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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第123話 愚者たちの密談と、用意された蜘蛛の巣・後編

第123話 愚者たちの密談と、用意された蜘蛛の巣・後編

 辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる特級クラン『絆紋亭』の拠点であり、『絆紋公国』の中心地であるこの場所は、極北の絶望的な脅威が去り、世界が平和の祝祭に沸く中においても、いつもと変わらぬ穏やかで調和に満ちた朝を迎えていた。

 庭の中央にそびえ立つ巨大な精霊樹は、深淵の虚無を完全に浄化した光をたっぷりと吸収し、一つの大森林と見紛うほどの神樹へと成長を遂げている。その豊かに茂ったエメラルドグリーンの枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、拠点全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

 澄み切った青空の下、縁側で朝の空気を胸いっぱいに吸い込んでいる俺の足元へ、一番最初に俺の固有スキルである『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たち――銀色のウルフ『フェル』、純白のポーションラビット『ピコ』、そして空色小竜の『ソラ』が競い合うように飛び込んできた。

 彼らの後に続くように、水豹のリン、幻宝石獣のキラ、白銀の幼熊ブラン、空間転移を操る銀狐のギン、鋼棘の鎧獣マル、疾風の隼ゲイル、影猫のシャロ、水妖の獺ミロ、風精のリスのルル、土精の土竜ドロ、星翼の梟ステラ、幻影の蝶ファル、雲羊のモフ、木精の栗鼠コノ、鎌鼬のタマ、鋼殻の戦亀カメ、雷雲の幼鳥ライたちが一斉に集まってくる。

 さらに極北の遠征や各地の迷宮で家族となった数え切れないほどの魔物たち。次元を司る星天の神狼シリウスや、時空の鯨クジラ、次元の螳螂カマ、星喰いのバク、星の精霊であるルミ、コア、ジュジュ。虚無の暴食者から浄化され生まれ変わった虚空の精霊ゼロ、時空猫のチク、星屑の幼竜アストラ。

 そして日課の救済活動や探索で新たに仲間となった琥珀の狐コハク、翠玉の螳螂ジェイド、紫水晶の蝶アメ、鋼角の猛牛バフォ、晶翼の蜻蛉トン、地揺らしの穴熊アナ、癒水の精霊シズク、土塊の猪ブブ、豊穣の案山子ワラ、蜜の妖精蜂ハチ、水水晶の亀スイショウ、蜃気楼の狐キロ、オアシスの蓮妖精ハス、幻聴鳥のルリたちも、わらわらと俺の周囲に集まり、心地よさそうに喉を鳴らしている。

「おはよう、みんな。今日もいい天気だな」

 俺が彼らの頭を順番に優しく撫でると、魔物たちは心底嬉しそうに目を細め、尻尾を振って応えた。庭の奥では、漆黒の竜ノヴァや紅蓮の火蜥蜴ガエン、鋼角の犀ザイン、岩砕の巨獣ダグ、砂塵の魔蠍ゼットといった大型組も、朝の日差しを浴びて気持ちよさそうに背伸びをしている。平和な空気が、この庭には満ち溢れていた。

「レイン様、朝食の準備が整いましたよ!」

 厨房から、見習い魔導士のエリスと元宮廷料理人のセシルが、賑やかな声を上げた。

 ダイニングルームの巨大なテーブルには、特製の魔力小麦で作った『焼きたての全粒粉パン』に、農学者セリーヌが育てた新鮮なキノコを使った『濃厚ポタージュ』、そして砂漠の巫女ナディアが持参したスパイスで味付けされた『特製ローストチキン』が並べられている。

「ガハハ! 今日も飯が美味いねぇ! さて、今日はどこのお馬鹿さんを叩きのめしに行くんだい?」

 女戦士のアイラが、ローストチキンを豪快に頬張りながら大笑いする。

「ええ。昨夜、シオンの隠密部隊が『特別な蜘蛛の巣』に掛かった獲物たちの動向を監視していましたからね。そろそろ収穫の時でしょう」

 少女魔導士のルウも、優雅にポタージュを飲みながら冷たげな笑みを浮かべた。

「悪の芽は、育つ前に摘み取るのが最善です。我が剣はいつでも抜けるよう研ぎ澄ませてあります」

 剣聖シルヴィアが静かに紅茶のカップを置いた。

魔王軍残党の影と、ざまぁの始まり

 朝食を終えた俺たちが執務室へ向かうと、特級密偵のシオンと、新人獣人のミャオが、一つの魔導記録盤をテーブルの上に置いて待っていた。

「レイン様、おはようございます。先日から泳がせていた旧体制の悪徳貴族たちですが、我々が用意した『秘密の地下会議室』にて、非常に興味深い密談を行っておりました。まずはこれをお聞きください」

 シオンの合図で、ミャオが記録盤のスイッチを入れると、幻聴鳥ルリの能力によって記録された音声が、幻影を伴って空中に再生された。

『……手始めに、アシュタルの支配がまだ行き届いていない西方の荒野に新たな秘密組織を作り、そこで密かに魔獣をブリーダーして他国へ売りつけるのはどうだ?』

『かつての魔王軍の残党ともコネがある。奴らの技術を使えば、アシュタルの目を欺く強力な兵器が作れるはずだ!』

 再生されたのは、元宰相ベルモンドと元侯爵ドレイクたちの会話だった。彼らはアシュタルへの復讐と利権の奪還のために、西方の荒野に潜む『魔王軍の残党』と結託し、違法な魔獣兵器の売買を行う計画を嬉々として語り合っていた。

「魔王軍の残党、だと……?」

 俺が眉をひそめると、シオンが静かに頷いた。

「はい。魔王本体と主戦力はかつてのアシュタル軍との戦いや、極北の虚無に飲み込まれて消滅しましたが、西方の『ゴルゴン大渓谷』と呼ばれる未踏の荒野に、狂信的な残党の一部が潜伏しているという噂はありました。彼らはそこで、魔王の遺産である『生体兵器』の研究を続けているようです」

「なるほどな。その残党どもが、これ以上世界に害をなす前に叩き潰す必要があるな。いい情報を手に入れた」

 俺が言うと、アイラが戦斧を肩に担いで立ち上がった。

「ガハハ! 魔王軍の残党狩りか、血が騒ぐねぇ! で、まずはこのペラペラ喋ってるお馬鹿さんたちの掃除からだろ?」

「ええ。彼らはまだ、自分たちの計画が完璧だと信じて、地下室で祝杯を上げている最中です。退路は全て塞いであります」

 シオンが冷酷な笑みを浮かべた。

「よし。ギンの空間転移で、その密談室のど真ん中に直接お邪魔しようじゃないか。現実ってやつを教えてやる」

用意された蜘蛛の巣と、絶望の宴

 大陸中央部の古い城の地下深く。

 分厚い鉛の扉と魔力遮断結界に守られた密談室では、元宰相ベルモンドと元侯爵ドレイクをはじめとする数十名の悪徳貴族たちが、勝利を確信して高級ワインのグラスを傾けていた。

「ハハハ! アシュタルの連中が我々の計画に気づく頃には、西方の荒野に強大な魔獣軍団が完成していることだろう!」

「レイン公王とやらの絶望する顔が目に浮かぶようですな!」

 彼らが高笑いを上げた、その瞬間だった。

 密談室の空間が突如として歪み、銀色の光の渦が発生した。

「な、なんだ!?」

 ベルモンドたちが驚愕して後ずさる中、光の渦の中から、俺とアイラ、ルウ、シルヴィア、そしてフェル、ピコ、ソラが音もなく姿を現した。

「おはようさん、世界一の愚か者ども。ずいぶんと景気のいい話をしてるじゃないか」

 俺が静かに声をかけると、密談室の空気は一瞬にして凍りついた。

「き、絆紋公国の……レイン公王!? ば、馬鹿な! この部屋は鉛の扉で完全に封鎖され、転移の座標も弾くはず……!」

 ドレイクがワイングラスを落として叫ぶ。

「空間転移を操る銀狐のギンと、次元を司る星天の神狼シリウスの力を甘く見ないことだな。どんな結界も、俺たちの前では紙切れ同然だ」

 俺が冷たく告げると、アイラが巨大な戦斧を軽々と振り回し、彼らが囲んでいた高級なマホガニーの円卓を一撃で真っ二つに叩き割った。

「ガハハハ! 自分たちが安全な場所にいるとでも思ってたのかい? ここは最初から、アンタらをおびき寄せるために用意された『罠(蜘蛛の巣)』なんだよ!」

「ヒィッ!?」

「であえっ! 護衛の者たち、こいつらを殺せ!」

 ベルモンドの悲鳴に応え、部屋の影に潜んでいた腕利きの暗殺者たちが一斉に飛び出してきた。

「無駄よ。『インフェルノ・ウォール』」

 ルウが指先を軽く振るだけで、灼熱の炎の壁が暗殺者たちの周囲を取り囲み、彼らの武器を瞬時に溶かして無力化した。

「我が剣の前に、立つことすら許しません。『神速・絶空の剣』」

 シルヴィアの神速の剣閃が、残りの暗殺者たちの腱を正確に峰打ちで打ち据え、彼らを床に這いつくばらせた。

「フェル、ピコ、ソラ。逃がすな」

「ウォォォンッ!」「キュイッ!」「きゅるるーっ!」

 フェルの雷光が部屋の出口を塞ぎ、ピコの蹴りが鉛の扉をひしゃげさせ、ソラの浄化の光が悪徳貴族たちの隠し持っていた毒薬や魔道具を全て無効化した。

 わずか十秒足らず。

 絶対の安全圏だと信じて疑わなかった彼らの密談室は、完全なる絶望の牢獄へと変わっていた。

「ひぃぃっ……! た、助けてくれ! 金ならいくらでも払う!」

 ベルモンドが床に這いつくばり、俺の靴にすがりつこうとする。

「お前たちの隠し財産なら、すでにシオンの部隊が全て押収し、開拓村の復興資金に回したよ。魔王軍の残党と結託して世界に戦火を撒き散らそうとした罪、一生極寒の鉱山でツルハシを振って償ってもらう」

 俺の言葉に、ベルモンドとドレイクは完全に白目を剥いて気絶した。

 こうして、世界を再び混乱に陥れようとした愚者たちの陰謀は、実行に移されるどころか、準備段階で完璧に粉砕されたのであった。

領地再調査と、闇に埋もれていた逸材

 ベルモンドたちを捕縛し、アシュタルの地下牢へと転送した後。

 俺たちは彼らが支配していた旧領地、特に密かに魔獣のブリーダー施設を作ろうとしていたという南部の港湾都市周辺の再調査に向かった。

「魔王軍の残党と取引をするなら、それなりの隠し施設と研究員を用意していたはずだ。徹底的に調べろ」

 俺の指示で、シオンの隠密部隊と魔境鎮圧部隊が領内をくまなく捜索する。

 すると、都市の外れにある廃れた倉庫の地下から、巨大な違法魔獣研究施設が発見された。

「レイン様、生存者がいます! しかし、彼らは……」

 クロードに案内されて地下施設へ足を踏み入れると、そこには劣悪な環境で鎖に繋がれた数多くの魔物たちと、彼らを庇うようにしてボロボロになった二人の人間の姿があった。

「や、やめろ……! この子たちに乱暴するな! 俺が、俺が代わりに実験台になるから!」

 白衣を血で汚した若い青年が、魔物たちの前に立ち塞がって叫んでいる。

「ルーカス、もう無理よ……私たちの力じゃ、この子たちを逃がしてあげられない……」

 青年の背中を支えるように、帳簿を握りしめた商風の若い女性が涙を流していた。

「安心しろ、俺たちはベルモンドの私兵じゃない。アシュタル辺境国の軍だ。ベルモンドはすでに捕縛した」

 俺が剣を収めて静かに告げると、青年ルーカスと女性は、信じられないものを見るように目を見開いた。

「ア、アシュタルの……? 本当ですか……? じゃあ、この魔物たちはもう、酷い人体実験をされなくて済むんですか……?」

 ルーカスがへたり込むと、彼を庇うようにして、四匹の傷だらけの魔物たちが俺たちに威嚇の唸り声を上げた。

 一匹は、岩石でできた身体がボロボロに崩れかけている『岩石のガーゴイル』。

 一匹は、闇に溶け込む羽を持ちながら、鎖で飛べなくされている『影のシャドウ・オウル』。

 一匹は、廃材や鉄屑で無理やり体を繋ぎ合わされた痛々しい『鉄屑のゴーレム(スクラップ・ゴーレム)』。

 最後の一匹は、毒の粘体を抽出され続け、干からびかけている『猛毒の粘体ヴェノム・スライム』。

 彼らは魔王軍の残党から買い取られた兵器の素体として、ここで非道な実験を繰り返されていたのだろう。そして、このルーカスという研究員と女性は、彼らを助けようとしてベルモンドに反抗し、共に監禁されていたのだ。

「よく頑張ったな。お前たちも、彼らも」

 俺は右手の甲の『絆紋』の光を限界まで灯し、ゆっくりと四匹の魔物たちに手をかざした。

 翠色の極限浄化と調和の光が、地下施設全体を温かく包み込む。

 魔物たちを縛っていた呪いの鎖が光の粒子となって消滅し、彼らの傷ついた体が一瞬にして本来の美しい姿へと修復されていく。

(……あたたかい。痛くない……。お前は、敵じゃないのか?)

 岩石のガーゴイルから、ゴツゴツとしているが、どこか不器用で純粋な思念が伝わってくる。

「ああ。俺はレイン。お前たちを守ろうとしたこの人間たちと同じ、味方だ」

 俺が微笑みながらガーゴイルの岩の頭を撫でると、彼は戸惑いながらも、その大きな手で俺の手をそっと包み返してきた。

 影の梟も静かに俺の肩に留まり、鉄屑のゴーレムは「ガション」と安堵の音を立て、ヴェノム・スライムはぽよんと俺の足元にすり寄った。

「ウォンッ♪」「キュイッ♪」「きゅるるーっ♪」

 フェルやピコたちも近寄り、新しい仲間を優しく迎え入れる。

「もしよかったら、俺たちの家族にならないか? うちには、お前たちのように傷ついた過去を持ちながら、今は元気に暮らしている仲間がたくさんいるぞ」

 俺の誘いに、四匹の魔物は嬉しそうに大きく頷いた。

「よし。ガーゴイルのお前は『ガル』だ。梟は『シャドウ』。ゴーレムは『クロガネ』。スライムは『ベノム』だ。今日からよろしくな、みんな!」

「ゴォォッ♪」

「ホロッ♪」

「ガキィンッ♪」

「ポヨンッ♪」

 新たなる家族、ガル、シャドウ、クロガネ、ベノムを迎え入れた俺は、ルーカスと女性に向き直った。

「君たちの名前は?」

「お、俺は魔獣生態学者のルーカスです。こっちは物流管理のクロエ。俺たちは、魔物を兵器としてしか見ないベルモンドのやり方に逆らって、この子たちを逃がそうとしていたんですが……力不足で……」

「いや、君たちの優しさと行動力がなければ、この子たちはとっくに命を落としていた。……ルーカス、クロエ。アシュタルに来て、俺たちの仲間にならないか? アシュタルには、魔物と人間が共に笑って暮らせる世界を作るために、君たちのような心優しい研究者と物流の専門家が必要なんだ」

 俺が手を差し伸べると、二人は涙を溢れさせながら、その手をしっかりと握り返した。

「はい……! この命、絆紋公国と魔物たちのために捧げます!」

 こうして、魔獣生態学者のルーカスと、物流管理のクロエという優秀な人材が、新たな人間の仲間として陣営に加わったのである。

 地下施設を完全に解体し、俺たちはアシュタルへと帰還した。

 愚者たちの密談を暴き、彼らの野望を打ち砕いたことで、皮肉にも俺たちは西方の『魔王軍の残党』という新たな脅威の情報を得ることとなった。

 次なる舞台は、ゴルゴン大渓谷。

 だが、俺たちには日々増え続ける頼もしい家族と、揺るぎない絆がある。どんな悪意が待ち受けていようとも、俺たちの歩みが止まることはない。

 新たな戦いの予感を孕みつつ、絆紋公国の平穏な夜は更けていくのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

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