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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第21話 琥珀の蜂蜜と、森を紡ぐ宝石蜘蛛

第21話 琥珀の蜂蜜と、森を紡ぐ宝石蜘蛛

 辺境の街アシュタルに、深く静かな朝が訪れる。

 東の空が夜の深い藍色から、淡い薄紫色、そして鮮やかな黄金色へとゆっくりとグラデーションを描きながら移り変わっていく。世界が光を取り戻すその神聖な時間帯、街のはずれにある小高い丘の上に位置する非公式クラン『絆紋亭』の拠点は、今日もまた優しく穏やかな空気に包まれていた。

 かつては手入れもされず、屋根も抜け落ちていた開拓民の古い廃屋は、今や見違えるほど立派なロッジ風の建物へと生まれ変わっている。庭には色とりどりの野花が咲き乱れ、貴重なハーブが朝露に濡れてきらきらと輝いている。そしてその庭の中心では、先日木漏れ日の森でアース・ベアから譲り受けた伝説の樹木『星林檎スター・アップル』の若木が、微かな銀色の光を放ちながらしっかりと根を張り、新しい葉を広げようとしていた。

 ひんやりとした朝の澄んだ空気が、開け放たれた窓からそっと流れ込み、ふかふかのベッドで眠る俺、レインの頬を優しく撫でた。

「きゅるる……」

 枕元から聞こえてきた愛らしい寝息に、俺はゆっくりとまぶたを開けた。すぐ横では、空色小竜のソラが体を丸め、無防備な姿で心地よさそうに眠っている。その美しい空色の鱗は、差し込んできた朝日に照らされて、まるで高級な宝石のように輝いていた。

 そっと手を伸ばし、ソラの温かい背中を撫でてやると、くすぐったそうに身をよじらせ、ぱちりと黄金色の瞳を開いた。

「おはよう、ソラ。今日もいい天気だな」

「きゅっ!」

 ソラは元気よく短く鳴くと、小さな翼をパタパタと羽ばたかせて俺の胸元に飛び乗ってきた。その心地よい重みと温もりを感じながら、俺はゆっくりとベッドから身を起こし、大きく伸びをした。

 一階へ降りてリビングを抜け、裏庭のハーブガーデンへと出ると、そこにはすでに朝の時間を楽しむ先客たちがいた。

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

 朝の澄んだ空気の中、見事な銀色の毛並みを風になびかせているのは、大型のウルフであるフェルだ。かつて群れからはぐれ、傷ついていたところを保護した誇り高き狼は、今やすっかりこのクランの頼れる家族となっている。

 そして、そのフェルの周りをぴょんぴょんと軽快に跳ね回っているのは、純白の毛並みを持つポーションラビットのピコだ。フェルがわざと歩幅を合わせてピコを追いかけ、ピコがトリッキーな動きでそれをかわす。種族も大きさも全く違う二匹だが、『絆紋』を通じて心を繋いだ彼らの間には、本物の兄弟のような深い信頼関係が築かれていた。

「おはよう、フェル、ピコ。朝から元気だな」

 俺が声をかけると、フェルはふさふさの尻尾を大きく振って俺の足元に駆け寄り、その大きな頭をぐりぐりと押し付けてきた。ピコも俺の足の甲にちょこんと乗り、短い前足で顔を洗うような仕草を見せる。二匹の柔らかな毛並みを撫でてやると、指先からじんわりと温かな愛情が伝わってくる。

「キュキュッ」

 足元から微かな声がして視線を落とすと、縁側の木材の隙間から、クリスタル・ゲッコーのルチルが顔を出していた。ルチルの体表を覆う鉱石の鱗は、朝の光を乱反射して虹色にきらめいている。

「おはよう、ルチル。よく眠れたか?」

 指先でその冷たくて滑らかな頭を撫でてやると、ルチルは気持ちよさそうに目を細め、ちろちろと舌を出した。

 さらに庭の奥、色とりどりの野花が咲き乱れる一角では、精霊獣のミエルが静かに佇んでいた。純白の毛並みと水晶のような小さな角、背中の蝶のような翼が、朝の光を浴びて神々しいほどの美しさを放っている。ミエルはこちらに気づくと、「キュゥン」と優しく澄んだ鳴き声を上げ、優雅な足取りで近づいてきて俺の手のひらに鼻先を擦りつけた。

 そして縁側の隅では、先日水源の村で保護したばかりのクリア・スライムのスイが、朝露を吸収しながらプルプルと心地よさそうに揺れている。

 かつて、王都の勇者パーティーに所属していた頃。

 俺の朝は、誰よりも早く起き出し、冷たい水で顔を洗う暇もなく仲間たちの武器の手入れをし、火を起こし、彼らの機嫌を損ねないようにビクビクしながら朝食の準備に追われるという、息の詰まるような時間だった。

『お前はもう、いらない』

 あの一言で居場所を奪われ、すべてを失ったと思っていた。

 だが、どうだろう。今、俺の目の前に広がるこの光景は。

 信頼できる仲間たちと、心を通わせた魔物たち。誰に急かされることもなく、自分のペースで深呼吸ができるこの空間。俺は今、世界中の誰よりも幸福な朝を迎えているという確信があった。

「さて、みんなのお腹が空く前に、朝飯の準備をするか」

 俺がそう呟いて厨房に戻ろうとした時、勝手口の扉がギィッと開き、エプロン姿の可愛らしい少女が顔を出した。見習い魔導士のエリスだった。

「あ、レイン様! おはようございます!」

「おはよう、エリス。早いな」

「はいっ! 今日は、先日クリア・バレーの村長さんから頂いた特上の琥珀ハチミツを使って、ハニートーストを作ろうと思いまして!」

「それはいいな。甘くて香ばしい匂いで、みんなもすぐに起きてくるだろう」

 二人で厨房に立ち、手際よく朝食の準備を進める。

 俺は石窯の魔道コンロを使って、自家製のふっくらとした白パンを厚切りにし、表面がカリッとなるまで絶妙な火加減でトーストする。エリスがそこに、たっぷりの発酵バターと、透き通るような琥珀色のハチミツをとろりと垂らしていく。厨房いっぱいに、バターの塩気とハチミツの濃厚で甘い香りが広がり、思わず喉が鳴った。

 庭で採れた新鮮なハーブを使った爽やかなサラダと、ベーコンを添えれば、完璧な朝食の完成だ。

 大きな木製のテーブルに大皿を並べ終えたちょうどその時、待ち構えていたかのように玄関の扉が勢いよく開いた。

「おーっす! いい匂いが外まで漂ってきたぜ! 腹ペコだ!」

 巨大な戦斧を背負った女戦士アイラが、豪快な笑い声を上げながら入ってきた。

「ちょっとアイラ、朝から声が大きいわよ。……ふぁあ、おはようレイン、エリスちゃん。すっごくいい匂いね」

 その後ろから、眠そうに目をこすりながら杖をついた少女魔導士ルウが続く。

「ほっほっほ、甘い香りに釣られて、年寄りも早く目が覚めてしまったわい」

 ニコニコと穏やかな笑みを浮かべた老薬師ゴット。

「あー、よく寝た! 昨日遅くまで窯の調整をしてたから腹ペコだよ!」

 ドワーフの若き職人ドーラも、防塵ゴーグルを首にかけたまま元気に姿を現した。

「おはよう、みんな。ちょうどできたところだ。さあ、冷めないうちに食べよう」

 俺の言葉を合図に、全員がテーブルにつき、朝食の時間が始まった。

 テラス側にはソラやフェル、ピコたちのための特製魔物用プレートも用意してある。スイは特別に用意した魔力水にハチミツを少し混ぜたものを、嬉しそうに吸収していた。

「んんっ! このハニートースト、外はサクサクで中はフワフワ、ハチミツの濃厚な甘さが体に染み渡るね!」

 アイラが大きな口でパンを頬張り、目を輝かせる。

「……本当に美味しい。このハチミツ、ただ甘いだけじゃなくて、花の香りがすごく豊かね」

 ルウもうっとりとした表情で頬を緩ませる。

「えへへ、レイン様のパンの焼き加減が完璧なんですよ!」

 エリスが照れくさそうに笑い、ドーラも「アタシの作った窯の火力も一役買ってるね!」と誇らしげに胸を張った。

 賑やかな話し声と、カチャカチャと食器の触れ合う音。

 俺は自分の分の特製ハーブティーをゆっくりと啜りながら、この温かい光景をただ静かに眺め、深い幸福感に浸っていた。

   * * *

 朝食を終え、後片付けを済ませた俺は、今日の依頼を探すためにアシュタルの冒険者ギルドへと足を運んだ。

 肩にはソラが乗り、足元には護衛兼散歩としてフェルとピコがピタリと寄り添っている。街の住人たちも、すっかり俺と魔物たちの姿に慣れたようで、「おはようレイン! 今日もフェルは立派な毛並みだな!」「ピコちゃん、こっちにおいで、人参をあげるよ!」と、気さくに声をかけてくれる。

 活気に満ちたギルドの扉を押し開けると、いつものように多くの冒険者たちが掲示板の前に群がっていた。

「あ、レインさん! お待ちしてました!」

 カウンターの奥から、赤毛の受付嬢がパッと顔を輝かせて手招きしてきた。

「おはようございます。何か良い依頼はありましたか?」

「はい、実はですね……またレインさんにお願いしたい、少し特殊な依頼が入ってきたんです」

 彼女はカウンターに一枚の羊皮紙を広げた。

「アシュタルの北東にある『紡ぎの森』と呼ばれる場所をご存知ですか? 良質な木材が採れる林業の要所なんですが、数日前から、森の木々が巨大な『虹色の糸』でぐるぐる巻きにされてしまい、木こりたちが中に入れなくなってしまったそうなんです」

「虹色の糸……ですか?」

「はい。調査に向かった冒険者によると、巨大な蜘蛛の魔物が森に巣を作っているらしいんですが、その糸が異常に頑丈で、刃物でも魔法でもなかなか切れないらしくて。でも、その蜘蛛は人間を襲うわけではなく、ただ黙々と糸を吐いて森を覆い尽くしているみたいなんです」

 人間を襲わない蜘蛛の魔物。

 通常、蜘蛛型の魔物は獰猛で、罠を張って獲物を捕食するタイプが多い。だが、ただ糸を張り巡らせるだけで攻撃してこないとなると、何か別の理由があるはずだ。

「ギルドとしては、その魔物を討伐するか、あるいは森の奥へ移動してもらうように交渉してほしいんです。レインさんの『絆紋』の力なら、あるいは平和的に解決できるのではないかと思いまして」

「分かりました。その依頼、引き受けます。誰も傷つけずに、糸を片付けてもらう方法を探ってみます」

「ありがとうございます! 木こりたちも仕事ができなくて困っているので、助かります。どうかお気をつけて!」

 ギルドを後にした俺は、すぐに拠点に戻って仲間たちに事情を説明した。

「巨大な蜘蛛の魔物ねぇ。普通なら気味が悪くて近寄りたくないところだけど、虹色の糸っていうのは少し興味があるわ」

 ルウが考え込むように杖の先で地面をコツコツと叩く。

「よっしゃ! もし交渉が決裂して暴れだしたら、アタシの戦斧で糸ごとぶった斬ってやるよ!」

 アイラが新調した戦斧を肩に担いでニヤリと笑う。

「わ、私も火の魔法で糸を燃やす準備をしておきますっ!」とエリス。

「虹色の糸か……。もしかすると、それは『ジュエル・スパイダー』かもしれないね。あいつらの吐く糸は、極上の絹よりも美しくて、鉄の鎖よりも頑丈だって言われてるんだ。アタシも素材として見てみたいから、ついていくよ!」

 ドーラが目を輝かせてハンマーを握りしめた。

 こうして、俺、アイラ、ルウ、エリス、ドーラの人間五人と、ソラ、フェル、ピコの魔物たちによる、紡ぎの森への調査パーティーが結成された。

   * * *

 アシュタルの街から北東へ歩くこと一時間半。

 俺たちは、木こりたちの仕事場である『紡ぎの森』へと到着した。

 しかし、その光景は普段の緑豊かな森とは完全に異なっていた。

「……こ、これはすごいわね」

 ルウが息を呑んで呟いた。

 森の入り口から奥深くに至るまで、巨大な木々の間を縫うようにして、きらきらと虹色に輝く無数の糸が張り巡らされていたのだ。太陽の光を反射してプリズムのように輝くその光景は、恐ろしい魔物の巣というよりは、神々が作り上げた芸術作品のようにすら見えた。

「ウォンッ!」

 フェルが鼻をひくつかせ、森の奥へと向かって低く唸り声を上げた。

「奥にいるんだな。みんな、足元の糸に引っかからないように気をつけて進むぞ」

 俺たちは、美しい虹色の糸のトンネルをくぐるようにして、森の奥へと慎重に足を踏み入れた。

 ドーラが落ちていた糸の切れ端を拾い上げ、両手で引っ張ってみるが、全く切れる気配がない。

「信じられない強度だ……。やっぱりこれは、宝石蜘蛛ジュエル・スパイダーの糸だよ。でも、どうしてこんな林業の森なんかに大量に巣を張ってるんだ?」

 その疑問の答えは、森の最深部にある開けた広場に辿り着いた時に明らかになった。

 広場の中央にある巨大な古木の枝に、体長が三メートルはあろうかという巨大な蜘蛛の魔物がしがみついていた。

 その体は、まるで磨き上げられたラピスラズリやサファイアのような、深く美しい瑠璃色の宝石のような外殻で覆われている。間違いなく、伝説の魔物『ジュエル・スパイダー』だ。

 しかし、その様子はひどく怯えきっていた。

「シャァァァ……ッ……!」

 ジュエル・スパイダーは、古木の上から周囲を威嚇するように細い糸を吐き出し続けているが、その八つの複眼には明確な恐怖の色が浮かんでいる。

 そして、そのジュエル・スパイダーを取り囲むようにして、上空をブンブンと羽音を立てて飛び回っている不気味な影があった。

「あれは……『ブレード・マンティス』の群れか!」

 アイラが険しい顔で戦斧を構えた。

 ブレード・マンティス。両腕が鋭い刃物のように進化した、巨大なカマキリの魔物だ。非常に好戦的で、群れで獲物を襲う習性がある。

 どうやら、ジュエル・スパイダーは自分からこの森を占拠しようとしたわけではなく、ブレード・マンティスの群れに襲われ、自分の身を守るために必死に結界としての糸を張り巡らせていたらしい。

(怖い……来ないで……私の糸を、切らないで……!)

 俺の脳内に、ジュエル・スパイダーからの悲痛な感情が流れ込んできた。

 彼女は戦うのが苦手なのだ。美しい糸を紡ぐことしかできず、獰猛なカマキリたちに追い詰められて、この古木から動けなくなっている。

「みんな、あのカマキリどもを蹴散らすぞ! 蜘蛛の子には手を出さないでくれ!」

 俺が叫ぶと、仲間たちは一斉に武器と魔法を構えた。

「任せな! 虫けらども、アタシの斧のサビにしてやる! 『烈風斬』!!」

 アイラが跳躍し、風を纏った強烈な一撃で、飛びかかってきたブレード・マンティスを一刀両断にする。

「エリスちゃん、合わせるわよ! 『ファイア・ランス』!」

「は、はいっ! 『ウインド・カッター』!」

 ルウの放つ炎の槍と、エリスの放つ風の刃が融合し、灼熱の嵐となってカマキリの群れを焼き払う。

「アタシのハンマーも味わいな! 『グランド・スマッシュ』!」

 ドーラが巨大なハンマーを地面に叩きつけ、その衝撃波で地上を這い寄るカマキリたちを吹き飛ばした。

「ウォォォンッ!!」

「きゅるるーっ!!」

 フェルが雷のような速度で敵の死角に回り込んで鋭い牙を突き立て、空からはソラが小さな火炎のブレスを吐き出して敵の陣形を崩す。ピコも素早い動きで敵の注意を引きつけ、仲間たちを完璧にサポートしていた。

 かつて王都で「足手まとい」と呼ばれた俺だが、今の俺には、これほどまでに頼もしく、互いを信頼し合える最高の仲間たちがいる。

 俺は仲間たちが敵を抑え込んでいる間に、ジュエル・スパイダーの潜む古木の根元へと真っ直ぐに走った。

「大丈夫だ! もう怖くない!」

 俺は両手を広げ、右手の甲にある翠色の痣――『絆紋』の光を限界まで解放した。

 翠色の温かな波紋が、虹色の糸に反射しながら、ジュエル・スパイダーの体を優しく包み込む。

 絆紋の波動が彼女の心に届いた瞬間、震えていた八つの脚がピタリと止まり、警戒心に満ちていた複眼から恐怖の色がスッと消え去った。

「シャァ……?」

「俺たちは敵じゃない。君を助けに来たんだ」

 ジュエル・スパイダーは、俺の放つ温かい魔力に誘われるように、古木の枝からスルスルと糸を伝って降りてきた。そして、その巨大で美しい瑠璃色の頭を、俺の胸にそっと擦りつけてきた。

(あったかい……あなた、やさしい……助けてくれて、ありがとう)

 俺の心に、純粋な感謝と安堵の感情が流れ込んでくる。

「怪我はないか? よく一人で耐え抜いたな。偉いぞ」

 俺が瑠璃色の硬い外殻を優しく撫でてやると、彼女は嬉しそうに体を震わせた。

 数分後、ブレード・マンティスの群れは完全に討伐されるか、恐れをなして逃げ去っていた。

 戦闘を終えたアイラたちが、汗を拭いながら俺たちの元へと集まってくる。

「ふぅ、片付いたよ。レイン、そっちの蜘蛛ちゃんは大丈夫かい?」

「ああ、怪我もない。ただ、追い詰められて怯えていただけみたいだ」

 ドーラが目を輝かせて、ジュエル・スパイダーの周りに張り巡らされた虹色の糸を見つめた。

「すごい……近くで見るとさらに美しいね。この糸があれば、どんな刃物も通さない最高の防具服が作れるよ。それに、魔法の耐性もバツグンだ」

「私服の仕立てにも使えそうね。光の加減で色が変わるなんて、王都の貴族が喉から手が出るほど欲しがるわよ」

 ルウも興味津々で糸に触れている。

「シャァァ♪」

 ジュエル・スパイダーは、自分を褒められたのが分かったのか、嬉しそうに前脚を動かし、俺の周りをくるくると回り始めた。そして、口からシュルシュルと美しく細い糸を吐き出し、あっと言う間に俺の腕に、虹色に輝く小さなブレスレットのようなものを編み上げてしまった。

(これ、お礼……。あなた、すき。いっしょに、いたい)

「はは、すっかり気に入られたみたいだな。君も俺たちと一緒に来るかい? うちの庭なら、カマキリに襲われる心配もないし、好きなだけ糸を紡いでいいぞ。名前は……そうだな、その美しい瑠璃色の体から、『ルリ』にしよう」

「シャァンッ!」と、ルリは嬉しそうに鳴き、ソラやフェルたちとも鼻先を突き合わせて挨拶を交わした。

 こうして、恐ろしいと誤解されがちな宝石蜘蛛のルリが、絆紋亭の新しい家族として加わることになった。

   * * *

 その後、ルリに頼んで森に張り巡らせた糸を綺麗に回収してもらい(この大量の虹色の糸は、ドーラとルウによって極上の素材としてクランに持ち帰られた)、俺たちは木こりたちに森の安全を報告した。

「おおぉ! さすがは絆紋亭の皆様だ! これで明日からまた仕事ができます!」

 木こりたちは大喜びで、お礼として最高級の木材を大量に寄付してくれた。これでまた、クランの建物の増築や家具作りに役立てることができる。

 夕日に赤く染まるアシュタルへの帰路。

 俺たちの列の後ろには、大人しくついてくる巨大な瑠璃色の蜘蛛、ルリの姿があった。街の人々は最初は驚くかもしれないが、俺と一緒ならすぐに慣れてくれるだろう。

「これでまた、うちのクランが賑やかになるね。ルリちゃんの糸で、みんなのお揃いのマントでも作ろうか!」

 ドーラがワクワクとした顔で言う。

「それは素敵ですね! 私、裁縫には少し自信があります!」

 エリスも嬉しそうに笑う。

 俺は、仲間たちと魔物たちの笑い声を聞きながら、どこまでも高く青く澄み渡る辺境の空を見上げた。

 王都を追放され、あてもなく流れ着いたあの日からは想像もできないほど、今の俺は多くの命と絆に囲まれ、必要とされている。

 世界を救う勇者のような派手な栄光は、俺には必要ない。

 ただ、この優しくて温かい「帰る場所」と、笑い合える家族さえいれば、それだけで十分なのだ。

 夜風が心地よく吹き抜け、ハーブの香りを遠くまで運んでいく。

 新しい家族を迎えたクラン『絆紋亭』の夜は、これからもどこまでも穏やかに、そして幸せに満ちたまま更けていくのだった。

【現在のステータス】

名前:レイン

職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)

称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 森の守護者

Lv:29(※マンティスの討伐と魔物救済によりアップ)

HP:310 / 310

MP:110 / 110

【スキル】

・生活魔法 Lv.8

・剣術 Lv.3

・解体 Lv.5

・野営技術 Lv.8

・野戦調薬 Lv.6

・植物知識 Lv.5

・建築・修繕 Lv.8

・鑑定 Lv.4(※希少素材の目利きによりアップ)

・気配察知 Lv.5

・魔導知識 Lv.3

・料理 Lv.5

【固有スキル】

絆紋きずなもん:対象の魔物と心を通わせ、警戒心を解き放つ。深い絆を結んだ魔物と感覚や力を共有できる。

【クラン『絆紋亭』メンバー】

空色小竜ソラ:絆レベル5

・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5

・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5

・クリスタル・ゲッコー(ルチル):絆レベル4

・スピリット・フォーン(ミエル):絆レベル4

・クリア・スライム(スイ):絆レベル4(※絆深化)

宝石蜘蛛ルリ:新規合流 / 絆レベル3

・ウールシープの群れおよび森の小動物たち

・アイラ(女戦士・正式なクラン協力者)

・ルウ(魔導士・正式なクラン協力者)

・ゴット(薬師・正式なクラン協力者)

・エリス(見習い魔導士・クランメンバー)

・ドーラ(ドワーフの若き職人・クラン専属建築士兼鍛冶師)

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