第13話 古い街道の商人たちと結ばれた絆、そしてクランに響く新たな足音
第13話 古い街道の商人たちと結ばれた絆、そしてクランに響く新たな足音
南の古い交易街道で起きたリザードの群れによる封鎖事件を、一滴の血も流すことなく円満に解決してから数日が経過した。
アシュタルの街のはずれに広がる非公式クラン『絆紋亭』の拠点は、日を追うごとにその温もりと活気を増していた。朝の澄み切った太陽の光がハーブガーデンを優しく照らし出し、露に濡れた草花が一面にきらめいている。テラスの木製テーブルでは、淹れたてのハーブティーから立ち上る心地よい香りが辺りを包み込んでいた。
「きゅるるーっ!」
足元では、すっかり大きく成長した小竜のソラが、新しく合流した銀色のウルフ――フェルや、ポーションラビットのピコ、キラキラと宝石のように輝くクリスタル・ゲッコーのルチルたちと一緒に、楽しげに駆け回っている。ウールシープの群れも庭のあちこちにのんびりと腰を下ろし、この場所に満ちる平和な空気を形作っていた。
かつて王都のパーティーで「お前はもういらない」と無情に切り捨てられ、自分の居場所を完全に失っていたあの頃の自分が、まさかこんなにも温かく、そして賑やかな日常を手に入れられているとは、当時は想像すらしなかった。
急いで強くなる必要などない。誰かと競い合う必要もない。ただ、目の前の大切な存在と手を取り合い、自分たちのペースで日々を重ねていく。それだけで、人生は十分に満たされるのだということを、今の俺は心から実感していた。
その時、庭の入り口に作った手作りの木の門の方から、トントンと慎ましいノックの音が聞こえた。
「おや、こんな朝早くに誰だい?」
俺がテラスの椅子から立ち上がり、門へと歩み寄って扉を開けると、そこに立っていたのは、数日前に古い街道の一件で助けた商人の男だった。彼の後ろには、見覚えのある頑丈な荷馬車が停められており、その傍らには一人の見慣れない若い少女の姿があった。少女は少しおずおずとした様子で、大きな荷物を抱えている。
「あ、あの……! おはようございます、レインさん!」
「おはよう。どうしたんだい、そんなに朝早くから」
「はい! あの時は本当にありがとうございました。おかげさまで商隊は無事にアシュタルに到着し、積荷の取引も大成功に終わりました。それで……実は、うちの商社で新しく雇った見習い魔導士の女の子を連れてきたんです。彼女、どうしてもレインさんにお礼が言いたいって言って聞かなくて……!」
商人の男に促されるようにして、少女がトコトコと一歩前に出た。
彼女は淡い藍色のローブに身を包み、大きな眼鏡をかけた可愛らしい少女だった。その両手には、丁寧に包まれた木箱が抱えられている。
「あ、あのっ! 私、レイン様にお礼を言いたくて参りました……! 私、エリスと申します。街道の魔物の件、本当にありがとうございました! 私の兄がその商隊の護衛をしておりまして、もしあの時レイン様が魔物たちと穏やかに話をつけてくださらなかったら……兄も、商隊も、みんな危険な目に遭っていたところでした……!」
エリスと呼ばれた少女は、ブルッと小さく身を震わせながら、深々と頭を下げた。
俺は慌てて手を横に振り、優しく微笑みかけた。
「顔を上げてくれ、エリスさん。誰も怪我をしなくて本当に良かったんだ。それに、魔物たちもただ怯えていただけだからね」
「はいっ……! それでですね、これ、私たちの商社が扱う最高級の魔導書と、お礼の特製ハーブの詰め合わせです。どうか、受け取ってください……!」
エリスが差し出した木箱を受け取ると、中には古文書のような貴重な魔導書と、香りの良い茶葉が入っていた。
「ありがとう、大切に使わせてもらうよ。せっかくだから、中で少しお茶でも飲んでいかないかい? ちょうど今、淹れたてのものがあるんだ」
「えっ、いいんですかっ……!? あの、私、こんな素敵な場所に長居しても……」
「もちろん大歓迎さ。ほら、入って入って」
俺がエリスをテラスへと案内すると、待ち構えていたようにアイラが豪快に笑いながら声をかけた。
「おっ、また新しいお客さんかい? しかも可愛らしいお嬢ちゃんだねぇ! アタシはアイラだ、よろしくな!」
「私はルウ。魔導士の先輩ってわけじゃないけど、よろしくね、エリスちゃん」と、ルウが優しく微笑みかける。
ゴットも「ほっほっほ、若い来客とは嬉しいものじゃのう。お茶をもう一杯淹れてやろう」と穏やかに髭を揺らした。
最初は緊張していたエリスだったが、ソラが物珍しそうに彼女の肩にちょこんと乗って「きゅるっ」と鳴いたのを見ると、パッと顔を輝かせた。
「わぁ……! この子、竜ちゃんですか……? すごく綺麗……!」
「ああ、ソラっていうんだ。人懐っこくていい子だろ?」
ソラも満足げにエリスの頬に軽く鼻を擦りつけ、エリスは「きゃっ、可愛い……!」と嬉しそうにはにかんだ。
その温かな光景を眺めながら、俺は改めて周囲を見回した。
王都を追い出された当時は、自分には何も無いと思っていた。しかし、今では銀色のウルフやポーションラビット、クリスタル・ゲッコーといった魔物たちが家族として加わり、人間の仲間たちもアイラ、ルウ、ゴットに加えて、こうして新しい出会いを通じて少しずつ増えていっている。
『絆紋亭』という名前の通り、ここは人と魔物、そして人と人との絆が優しく結ばれる、かけがえのない場所になっていた。
「ねえ、レインさん」
エリスがハーブティーを一口飲んでから、少し言いづらそうに眼鏡の位置を直した。
「私……もしよろしければ、この『絆紋亭』のお手伝いをさせていただけませんか? 私、魔法の勉強中で、まだお役に立てるかわからないのですが……薬草の知識や、魔導書の整理なら少しはできるんです。ここにいると、なんだかすごく心が落ち着いて……もっと皆さんの力になりたいんです」
そのエリスの真剣な瞳を見て、俺はふっと優しく微笑んだ。
「もちろん大歓迎だよ、エリス。今日から君も、この『絆紋亭』の大切な仲間だ」
「本当ですか……!? ありがとうございます、レイン様……っ!」
エリスが嬉しさのあまり涙ぐみ、ソラがその頭をポンポンと慰めるように翼で叩く。
こうして、クラン『絆紋亭』には新しい人間の仲間が加わり、さらに賑やかで温かな日常が続いていくのだった。
遠くで青空がどこまでも広がり、俺たちの歩む穏やかな未来を優しく見守っているような気がした。
【現在のステータス】
名前:レイン
職業:冒険者(クラン『絆紋亭』マスター)
称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手
Lv:22
HP:240 / 240
MP:65 / 65
【スキル】
・生活魔法 Lv.6
・剣術 Lv.3
・解体 Lv.5
・野営技術 Lv.7
・野戦調薬 Lv.5
・植物知識 Lv.4
・建築・修繕 Lv.3
・鑑定 Lv.2
・気配察知 Lv.3
・魔導知識 Lv.2(NEW)
【固有スキル】
・絆紋:対象の魔物と心を通わせ、警戒心を解き放つ。深い絆を結んだ魔物と感覚や力を共有できる。
【クラン『絆紋亭』メンバー】
・空色小竜:絆レベル5
・銀色のウルフ(フェル):絆レベル3
・ポーションラビット(ピコ):絆レベル3
・クリスタル・ゲッコー(ルチル):絆レベル3
・ウールシープの群れおよび森の小動物たち
・アイラ(女戦士・正式なクラン協力者)
・ルウ(魔導士・正式なクラン協力者)
・ゴット(薬師・正式なクラン協力者)
・エリス(見習い魔導士・新規クランメンバー加入)
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