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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第124話 荒野の残党と、囚われの光

第124話 荒野の残党と、囚われの光

 辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる特級クラン『絆紋亭』の拠点であり、『絆紋公国』の中心地であるこの場所は、極北の絶望的な脅威が去り、世界が平和の祝祭に沸く中においても、いつもと変わらぬ穏やかで調和に満ちた朝を迎えていた。

 庭の中央にそびえ立つ巨大な精霊樹は、深淵の虚無を完全に浄化した光をたっぷりと吸収し、一つの大森林と見紛うほどの神樹へと成長を遂げている。その豊かに茂ったエメラルドグリーンの枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、拠点全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

 澄み切った青空の下、縁側で朝の空気を胸いっぱいに吸い込んでいる俺の足元へ、一番最初に俺の固有スキルである『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たち――銀色のウルフ『フェル』、純白のポーションラビット『ピコ』、そして空色小竜の『ソラ』が競い合うように飛び込んできた。

 彼らの後に続くように、水豹のリン、幻宝石獣のキラ、白銀の幼熊ブラン、空間転移を操る銀狐のギン、鋼棘の鎧獣マル、疾風の隼ゲイル、影猫のシャロ、水妖の獺ミロ、風精のリスのルル、土精の土竜ドロ、星翼の梟ステラ、幻影の蝶ファル、雲羊のモフ、木精の栗鼠コノ、鎌鼬のタマ、鋼殻の戦亀カメ、雷雲の幼鳥ライたちが一斉に集まってくる。

 さらに極北の遠征や各地の迷宮で家族となった数え切れないほどの魔物たち。次元を司る星天の神狼シリウスや、時空の鯨クジラ、次元の螳螂カマ、星喰いのバク、星の精霊であるルミ、コア、ジュジュ。虚無の暴食者から浄化され生まれ変わった虚空の精霊ゼロ、時空猫のチク、星屑の幼竜アストラ。

 そして日課の救済活動や探索で新たに仲間となった琥珀の狐コハク、翠玉の螳螂ジェイド、紫水晶の蝶アメ、鋼角の猛牛バフォ、晶翼の蜻蛉トン、地揺らしの穴熊アナ、癒水の精霊シズク、土塊の猪ブブ、豊穣の案山子ワラ、蜜の妖精蜂ハチ、水水晶の亀スイショウ、蜃気楼の狐キロ、オアシスの蓮妖精ハス、幻聴鳥のルリ。

 先日の悪徳貴族の地下施設から救い出した岩石のガーゴイルのガル、影の梟シャドウ、鉄屑のゴーレムのクロガネ、猛毒の粘体ベノムたちも、すっかり拠点に馴染み、わらわらと俺の周囲に集まり、心地よさそうに喉を鳴らしている。

「おはよう、みんな。今日もいい天気だな」

 俺が彼らの頭を順番に優しく撫でると、魔物たちは心底嬉しそうに目を細め、尻尾を振って応えた。庭の奥では、漆黒の竜ノヴァや紅蓮の火蜥蜴ガエン、鋼角の犀ザイン、岩砕の巨獣ダグ、砂塵の魔蠍ゼットといった大型組も、朝の日差しを浴びて気持ちよさそうに背伸びをしている。平和な空気が、この庭には満ち溢れていた。

「レイン様、朝食の準備が整いましたよ!」

 厨房から、見習い魔導士のエリスと元宮廷料理人のセシルが、賑やかな声を上げた。

 ダイニングルームの巨大なテーブルには、特製の魔力小麦で作った『焼きたてのチーズフォカッチャ』に、農学者セリーヌが育てた新鮮なキノコを使った『濃厚クリームポタージュ』、そして砂漠の巫女ナディアが持参したスパイスで味付けされた『特大オーク肉と香草のグリル』が並べられている。

「ガハハ! 今日も飯が美味いねぇ! さて、今日はどこのお馬鹿さんをぶっ飛ばしに行くんだい?」

 女戦士のアイラが、オーク肉を豪快に頬張りながら大笑いする。

「ええ。昨日の密談ざまぁで、世界にはまだ魔王軍の残党が潜んでいることがはっきりと分かりましたからね。私たちの手で完全に浄化してあげましょう」

 少女魔導士のルウも、優雅にポタージュを飲みながら冷たげな笑みを浮かべた。

「悪の根は、深く張る前に断ち切るのが最善です。我が剣はいつでも抜けるよう研ぎ澄ませてあります」

 剣聖シルヴィアが静かに紅茶のカップを置いた。

荒野の残党と、捕らわれし者たち

 朝食を終えた俺たちが執務室へ向かうと、特級密偵のシオンと首席文官のエレナが、巨大な大陸地図をテーブルに広げて待ち構えていた。

「レイン様、おはようございます。昨日捕縛した元宰相ベルモンドたちへの尋問、および隠密部隊の徹夜の調査により、西方の『ゴルゴン大渓谷』に潜伏している魔王軍残党の正確な拠点が判明しました」

 シオンが地図の西側、赤茶けた荒野の中心を指差す。

「残党どもは、かつての魔王軍の幹部であった『屍術師(ネクロマンサー)』の生き残りが率いており、そこを『第二の魔王城』とするべく、違法な生体兵器やキメラの生成を行っているようです」

「ベルモンドたちが言っていた通りか。これ以上、世界に害をなす前に叩き潰す必要があるな」

 俺が頷くと、エレナが眼鏡を押し上げて言葉を継いだ。

「問題はそれだけではありません。残党たちは自らの研究を完成させるため、あるいは組織の資金源とするために、西方の小国や領地から優秀な人材を次々と拉致していることが分かりました」

「拉致だと?」

「はい。魔導工学に秀でた良心的な貴族や、民のために新しい魔法技術を研究していた逸材たちが、現在その大渓谷の地下要塞に捕らえられているとのことです。彼らは無理やり兵器開発に加担させられており、逆らえば魔物の餌にされる過酷な状況に置かれています」

「ガハハ! 自分たちの力じゃ何も作れないからって、優秀なヤツを誘拐してこき使うとは、どこまでも腐りきった連中だね!」

 アイラが戦斧を肩に担ぎ、怒りの笑みを浮かべる。

「ええ。才能ある人間を力で屈服させるなど、許しがたい暴挙ですわ。彼らの歪んだ野望ごと、私が燃やし尽くしてあげます」

 ルウも炎の杖を構え、周囲の空気がチリチリと熱を帯びた。

「シオン、エレナ、状況は完全に把握した。これより俺とアイラ、ルウ、シルヴィアの主力部隊でゴルゴン大渓谷へ向かう。ギンの空間転移を使えば、一気に要塞の内部へ奇襲をかけられるはずだ」

「かしこまりました。我々隠密部隊も先行して潜入し、囚われている人質たちの正確な位置を特定し、安全を確保しておきます」

 シオンが影のように一礼し、姿を消した。

ゴルゴン大渓谷と、絶望の地下要塞

 大陸の西方、赤茶けた岩肌がどこまでも続く『ゴルゴン大渓谷』。

 その谷底のさらに地下深くには、魔王軍の残党が築き上げたおぞましい要塞が隠されていた。

 薄暗い牢獄の鉄格子の中で、傷だらけの若い男女が身を寄せ合って震えていた。

「クレア様……申し訳ありません。私の魔導工学の知識が彼らに目をつけられたばかりに、貴女までこんな場所に……」

 丸眼鏡をかけた青年の魔導技師、レオが、血のにじむ手で床を叩いて悔し涙を流す。

「自分を責めないで、レオ。あなたは西方の民を豊かにするための技術を研究していただけ。それに、領主である私が彼らの要求を突っぱねたからこうなったの。後悔はしていないわ」

 ボロボロの騎士服を纏った若き女領主、クレアが、痛む体を庇いながら気丈に微笑む。

 彼らは、西方の荒野を少しでも豊かな土地にしようと尽力していた良心的な貴族と専属の技師だったが、その技術力に目をつけた残党たちによって領地を襲撃され、拉致されてきたのだ。

「ヒャハハハ! 美しい主従愛だなァ! だが、その強情さも今日で終わりだ!」

 鉄格子の外から、不気味なローブを羽織った魔王軍の残党兵が、おぞましい姿の合成獣(キメラ)を引き連れて現れた。

「さあ、魔導兵器の制御コアを完成させるんだ。でなければ、この『呪縛の合成獣』がお前らの手足を一本ずつ食いちぎることになるぞ!」

「くっ……! 誰が、お前たちのような悪魔の兵器を作るものか!」

 クレアがレオを庇うようにして前に立つ。

「そうか。ならば死ね!」

 残党兵が杖を振り上げ、合成獣が巨大な顎を開いてクレアに飛びかかろうとした、その瞬間だった。

「諦めるな。民を豊かにしようとしたその意志は、絶対に無駄にはならない」

 地下牢獄の空間が突如として歪み、銀色の光の渦が発生した。

 ズガァァァァァァンッ!!!

 凄まじい衝撃と共に光の渦の中から降り立ったのは、特級クラン『絆紋亭』のマスターである俺と、アイラ、ルウ、シルヴィア。そして、足元にはフェル、ピコ、ソラたち最古参の相棒が鋭い眼光を放っている。

「な、なんだ貴様らは!? この地下要塞にどうやって……!」

 残党兵が驚愕して叫ぶ。

「き、絆紋公国の……レイン公王様!?」

 クレアが信じられないものを見るように目を見開く。

「遅くなってすまない。あとは俺たちが引き受ける」

 俺が剣を抜き放ち、右手の甲の『絆紋』の光を灯した。

「ガハハ! さあ、日課のお掃除の時間だ! こんなカビ臭い地下室で悪巧みしてる連中は、アタシがまとめて風穴を開けてやるよ!」

「『極大旋風・星砕き』!!」

 アイラの巨大な戦斧が巻き起こす竜巻が、残党兵たちを一瞬にして空高く巻き上げ、牢獄の壁に叩きつける。

「燃え尽きなさい!『インフェルノ・バースト』!!」

 ルウの放つ灼熱の業火が、要塞内の魔導兵器を瞬時にドロドロの鉄屑へと変えた。

「我が剣の前に、立つことすら許しません。『神速・絶空の剣』」

 シルヴィアの神速の剣閃が、牢獄の鉄格子を豆腐のように切り裂き、クレアとレオを解放する。

「フェル、ピコ、ソラ! 一掃するぞ!」

「ウォォォンッ!!」「キュイッ!!」「きゅるるーっ!!」

 フェルの天雷が轟き、ピコの浄化の蹴りが炸裂し、ソラの神聖なブレスが瘴気を中和する。俺たち『絆紋亭』の圧倒的な力の前に、残党たちが築き上げた防衛線は、わずか数分のうちに完全に崩壊した。

囚われの命たちと、新たなる絆

 残党兵たちを無力化した後、俺は彼らが操っていた魔物たちへと視線を向けた。

 彼らはおぞましい姿に変えられ、狂気を宿して俺たちに襲い掛かってきたが、その瞳の奥には、無理やり魔王の瘴気を植え付けられ、操られていることへの深い悲しみと苦痛が見えた。

 戦場に倒れ伏しているのは四匹の魔物だった。

 一匹は、獅子の体に蛇の尾、鷲の翼を無理やり縫い付けられた痛々しい『呪縛の合成獣(カースド・キメラ)』。

 一匹は、全身から腐敗した毒液を垂れ流すように改造された『毒沼の魔蛇(ポイズン・スワンプ・サーペント)』。

 一匹は、脳に直接魔力杭を打ち込まれ、暴走させられている『狂乱の雷鳥(フレンジー・サンダーバード)』。

 最後の一匹は、大量の怨念と泥を練り合わせられて作られた『怨嗟の泥竜(グルッジ・マッド・ドラゴン)』。

「お前たちも、魔王軍の身勝手な欲望の被害者だな。もう苦しまなくていい」

 俺は剣を収め、右手の甲の『絆紋』の光を限界まで灯し、ゆっくりと彼らの体に手をかざした。

 翠色の極限浄化と調和の光が、地下要塞全体を温かく包み込む。

 魔物たちを縛っていた呪いの鎖や魔力杭が光の粒子となって消滅し、彼らを侵していた魔王の瘴気が完全に浄化されていく。

 おぞましい姿に改造されていた彼らの体は、光の中で本来あるべき、美しく神聖な姿へと再構築されていった。

 呪縛の合成獣は、白銀の毛並みと黄金の翼を持つ気高き『聖獣キマイラ』へと変化した。

 毒沼の魔蛇は、透き通るような青い鱗を持ち、清らかな水を纏う『清流の水蛇』へと生まれ変わった。

 狂乱の雷鳥は、紫色の美しい雷光を羽に宿す『紫電の霊鳥』へと姿を変えた。

 怨嗟の泥竜は、豊かな大地の力を内包し、緑の苔と堅牢な岩の鱗を持つ『豊穣の地竜』として蘇った。

(……あたたかい。痛くない……。お前が、私たちを縛る呪いを解いてくれたのか?)

 聖獣キマイラから、威厳に満ちながらも深く安堵した思念が伝わってくる。

「ああ。俺はレイン。お前たちをこんな目に遭わせた奴らは、もう二度と悪さができないようにしておく」

 俺が微笑みながらキマイラの黄金の翼を撫でると、彼は誇り高く喉を鳴らし、俺の手に顔をすり寄せてきた。

 清流の水蛇も静かに俺の足元に巻き付き、紫電の霊鳥は俺の肩に留まり、豊穣の地竜は嬉しそうに地響きを立てて尾を振った。

「ウォンッ♪」「キュイッ♪」「きゅるるーっ♪」

 フェルやピコたちも近寄り、新しい仲間を優しく迎え入れる。

「もしよかったら、俺たちの家族にならないか? うちには、お前たちのように傷ついた過去を持ちながら、今は元気に暮らしている仲間がたくさんいるぞ」

 俺の誘いに、四匹の魔物は嬉しそうに大きく頷いた。

「よし。キマイラのお前は『キマ』だ。水蛇は『ミズ』。霊鳥は『シイ』。地竜は『ドリ』だ。今日からよろしくな、みんな!」

「ガァァッ♪」

「シャァァッ♪」

「ピリリッ♪」

「ゴォォッ♪」

 新たなる家族、キマ、ミズ、シイ、ドリを迎え入れた俺は、クレアとレオに向き直った。

「君たち、怪我はないか?」

「レイン公王様……! なんとお礼を申し上げればよいか……! この命、救っていただき本当にありがとうございます!」

 クレアが涙を流しながらその場に深く跪き、レオも何度も頭を下げる。

「礼には及ばない。民を豊かにするために知恵を絞る君たちのような人間は、俺たちにとって何よりの宝だ。……どうだろう、アシュタルへ来て、俺たちの仲間にならないか? レオの魔導工学の知識と、クレアの領主としての責任感があれば、もっと多くの人々を救うことができる」

 俺の誘いに、二人は顔を見合わせ、力強く頷いた。

「はい……! 私たちの全てを、絆紋公国のために捧げます!」

 こうして、若き女領主クレアと、優秀な魔導技師レオという逸材が、新たな人間の仲間として陣営に加わったのである。

尋問と、新たなる影の調査

 要塞を完全に制圧した後、シオンが捕縛した残党の幹部である屍術師を俺の前に引きずり出してきた。

「レイン様、こいつの脳から情報を引き出しました。どうやら、彼らのような魔王軍の残党は、ここゴルゴン大渓谷だけでなく、大陸の各地に小規模なアジトを構えて潜伏しているようです」

 シオンの報告に、俺は眉をひそめた。

「まだ他にも隠れている奴らがいるのか」

「はい。さらに気になる情報があります。彼らは、旧魔王城付近の封印された領域を中心に、変異ダンジョンの残骸を利用して、じわりじわりと勢力を拡大しようとしている形跡があります。今はまだ小規模ですが、放置すれば数年後には再びスタンピードを引き起こす危険性があります」

「なるほどな。極北の『虚無の暴食者』を倒して平和になったとはいえ、まだ完全に火種が消えたわけじゃないってことか」

 俺は腕を組み、力強く宣言した。

「シオン、隠密部隊の調査網をさらに強化してくれ。世界中の未開拓地域、特に旧魔王城周辺の監視レベルを引き上げる。残党の拠点が分かり次第、俺たち主力部隊で一つ残らず叩き潰す」

「かしこまりました。我々の目からは、ネズミ一匹逃がしません」

 シオンが不敵な笑みを浮かべて一礼した。

 魔王軍の残党による新たな陰謀は未然に防がれ、拉致されていた良心的な貴族と逸材、そして傷ついていた魔物たちは、俺たちの家族として迎え入れられた。

 しかし、世界にはまだ隠れた悪意が潜んでいる。

 絆紋公国の平穏を守るため、そして全ての命が笑って暮らせる世界を完成させるため、俺たちの果てしなき救済と戦いの旅は、これからも永遠に続いていくのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

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