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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第116話 迷宮の沈静化と、未知なる大地への探索

第116話 迷宮の沈静化と、未知なる大地への探索

 辺境の街アシュタルの東、小高い丘に広がる特級クラン『絆紋亭』の拠点であり、『絆紋公国』の中心地であるこの場所は、極北の絶望的な脅威が去り、世界が平和の祝祭に沸く中においても、いつもと変わらぬ穏やかで調和に満ちた朝を迎えていた。

 庭の中央にそびえ立つ巨大な精霊樹は、深淵の虚無を完全に浄化した光をたっぷりと吸収し、一つの大森林と見紛うほどの神樹へと成長を遂げている。その豊かに茂ったエメラルドグリーンの枝葉が朝の心地よい風に揺れるたび、チリン、チリンと微かな鈴の音のような魔力の波紋が広がり、拠点全体を極上の癒やしのオーラで包み込んでいた。

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

 澄み切った青空の下、縁側で朝の空気を胸いっぱいに吸い込んでいる俺の足元へ、一番最初に俺の固有スキルである『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たち――銀色のウルフ『フェル』、純白のポーションラビット『ピコ』、そして空色小竜の『ソラ』が競い合うように飛び込んできた。

 彼らの後に続くように、水豹のリン、幻宝石獣のキラ、白銀の幼熊ブラン、空間転移を操る銀狐のギン、鋼棘の鎧獣マル、疾風の隼ゲイル、影猫のシャロ、水妖の獺ミロ、風精のリスのルル、土精の土竜ドロ、星翼の梟ステラ、幻影の蝶ファル、雲羊のモフ、木精の栗鼠コノ、鎌鼬のタマ、鋼殻の戦亀カメ、雷雲の幼鳥ライたちが一斉に集まってくる。

 さらに極北の遠征や各地の迷宮で家族となった数え切れないほどの魔物たちや、次元を司る星天の神狼シリウス、星の精霊たち、そして虚無の暴食者から浄化され生まれ変わった虚空の精霊ゼロ、時空猫のチク、星屑の幼竜アストラたちも、わらわらと俺の周囲に集まり、心地よさそうに喉を鳴らしている。

「おはよう、みんな。今日もいい天気だな」

 俺が彼らの頭を順番に優しく撫でると、魔物たちは心底嬉しそうに目を細め、尻尾を振って応えた。庭の奥では、漆黒の竜ノヴァや紅蓮の火蜥蜴ガエン、鋼角の犀ザイン、岩砕の巨獣ダグ、砂塵の魔蠍ゼットといった大型組も、朝の日差しを浴びて気持ちよさそうに背伸びをしている。

「レイン様、朝食の準備が整いましたよ!」

 厨房から、見習い魔導士のエリスと元宮廷料理人のセシルが、賑やかな声を上げた。

 ダイニングルームの巨大なテーブルには、特製の魔力小麦で作った『焼きたてのハーブソーセージロール』に、農学者セリーヌが育てた新鮮なカボチャを使った『濃厚パンプキンスープ』、そして砂漠の巫女ナディアが持参したスパイスで味付けされた『彩り野菜のキッシュ』が並べられている。

「ガハハ! 今日も飯が美味いねぇ! 世界中がお祭り騒ぎだろうと、アタシらの腹の虫は平常運転さ!」

 女戦士のアイラが、ソーセージロールを豪快に頬張りながら大笑いする。

「ええ。今日も一日、やるべきことが山積みですわ」

 少女魔導士のルウも、優雅にスープを飲みながら微笑んだ。

ギルドマスターの感謝と、新たなる方針

 朝食を終えた俺たちが執務室へ向かうと、そこにはアシュタル冒険者ギルドのギルドマスター、バルカンが上機嫌な顔で待ち受けていた。極北での決戦後、通常ダンジョンの過剰発生という問題に頭を抱えていた彼だが、その表情は以前と比べて見違えるほど明るい。

「おお、レイン! 朝早くからすまねぇな。だが、どうしても直接礼を言いたくてよ」

 バルカンは俺の顔を見るなり、筋骨隆々の腕でガシッと握手を求めてきた。

「各地の通常ダンジョンの間引き、お前ら『絆紋公国』と『アシュタル辺境国』の小隊のおかげで、だいぶ沈静化してきたぜ。スタンピードの危機は完全に去ったと言っていい。本当に、何から何まで感謝しかねぇよ」

「それは良かった。俺たちも、間引きの過程で有用な資源や新しい仲間をたくさん得られたからな。お互い様さ」

 俺が笑って答えると、バルカンは少しだけ真面目な顔つきになった。

「ああ。だが、完全にダンジョンの活動が元の水準に戻ったわけじゃねぇ。通常ダンジョンからは恩恵もあるからコアを潰すわけにはいかねぇし、引き続き定期的な間引きと監視が必要だ。……完全な対応までとはいかないだろうが、これからもローテーションで小隊を派遣してはもらえねぇだろうか?」

「もちろん構わない。クランメンバーと鎮圧部隊の訓練にもなるからな。各小隊で手分けして、引き続き対応に当たらせよう」

 俺が了承すると、バルカンはホッと胸をなでおろした。

 その後、バルカンを見送った俺たちの前に、特級密偵のシオンと首席文官のエレナが書類を手に進み出た。

「レイン様。通常ダンジョンの間引きが安定運用に入ったことで、我々隠密部隊は次のフェーズへと移行します」

 シオンが影から音もなく姿を現し、報告を始める。

「現在、世界中の国々や貴族領が続々と我々の傘下に降っていますが、中には面従腹背の輩が紛れ込んでいる可能性もあります。残りの戦力と私の部隊は、傘下諸国の情報収集と、不正の監視に全力を注ぎます」

「頼む。アシュタルの名の下で民を苦しめるような奴は、絶対に見過ごせないからな」

「そして、もう一つ重要な報告があります」

 エレナが分厚い地図をテーブルに広げた。

「国家間の空白地帯の開拓計画ですが、南東部に位置する『未踏の樹海』の調査を行っていた先遣隊より、極めて有望な土地が発見されたとの連絡が入りました。水脈も豊かで、新しい農業都市を造成するには最適の場所です。……しかし、その予定地の中心に、未発見の通常ダンジョンが存在していることが判明したのです」

「未発見のダンジョンか。開拓を進めるなら、そこを放置するわけにはいかないな」

「はい。さらに、そのダンジョンの周辺には特殊な生態系が形成されており、調査隊の手に余る未知の魔物も徘徊しているとのことです」

 エレナの言葉に、俺は立ち上がって剣を手に取った。

「分かった。新しい街の安全を確保するためにも、俺が直接そのダンジョンの探索へ向かおう。小規模な精鋭チームで十分だ」

未踏の樹海と、新たな案内人

 数時間後、俺は数名の仲間と共に、空間転移を操るギンの力で南東部の『未踏の樹海』へと跳躍した。

 同行したのは、剣聖シルヴィア、幻術士リリア、そして新たにアシュタル軍に加わった風魔法使いのジュノだ。もちろん、フェル、ピコ、ソラの最古参トリオも足元で元気に駆け回っている。

「お待ちしておりました、レイン公王様!」

 転移した先の簡易キャンプ地で、一人の若い人間の青年が深々と頭を下げて出迎えてくれた。彼は動きやすい革鎧を身に纏い、背中には使い込まれた短弓を背負っている。

「俺は先遣隊でこの樹海の調査を担当しております、斥候の『ロビン』と申します! この度のダンジョン発見の報告を上げたのも俺です」

「ご苦労だったな、ロビン。君が案内してくれるのか?」

「はい! 地形は完全に頭に入っています。未踏のダンジョンとはいえ、俺の探索技術がお役に立てるはずです!」

 ロビンは少し緊張しながらも、自信に満ちた目で力強く頷いた。新たな人間の仲間として、彼の測量と斥候の技術は非常に頼もしい。

 ロビンの案内に従い、鬱蒼と茂る樹海を奥へと進む。

 やがて、巨大な古代樹の根元にぽっかりと開いた、水晶のように輝く洞窟の入り口が見えてきた。

「ここが、新たに発見されたダンジョン……『琥珀の晶洞』と仮に名付けています」

 ロビンが指差す先、洞窟の内部からは、黄金色に輝く琥珀の結晶が放つ柔らかな光が漏れ出していた。

「美しい場所ですね。ですが、微かに攻撃的な魔力の揺らぎを感じますわ」

 シルヴィアが愛剣の柄に手を添え、静かに警戒を強める。

「油断せずに行こう。目的は制圧と安全確保だ」

琥珀の晶洞と、追い詰められた命

 ダンジョン内部は、壁も床も黄金色の琥珀で覆われており、幻想的な雰囲気に包まれていた。

 しかし、その美しさとは裏腹に、内部は過剰発生した『アンバー・スパイダー』や『クリスタル・ボア』といった凶暴な魔物たちで溢れ返っていた。

「風よ、道を切り拓けっす!『風神の旋風』!!」

 ジュノが突風を放ち、群がってくる蜘蛛の魔物を吹き飛ばす。

「幻惑の光よ!『イリュージョン・フレア』!」

 リリアが幻術でボアの突進を同士討ちへと誘導し、その隙をシルヴィアの神速の剣閃が的確に切り伏せていく。

 俺とフェルたちも連携し、過剰に増えすぎた魔物たちを間引きしながら、迷宮の奥深くへと足を進めていった。ロビンの的確なナビゲートのおかげで、罠や行き止まりを完全に回避し、探索は驚異的なスピードで進む。

 やがて、琥珀の輝きがひと際強くなる広大な空洞へと辿り着いた。

 そこで俺たちは、耳障りな羽音と、悲痛な鳴き声を耳にした。

「レイン様、あそこを!」

 ロビンが指差した先では、数十匹の巨大な『猛毒の晶蜂ポイズン・クリスタル・ビー』の群れが、三匹の小さな魔物を壁際に追い詰めていた。

 蜂たちはダンジョンの環境に適応して異常発生しており、その鋭い毒針で、縄張りを侵す者全てを排除しようとしている。

 追い詰められている一匹は、透き通るような黄金色の毛並みを持つ小さな狐――『琥珀のアンバー・フォックス』。

 もう一匹は、両腕にエメラルドのように輝く鋭い鎌を持つ、凛とした姿の蟷螂――『翠玉の螳螂エメラルド・マンティス』。

 最後の一匹は、アメジストのような紫色の鱗粉を放つ、手のひらサイズの美しい蝶――『紫水晶のアメジスト・バタフライ』だ。

「キュゥゥッ……!」

「シャァッ!」

 琥珀の狐が小さな炎を吐き、翠玉の螳螂が必死に鎌を振るって蜂の毒針を弾き返すが、圧倒的な数の暴力の前に、彼らの体は傷つき、限界が近づいていた。

「させない! フェル、ピコ、ソラ!」

「ウォォォンッ!!」「キュイッ!!」「きゅるるーっ!!」

 俺の号令と共に、絆紋の光を纏った魔物たちが猛毒の晶蜂の群れへと雪崩れ込んだ。

 フェルの『天雷の咆哮』が蜂たちを痺れさせて墜落させ、ピコの『ホーリー・ムーン・キック』がその晶石の羽を粉砕する。ソラが神聖なブレスを放ち、空中に漂う猛毒を完全に浄化して視界をクリアにした。

「これで、終わりだ!!」

 俺は右手の甲の『絆紋』の光を長剣に限界まで纏わせ、一閃する。

 ズバァァァンッ!!

 翠色の極限の浄化の光が波紋のように広がり、過剰発生していた猛毒の晶蜂の群れは、一瞬にして光の粒子となってダンジョンのマナへと還元された。

新たなる絆と、開拓の未来

 戦闘が終了し、静寂が戻った琥珀の空洞。

 傷だらけになった三匹の魔物は、突如現れた俺たちに警戒し、身を寄せ合って震えていた。

「大丈夫だ。もう敵はいない」

 俺は武器を収め、ゆっくりと近づいた。右手の甲の『絆紋』の光を灯し、そっと彼らの体に触れる。

 翠色の温かな波紋が、三匹の魔物の傷ついた体を優しく包み込む。

『万物の調和と極限浄化』の力が、彼らの傷を瞬時に癒やし、極限状態での恐怖と疲労を解きほぐしていく。

(……あたたかい光。あなたたちが、私たちを助けてくれたのですか?)

 琥珀の狐から、透き通る宝石のような純粋な思念が伝わってくる。

「ああ。俺はレイン。お前たち、こんな蜂の巣の近くで、お互いを守り合いながら戦い抜いたんだな。立派な勇気だ」

 俺が微笑みながら狐の黄金色の毛並みを撫でると、狐は安堵したように目を細め、俺の手のひらにすり寄ってきた。

 翠玉の螳螂も警戒を解いて鎌を収め、紫水晶の蝶は嬉しそうに俺の肩にふわりと留まった。

「ウォンッ♪」「キュイッ♪」

 フェルやピコたちも近寄り、新しい家族を歓迎する。

「俺たちは、このダンジョンの外に新しい街を作ろうとしているんだ。もしよかったら、俺たちの家族にならないか? お前たちのような美しい力を持つ仲間がいれば、もっと素晴らしい場所になる」

 俺の誘いに、三匹は嬉しそうに大きく頷いた。

「よし。狐のお前は『コハク』だ。螳螂は『ジェイド』。蝶は『アメ』だ。よろしくな、みんな」

「キュゥッ♪」

「シャッ♪」

「パタパタッ♪」

 新たな家族コハク、ジェイド、アメを迎え入れ、俺たちは琥珀の晶洞の探索と安全確保を完璧に完了させた。

 斥候のロビンの働きもあり、このダンジョンが農業や街づくりに役立つ良質な魔力鉱石の宝庫であることが判明し、開拓計画はさらに前進することとなった。

 ダンジョンの間引きと監視、情報網の拡大、そして終わりのない開拓と未知の探求。

 平和が訪れた世界であっても、絆紋公国がやるべきことは山のようにある。だが、頼もしい人間の仲間たちと、愛すべき魔物の家族たちが増えていくこの毎日は、俺にとって何よりも代えがたい宝物だった。

 琥珀の柔らかな光に包まれながら、俺たちは確かな手応えと共に、新たな都市の基盤となる大地へと帰還の歩みを進めるのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

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