↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
118/178

第117話 日課の救済と、強欲なる者の末路

第117話 日課の救済と、強欲なる者の末路

 辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる特級クラン『絆紋亭』の拠点であり、『絆紋公国』の中心地であるこの場所は、極北の絶望的な脅威が去り、世界が平和の祝祭に沸く中においても、いつもと変わらぬ穏やかで調和に満ちた朝を迎えていた。

 庭の中央にそびえ立つ巨大な精霊樹は、深淵の虚無を完全に浄化した光をたっぷりと吸収し、一つの大森林と見紛うほどの神樹へと成長を遂げている。その豊かに茂ったエメラルドグリーンの枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、拠点全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

 澄み切った青空の下、縁側で朝の空気を胸いっぱいに吸い込んでいる俺の足元へ、一番最初に俺の固有スキルである『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たち――銀色のウルフ『フェル』、純白のポーションラビット『ピコ』、そして空色小竜の『ソラ』が競い合うように飛び込んできた。

 彼らの後に続くように、水豹のリン、幻宝石獣のキラ、白銀の幼熊ブラン、空間転移を操る銀狐のギン、鋼棘の鎧獣マル、疾風の隼ゲイル、影猫のシャロ、水妖の獺ミロ、風精のリスのルル、土精の土竜ドロ、星翼の梟ステラ、幻影の蝶ファル、雲羊のモフ、木精の栗鼠コノ、鎌鼬のタマ、鋼殻の戦亀カメ、雷雲の幼鳥ライたちが一斉に集まってくる。

 さらに極北の遠征や各地の迷宮で家族となった数え切れないほどの魔物たち。氷牙の白虎ビャク、吹雪の妖精ユキ、霜結びの蜘蛛シモ、オーロラの精霊アウラ、氷晶の鹿ルカ、雪豹のマシロ、水晶の亀クリス、幻影の蝙蝠バット、白炎の狐ホムラ、浄水のスライムのスイ、鏡面の梟ミル、幻晶の穿山甲リン、虹光の蝶プリ、重力エイのフワ、影豹のクロ、磁力甲虫のジキ。

 次元を司る星天の神狼シリウスや、時空の鯨クジラ、次元の螳螂カマ、星喰いのバク、星の精霊であるルミ、コア、ジュジュ。虚無の暴食者から浄化され生まれ変わった虚空の精霊ゼロ、時空猫のチク、星屑の幼竜アストラ。そして先日新たに仲間となった琥珀の狐コハク、翠玉の螳螂ジェイド、紫水晶の蝶アメたちも、わらわらと俺の周囲に集まり、心地よさそうに喉を鳴らしている。

「おはよう、みんな。今日もいい天気だな」

 俺が彼らの頭を順番に優しく撫でると、魔物たちは心底嬉しそうに目を細め、尻尾を振って応えた。庭の奥では、漆黒の竜ノヴァや紅蓮の火蜥蜴ガエン、鋼角の犀ザイン、岩砕の巨獣ダグ、砂塵の魔蠍ゼットといった大型組も、朝の日差しを浴びて気持ちよさそうに背伸びをしている。

「レイン様、朝食の準備が整いましたよ!」

 厨房から、見習い魔導士のエリスと元宮廷料理人のセシルが、賑やかな声を上げた。

 ダイニングルームの巨大なテーブルには、特製の魔力小麦で作った『焼きたてのハーブクロワッサン』に、農学者セリーヌが育てた新鮮なアスパラガスを使った『濃厚クリームスープ』、そして砂漠の巫女ナディアが持参したスパイスで味付けされた『大盛りオーク肉のロースト』が並べられている。

「ガハハ! 今日も飯が美味いねぇ! 連日小隊を分けてあっちこっち飛び回ってるから、朝から肉が食いたくて仕方なかったよ!」

 女戦士のアイラが、ロースト肉を豪快に頬張りながら大笑いする。

「ええ。ですが、私たちの活動のおかげで、世界中の善良な方々が救われているのは事実ですわ。今日も気を引き締めていきましょう」

 少女魔導士のルウも、優雅にスープを飲みながら微笑んだ。

日課の救済と、隠密部隊の報告

 朝食を終えた俺たちが執務室へ向かうと、そこには特級密偵のシオンと首席文官のエレナが、厳しい表情で資料を広げていた。極北での決戦後、俺たち『絆紋公国』と『アシュタル辺境国』の合同部隊は、各小隊に分かれて世界各地の通常ダンジョンの沈静化と開拓を行っている。しかし、シオンの隠密部隊が収集した情報によれば、平和になったこの世界においても、未だに私腹を肥やそうとする愚か者たちが後を絶たないという。

「レイン様、おはようございます。本日の対応事案について、急ぎご報告があります」

 シオンが、広げられた地図の西側に位置する山岳地帯を指差した。

「旧ルミナス王国の国境付近に位置する『ゼノア領』でのことです。領主のゼノア伯爵は、我が国の傘下に降ると見せかけながら、アシュタルから支給された復興支援物資や食糧を不当に独占し、闇市場で高値で売り捌いていることが判明しました」

「……またか。平和になった途端、そういう輩が湧いてくるな」

 俺がため息をつくと、エレナが眼鏡を押し上げて言葉を継いだ。

「問題はそれだけではありません。ゼノア領内にある辺境の町を治める若き子爵『レオナルド』と、彼に仕える優秀な文官『ノア』、そして女騎士の『ミレイユ』たちが、ゼノア伯爵の悪政に異を唱え、領民のために独自に支援物資の確保と分配を行っていました。しかし、それを疎ましく思ったゼノア伯爵が、彼らを『反逆者』として処断しようと動いたのです」

「反逆者だと? 民を救おうとした人間をか」

 俺の声が自然と低くなる。

「はい。ゼノア伯爵は自らの私兵を動かすだけでなく、町の近くにある通常ダンジョンから魔物を意図的に誘導し、レオナルド子爵たちの拠点を『魔物の襲撃による不幸な事故』に見せかけて殲滅しようとしています。すでに私兵部隊が町の退路を塞ぎ、魔物の群れが彼らの館に迫っているとのことです」

「ガハハ! どこの世界にも救いようのない馬鹿はいるもんだねぇ! 自分の手を汚さずに魔物を使うなんて、卑怯の極みじゃないか!」

 アイラが戦斧を肩に担ぎ、怒りの笑みを浮かべる。

「ええ。そのような下劣な行い、絶対に許してはおけませんわ。私たちが直接、その伯爵に『現実』を教えてあげましょう」

 ルウも炎の杖を構え、周囲の空気がチリチリと熱を帯びた。

「シオン、エレナ、状況は完全に把握した。これより俺とアイラ、ルウ、シルヴィアの主力部隊でゼノア領へ向かう。ギンの空間転移を使えば、まだ間に合うはずだ」

「かしこまりました。我々隠密部隊も先行して潜入し、ゼノア伯爵の退路を完全に断っておきます。逃げ道など、一つも残しません」

 シオンが影のように一礼し、姿を消した。

絶望の町と、舞い降りる希望

 旧ルミナス王国国境付近、ゼノア領の辺境の町。

 若き子爵レオナルドの館は、今まさに絶望の淵に立たされていた。

「ミレイユ! 南門の防衛はどうなっている!?」

「駄目です、レオナルド様! 『ロック・ウルフ』の群れに加えて、ダンジョンから溢れた『マッド・ボア』まで押し寄せてきています! 我が軍の兵士たちも疲労の極限です!」

 血まみれの銀鎧を纏った女騎士ミレイユが、槍を杖代わりにして息を切らす。

「ノア、ゼノア伯爵への援軍要請は……!」

「通信魔道具が完全に妨害されています。それに、町を包囲している私兵たちの旗印はゼノア伯爵のものです。……間違いありません、伯爵は魔物の襲撃に乗じて、我々を領民ごと抹殺するつもりです」

 文官のノアが、絶望的な声で報告する。

 館の裏手には、伯爵の圧政から逃れてきた多くの領民たちが身を寄せ合って震えている。彼らを守るための防衛線は、今にも崩壊しようとしていた。

「くそっ……! 私が無力なばかりに、領民たちをこんな目に……!」

 レオナルドが剣を握りしめ、血を吐くような声で叫んだその時だった。

「諦めるな。民を守ろうとするその意志は、絶対に無駄にはならない」

 上空から、静かで力強い声が響き渡った。

 レオナルドたちが驚いて天を仰ぐと、空の彼方から、一筋の翠色の光が彗星のように舞い降りてきた。

 ズガァァァァァァンッ!!!

 館の前庭に凄まじい衝撃と共に降り立ったのは、特級クラン『絆紋亭』のマスターである俺と、アイラ、ルウ、シルヴィア。そして、足元にはフェル、ピコ、ソラたち最古参の相棒が鋭い眼光を放っている。

「き、絆紋公国の……レイン公王様!?」

 レオナルドが信じられないものを見るように目を見開く。

「遅くなってすまない。あとは俺たちが引き受ける」

 俺が剣を抜き放ち、右手の甲の『絆紋』の光を灯した。

「ガハハ! さあ、日課のお掃除の時間だ! 邪魔な魔物どもはアタシが細切れにしてやるよ!」

「『極大旋風・星砕き』!!」

 アイラの巨大な戦斧が巻き起こす竜巻が、前列に押し寄せていたロック・ウルフの群れを一瞬にして空高く巻き上げ、粉砕する。

「燃え尽きなさい!『インフェルノ・バースト』!!」

 ルウの放つ灼熱の業火が、突進してくるマッド・ボアたちを瞬時に炭の塊へと変えた。

「我が剣の前に、立つことすら許しません。『神速・絶空の剣』」

 シルヴィアの神速の剣閃が、魔物の群れの急所を次々と切り裂き、防衛線を完全に押し返していく。

「フェル、ピコ、ソラ! 一掃するぞ!」

「ウォォォンッ!!」「キュイッ!!」「きゅるるーっ!!」

 フェルの天雷が轟き、ピコの浄化の蹴りが炸裂し、ソラの神聖なブレスが瘴気を中和する。俺たち『絆紋亭』の圧倒的な力の前に、ダンジョンから誘導された魔物の群れは、わずか数分のうちに完全に制圧され、光の粒子となって消滅した。

「……す、すごい。これが、極北の虚無を浄化したという、絆紋公国の力……!」

 女騎士ミレイユが、槍を取り落として呆然と呟く。

愚者の末路と、ざまぁの結末

 魔物の脅威が去った後、俺たちは館の周囲を包囲していたゼノア伯爵の私兵たちの元へと向かった。

 私兵たちは、魔物の群れが一瞬で消滅した光景を見てすっかり戦意を喪失しており、武器を捨てて震え上がっていた。

「ひぃぃっ! お、俺たちは命令されただけで……っ!」

「安心しろ、命までは取らない。だが、首謀者にはキッチリと落とし前をつけてもらう」

 俺がそう言うと、背後の森の影からシオンが姿を現した。彼女の手には、豪華なローブを着た肥満体の男が、縄でグルグル巻きにされて引きずられていた。

「放せ! 私はゼノア伯爵だぞ! 貴様らのような無法者の暴力など、世界が許すはずが……っ!」

 わめき散らすゼノア伯爵を、シオンが冷たく地面に放り投げる。

「あなたが闇市場で横流しした支援物資の証拠、そして、魔物を誘導するために使用した香料の購入履歴。全て裏取りは完了しています。逃げ道はありませんよ」

 シオンが懐から書類の束を叩きつけると、ゼノア伯爵の顔から一気に血の気が引いた。

「ひっ……! そ、それは……ち、違う! これは何かの陰謀だ!」

「往生際が悪いですね。あなたの領地の裏帳簿も、隠密部隊のミャオが全て聞き出し、幻聴鳥のルリが録音済みです。もはや言い逃れは不可能です」

「ガハハ! 自分の手を汚さずに他人を始末しようとするクズには、お似合いの末路だな! お前みたいなヤツは、一生鉱山でツルハシでも振って反省するんだね!」

 アイラが戦斧をゼノア伯爵の鼻先に突きつけると、彼は白目を剥いてその場に気絶した。

「レオナルド子爵。大変だったな。支援物資の件も、魔物の件も、これでもう心配はない」

 俺が振り返ると、レオナルドとノア、ミレイユの三人は、涙を流しながらその場に深く跪いた。

「レイン公王様……! なんとお礼を申し上げればよいか……! この命、そして領民たちの命を救っていただき、本当にありがとうございます!」

「礼には及ばない。民のために命を懸けられる君たちのような人間は、俺たちにとって何よりの宝だ。……どうだろう、アシュタルへ来て、俺たちの仲間にならないか? 君たちの力があれば、もっと多くの人々を救うことができる」

 俺の誘いに、三人は顔を見合わせ、力強く頷いた。

「はい……! 私のような若輩者でよければ、この命、絆紋公国のために捧げます!」

 こうして、民を想う若き領主レオナルドと、知略に長けた文官ノア、勇猛なる女騎士ミレイユが、新たな人間の仲間として陣営に加わったのである。

守り抜いた命と、新たなる家族たち

 事後処理をシオンたちに任せ、俺はレオナルドの館の裏手にある、領民たちが避難していたキャンプ地へと向かった。

 そこで俺は、傷だらけになりながらも、子供たちや女性たちを庇うようにして倒れている数匹の魔物の姿を発見した。彼らは、ダンジョンから溢れた狂暴な魔物たちから、見ず知らずの人間たちを守るために戦ってくれていたのだ。

「この子たち……魔物なのに、私たちを守ってくれたんです」

 泣きながら魔物の傷を布で押さえている少女が言う。

 倒れていたのは四匹の魔物だった。

 一匹は、強靭な鋼のような毛並みと巨大な角を持つ猛牛――『鋼角の猛牛(スチール・バッファロー)』。

 一匹は、透き通るような水晶の羽を持ち、空を素早く飛び回る蜻蛉――『晶翼の蜻蛉(クリスタル・ドラゴンフライ)』。

 一匹は、大地を揺るがすほどの重い一撃を放つ、巨大な爪を持った穴熊――『地揺らしの穴熊(アースクエイク・バジャー)』。

 最後の一匹は、周囲に清らかな癒やしの水を放ち続ける、小さな水の精霊――『癒水の精霊(ヒーリング・ウォーター)』。

 彼らは明らかに野生の魔物だが、純粋な心を持ち、自分より弱い者たちを守るために限界まで戦い抜いたのだ。

「よく頑張ったな。もう大丈夫だ」

 俺は右手の甲の『絆紋』の光を灯し、そっと彼らの体に手をかざした。

 翠色の極限浄化と調和の光が、波紋のように四匹の体を優しく包み込んでいく。

 傷口を侵していた魔物の毒が瞬時に浄化され、深くえぐられた肉が再生していく。

(……あたたかい。この光は、なんだろう……。とても、優しい……)

 癒水の精霊から、清らかな小川のような澄んだ思念が伝わってくる。鋼角の猛牛も、晶翼の蜻蛉も、地揺らしの穴熊も、痛みが消え去ったことに驚きながら、ゆっくりと目を開けた。

「見ず知らずの人間を守って戦うなんて、お前たちは本当に勇敢だな。立派だったぞ」

 俺が微笑みながら彼らの頭を順番に撫でると、魔物たちは心底安堵したように息を吐き、俺の手に顔をすり寄せてきた。

「ウォンッ♪」「キュイッ♪」「きゅるるーっ♪」

 フェルやピコたちも近寄り、新しい仲間を歓迎する。

「もしよかったら、俺たちの家族にならないか? うちには、お前たちのように優しくて強い仲間がたくさんいる。美味しいご飯もいっぱいあるぞ」

 俺の誘いに、四匹の魔物は嬉しそうに大きく頷き、俺の周囲を囲むように身を寄せた。

「よし。猛牛のお前は『バフォ』だ。蜻蛉は『トン』。穴熊は『アナ』。そして水の精霊は『シズク』だ。今日からよろしくな、みんな!」

「モォォォッ♪」

「ビビビッ♪」

「グルルッ♪」

「ピロロォッ♪」

 新たなる家族、バフォ、トン、アナ、シズクを迎え入れ、ゼノア領の騒動は完全に決着を見た。

 悪意を持つ愚者は己の行いの報いを受け、民を想う良心的な者たちと、純粋な心を持つ魔物たちは、確かな絆で結ばれた。

 日課となった救済の旅は、絆紋公国をさらに豊かにし、世界に真の平穏をもたらすための確かな足跡として、これからも永遠に刻まれていくのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

https://ncode.syosetu.com/n1368mp/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。