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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第25話 閑話:崩壊の連鎖と、見捨てられた勇者たち

第25話 閑話:崩壊の連鎖と、見捨てられた勇者たち

 大陸の中央に位置し、人類の希望の象徴として栄華を誇ってきた王都グランゼル。

 かつては連日のように華やかなファンファーレが鳴り響き、吟遊詩人たちが勇者パーティー『暁の剣』の偉業を歌い上げていたこの大都市は、今や分厚く重い絶望の暗雲にすっぽりと覆われていた。

 北方の防衛線である『黒鉄の砦』が魔王軍によって突破されたという知らせは、瞬く間に王都の隅々にまで知れ渡り、市民たちの間には拭いようのない恐怖と混乱が蔓延していた。物価は高騰し、貴族たちは我先にと安全な南方の領地へと逃げ出し、取り残された平民たちは毎日のように王城の門前に詰めかけては、国軍の出動と勇者の復活を叫び続けている。

 しかし、彼らがすがるべき唯一の希望であった勇者たちは、もはや立ち上がることすらできない抜け殻と化していた。

 王都の最奥、かつては高位の貴族や王族のみが利用を許されていた王立療養院。

 その地下深くにある薄暗く冷たい隔離病棟に、四人の若者たちが収容されていた。

 勇者アレク、魔法使いカイン、聖女エルナ、そして斥候のミラ。

 ほんの数ヶ月前まで、彼らは眩いばかりの光を放ち、誰もが羨む栄光の頂点に立っていた。最高の装備、最高の食事、そして最高の名誉。国中から寄せられる莫大な支援金と物資を当然のように受け取り、自分たちこそが神に選ばれた絶対の存在であると信じて疑わなかった。

 だが今、彼らが放り込まれているのは、窓一つない石造りの冷たい独房のような部屋だった。

「……くそっ……おい、誰かいないのか! 喉が渇いた! 極上のワインと、冷えた果実を持ってこい!」

 鉄格子の嵌まった扉に向かって、アレクが掠れた声で叫んだ。

 かつて王都の令嬢たちを魅了した黄金色の髪は脂と埃にまみれて固まり、端正だった顔立ちは頬が痩せこけ、目の下にはどす黒い隈が刻まれている。彼は狂ったように扉を叩き続けるが、その手は微かに震え、かつて大剣を軽々と振るった筋力は見る影もなく衰え果てていた。

「おい、聞いているのか! 俺は勇者だぞ! この国の希望である俺を、こんな薄汚い地下室に閉じ込めておくなど許されると思っているのか! 国王を呼べ! すぐに俺を地上に出し、最高の待遇でもてなすように命じろ!」

 いくら叫んでも、返ってくるのは冷たい石壁の反響音だけだ。

 魔王領の『死者の回廊』において、魔王軍の幹部『地獄の番犬ケルベロス・キマイラ』の前に手も足も出ず敗走したあの日。アレクの心は完全に折れていた。自分の力が実は大したものではなく、ただレインの完璧な裏方仕事に支えられていただけの『作り物の勇者』であったという事実を、彼はどうしても認めることができなかった。

 その事実から目を背けるため、彼はただひたすらに周囲に当たり散らし、誰かに責任を押し付けることでしか自我を保てなくなっていた。

「……うるさいですよ、アレク。あなたのその喚き声を聞いていると、頭が割れそうになりますわ」

 部屋の隅、汚れた毛布にくるまりながら、エルナが虚ろな目で呟いた。

 かつて純白の法衣を纏い、清らかな微笑みで人々を魅了した聖女の面影は、今や完全に消え失せている。彼女の美しい金糸の髪はストレスと栄養不良によってあちこちが抜け落ちて斑になり、かつて神への祈りを紡いでいたふっくらとした唇は乾燥してひび割れ、血が滲んでいた。

「神様はもう、私たちの声など聞いてはくださらないのです。……だって、私たちは間違えてしまったのだから。あんなに優しくて、誰よりも私たちのために尽くしてくれたあの人を、無能だと笑って捨ててしまった。その罰が下ったのですわ」

「黙れ! あいつのせいだ! レインの奴が俺たちを騙していたんだ!」

 アレクが血走った目でエルナを睨みつける。

「あいつが俺の聖剣の魔力経路をいじって、わざと弱体化させたに決まっている! 俺が本気を出せば、魔王軍の幹部など一撃で吹き飛ばせるはずだったんだ! あいつが、俺たちを裏切ったから……!」

「見苦しいよ、アレク」

 隣の壁際で、両手を分厚い包帯でぐるぐる巻きにされたカインが、自嘲気味に笑った。

「僕たちはただの凡人だった。レインが魔物のヘイトをコントロールし、結界を張り、武器を手入れし、瘴気を中和してくれていたから、僕たちは天才のふりをしていられただけだ。それを自分たちの実力だと勘違いして、命綱を自ら切り捨てたんだ。……あははっ、傑作じゃないか。歴史上、最も愚かな勇者パーティーとして後世に語り継がれるね」

「黙れと言っているだろうが、この役立たずの魔法使いが!」

 アレクがカインに掴みかかろうとするが、足元がおぼつかず、そのまま冷たい石の床に無様に転がった。

 斥候のミラに至っては、部屋の最も暗い隅に身を丸め、自分の膝を抱えてガタガタと震え続けている。

「来る……足音が聞こえる……暗闇から、恐ろしい目が見てる……いやだ、食べないで……レイン、明かりをつけて……レイン、助けて……!」

 彼女の心は完全に壊れ、絶え間ない幻聴と幻視に苛まれ続けていた。

 ガチャン、と重々しい音と共に、鉄格子の扉が開いた。

 入ってきたのは、かつて彼らに愛想笑いを浮かべてすり寄っていたはずの王立療養院の院長と、数名の屈強な王国騎士たちだった。しかし、彼らの目に勇者たちへの敬意は微塵もなく、ただ汚物を見るような冷ややかな蔑みが浮かんでいた。

「おお、やっと来たか! すぐに俺をここから出せ! そして新しい剣と鎧を用意しろ!」

 アレクが這いずるようにして院長にすがりつこうとするが、騎士の一人が無情にもその手を蹴り飛ばした。

「ぐあっ……! き、貴様、勇者に向かって何をする!」

「勇者、だと? 笑わせるな」

 騎士が氷のように冷たい声で吐き捨てた。

「お前たちのような無能な詐欺師どものせいで、この国は今、滅亡の危機に瀕しているのだぞ。黒鉄の砦が落ち、罪のない前線の兵士たちが次々と命を落としている。お前たちが魔王軍幹部に無様に背を向けて逃げ帰ってきたせいでな!」

「ち、違う! あれはレインの奴が罠を……!」

「まだそんな見え透いた嘘を喚いているのか。ギルドの調査部隊と宮廷魔導筆頭の解析によって、すべては明らかになっている」

 院長が冷酷な目で四人を見下ろした。

「お前たちが過去に成し遂げた戦果は、すべて追放された『レイン』という少年の見えない庇護と、彼の持つ未知の力によるものであったことが判明している。お前たちはただ、彼が整えた舞台の上で剣を振り回し、魔法を放っていただけのピエロに過ぎなかったのだ」

「な……っ……」

 アレクの顔から完全に血の気が引いた。エルナは静かに涙を流し、カインは力なく目を閉じ、ミラはさらに小さく縮こまった。

 国家の最高機関が、彼らの「無能」を完全に証明し、見限った瞬間だった。

「国王陛下からの直々の命を伝える」

 騎士が巻物を広げ、感情のない声で読み上げた。

「『暁の剣』の四名に対し、これまでの国庫からの支援、特別待遇、および勇者としての称号をすべて剥奪する。また、国家を欺き、不当に名誉と富を得た罪により、今後一切の王都への立ち入りを禁じる。直ちにこの療養院を退去し、自らの足で王都から出て行くがいい」

「ま、待ってくれ! 俺たちを追い出したら、魔王軍はどうするんだ! 俺たちがいなければ……!」

「心配には及ばん。現在、国を挙げて真の救世主である『レイン』殿の捜索を行っている。彼さえ見つけ出し、王都へ帰還していただくことができれば、この状況は必ず覆せる。彼を見限り、追い出したお前たちなど、もはや路傍の石以下の価値もない」

 騎士の言葉は、アレクのプライドを根元から粉々に打ち砕いた。

「さあ、さっさと出て行け。お前たちのようなゴミのために、これ以上王室の予算を使うことは許されんのだ」

 抵抗する間もなく、四人は騎士たちによって乱暴に引き立てられ、王立療養院の裏口から薄暗い路地裏へと文字通り「放り出された」。

 持たされたのは、ほんの数日分の硬い黒パンと、濁った水が入った水袋だけ。かつて伝説の聖剣を握っていたアレクの手は泥にまみれ、エルナの純白の法衣は汚水に汚れ、カインとミラは寒さと恐怖に震えながら身を寄せ合っている。

 空からは冷たい氷雨が降り始め、彼らの惨めな姿を容赦なく打ち据えた。

「なんで……なんで、こんなことに……」

 アレクは泥だらけの地面に這いつくばり、自分の両手を見つめながら嗚咽を漏らした。

 ほんの少し前まで、世界は自分を中心に回っていると信じていた。自分が望めば何でも手に入り、誰もが自分を称賛してくれると。だが、そのすべては、自分が見下し、嘲笑い、そして自らの手で切り捨てた一人の少年の献身の上に成り立っていた幻に過ぎなかったのだ。

 レインがいなければ、剣の手入れすらできない。

 レインがいなければ、火を起こすことすらできない。

 レインがいなければ、魔物の気配に怯えて眠ることすらできない。

 彼らは今、初めて自分たちがどれほど無力で、愚かで、どうしようもない「足手まとい」であったかを、魂の底から理解させられていた。

「レイン……助けてくれ、レイン……俺が悪かった……俺が間違っていた……だから、戻ってきてくれ……!」

 アレクの悲痛な叫びは、冷たい雨の音に掻き消され、誰の耳にも届くことはなかった。

 王都のスラム街の暗がりに這いずる彼らに、かつての栄光の面影は微塵もなく、ただ死を待つだけの惨めな敗残者の姿があるだけだった。

   * * *

 一方、王都グランゼルの王城、国王の執務室。

 豪奢な絨毯が敷き詰められた部屋の中で、国王は血走った目で羊皮紙の報告書を次々と床に叩きつけていた。

「見つからぬだと!? これほど国中を挙げて捜索網を敷いているというのに、たった一人の少年を見つけ出すことができないというのか!」

「へ、陛下、申し訳ございません……!」

 ギルドの総長と、王国情報部の長官が、冷や汗を流しながら深く平伏している。

「我が国の優秀な密偵たちを総動員し、街道の検問所、各都市のギルド支部、果ては近隣諸国にまで手配書を回しておりますが、レイン殿の足取りは、王都を出た直後から完全に途絶えております。まるで、煙のように消え去ってしまったかのように……」

「馬鹿な! 彼ほど特殊な能力を持つ者が、どこにも痕跡を残さずに生活できるはずがなかろう! もっと探せ! 報酬は金貨一万枚、いや、十万枚だ! 彼を見つけた者には伯爵位を与えると布告しろ!」

 国王の焦燥は限界に達していた。

 前線からの報告は日を追うごとに絶望的なものになっている。魔王軍の進軍速度は予想を遥かに超えており、このままでは一ヶ月と経たずに王都が包囲される可能性が高い。唯一の希望は、魔物を服従させ、瘴気を浄化する失われた神代の力『絆紋』を持つというレインを呼び戻し、国家の総力を結集して彼を支援することだけだった。

「陛下、しかし……」

 宮廷魔導筆頭が、重苦しい声で口を開いた。

「仮にレイン殿を見つけ出し、王都へお連れできたとしても……彼が再び、我々のために力を貸してくれるという保証はどこにもありません」

「何だと?」

「彼は七年間、この国のために裏方として必死に尽くしてきました。しかし、我々は彼を一切評価せず、むしろ『無能』と蔑み、最終的には見捨てたのです。そのような仕打ちを受けた者が、金や権力を提示された程度で、再びこの国の窮地を救うために立ち上がってくれるでしょうか?」

 宮廷魔導筆頭の言葉に、国王は言葉を失い、力なく玉座に崩れ落ちた。

 覆水盆に返らず。

 彼らは、自分たちの手で世界最大の至宝を泥水の中に放り捨て、その価値に気づいた時には、すでに手の届かない場所へと永遠に失われてしまっていたのだ。

 王都の権力者たちが絶望と後悔に苛まれる中、時間だけが無情に過ぎ去り、破滅の足音は確実にグランゼルの城壁へと近づきつつあった。

   * * *

 王都を包む冷たい絶望の雨や、権力者たちの滑稽な焦燥など、もちろん俺の知る由もなかった。

 はるか遠く、魔王軍の脅威すらまだ届かない辺境の街アシュタル。

 そのはずれにある、豊かな緑と美しいハーブガーデンに囲まれた小高い丘の拠点『絆紋亭』では、今日もまた信じられないほど穏やかで、幸福に満ちた温かい時間が流れていた。

「ほーら、みんな! 昨日俺たちが作った『魔力農園』で採れたての、特上トマトとキャベツだぞ! アイラが狩ってきてくれた鳥肉と一緒に、最高のポトフにしてやったからな!」

 雲一つない青空の下、庭の広々としたテラスで、俺は湯気を立てる大鍋をお玉でかき混ぜながら声を上げた。

 昨日、雷鳴の怪鳥ライの『恵みの雷』と、ピコやミエルの魔力によって奇跡的に成長した農園の野菜たちは、たった一晩で信じられないほど立派に実っていた。魔力をたっぷりと含んだ野菜は、それだけで極上のポーションに匹敵する回復力と、驚くほどの甘みと旨味を秘めている。

「やったぁぁっ! レイン様のポトフ、大好きですっ!」

 エリスが満面の笑みで両手を上げ、お皿を持って一番に駆け寄ってくる。

「ガハハ! 新鮮な野菜と肉のスープなんて、これ以上の贅沢はないねぇ! エールが進むってもんだ!」

 巨大な戦斧を傍らに置いたアイラが、早くも木製のジョッキを傾けている。

「ちょっとアイラ、お昼からお酒なんて……でも、このポトフの匂いには勝てないわね。私にも大盛りでお願いするわ」

 ルウが杖を置き、ツンとした態度を崩しきれないながらも頬を緩ませる。

「ほっほっほ、この魔力野菜のおかげで、ワシの薬草の調合も新しい次元に進みそうじゃ。まさに命の源じゃな」

 ゴットが穏やかに髭を撫で、ドーラとリナも「最高の素材だね!」「お野菜がキラキラしてます!」と目を輝かせている。

「きゅるるーっ!!」

「ウォンッ!」

「ピィィィッ!」

 俺の周りでは、空色小竜のソラ、銀色のウルフのフェル、そして雷鳴の怪鳥ライが、自分たちの分の特製プレートを心待ちにして尻尾を振り、羽ばたいている。ポーションラビットのピコ、精霊獣のミエル、クリスタル・ゲッコーのルチルたちも、俺の足元にすり寄り、嬉しそうに鳴き声を上げている。

 縁側の隅では、宝石蜘蛛のルリが虹色の糸を編みながら優しく俺たちを見守り、水路の中ではクリア・スライムのスイが心地よさそうに揺れていた。

 賑やかで、優しくて、誰もが誰かを必要とし、誰もが誰かに感謝している場所。

 王都の勇者パーティーでは「足手まとい」と呼ばれ、すべてを失ったと思っていた俺の周りには、今、これほどまでに美しく、気高く、そして温かい家族たちがいる。

 世界を救う勇者のような大義や、歴史に名を残すような名誉なんて、やっぱり俺には必要ない。

 ただ、この愛おしい『帰る場所』を守り、仲間たちと共に美味しい飯を食い、笑い合う。それだけで、俺の人生はこれ以上ないほどに完璧だった。

 ぽかぽかとした太陽の光が、絆紋亭の庭を優しく照らし出す。

 俺は仲間たちと魔物たちの笑い声を聞きながら、どこまでも高く青く澄み渡る辺境の空を見上げ、深い、深い幸福の深呼吸をした。

 急ぐ必要なんてない。俺たちの穏やかで幸せな冒険譚は、これからもこの場所で、ゆっくりと紡がれていくのだから。

【現在のステータス】

名前:レイン

職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)

称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 森の守護者 / 大地の開拓者

Lv:31

HP:330 / 330

MP:130 / 130

【スキル】

・生活魔法 Lv.9

・剣術 Lv.3

・解体 Lv.5

・野営技術 Lv.9

・野戦調薬 Lv.7

・植物知識 Lv.7

・建築・修繕 Lv.8

・鑑定 Lv.4

・気配察知 Lv.5

・魔導知識 Lv.4

・料理 Lv.7(※魔力野菜の調理によりアップ)

【固有スキル】

絆紋きずなもん:対象の魔物と心を通わせ、警戒心を解き放つ。深い絆を結んだ魔物と感覚や力を共有できる。複数の魔力と自然を調和させる。

【クラン『絆紋亭』メンバー】

空色小竜ソラ:絆レベル5

・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5

・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5

・クリスタル・ゲッコー(ルチル):絆レベル4

・スピリット・フォーン(ミエル):絆レベル4

・クリア・スライム(スイ):絆レベル4

宝石蜘蛛ルリ:絆レベル4

・雷鳴の怪鳥ライ:絆レベル4

・ウールシープの群れおよび森の小動物たち

・アイラ(女戦士・正式なクラン協力者)

・ルウ(魔導士・正式なクラン協力者)

・ゴット(薬師・正式なクラン協力者)

・エリス(見習い魔導士・クランメンバー)

・ドーラ(ドワーフの若き職人・クラン専属建築士兼鍛冶師)

・リナ(服飾職人・クラン専属仕立屋)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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