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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第19話 魔法窯の火と、清流の守り手

第19話 魔法窯の火と、清流の守り手

 アシュタルの街のはずれに建つ非公式クラン『絆紋亭』の拠点は、ドワーフの若き職人ドーラが専属の建築士兼鍛冶師として加わったことで、さらに活気と機能性を増していた。

 焦熱の谷から持ち帰った特級品の耐火粘土と炎精石を用いて作り上げられた『ドワーフ式・魔法窯』は、庭の片隅で静かに、しかし圧倒的な熱量と魔力を内包して稼働を始めていた。

 朝の澄んだ空気が満ちる中、魔法窯の前に立つドーラは、防塵ゴーグルを額に押し上げ、真剣な眼差しで炎の揺らめきを見つめていた。その隣には、分厚い革の手袋をはめた俺、レインが立っている。

「よし、窯の温度は完璧だね! 炎精石の火力が最高に安定してる。レイン、アイラの戦斧を貸しておくれ!」

「分かった」

 俺は、アイラが長年愛用している巨大な戦斧を両手で持ち上げ、ドーラの指示通りに窯の火口へと慎重に差し込んだ。

 この戦斧は、アイラの豪快な戦いぶりを支えてきた相棒だが、度重なる激戦で刃こぼれが目立ち、柄の部分にも見えない亀裂が走り始めていた。王都の勇者パーティーにいた頃、俺は毎日仲間の武器を手入れしていたが、高度な打ち直しや魔力の再付与まではできなかった。しかし今、この最高の設備とドーラという一流の職人がいれば、それが可能になる。

「レイン、アタシがハンマーで叩くタイミングに合わせて、あんたの魔力で『修繕』のスキルを流し込んでおくれ。ただの修繕じゃない、あんたのその優しい魔力で、金属の繊維一つ一つを繋ぎ合わせるイメージだ!」

「分かった、やってみる」

 カンッ! カンッ! カンッ!

 ドーラが小気味よいリズムでハンマーを振り下ろす。その一撃一撃が、戦斧の歪んだ金属組織を正確に叩き直していく。俺はそのリズムに完全に同調し、右手の甲の『絆紋』を通じて、微細な魔力を金属の奥深くまで浸透させていった。

 かつて魔物たちを癒やしてきた温かな波動が、今度は無機物である武具の傷を優しく包み込み、本来の強度と切れ味を蘇らせていく。

「すごい……! 金属が、まるで生き物みたいにあんたの魔力に喜んでる! これなら、ただの修繕じゃなくて、一段階上の名剣クラスに進化するよ!」

 ドーラが興奮した声を上げ、さらにハンマーのスピードを上げた。

 数十分後。

 冷却用の魔力水にジュウゥゥッと音を立てて浸された戦斧は、すっかり新しく生まれ変わっていた。刃こぼれは完全に消え去り、刀身にはうっすらと翠色の美しい波紋模様が浮かび上がっている。

「おおぉーっ! すげえっ! アタシの戦斧が、まるで新品……いや、買った時よりもずっと軽くて手に馴染む気がするぞ!」

 出来上がったばかりの戦斧を握りしめたアイラが、庭の真ん中で豪快に素振りをしてみせた。ブンッ!という鋭い風切り音が響き、庭の草木がざわめく。

「これなら、オークの群れが来ようが一振りでなぎ払えそうだ! ドーラ、レイン、ありがとな!」

「へへっ、アタシの腕とレインの魔力の結晶さ。大事に使っておくれよ」

 ドーラが得意げに鼻をこする。

 続いて、ルウの杖の魔力伝導率の調整、エリスの初心者用ローブへの防刃魔法の付与などを次々とこなし、午前中のうちに仲間たちの装備は見違えるほどに強化された。

「きゅるるー!」

「ウォンッ!」

 ソラとフェルが、新しくなった武具を見て「自分たちも強くなったみたいだ」と言わんばかりに嬉しそうに跳ね回っている。ピコもピョンピョンと跳ね、ルチルは日向ぼっこをしながらその様子をのんびりと眺めていた。

   * * *

 午後。

 新しい装備のテストも兼ねて、俺たちはアシュタルの冒険者ギルドへと足を運んだ。

 肩にはソラ、足元にはフェルとピコがしっかりとついてきている。街の人々もすっかりこの一行に見慣れたもので、フェルの美しい銀色の毛並みを撫でさせてもらおうと、子供たちが時折駆け寄ってくるほどだった。フェルも、俺の仲間だと認識している街の人々には決して牙を剥くことはなく、されるがままに目を細めている。

 ギルドの扉を開けると、赤毛の受付嬢がすぐにこちらに気づき、小走りで近づいてきた。

「あ、レインさん! 皆さん揃って、ちょうど良かったです。実は、また指名でお頼みしたい依頼がありまして……」

「指名依頼ですか?」

「はい。アシュタルの東にある農村、『クリア・バレー』の村長さんからです。なんでも、村の命綱である水源の川が、数日前から急に淀み始めて、水量が激減してしまったそうなんです。干ばつの時期でもないのに、上流で何かが起きているとしか考えられなくて……」

 水源のトラブル。

 それは農村にとって死活問題だ。魔物が上流を塞いでいるのか、あるいは自然災害か。

「村の若者たちが見に行ったらしいんですが、上流の岩場から不気味な声が聞こえてきて、恐ろしくて逃げ帰ってきてしまったそうです。ベテランの冒険者たちは魔王領付近の警戒で手一杯で……どうか、レインさんたちのお力で解決していただけないでしょうか」

「分かりました。困っているなら、すぐにでも向かいましょう」

 俺が二つ返事で引き受けると、受付嬢はホッと胸を撫で下ろし、深く頭を下げた。

「水源の調査ね。水棲の魔物が悪さをしているのかしら。私の氷魔法が役に立ちそうね」

 ルウが新しく調整された杖を握り直し、やる気を見せる。

「よし! 新しくなった戦斧の試し斬りにはもってこいだな!」とアイラも豪快に笑った。

「私、村の方々のために全力でサポートしますっ!」とエリス。

「ほっほっほ、水質の調査ならワシの薬師としての知識も役に立つじゃろう。ドーラはお留守番か?」

 ゴットの問いに、ドーラは少し名残惜しそうに首を振った。

「アタシは工房の細かい調整が残ってるから、今回はパスするよ。みんな、気をつけて行ってきな!」

 こうして、俺、アイラ、ルウ、ゴット、エリスの人間五人と、ソラ、フェル、ピコの魔物たちによる、水源調査のパーティーが結成された。

   * * *

 クリア・バレーの村は、アシュタルから馬車で一時間ほどの距離にある、のどかな農村だった。

 しかし、村の真ん中を流れるはずの小川は干上がりかけ、残った水も泥のように濁っていた。村人たちの顔には深い疲労と不安が刻まれており、俺たちが到着すると、村長がすがるような目で駆け寄ってきた。

「おお、ギルドからの冒険者様! しかも噂の『絆紋亭』の方々とは! どうか、どうか村の川をお救いください。このままでは今年の作物は全滅し、冬を越せなくなってしまいますだ……!」

「落ち着いてください、村長さん。すぐに上流の調査に向かいます。皆さんはここで待っていてください」

 俺たちは村長を安心させ、干上がりかけた川の流路に沿って、山の上流へと足を踏み入れた。

 山の空気は澄んでいるはずなのだが、川を遡るにつれて、ひどい悪臭と淀んだ魔力の気配が強くなっていくのが分かった。

「ウォンッ!」

 先頭を歩いていたフェルが、低く唸り声を上げて立ち止まった。

「どうしたフェル。何かいるのか?」

 フェルの視線の先、川の源流となっている大きな岩の洞窟の入り口に、どす黒いヘドロのようなものが大量にこびりついて、水の流れを完全に塞いでいた。

「あれは……『ポイズン・スライム』の死骸の山ね。それに、ゴミや流木が絡まって、完全に天然のダムになっちゃってるわ」

 ルウが顔をしかめて鼻をつまむ。

 どうやら、山の奥で大量発生した毒性スライムが何らかの理由で死滅し、それが源流に詰まってしまったらしい。

「よし、アタシの斧で一気にぶち壊してやるよ!」

「待って、アイラ! あのヘドロの奥から……微かだけど、何かが動く気配がする」

 俺が『気配察知』のスキルを最大まで引き上げると、巨大なヘドロの塊のさらに奥、洞窟の入り口の隙間で、小さな魔力の光が弱々しく明滅しているのが分かった。

(苦しい……助けて……水が……汚いよぅ……)

 脳内に流れ込んできたのは、ひどく澄み切った、しかし今にも消え入りそうなか細い声だった。

「あの中に、まだ生きている魔物がいる。ポイズン・スライムじゃない……別の何かだ」

「本当ですか!? でも、あの毒のヘドロの中にいたら、普通は溶かされてしまいます!」

 エリスが青ざめた顔で叫ぶ。

「俺が行く。ルウ、エリス、俺に毒耐性と浄化の魔法をかけてくれ。アイラは俺が合図したら、ヘドロの端を少しだけ切り崩して、俺が入り込む隙間を作ってくれ!」

「分かったわ!『アンチ・ポイズン』『ピュリファイ・ベール』!」

「『ホーリー・プロテクト』!」

 二人の魔法が俺の体を包み込み、淡い光の結界が形成された。

「行くぞアイラ!」

「オラァッ!!」

 アイラが新調された戦斧を振り下ろす。ドーラの鍛えた刃は、粘り気のあるヘドロをいともたやすく切り裂き、大人が一人通れるほどの穴を開けた。

 俺はその穴から、悪臭の立ち込めるヘドロの山の内部へと潜り込んだ。

 ヘドロの奥深く、水が辛うじて湧き出ている岩の隙間に、それはいた。

 半透明の、透き通るような美しい水色のゼリー状の体を持つ魔物――『クリア・スライム』だ。

 スライム種の中でも極めて珍しい、水を浄化する能力を持つ変異種。このクリア・スライムが源流に住み着いていたからこそ、村には常に清らかな水が供給されていたのだろう。

 しかし、上流から流れてきたポイズン・スライムの死骸と毒に巻き込まれ、自身の浄化能力の限界を超えてしまい、今やその透明な体は毒素で黒く濁りかけ、プルプルと力なく震えていた。

「……よく頑張ったな。一人で、村の水を守ろうとしてたんだな」

 俺はヘドロの悪臭に耐えながら、そっと手を伸ばし、クリア・スライムの冷たい体に触れた。

(だめ……さわっちゃ、だめ。あなたも、どくで、しんじゃう……)

 クリア・スライムは、自分を犠牲にしてでも他人を巻き込むまいとする、あまりにも優しすぎる感情を伝えてきた。

 その自己犠牲の精神が、かつて勇者パーティーで自分をすり減らしていた頃の自分と重なり、胸がギュッと締め付けられた。

「大丈夫だ。俺は死なない。君も死なせない」

 俺は右手の甲の『絆紋』を限界まで輝かせた。

 翠色の光がヘドロの暗闇を照らし出し、温かな波紋となってクリア・スライムの体を包み込む。絆紋の力が、ルウとエリスの浄化魔法の効力を何倍にも増幅させ、クリア・スライムの体内に蓄積された毒素を強制的に分解・中和していく。

「キュル……ッ!」

 クリア・スライムの体から、黒い濁りがスゥーッと消え去り、本来の美しく透き通った水色へと戻っていく。

「よし、これで大丈夫だ。一緒に外へ出よう」

 俺は元気を取り戻したクリア・スライムを両手で優しく抱え上げ、ヘドロの山から脱出した。

「レイン、無事か!?」

「ああ。アイラ、ルウ、一気にヘドロを吹き飛ばしてくれ!」

「任せな!『烈風斬』!!」

「『エクスプロージョン』!!」

 アイラの風を纏った斬撃と、ルウの爆発魔法が同時に炸裂し、ポイズン・スライムの死骸とヘドロの山は完全に吹き飛び、周囲の森へと散り散りになって消滅した。

 その瞬間、堰き止められていた源流から、ドバァァァッ!と清らかな水が勢いよく流れ出し、干上がりかけていた川を満たしていった。

「やったぁっ! 川が元に戻りました!」

 エリスが両手を上げて歓喜の声を上げる。

「ほっほっほ、見事な連携じゃ。これで村の者たちも安心じゃな」

 ゴットが優しく髭を撫でた。

 俺の腕の中では、すっかり綺麗になったクリア・スライムが、プルプルと嬉しそうに震え、俺の頬にひんやりとした体をすり寄せていた。

(ありがとう……ありがとう。あなた、とってもあったかくて、すき……。いっしょに、いたい)

「はは、君も俺たちについてくるかい? うちのクランには、お風呂っていう大きな水場があるから、きっと気に入ると思うよ。名前は……そうだな、『スイ』にしよう」

「ピュイッ!」と、スイは嬉しそうに高く跳ねて見せた。

 ソラが興味深そうに空から舞い降りてスイをツンツンと突き、フェルは濡れた鼻先を近づけて匂いを嗅ぎ、ピコは新しい友達ができたとばかりに周りを跳ね回っている。

 こうして、清流の守り手であった心優しきスライムが、絆紋亭の新しい家族として加わることになった。

   * * *

 クリア・バレーの村に戻ると、川の水が清らかに流れ始めたのを見た村人たちが、歓喜の涙を流して俺たちを出迎えてくれた。

「おおぉ……! なんとお礼を申し上げたらよいか! これで村は救われましただ!」

 村長が地面に額を擦りつける勢いで感謝の意を表す。

「顔を上げてください。源流を塞いでいたヘドロを取り除いただけですよ。それに、本当の立役者はこの子です」

 俺が腕に抱えたスイを見せると、村人たちは驚きながらも、その美しい姿にため息を漏らした。

 帰り際、村人たちは馬車の荷台がいっぱいになるほどの、新鮮な野菜や果物、そして村で採れた特上のハチミツを報酬として持たせてくれた。

「これでまた、最高の夕飯が作れるね!」

 エリスが目を輝かせ、アイラとルウも「今夜は宴会だ!」と笑い合った。

 夕日に照らされたアシュタルへの帰路。

 馬車の中で、ソラとフェル、ピコに混ざって、スイが俺の膝の上でプルプルと心地よさそうに揺れている。

 理不尽にすべてを奪われたあの日から、俺の手の中には、数え切れないほどの温かい絆が生まれ、育っている。

 世界を救う大義などなくてもいい。ただ、手の届く範囲の大切な者たちを守り、笑い合う。それが、今の俺にとっての全てだった。

 今日もまた、クラン『絆紋亭』の夜は、どこまでも賑やかに、そして幸せに更けていくのだった。

【現在のステータス】

名前:レイン

職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)

称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 森の守護者

Lv:28(※ヘドロの除去と魔物救済によりアップ)

HP:300 / 300

MP:100 / 100

【スキル】

・生活魔法 Lv.8(※レベルアップ)

・剣術 Lv.3

・解体 Lv.5

・野営技術 Lv.8

・野戦調薬 Lv.6

・植物知識 Lv.5

・建築・修繕 Lv.8(※魔法窯での修繕作業によりアップ)

・鑑定 Lv.3

・気配察知 Lv.5(※レベルアップ)

・魔導知識 Lv.3(※レベルアップ)

・料理 Lv.5

【固有スキル】

絆紋きずなもん:対象の魔物と心を通わせ、警戒心を解き放つ。深い絆を結んだ魔物と感覚や力を共有できる。

【クラン『絆紋亭』メンバー】

空色小竜ソラ:絆レベル5

・銀色のウルフ(フェル):絆レベル5

・ポーションラビット(ピコ):絆レベル5

・クリスタル・ゲッコー(ルチル):絆レベル4

・スピリット・フォーン(ミエル):絆レベル4

・クリア・スライム(スイ):新規合流 / 絆レベル3

・ウールシープの群れおよび森の小動物たち

・アイラ(女戦士・正式なクラン協力者)

・ルウ(魔導士・正式なクラン協力者)

・ゴット(薬師・正式なクラン協力者)

・エリス(見習い魔導士・クランメンバー)

・ドーラ(ドワーフの若き職人・クラン専属建築士兼鍛冶師)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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