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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第138話 閑話:新時代の波紋と、影に潜む監視者

第138話 閑話:新時代の波紋と、影に潜む監視者

 辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる特級クラン『絆紋亭』の拠点であり、『絆紋公国』の中心地であるこの場所は、今日もまた、世界中のどの場所よりも優しく、奇跡のような調和に満ちた朝を迎えていた。

 庭の中央にそびえ立つ巨大な精霊樹は、深淵の虚無や怨念を完全に浄化した極上の光をたっぷりと吸収し、一つの大森林と見紛うほどの神樹へと成長を遂げている。その豊かに茂ったエメラルドグリーンの枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、拠点全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

 澄み切った青空の下、縁側で朝の空気を胸いっぱいに吸い込んでいる俺の足元へ、一番最初に俺の固有スキルである『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たち――銀色のウルフ『フェル』、純白のポーションラビット『ピコ』、そして空色小竜の『ソラ』が競い合うように飛び込んできた。

 彼らの後に続くように、水豹のリン、幻宝石獣のキラ、白銀の幼熊ブラン、空間転移を操る銀狐のギン、鋼棘の鎧獣マル、疾風の隼ゲイル、影猫のシャロ、水妖の獺ミロ、風精のリスのルル、土精の土竜ドロ、星翼の梟ステラ、幻影の蝶ファル、雲羊のモフ、木精の栗鼠コノ、鎌鼬のタマ、鋼殻の戦亀カメ、雷雲の幼鳥ライたちが一斉に集まってくる。

 極北の遠征や各地の迷宮で家族となった魔物たち。そして、先日の開拓地で仲間になった白磁の巨象マク、風見の鶏カゼ、掘削の土竜ドリ、癒やしの綿毛獣ワタをはじめとする無数の魔物たちも、すっかり拠点に馴染み、わらわらと俺の周囲に集まり、心地よさそうに喉を鳴らしている。

「おはよう、みんな。今日も元気いっぱいだな。フェル、ピコ、ソラ、今日はお留守番にならなくて済みそうだから、そんなに張り切らなくてもいいぞ」

 俺が彼らの頭を順番に優しく撫でると、魔物たちは心底嬉しそうに目を細め、尻尾を振って応えた。庭の奥では、漆黒の竜ノヴァや紅蓮の火蜥蜴ガエン、鋼角の犀ザイン、岩砕の巨獣ダグといった大型組も、朝の日差しを浴びて気持ちよさそうに背伸びをしている。平和な空気が、この庭には満ち溢れていた。

「レイン様、朝食の準備が整いましたよ!」

 厨房から、見習い魔導士のエリスと元宮廷料理人のセシルが、賑やかな声を上げた。

 ダイニングルームの巨大なテーブルには、特製の魔力小麦で作った『焼きたてのハーブブレッド』に、農学者セリーヌが育てた新鮮な野菜をふんだんに使った『濃厚なチーズのシチュー』、そして砂漠の巫女ナディアが持参したスパイスで味付けされた『極上オーク肉の香草焼き』が並べられている。

「ガハハ! 今日も飯が美味いねぇ! アシュタルの領地が拡大して、新しい貴族たちが誕生したってのに、アタシらのやることは変わらないね!」

 女戦士のアイラが、香草焼きを豪快に頬張りながら大笑いする。

「ええ。ですが、実力主義による新たな叙爵という革新的な枠組みは、旧態依然とした世界中の貴族たちに大きな波紋を広げています。必ずしも歓迎する者ばかりではありませんわ」

 少女魔導士のルウも、優雅にシチューを飲みながら冷たげな笑みを浮かべた。

「光が強くなれば、必ず濃い影が落ちるもの。その影に潜む悪意を刈り取るのも、我々の重要な務めです」

 剣聖シルヴィアが静かに紅茶のカップを置いた。

新時代の波紋と、貴族たちの本音

 朝食後、領主の館の地下に設けられた『隠密部隊作戦室』。

 そこには、特級密偵のシオンと、新人獣人のミャオを中心に、ルカやベルといった隠密部隊の精鋭たちが集い、巨大な情報ボードを前に張り詰めた空気を漂わせていた。

「レイン様、おはようございます。先日発表された『実力主義による新貴族の登用』について、他国や我が公国の傘下に入った旧貴族たちの反応と、彼らの裏の動きについての報告がまとまりました」

 シオンが深く一礼し、分厚い報告書を差し出した。

「予想通り、旧態依然とした血統主義に固執する者たちの中には、この新制度を『貴族の誇りに対する冒涜』と受け取り、水面下で不満を募らせている者たちが多数存在しています」

「そうか。アーサーたちのような平民上がりが領主になることを、よく思わない連中がいるのは当然だろうな。具体的にはどう動いている?」

 俺が報告書に目を通すと、ミャオが犬耳をピコピコと動かしながら進み出た。

「はい! 私とルリちゃんの幻聴魔法で、彼らの夜会や秘密の会合での発言を全て拾い上げております! まず、東方諸国の『バルバロ男爵』や、南方大陸の『ジギス伯爵』たちは、この制度に大賛成しています。『血筋に胡座をかく時代は終わった。実力で領地を豊かにする者が上に立つべきだ』と、公国の理念に強く共感し、自領の開拓にさらに熱を入れています」

「それは素晴らしい。そういう真っ当な考えを持つ貴族たちには、今後も手厚く支援をしていくべきだな」

「しかし、問題なのは反対派です」

 シオンの目が鋭く光った。

「西方連合の『グルド侯爵』をはじめとする守旧派の貴族たちは、表面上は公国に従う姿勢を見せながらも、裏では密かに結託し、アーサー様たち新貴族の領地に対して嫌がらせや、物流の妨害を企てています。彼らの本音はこうです……『泥にまみれた平民どもが我々と同列などあり得ない。絆紋公国の甘い考えが破綻するよう、影から足を引っ張ってやる』と」

「……なるほど。自分たちの既得権益を守るために、他人の努力を台無しにするつもりか。全く、どこの世界にも救いようのないクズがいるもんだ」

 俺がため息をつくと、アイラが戦斧を担いで立ち上がった。

「ガハハ! いいじゃないか! 本性を現した連中から順番に、アタシらの斧の錆にしてやろうぜ!」

「お待ちください、アイラ教官。彼らは直接的な武力反乱を起こす度胸はなく、あくまで法や権力の隙を突いた陰湿な妨害工作を企てているのです。武力で制圧すれば、公国が暴君として糾弾される恐れがあります」

 シオンが冷静に制止する。

「ここは我々隠密部隊の出番です。彼らが妨害工作を実行に移す前に、確たる証拠を掴み、公の場で彼らの悪事を暴き立てて完全に失脚させます。すでに、グルド侯爵が違法な魔物を密輸し、アーサー様の開拓村に放とうとしているという情報を掴んでいます」

「そうか。ならば、俺たちも隠密部隊のサポートに回ろう。違法な魔物が使われるのなら、その魔物たちを救わなくてはならないからな」

「かしこまりました。これより、グルド侯爵の密輸現場である西方の廃城へ向かいます」

影に潜む監視者と、違法な取引

 その夜。西方連合の領内にある、長らく放置されていた『幻影の廃城』。

 シオン率いる隠密部隊は、音もなく闇に溶け込み、廃城の内部で行われているグルド侯爵と闇商人との密輸取引を完全に包囲していた。俺とアイラ、ルウ、シルヴィア、そしてフェル、ピコ、ソラも、気配を殺して天井の梁の上からその様子を伺っている。

「ヒッヒッヒ……グルド侯爵様。ご要望通り、狂暴で統制の効かない『狂乱の魔獣』たちを用意いたしましたぜ。これをあの小生意気な平民貴族の領地に放てば、一晩で村は壊滅、奴らは責任を問われて首が飛ぶこと間違いなしです」

 卑屈な笑いを浮かべる闇商人が、鉄格子の檻に入れられた数匹の魔物を指差した。

「よくやった。絆紋公国などというおめでたい連中が、平民に爵位を与えたことが間違いだったと、世界に知らしめてやらねばならんからな。高貴なる血筋こそが至高であることを、奴らに思い知らせてやる」

 グルド侯爵が、脂ぎった顔を歪めて冷酷に笑う。

 檻の中に入れられている魔物たちは、無理やり凶暴化の薬を投与され、痛みに耐えかねて悲鳴のような咆哮を上げていた。

「……あれは、野生の希少な魔物たちだ。あんな薬を打たれて、どれほど苦しんでいるか」

 俺が拳を握り締めると、ルウが炎の杖を構えた。

「レイン、もう十分でしょう? 証拠は揃いましたわ。あんな下劣な連中、私が一瞬で灰にして差し上げます」

「シオン、どうだ?」

 俺が目配せすると、シオンが影の中から静かに頷いた。

「彼らの会話、取引の記録、そして裏金の流れは、全て記録の妖精メモと記憶の水晶亀カメオによって記録されました。言い逃れは不可能です」

「よし。行くぞ!」

 俺の合図と共に、天井の梁から俺たちが一斉に飛び降りた。

「な、なんだ貴様らは!?」

 グルド侯爵が驚愕して後ずさる。

「き、絆紋公国の……レイン公王!? なぜこんなところに!」

 闇商人が悲鳴を上げた。

「お前たちの醜い本音も、陰湿な企みも、全て筒抜けだということだ。他人の努力を笑い、罪なき魔物を道具として扱うその腐った根性、ここで完全に叩き直してやる」

 俺が剣を抜き放ち、右手の甲の『絆紋』の光を灯した。

「ガハハ! コソコソ隠れて悪巧みするネズミどもは、アタシがまとめてミンチにしてやるよ!」

「『極大旋風・星砕き』!!」

 アイラの戦斧が巻き起こす竜巻が、闇商人の護衛たちを空高く巻き上げ、廃城の壁に叩きつける。

「燃え尽きなさい!『インフェルノ・バースト』!!」

 ルウの放つ業火が、闇商人が持ち込んだ違法な薬や証拠隠滅用の魔導具を瞬時に灰へと変える。

「我が剣の前に、立つことすら許しません。『神速・絶空の剣』」

 シルヴィアの神速の剣閃が、グルド侯爵の退路を正確に断ち切り、彼が隠し持っていた短剣だけを弾き飛ばした。

「フェル、ピコ、ソラ! 逃がすな!」

「ウォォォンッ!!」「キュイッ!!」「きゅるるーっ!!」

 フェルの天雷が轟き、ピコの浄化の蹴りが炸裂し、ソラの神聖なブレスが瘴気と薬の匂いを中和する。俺たち『絆紋亭』の圧倒的な力の前に、グルド侯爵と闇商人の野望は、わずか数十秒で完全に粉砕された。

救出と、闇夜に輝く新たなる命

「ひぃぃっ……! 公王陛下、お許しを! こ、これは何かの間違いで……!」

 グルド侯爵が床に這いつくばり、見苦しい言い訳を始める。

「往生際が悪いな。お前が企てた妨害工作の証拠は、明日の朝には世界中の王室に届けられる。高貴な血筋とやらが、開拓地の鉱山でどれだけ役に立つか、一生かけて証明してみせろ」

 俺の冷酷な宣告に、グルド侯爵は白目を剥いて気絶した。

「レイン様。檻の中の魔物たちが、薬の副作用で限界です」

 シオンの声に、俺はすぐさま鉄格子の前へ駆け寄った。シルヴィアが剣で錠前を斬り捨て、檻の扉を開け放つ。

 中には、痛みに身をよじり、息も絶え絶えになっている三匹の魔物たちが倒れていた。

 一匹は、闇夜に溶け込むような漆黒の毛並みと、影を操る能力を持つ巨大な黒豹――『幻影の黒豹(ファントム・パンサー)』。

 一匹は、音もなく空を舞い、鋭い爪で標的を捕らえる白銀のフクロウ――『月光の梟(ムーンライト・オウル)』。

 最後の一匹は、自在に姿を消すことができ、周囲の情報を記憶する特殊な水晶の鱗を持つトカゲ――『隠密の晶蜥蜴(ステルス・リザード)』。

 彼らは、その高い隠密能力ゆえに密猟者に狙われ、暗殺や妨害工作の道具として無理やり凶暴化の薬を打たれていたのだ。

「よく頑張ったな。もう大丈夫だ」

 俺はゆっくりとしゃがみ込み、右手の甲の『絆紋』の光を限界まで灯し、彼らの体に手をかざした。

 翠色の極限浄化と調和の光が、廃城の暗がりを温かく包み込む。

 魔物たちの体に打ち込まれた凶暴化の薬が完全に浄化され、彼らの傷が瞬時に癒えていく。苦しそうに歪んでいた表情が穏やかになり、本来の美しく気高い姿へと戻っていった。

(……あたたかい。痛みが、消えた……。お前が、私たちを縛る呪いを解いてくれたのか?)

 幻影の黒豹から、静かで誇り高い思念が伝わってくる。

「ああ。俺はレイン。お前たちをこんな目に遭わせた奴らは、もう二度と悪さができないようにしておく。辛い思いをさせて悪かったな」

 俺が微笑みながら黒豹の頭を撫でると、彼は深く喉を鳴らし、俺の手に顔をすり寄せてきた。月光の梟もふわりと俺の肩に留まり、隠密の晶蜥蜴は俺の腕に巻きついて安堵の息を吐く。

「ウォンッ♪」「キュイッ♪」「きゅるるーっ♪」

 フェルやピコたちも近寄り、新しい仲間を優しく迎え入れる。

「もしよかったら、俺たちの家族にならないか? うちには、お前たちのように傷ついた過去を持ちながら、今は元気に暮らしている仲間がたくさんいる。お前たちのその影に潜む力は、悪い奴らから平和を守るために、絶対に役に立つはずだ」

 俺の誘いに、三匹の魔物は嬉しそうに大きく頷いた。

「よし。黒豹のお前は『クロ』だ。梟は『ツキ』。蜥蜴は『カゲ』だ。今日からよろしくな、みんな!」

「グルルッ♪」

「ホゥッ♪」

「シュルルッ♪」

 新たなる家族、クロ、ツキ、カゲを迎え入れた俺は、廃城の隅で震えている一人の若い人間の青年に目を向けた。

 彼は闇商人の護衛の一人だったようだが、武器を捨てて両手を挙げている。

「お、俺は戦う気はありません! 俺はただ、借金を返すために雇われただけの底辺の冒険者で……魔物たちに酷いことをするのには、ずっと反対していたんです!」

 青年が必死に弁明する。

「レイン様、彼が言っていることは事実のようです。ルリの幻聴魔法でも、彼が檻の中で苦しむ魔物たちにこっそり水を与え、闇商人に逆らって殴られていた音声が確認されています」

 ミャオの言葉に、青年は安堵の涙をこぼした。

「君は?」

「俺は『ジン』。斥候(スカウト)が得意な冒険者です……」

「そうか。ジン、君のその魔物を思いやる心と、悪党の中にあっても良心を失わなかった強さは、俺たちの国に必要なものだ。……どうだろう、アシュタルへ来て、俺たちの仲間にならないか? シオンの下で、公国の隠密部隊として働いてほしい」

 俺の誘いに、ジンは驚愕で目を見開き、そして大粒の涙を流しながら力強く頷いた。

「はいっ……! 俺のような底辺の冒険者を拾っていただけるなら……この命と斥候の技術、絆紋公国のために捧げます!」

 こうして、優秀な斥候技術と優しい心を持つジンという逸材が、新たな人間の仲間として陣営に加わったのである。

影を統べる者たちと、盤石なる平和の礎

 その夜。

 領主の館の地下にある隠密部隊の作戦室では、ジンの歓迎会と、新しく加わったクロたちの加入を祝う、ささやかな宴が開かれていた。

 ジンはさっそく、シオンやミャオ、ルカやベルたちと斥候技術の情報交換を行い、隠密部隊の異常なまでの情報収集能力に驚愕しながらも、目を輝かせて教えを乞うている。

 魔物たちも、幻影の黒豹クロが影猫のシャロと一緒に影渡りの遊びをし、月光の梟ツキが星翼の梟ステラと並んで羽を休め、隠密の晶蜥蜴カゲが空間転移のギンと不思議な隠れんぼをして楽しんでいた。

「ガハハ! 光の当たる場所には新しい領主たちがいて、影の場所にはお前たち優秀な隠密部隊がいる。これで公国の守りは完璧だね!」

 アイラがワインを一気飲みして豪快に笑う。

「ええ。旧体制の腐敗は、こうして一つずつ丁寧に摘み取っていけばいいのです。悪意が芽吹く前に、我々が根こそぎ浄化して差し上げますわ」

 ルウが優しく微笑み、シルヴィアも深く頷いた。

「ウォンッ!」「キュイッ!」「きゅるるーっ!」

 フェル、ピコ、ソラが俺の膝の上に飛び乗り、顔をすり寄せてくる。

 彼らの温もりを感じながら、俺は作戦室の穏やかな空気を見渡した。

 実力主義の新貴族の誕生は、世界に新たな波紋を呼んだ。

 だが、それに反発する愚か者たちの企みは、シオン率いる隠密部隊と、新たに加わったジンやクロたち影の監視者によって、決して成功することはない。

 光と影、表と裏、全ての人と魔物がそれぞれの役割を全うすることで、この世界は真の調和へと向かっていくのだ。

 絆紋公王レインと仲間たちの、全てを守り抜くための果てしなき旅は、これからも永遠に続いていくのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作もよろしく(*´∀`)ノ

しがらみだらけの人生に疲れたので、記憶を消して無人境へ転生します〜無限魔力の【万能創造】で理想の拠点を作ってたら、最強の魔獣たちが勝手に懐いて最高の家族になりました〜

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