第27話 ささやきの湖と、水妖の獺
第27話 ささやきの湖と、水妖の獺辺境の街アシュタルの東に位置する小高い丘。そこにある非公式クラン『絆紋亭』の拠点は、今朝もまた、世界中のどこよりも優しく、そして穏やかな空気に包まれていた。
東の空が白み始め、夜の帳がゆっくりと引き剥がされていく頃。
拠点の一室で、シオンはふかふかのベッドの中でゆっくりとまぶたを開けた。
「……朝、か」
ぽつりと呟いた彼女の隣では、使い魔であり唯一の家族でもあった影猫のクロが、気持ちよさそうに丸くなって喉をゴロゴロと鳴らしている。
王都の情報部に所属する特級密偵として、幼い頃から暗殺や諜報の訓練を受けてきたシオンにとって、「朝」とは常に緊張と疲労、そして死の匂いと共に訪れるものだった。冷たく硬い石の床、あるいは野営地の湿った土の上で、僅かな物音にも過敏に反応できるように浅い眠りを貪るのが日常だった。
しかし、この絆紋亭に来てからというもの、彼女の生活は一変した。
ドワーフの職人ドーラが設えた最高級の羽毛布団は、まるで雲のように柔らかく体を包み込み、仕立屋のリナが作ってくれた肌着は、これまでのどんな衣服よりも滑らかで温かい。そして何より、この丘全体を覆う、宝石蜘蛛ルリが編み上げた虹色の天蓋と、レインの『絆紋』を核とした無意識の結界が、外からのあらゆる悪意や危険を完全に遮断してくれている。
シオンは、生まれて初めて「安心して深く眠る」という経験をしていた。
「にゃぁ……」
クロが目を覚まし、シオンの頬にすりすりと鼻先を押し付けてくる。
「おはよう、クロ。今日も元気そうね」
シオンは微笑みながらクロの柔らかな毛並みを撫でた。レインの絆紋によって呪いを解かれ、特製の魔力ミルク粥を食べてすっかり体力を回復したクロは、今やかつての何倍も艶やかな毛並みを取り戻していた。
シオンはベッドから抜け出し、リナが仕立ててくれた真新しいクランのお揃いのマント――虹色の糸で織り上げられた、驚くほど軽く強靭な防具服を羽織った。胸元には、絆紋の翠色の痣をモチーフにした美しい刺繍が施されている。これを身につけるたび、自分がこの温かい場所の「家族」として迎え入れられたのだという実感が湧き、胸の奥が熱くなるのを感じた。
部屋を出て一階へ降り、裏庭のハーブガーデンへと足を踏み入れると、そこにはすでに先客たちがいた。
「きゅるるーっ!」
「ウォンッ!」
「ピィィィッ!」
朝の澄んだ空気の中、空色小竜のソラ、銀色のウルフのフェル、そして雷鳴の怪鳥ライが、楽しそうに追いかけっこをしている。純白のポーションラビットのピコは、持ち前の跳躍力で庭の岩から岩へとぴょんぴょんと飛び移り、フェルの頭の上に器用に着地して見せた。
クリスタル・ゲッコーのルチルは縁側で朝日を浴びて鉱石の鱗を輝かせ、精霊獣のミエルは優雅な足取りで庭に咲くハーブの香りを嗅いでいる。クリア・スライムのスイは、水路の中でプルプルと心地よさそうに揺れ、上空ではルリが虹色の糸を繕いながら、弟や妹たちを見守っていた。
そして、その中心には、エプロン姿のレインがいた。彼はフェルやピコの頭を優しく撫で、ソラに特製の干し肉を与えながら、穏やかな笑みを浮かべている。
「おはよう、シオン。よく眠れたか?」
レインがこちらに気づき、優しく声をかけてきた。クロがシオンの肩から飛び降りて、レインの足元へと駆けていき、フェルやピコに混ざって甘え始める。
「はいっ、おはようございます、レインさん。その……信じられないくらい、ぐっすりと眠れました。こんなに安心できる朝は、生まれて初めてです」
シオンが少し照れくさそうに答えると、レインは嬉しそうに目を細めた。
「それは良かった。シオンはずっと気を張って生きてきたんだろうから、ここではゆっくり羽根を伸ばしてくれ」
王都の勇者パーティーに「無能」と切り捨てられ、すべてを失ったはずのこの青年は、どうしてこれほどまでに温かく、そして底知れない器の大きさを持っているのだろうか。シオンは、彼を見ているだけで、自分の心の中にこびりついていた冷たい氷が溶けていくのを感じた。
「さて、みんなのお腹が空く前に、朝飯の準備をするか。シオンも手伝ってくれるか?」
「はいっ! 喜んで!」
* * *
厨房では、すでに見習い魔導士のエリスと、仕立屋のリナが火の準備を終えて待っていた。
「おはようございます、レイン様、シオンさん! 今朝も魔力農園のお野菜がキラキラしてますよ!」
「シオンちゃん、おはよう。エプロン、ここにかけてあるから使ってね」
エリスとリナが笑顔で迎えてくれる。
今日の朝食は、昨日みんなで開墾し、ライやピコたちの魔力で一気に実らせた『魔力農園』の新鮮な野菜をふんだんに使ったメニューだ。
レインの指示のもと、シオンは密偵としての短剣の腕前を活かし、野菜を均等かつ素早くみじん切りにしていく。
「すごい手際だね、シオン。あっという間だ」
「えへへ……暗殺用のナイフ捌きが、こんなところで役に立つなんて思いませんでした」
シオンが照れ笑いを浮かべる。
細かく刻んだタマネギとニンジン、そして特製の厚切りベーコンをオリーブオイルでじっくりと炒め、そこに大量の完熟トマトとブイヨンを加えて煮込んでいく。レインの『料理』スキルと『植物知識』の魔法的アプローチが加わることで、ただのトマトスープが、極上の旨味と魔力を内包した黄金色のミネストローネへと昇華していく。
さらに、石窯の魔道コンロでは、チーズとハーブを練り込んだ自家製のフォカッチャが香ばしく焼き上げられ、表面のオリーブオイルがジュウジュウと音を立てていた。
「おーっす! 今日もたまらなくいい匂いがしてるじゃないか!」
豪快な笑い声と共に、女戦士アイラがリビングに入ってきた。
「ふぁあ……おはようみんな。このスープの匂い、胃袋が直接刺激されるわね……」
杖をつきながら、少女魔導士ルウが目をこする。
「ほっほっほ、朝からこんな美味いものが食えるとは、長生きはするもんじゃのう」
老薬師ゴットが穏やかに髭を撫で、その後ろからはドワーフの少女職人ドーラも「腹ペコだよ!」と笑って顔を出した。
全員が大きな木製のテーブルに揃い、「いただきます」の合図と共に賑やかな朝食が始まった。
熱々のミネストローネを一口飲むと、トマトの濃厚な酸味と甘み、そしてベーコンの力強い旨味が口いっぱいに広がり、魔力野菜の豊かな栄養が体の隅々にまで染み渡っていく。
「んんっ! 美味いっ! シオンの刻んだ野菜、大きさが完璧に揃ってるから、火の通りが均等で最高に口当たりがいいね!」
アイラが絶賛すると、シオンは顔を真っ赤にして俯いた。
「そ、そんな……私はただ、レインさんに言われた通りに切っただけで……」
「シオンちゃん、とっても美味しいわ。あなたも立派な、このクランの大切な家族よ」
ルウが優しく微笑みかける。
テラスでは、魔物たちもそれぞれに用意された特製の朝食を夢中で食べている。フェルは豪快に肉を噛みちぎり、ピコは野菜をシャキシャキと頬張り、クロはミルクとほぐした魚のボウルをぺろぺろと舐めている。
和やかな食事の最中、レインがふと顔を上げて皆を見渡した。
「みんな、シオンがうちのクランに加わってくれて数日が経つけど、まだちゃんとした『歓迎会』をやっていなかったと思ってね。今日の夕食は、シオンの歓迎会も兼ねて、とびきりのご馳走にしようと思うんだ」
「歓迎会……! そんな、私なんかのために……」
シオンが遠慮して手を振るが、アイラがその背中をバンッと叩いた。
「水臭いこと言うんじゃないよ! 新しい仲間が増えたら宴会をする、これは冒険者の鉄則さ!」
「それで、ご馳走のメインなんだけど……」と、レインが続ける。
「アシュタルの北西にある『ささやきの湖』に、今くらいの時期になると、脂の乗った『銀鱗鮭』が遡上してくるらしいんだ。それを釣り上げて、ハーブ焼きやムニエルにしようと思う。シオン、魚は好きか?」
「は、はいっ! 大好きです!」
シオンが目を輝かせると、クロも「にゃぁっ!」と同調するように鳴いた。
「よし、決まりだ。今日はみんなで、ささやきの湖へ釣りに行こう!」
「大賛成ですっ! 私、釣りは初めてなので楽しみです!」
エリスが両手を合わせて喜ぶ。
「湖の近くには珍しい水生植物も生えているはずだから、私の研究にも丁度いいわね」とルウ。
「アタシは留守番して、工房で釣竿の改良でもしておくよ。ゴットじいさんとリナも、拠点の守りをお願いできるかい?」
ドーラの提案に、ゴットとリナが快く頷いた。
こうして、レイン、アイラ、ルウ、エリス、そして新入りのシオンの人間五人と、ソラ、フェル、ピコ、そしてクロの魔物たちによる、ささやきの湖への食材調達パーティーが結成された。
* * *
アシュタルの街を出て、豊かな緑が生い茂る北西の森を歩くこと一時間半。
シオンは、密偵としての経験を活かし、フェルやクロと見事な連携を取りながらパーティーの先頭を歩いていた。
「レインさん、この先、少し地面がぬかるんでいます。魔物の足跡……おそらくマッド・ボアの群れが通った跡があるので、右の岩場を迂回した方が安全です」
「ウォンッ!」
「にゃっ!」
シオンの的確なナビゲートに、フェルとクロが同意するように鳴く。
「ありがとう、シオン。フェルたちともすっかり息が合ってるな。本当に頼りになるよ」
レインが微笑むと、シオンは嬉しさで胸がいっぱいになった。王都では、ただ命令に絶対服従するだけの駒として扱われていた自分が、ここでは「頼りになる仲間」として認められているのだ。
やがて、木々の隙間から眩い光が差し込み、視界が一気に開けた。
そこには、周囲の山々を鏡のように映し出す、巨大で透明度の高い美しい湖が広がっていた。湖面を渡る風が、まるで精霊のささやき声のように心地よい音を立てている。これが『ささやきの湖』だ。
「わぁ……! すっごく綺麗です!」
エリスが湖畔に駆け寄り、歓声を上げる。
「確かに美しいわね。魔力の濃度も高い。これなら、銀鱗鮭もたくさんいそうね」
ルウが杖を構えながら周囲を見渡す。
俺たちは早速、ドーラが作ってくれた特製の魔導釣竿を準備し、湖畔の岩場に陣取った。
「よし、それじゃあ大物を狙うぞ。フェルとクロは、周囲の警戒を頼む。ソラは上空から魚の群れを探してくれ」
「きゅるるーっ!」
ソラが元気よく飛び立ち、湖の上空を旋回し始めた。
しばらくの間、のんびりとした釣り糸を垂らす時間が流れた。
澄み切った水の中には、銀色に輝く美しい魚影が幾つも泳いでいるのが見える。レインの『野営技術』で作った特製のエサのおかげで、面白いように銀鱗鮭が食いついてきた。
「おっしゃぁっ! でかいのが来たよ!」
アイラが豪快に竿を引き上げると、体長が六十センチはあろうかという見事な銀鱗鮭が空宙を舞い、湖畔の草の上に跳ねた。
「すごいです、アイラさん! 私も負けませんよっ!」
エリスも一生懸命に竿を引き、ルウも魔法で糸の張力をコントロールしながら次々と魚を釣り上げていく。シオンも密偵の動体視力を活かし、的確なタイミングで竿を合わせ、大物を釣り上げていた。
「これだけあれば、今夜の歓迎会は最高の宴になりそうだな」
レインが満足げに頷いた、その時だった。
「きゅるるるるっ!!」
上空を旋回していたソラが、湖の奥の入り江の方角を指し示し、鋭く警戒の鳴き声を上げた。
「ウォォンッ!」
「シャァァッ!」
同時に、フェルとクロも身を低くし、入り江の方角に向かって牙を剥いた。
「どうした? 何かいるのか?」
レインが『気配察知』のスキルを最大まで引き上げると、入り江の奥の葦原から、ひどく淀んだ、暴力的な魔力の気配が近づいてくるのが分かった。
「……巨大な水棲魔物だ。かなり気性が荒いぞ」
「レインさん、見えました! あれは……『マッド・アリゲーター』です! しかも、かなり大型の個体!」
シオンが視力を凝らし、緊迫した声で叫んだ。
葦原を掻き分けて姿を現したのは、体長が四メートルを超える巨大な泥ワニの魔物だった。全身が岩のように硬い泥の鱗に覆われ、巨大な顎には鋭い牙がびっしりと並んでいる。
しかし、そのマッド・アリゲーターは俺たちを狙っているわけではなかった。
ワニの視線の先、湖岸に追い詰められた浅瀬に、小さな影がうずくまっていた。
「キュゥゥ……ッ……!」
それは、体長が五十センチほどの、透き通るような青い毛並みを持つ小さな獣だった。丸い瞳と、愛らしい水掻きのついた手足、そして背中には透明な水の羽衣のようなものを纏っている。
「あれは……『水妖の獺』ね! 清らかな水辺にしか生息しない、非常に珍しい幻獣よ!」
ルウが息を呑んで言った。
フェアリー・オッターは、水を浄化し、水難から旅人を守るとされる心優しい魔物だ。しかし、戦闘能力は皆無に等しい。どうやら、縄張りを荒らしにきた狂暴なマッド・アリゲーターに追い詰められてしまったらしい。
(怖い……食べられちゃう……誰か、助けて……!)
レインの脳内に、フェアリー・オッターからの悲痛で絶望的な感情が流れ込んできた。
「みんな、あの子を助けるぞ! アイラ、ルウ、ワニの注意を引いてくれ! シオンは俺の護衛を頼む!」
「任せな! 泥ワニごとき、アタシの斧で三枚おろしにしてやるよ!」
「行くわよ、エリスちゃん!『アイス・ジャベリン』!」
「はいっ!『ライトニング・ボルト』!」
アイラが戦斧を構えて入り江に向かって突進し、その後方からルウの氷の槍とエリスの雷撃がマッド・アリゲーターの巨体に炸裂する。
「グリュルルルゥッ!!」
怒り狂ったマッド・アリゲーターが、標的をフェアリー・オッターから俺たちへと変え、巨大な顎を開いて突進してきた。
「シオン、フェル、クロ! 足止めを!」
「了解です! クロ、行くよ!」
「にゃぁっ!」
シオンが影から影へと瞬時に跳躍し、マッド・アリゲーターの死角に回り込む。クロが『シャドウ・バインド』の魔法でワニの影を地面に縫い付け、その隙にシオンが鋭い短剣でワニの泥の鱗の隙間、関節部分を的確に斬り裂いた。
「ウォォンッ!!」
フェルが雷のような速度でワニの鼻先に噛みつき、その進行を完全にストップさせる。
「とどめだ! 『烈風斬』!!」
アイラの渾身の一撃が、マッド・アリゲーターの脳天にクリーンヒットし、巨大なワニは地響きを立ててその場に崩れ落ちた。
「ふぅ……見事な連携だったな。みんな、怪我はないか?」
レインが声をかけると、シオンは短剣をしまいながら、信じられないものを見るように自分の手を見つめた。
「……すごい。みんなが私の動きに合わせてくれて……こんなに完璧に戦えたのは、初めてです」
王都では常に捨て駒として扱われ、仲間との連携など経験したことがなかった彼女にとって、この圧倒的な信頼感に基づくチームワークは、新鮮で感動的なものだった。
「キュゥ……」
戦闘が終わった浅瀬で、フェアリー・オッターが震えながらうずくまっていた。
レインは武器を持たず、両手を広げてゆっくりとその小さな命へと近づいていった。
「大丈夫だ。もうワニはいない。怖かったな」
レインは右手の甲にある翠色の痣――『絆紋』の光を優しく解放した。
翠色の温かな波紋が、湖面を滑るようにして広がり、フェアリー・オッターの小さな体を包み込む。
絆紋の波動が彼女の心に届いた瞬間、震えていた体がピタリと止まり、怯えきっていた丸い瞳から恐怖の色がスッと消え去った。
「キュ……?」
「俺たちは敵じゃない。君を助けに来たんだ」
フェアリー・オッターは、レインの放つ温かい魔力に誘われるように、浅瀬をパチャパチャと歩いて近づいてきた。そして、その冷たくて滑らかな鼻先を、レインの手のひらにそっと押し当ててきた。
(あったかい……この人たち、怖くない……助けてくれて、ありがとう)
レインの心に、清らかな湧き水のような、純粋な感謝の感情が流れ込んでくる。
「怪我はないか? よく頑張ったな」
レインが青い毛並みを優しく撫でてやると、彼女は嬉しそうに「キュゥゥ♪」と喉を鳴らし、レインの腕の中へと飛び込んできた。
後ろで見ていたシオンやエリスたちが、その愛らしい姿に目をハートにして駆け寄ってくる。
「わぁぁっ、すっごく可愛いですっ! 毛並みがツルツルで、水の精霊みたい!」
「本当ね……。この子がいれば、湖の水質も常に綺麗に保たれるわ」
「キュイッ!」
ピコが新しい友達に挨拶するように、フェアリー・オッターの周りをぴょんぴょんと跳ね回る。
(私、お家がないの。あなたと、いっしょにいてもいい……?)
フェアリー・オッターが、上目遣いでレインを見つめる。
「もちろんさ。うちのクランには、立派な露天風呂も、スイっていうスライムが住んでる綺麗な水路もある。きっと気に入ると思うよ。名前は……そうだな、その美しい水鏡のような瞳から、『ミロ』にしよう」
「キュルンッ!」
ミロは嬉しそうに鳴き、ソラやフェル、クロたちとも鼻先を突き合わせて挨拶を交わした。
こうして、水妖の獺であるミロが、絆紋亭の新しい家族として加わることになった。
* * *
その日の夕暮れ。
大量の銀鱗鮭と、新しい家族であるミロを連れて、俺たちはアシュタルの拠点へと帰還した。
庭では、ドーラ、ゴット、リナが温かく出迎えてくれ、新しい仲間であるミロの愛らしさに、拠点中が笑顔で包まれた。
そして夜。
庭の虹色の天蓋の下、ランタンの温かな琥珀色の光に照らされながら、シオンの歓迎会と、ミロの加入を祝う盛大な宴が開かれた。
メインディッシュは、釣ってきたばかりの銀鱗鮭を香草で包み焼きにしたものと、たっぷりのバターで焼き上げた極上のムニエルだ。魔力農園で採れた新鮮な野菜のサラダと、石窯で焼きたてのパンがテーブルを埋め尽くす。
「シオン! うちのクランへようこそ! これからは、アタシたちが背中を預け合う最高の仲間だ!」
アイラが木製ジョッキを高々と掲げる。
「はいっ! 私、皆さんのために、全力でこの場所を守ります!」
シオンが満面の笑みでジョッキを打ち合わせた。
外はサクサク、中はふっくらと仕上がった銀鱗鮭のムニエルを口に運ぶと、魚の濃厚な旨味とバターの香りが絶妙に絡み合い、言葉を失うほどの美味しさだった。
テラスでは、ソラやフェル、ピコたちが特製のご馳走を頬張り、新入りのミロも、クロやスイと一緒に、新鮮な魚の切り身を美味しそうに食べている。ルリは木の上から嬉しそうにその様子を見下ろし、ライは夜空を美しく旋回していた。
賑やかで、優しくて、誰もが誰かを必要とし、誰もが誰かに感謝している場所。
シオンは、温かい鮭を頬張りながら、またしても涙が溢れそうになるのを必死に堪えていた。
(私……本当に、生きててよかった。ここが、私の本当の帰る場所なんだ)
レインは、そんなシオンの様子を優しく見守りながら、一番星が瞬き始めた夜空を見上げた。
急ぐ必要なんてない。
王都の権力者たちがどれほど焦り、絶望に沈もうとも、俺たちの穏やかで幸せな冒険譚は、これからもこの辺境の地で、ゆっくりと、そして確実に紡がれていくのだから。
心地よい夜風がハーブの香りを運び、絆紋亭の夜は、どこまでも賑やかに、そして幸せに更けていくのだった。
【現在のステータス】
名前:レイン
職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)
称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 森の守護者 / 大地の開拓者
Lv:33(※マッド・アリゲーターの討伐とミロの救済によりアップ)
HP:350 / 350
MP:150 / 150
【スキル】
・生活魔法 Lv.9
・剣術 Lv.3
・解体 Lv.6(※大型魔物の解体によりアップ)
・野営技術 Lv.9
・野戦調薬 Lv.7
・植物知識 Lv.7
・建築・修繕 Lv.8
・鑑定 Lv.4
・気配察知 Lv.6
・魔導知識 Lv.4
・料理 Lv.8(※極上の宴の調理によりアップ)
【固有スキル】
・絆紋:対象の魔物と心を通わせ、警戒心を解き放つ。集った魔物たちの魔力を調和させ、巨大な隠蔽と浄化の結界を無意識に形成している。
【クラン『絆紋亭』メンバー】
・空色小竜:絆レベル5
・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5
・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5
・クリスタル・ゲッコー(ルチル):絆レベル4
・スピリット・フォーン(ミエル):絆レベル4
・クリア・スライム(スイ):絆レベル4
・宝石蜘蛛:絆レベル4
・雷鳴の怪鳥:絆レベル4
・シャドウ・キャット(クロ):絆レベル4(※絆深化)
・水妖の獺:新規合流 / 絆レベル3
・ウールシープの群れおよび森の小動物たち
・アイラ(女戦士・正式なクラン協力者)
・ルウ(魔導士・正式なクラン協力者)
・ゴット(薬師・正式なクラン協力者)
・エリス(見習い魔導士・クランメンバー)
・ドーラ(ドワーフの若き職人・クラン専属建築士兼鍛冶師)
・リナ(服飾職人・クラン専属仕立屋)
・シオン(元王都特級密偵・クラン専属防衛担当)
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