹が空く前に、朝飯の準備をするか」

 俺は一階の厨房へと降りていった。

 厨房では、すでに見習い魔導士のエリス、仕立屋のリナ、そして元王都特級密偵のシオンがエプロン姿で立ち、手際よく火の準備を進めていた。

「あ、レイン様! おはようございますっ!」

「レインさん、おはようございます。今朝は冷えるので、温かいスープの準備をしておきました」

「レインさん、おはようございます。野菜のカットは終わっています」

 三人がそれぞれの持ち場から笑顔で迎えてくれる。王都で暗殺者として非情な任務をこなしていたシオンの顔にも、今や怯えや緊張の色はなく、ただの一人の少女としての穏やかな笑みが浮かんでいた。

「おはよう、三人とも。いつも手伝ってくれて本当に助かるよ」

「えへへ、お安い御用ですっ! それで、今日のメインは何にしましょうか?」

「そうだな……みんな朝から動き回っているし、腹持ちのいい厚切りベーコンとチーズのホットサンドにしよう。それから、昨日魔力農園で採れた新鮮な野菜をたっぷり使ったポトフだ」

 四人で手分けして、手際よく調理を進めていく。

 俺は『料理』スキルと『植物知識』を駆使し、自家製の白パンに、厚切りのベーコンとたっぷりのチーズ、そしてシャキシャキのレタスを挟み、石窯の魔道コンロで作った特製の鉄板で両面をカリッと焼き上げる。香ばしいパンの匂いと、とろけるチーズの香りが厨房いっぱいに広がり、たまらなく食欲をそそる。

 ポトフには、シオンが密偵のナイフ捌きで寸分の狂いもなく均等に切り分けたニンジンやジャガイモを投入し、特製のブイヨンでコトコトと煮込む。野菜の自然な甘みがスープに溶け出し、黄金色に輝く極上の一品が完成した。

「おーっす! 今日もたまらなくいい匂いがしてるじゃないか!」

 豪快な笑い声と共に、真新しい虹色のマントを羽織った女戦士アイラがリビングに入ってきた。

「ちょっとアイラ、朝から元気すぎよ……。ふぁあ、おはようみんな。このポトフの匂い、胃袋が直接刺激されるわね……」

 杖をつきながら、少女魔導士ルウが目をこする。

「ほっほっほ、朝からこんな美味いものが食えるとは、長生きはするもんじゃのう」

 老薬師ゴットが穏やかに髭を撫で、その後ろからはドワーフの少女職人ドーラも「腹ペコだよ!」と笑って顔を出した。

 全員が大きな木製のテーブルに揃い、「いただきます」の合図と共に賑やかな朝食が始まった。

 サクサクとしたホットサンドをかじると、中から溢れ出す濃厚なチーズと肉汁が口いっぱいに広がり、ポトフの優しい甘みが体を芯から温めてくれる。

「んんっ! 外はサクサクで中はトロトロ、たまらないね! いくらでも腹に入っちまうよ!」

 アイラが大きな口で頬張り、目を輝かせる。

「えへへ、本当においしいですっ! 朝からこんな贅沢、バチが当たりそうですね」

 エリスも幸せそうに笑う。

 テラスでは、魔物たちもそれぞれに用意された特製の朝食を夢中で食べている。フェルは豪快に骨付き肉を噛み砕き、ソラは小さな口で器用に肉をほぐしている。新入りのクロやミロにも、特別に調合した魔力ミルクと新鮮な魚が与えられ、嬉しそうに喉を鳴らしていた。

   * * *

 和やかな朝食を終え、食後のハーブティーを楽しんでいた時のことだった。

 ドーラが少し真面目な顔をして、テーブルの上に一枚の羊皮紙を広げた。

「ねえレイン、みんな。今日はちょっと相談があるんだ」

「なんだい、ドーラ。新しい設備の提案か?」

 俺が尋ねると、ドーラは力強く頷いた。

「ああ。最近、うちの『魔力農園』の収穫量がとんでもないことになってるだろ? ライの雷やミエルたちの魔力のおかげで、野菜も果物も異常なスピードで育つのは嬉しい悲鳴なんだけど……今の拠点の食料庫じゃ、もう収まりきらないんだよ。それに、ゴットじいさんの薬草や、特別な魔物素材も増えてきた。これらを長期間、新鮮なまま保存するための『巨大な地下氷室ひむろ』が必要だと思うんだ」

「地下氷室か。なるほど、確かに今のままじゃ食材が傷んでしまうかもしれないな」

 アイラが腕を組んで頷く。

「ほっほっほ、温度と湿度が一定に保たれた地下室があれば、ポーションの熟成やワインの貯蔵にも最適じゃな」

 ゴットも目を細めて賛成した。

「穴を掘るのはアタシとアイラ、ルウの土魔法でなんとかなる。でも、問題は『冷却』なんだ。ただの地下室じゃ夏場に温度が上がっちまう。長期間、強力な冷気を放ち続ける特別な魔鉱石……『氷精石ひょうせいせき』が大量に必要なのさ」

「氷精石……」

 ルウが魔導士としての知識を引き出し、少し考え込んだ。

「氷精石なら、アシュタルの北の山奥にある『星降る洞窟ほしふるどうくつ』で採掘できるはずよ。あそこは一年中冷気に包まれていて、天井の鉱石が星空のように輝く美しい場所だけど……同時に、凶暴な洞窟棲みの魔物が多く生息する危険地帯でもあったはずだわ」

「Aランク相当の魔物が巣食っているという噂もあります。決して安全な場所ではありません」

 シオンが密偵としての正確な情報を付け加えた。

「危険地帯か。でも、氷室はクランの生活基盤を支えるために絶対に必要だ。よし、今日の依頼はそれにしよう。『星降る洞窟』で氷精石を採掘してくる」

 俺がそう宣言すると、仲間たちは顔を見合わせてニヤリと笑った。

「よっしゃ! そういうことならアタシの出番だね! 洞窟の魔物ごと、岩盤をぶち抜いてやるよ!」

 アイラが戦斧を背負い直して立ち上がる。

「わ、私も荷物持ちの魔法や、探知魔法でサポートしますっ!」

 エリスが両手を握りしめる。

「索敵と罠の解除なら、私とクロにお任せください。どんな暗闇でも、私たちの目を誤魔化すことはできません」

 シオンが静かな闘志を燃やして立ち上がった。

「アタシは採掘の専門家として同行するよ! 極上の氷精石を見極めてみせるさ!」

 ドーラが防塵ゴーグルを装着した。

 こうして、レイン、アイラ、ルウ、シオン、ドーラの人間五人と、鼻が利き暗闇に強いフェル、身軽なピコ、そして影に潜むクロの三匹の魔物たちによる、星降る洞窟への採掘パーティーが結成された。

 エリス、ゴット、リナには拠点のお留守番と農園の管理をお願いし、俺たちは元気よくアシュタルの街を出発した。

   * * *

 アシュタルの街から北へ歩くこと数時間。

 豊かな森の景色は次第にゴツゴツとした岩肌の目立つ険しい地形へと変わり、気温が急激に下がっていくのを感じた。

「ふぅ、外は昼間なのに、この辺りは息が白くなるくらい冷えるねぇ」

 アイラが息を吐き出しながら、虹色のマントをきゅっと引き締める。ルリの糸で作られたマントのおかげで凍えることはないが、空気の冷たさは肌を刺すようだった。

「見えました。あそこが『星降る洞窟』の入り口です」

 シオンが指差した先、切り立った崖の下に、ぽっかりと巨大な口を開けた漆黒の洞窟があった。洞窟の奥からは、ヒュウヒュウと不気味な風の音が聞こえ、同時に極寒の冷気が流れ出してきている。

「よし、フェル、クロ。中には強力な魔物がいるかもしれない。警戒を怠るなよ」

「ウォンッ!」

「にゃっ!」

 フェルが鋭く鼻を鳴らし、クロがシオンの影へと溶け込むように同化した。

 洞窟の中へ足を踏み入れると、そこは外の険しい岩肌とは全く異なる、幻想的な世界が広がっていた。

 壁や天井のあちこちに、淡い青や銀色に発光する苔や微小な結晶体が群生しており、まるで満天の星空の下を歩いているかのような錯覚に陥る。

「わぁ……本当に星が降っているみたい。綺麗な場所ね」

 ルウが目を輝かせて周囲を見渡す。

「油断しないでください、ルウ先輩。この美しさに気を取られた獲物を狙う魔物が、あちこちに潜んでいます。……上です!」

 シオンが鋭く叫び、影の中から短剣を投擲した。

 カキンッ!という金属音と共に、天井から降ってこようとしていた巨大な刃を持つコウモリの魔物――『ブレード・バット』の群れが、悲鳴を上げて床に落下した。

「すげえなシオン、完全に気配を消してたのに気づいたのか!」

「クロの影探知のおかげです。まだ来ます、気をつけて!」

 洞窟の奥に進むにつれ、魔物の襲撃は激しさを増していった。

 岩に擬態した『ストーン・スコーピオン』や、猛毒の霧を吐き出す『ケイブ・センチピード』の群れが次々と俺たちに襲いかかってくる。

 だが、今の俺たち『絆紋亭』のパーティーに隙はない。

「オラァッ!! 邪魔だ、道を開けな!」

 アイラが戦斧を一閃させ、硬い岩のサソリを一撃で粉砕する。

「エリスちゃん、合わせるわよ!『フレイム・バースト』!」

「はいっ!『ウインド・カッター』!」

 ルウの炎とエリスの風が融合し、灼熱の嵐となってセンチピードの群れを焼き尽くす。

「アタシのハンマーも味わいな!『グランド・スマッシュ』!」

 ドーラが巨大なハンマーを地面に叩きつけ、衝撃波で魔物たちの動きを封じる。

「ウォォォンッ!!」

 フェルが雷のような速度で敵の死角に回り込んで鋭い牙を突き立て、ピコが素早い動きで敵の注意を引きつけ、クロが影から魔物の足を縫い付ける。

 かつて王都で「足手まとい」と呼ばれた俺だが、今の俺には、これほどまでに頼もしく、互いを完全に信頼し合える最高の仲間たちがいる。俺は全体の戦況を俯瞰し、『気配察知』で死角からの奇襲を未然に防ぎながら、負傷した仲間がいれば即座に『野戦調薬』で作ったポーションを投擲して回復を支援した。

 やがて、洞窟の最深部、一際広大で、息を呑むほど美しい青白い光に満ちた巨大な地底湖の広間へと辿り着いた。

「……すげえ。天井も壁も、全部が巨大な『氷精石』の結晶だ……!」

 ドーラが震える声で呟き、目を丸くした。

 広間全体が、純度百パーセントの特級氷精石で構成されており、想像を絶する冷気を放っている。この石が少しでもあれば、巨大な地下氷室を永遠に冷やし続けることができるだろう。

 しかし、その美しい地底湖の中央、氷精石の巨大な柱の前に、ひどく禍々しい気配を放つ何かがうずくまっていた。

「……レインさん、気をつけて。あれは……」

 シオンが短剣を構え、冷や汗を流す。

 そこにいたのは、体長が三メートルを超える巨大な黒いムカデ――『ポイズン・センチピード・キング』だった。Aランク相当の凶悪な魔物であり、その体からは周囲の氷を溶かすほどの強力な毒の瘴気が噴き出している。

 だが、そのムカデの王は、俺たちを狙っているわけではなかった。

 巨大なムカデが執拗に攻撃を仕掛けているのは、氷精石の柱の根元にうずくまる、小さな白い影だった。

「キュゥゥ……ッ……!」

 それは、体長がわずか三十センチほどの、純白のフワフワとした毛並みを持つ獣だった。額には氷のように美しく輝く青い宝石カーバンクルを頂き、背中には氷の結晶のような小さな羽が生えている。

「あれは……『フロスト・カーバンクル』! 氷の魔力を司る、極めて希少な幻獣よ!」

 ルウが息を呑んで叫んだ。

 フロスト・カーバンクルは、非常に温厚で臆病な性格であり、氷精石の魔力を食べて生きる無害な魔物だ。どうやら、この地底湖を縄張りにしようと侵入してきたムカデの王に巣を荒らされ、必死に氷の障壁を張って身を守っているらしい。

 しかし、ムカデの王の強力な毒液によって氷の障壁は次々と溶かされ、純白の毛並みの一部が黒く変色し、苦しげな悲鳴を上げていた。

(痛い……怖い……私のお家を、壊さないで……!)

 俺の脳内に、フロスト・カーバンクルからの悲痛で絶望的な感情が流れ込んできた。

「みんな、あの子を助けるぞ! アイラ、ドーラ、ムカデの注意を引いてくれ! ルウとシオンは遠距離から援護を!」

「任せな! あんな気味の悪い虫けら、アタシの斧で三枚おろしにしてやるよ!」

「行くわよ、エリスちゃん!『アイス・ジャベリン』!」

「はいっ!『ライトニング・ボルト』!」

 アイラとドーラが雄叫びを上げて突進し、ルウとエリスの魔法がムカデの王の巨体に炸裂する。

「ギシィィィィッ!!」

 怒り狂ったムカデの王が、標的をフロスト・カーバンクルから俺たちへと変え、無数の足で地響きを立てながら突進してきた。その口からは、岩をも溶かす猛毒の霧が吐き出される。

「シオン、フェル、クロ! 足止めを!」

「了解です! クロ、行くよ!」

「にゃぁっ!」

 シオンが影から影へと瞬時に跳躍し、猛毒の霧を掻い潜りながらムカデの死角に回り込む。クロが『シャドウ・バインド』の魔法でムカデの無数の足を地面に縫い付け、その隙にシオンが鋭い短剣で関節部分を的確に斬り裂いた。

「ウォォンッ!!」

 フェルが雷のような速度でムカデの背後に噛みつき、その進行を完全にストップさせる。

「とどめだ! 『烈風斬』!!」

「アタシのハンマーもくらいな!『アース・ブレイク』!!」

 アイラの渾身の一撃とドーラの強烈なハンマーが同時にムカデの脳天にクリーンヒットし、凶悪な魔物は悲鳴を上げる間もなく、地響きを立ててその場に崩れ落ち、絶命した。

「ふぅ……見事な連携だったな。みんな、怪我はないか?」

 俺が声をかけると、仲間たちは汗を拭いながら笑顔で頷いた。

「キュゥ……」

 戦闘が終わった氷精石の柱の根元で、フロスト・カーバンクルが震えながらうずくまっていた。毒液を浴びた傷口から、青い血が滲んでいる。

 俺は武器を持たず、両手を広げてゆっくりとその小さな命へと近づいていった。

「大丈夫だ。もうムカデはいない。怖かったな」

 俺は右手の甲にある翠色の痣――『絆紋』の光を限界まで解放した。

 翠色の温かな波紋が、地底湖の冷たい空気を震わせながら広がり、フロスト・カーバンクルの小さな体を包み込む。

 絆紋の波動が彼女の心に届いた瞬間、震えていた体がピタリと止まり、怯えきっていた瞳から恐怖の色がスッと消え去った。

「キュ……?」

「俺たちは敵じゃない。君を助けに来たんだ。今、痛いのを取ってあげるからな」

 俺は『野戦調薬』で作り出しておいた特製の解毒軟膏を、絆紋の浄化の光と共にカーバンクルの傷口に優しく塗り込んだ。すると、黒く変色していた毛並みがみるみるうちに元の純白を取り戻し、傷口も完全に塞がっていった。

 フロスト・カーバンクルは、自分の痛みがすっかり消えたことに気づくと、俺の放つ温かい魔力に誘われるように、トコトコと歩いて近づいてきた。そして、その冷たくてフワフワした頭を、俺の手のひらにそっとすり寄せてきた。

(あったかい……この人たち、怖くない……助けてくれて、ありがとう。私の大切な場所、守ってくれてありがとう)

 俺の心に、冷たくも清らかな雪解け水のような、純粋な感謝の感情が流れ込んでくる。

「怪我はないか? よく頑張ったな」

 俺が純白の毛並みを優しく撫でてやると、彼女は嬉しそうに「キュゥゥ♪」と喉を鳴らし、俺の腕の中へと飛び込んできた。

 後ろで見ていたシオンやエリスたちが、その愛らしい姿に目をハートにして駆け寄ってくる。

「わぁぁっ、すっごく可愛いですっ! 毛並みがフワフワで、宝石がキラキラしてます!」

「本当ね……。この子がいれば、どんなに暑い夏でも快適に過ごせそうだわ」

「キュイッ!」

 ピコが新しい友達に挨拶するように、カーバンクルの周りをぴょんぴょんと跳ね回る。

(私、一人ぼっちだったの。あなたと、いっしょにいてもいい……?)

 フロスト・カーバンクルが、額の青い宝石を輝かせながら上目遣いで俺を見つめる。

「もちろんさ。うちのクランには、立派な農園も、たくさんの仲間もいる。それに、君の冷気の力があれば、最高に美味しい食材をずっと守れるんだ。きっと気に入ると思うよ。名前は……そうだな、その純白の美しい毛並みから、『マシロ』にしよう」

「キュルンッ!」

 マシロは嬉しそうに鳴き、フェルやクロたちとも鼻先を突き合わせて挨拶を交わした。

 こうして、氷雪の幻獣であるマシロが、絆紋亭の新しい家族として加わることになった。

   * * *

 その後、マシロの案内と許可を得て、ドーラが特級の氷精石を傷つけないように慎重に採掘し、魔法の収納袋いっぱいに詰め込んだ。

「よし、これだけあれば、百年は溶けない最高の地下氷室が作れるよ!」

 ドーラがホクホク顔で袋を叩く。

 夕暮れ時。

 大量の氷精石と、新しい家族であるマシロを連れて、俺たちはアシュタルの拠点へと帰還した。

 拠点では、ゴットとリナが温かく出迎えてくれ、早速ドーラと俺、そしてルウの土魔法を駆使して、丘の地下に巨大な氷室の建設に取り掛かった。マシロが氷精石に自らの冷気の魔力を吹き込むと、地下室はあっという間に完璧な温度と湿度に保たれた極上の冷蔵庫へと変貌した。

「すごい……! これで魔力野菜も、新鮮な肉も、ポーションも、一切品質を落とさずに保存できますね!」

 エリスが歓声を上げる。

 その夜。

 庭の虹色の天蓋の下、新しく完成した地下氷室の落成と、マシロの加入を祝う盛大な宴が開かれた。

 メインディッシュは、氷室でキンキンに冷やした極上の果実酒と、アイラが狩ってきた肉の豪快な丸焼きだ。魔力農園で採れた新鮮な野菜のサラダがテーブルを埋め尽くす。

「マシロ! うちのクランへようこそ! これからは、アタシたちが背中を預け合う最高の仲間だ!」

 アイラが木製ジョッキを高々と掲げる。

「キュゥゥ♪」

 マシロは嬉しそうに鳴き、ソラやフェルたちと一緒に、特別に用意された魔力氷と新鮮な果実を美味しそうに食べていた。

 賑やかで、優しくて、誰もが誰かを必要とし、誰もが誰かに感謝している場所。

 王都で「足手まとい」と呼ばれ、すべてを失った俺の周りには、今、これほどまでに頼もしく、温かい家族たちがいる。

 急ぐ必要なんてない。俺たちの絆は、この冷たくも温かい氷室のように、どんな時も変わらず、この辺境の地で永遠に保たれていくのだから。

 満天の星空の下、笑い声がいつまでも絶えることなく響き渡っていた。

【現在のステータス】

名前:レイン

職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)

称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 森の守護者 / 大地の開拓者

Lv:34(※Aランク魔物の討伐とマシロの救済によりアップ)

HP:360 / 360

MP:160 / 160

【スキル】

・生活魔法 Lv.10(※極まる)

・剣術 Lv.3

・解体 Lv.6

・野営技術 Lv.10(※極まる)

・野戦調薬 Lv.8(※レベルアップ)

・植物知識 Lv.7

・建築・修繕 Lv.9(※地下氷室の高度な建設によりアップ)

・鑑定 Lv.5(※氷精石の目利きによりアップ)

・気配察知 Lv.6

・魔導知識 Lv.5(※レベルアップ)

・料理 Lv.8

【固有スキル】

絆紋きずなもん:対象の魔物と心を通わせ、警戒心を解き放つ。集った魔物たちの魔力を調和させ、巨大な隠蔽と浄化の結界を無意識に形成している。

【クラン『絆紋亭』メンバー】

空色小竜ソラ:絆レベル5

・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5

・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5

・クリスタル・ゲッコー(ルチル):絆レベル4

・スピリット・フォーン(ミエル):絆レベル4

・クリア・スライム(スイ):絆レベル4

宝石蜘蛛ルリ:絆レベル4

・雷鳴の怪鳥ライ:絆レベル4

・シャドウ・キャット(クロ):絆レベル4

・水妖のミロ:絆レベル4(※絆深化)

・氷雪の幻獣マシロ:新規合流 / 絆レベル3

・ウールシープの群れおよび森の小動物たち

・アイラ(女戦士・正式なクラン協力者)

・ルウ(魔導士・正式なクラン協力者)

・ゴット(薬師・正式なクラン協力者)

・エリス(見習い魔導士・クランメンバー)

・ドーラ(ドワーフの若き職人・クラン専属建築士兼鍛冶師)

・リナ(服飾職人・クラン専属仕立屋)

・シオン(元王都特級密偵・クラン専属防衛担当)

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