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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第110話 世界を包む祝祭と、変わらぬ日常

第110話 世界を包む祝祭と、変わらぬ日常

 常闇の極北で胎動していた世界の絶望、『虚無の暴食者』が完全に消滅し、空を覆い尽くしていた漆黒の闇が晴れ渡ってから、すでに一週間以上の時が経過していた。

 世界は今、有史以来最大とも言える熱狂と歓喜の渦に包まれている。

 北の空に神々しく輝いた翠色の極光を目の当たりにした各国の民衆たちは、それがアシュタル辺境国と絆紋公国による『奇跡の浄化』であることを理解し、恐怖から解放された喜びを分かち合っていた。どの街の広場でも毎晩のように宴が開かれ、酒樽が割られ、吟遊詩人たちは新たなる英雄譚を声高に歌い上げている。

 だが、そんな世界中のお祭り騒ぎとは対照的に、アシュタル辺境国の東、小高い丘に広がる特級クラン『絆紋亭』の拠点であり、『絆紋公国』の中心地であるこの場所には、いつもと何一つ変わらない、穏やかで調和に満ちた朝が訪れていた。

「ウォンッ!」

「キュイッ!」

「きゅるるーっ!」

 雲一つない澄み切った青空の下、庭の中央にそびえ立つ巨大な精霊樹の木漏れ日を浴びながら縁側に腰を下ろした俺の足元へ、一番最初に俺の固有スキルである『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たち――銀色のウルフ『フェル』、純白のポーションラビット『ピコ』、そして空色小竜の『ソラ』が、競い合うように飛び込んできた。

 それに続くように、水豹のリン、幻宝石獣のキラ、白銀の幼熊ブラン、空間転移を操る銀狐のギン、鋼棘の鎧獣マル、疾風の隼ゲイル、影猫のシャロ、水妖の獺ミロ、風精のリスのルル、土精の土竜ドロ、星翼の梟ステラ、幻影の蝶ファル、雲羊のモフ、木精の栗鼠コノ、鎌鼬のタマ、鋼殻の戦亀カメ、雷雲の幼鳥ライ。

 さらに極北の遠征で仲間になった氷牙の白虎ビャク、吹雪の妖精ユキ、霜結びの蜘蛛シモ、オーロラの精霊アウラ、氷晶の鹿ルカ、雪豹のマシロ、水晶の亀クリス、幻影の蝙蝠バット、白炎の狐ホムラ、浄水のスライムのスイ、鏡面の梟ミル、幻晶の穿山甲リン、虹光の蝶プリ、重力エイのフワ、影豹のクロ、磁力甲虫のジキ。時空の鯨クジラ、次元の螳螂カマ、星喰いのバク。星の精霊であるルミ、コア、ジュジュ。次元を司る星天の神狼シリウス。

 そして、暴食者の核から浄化され、新たに生まれ変わった虚空の精霊ゼロ、時空猫のチク、星屑の幼竜アストラたちも、わらわらと俺の周囲に集まり、心地よさそうに喉を鳴らしている。

「おはよう、みんな。今日もいい天気だな」

 俺が彼らの頭を順番に優しく撫でると、魔物たちは心底嬉しそうに目を細め、尻尾を振って応えた。庭の奥では、漆黒の竜ノヴァや紅蓮の火蜥蜴ガエンたち大型組が、朝の日差しを浴びて気持ちよさそうに背伸びをしている。

 世界を滅ぼすほどの死闘を乗り越えたというのに、彼らの纏う空気は驚くほど平穏だ。俺たちにとっての『日常』は、こうした家族たちとの何気ない触れ合いの中にこそあるのだと実感する。

「レイン様、朝食の準備が整いましたよ!」

 厨房から、見習い魔導士のエリスと元宮廷料理人のセシルが、賑やかな声を上げた。

 ダイニングルームの巨大なテーブルには、魔力小麦の焼きたてパンに、農学者セリーヌが育てた新鮮な野菜のサラダ、そして特製の厚切りベーコンエッグといった、豪華ながらも温かみのある朝食が並べられている。

「ガハハ! 今日も飯が美味いねぇ! 王都の連中から『凱旋パレードをさせてくれ』って手紙が山のように来てるらしいけど、そんな退屈な行事に出るより、こうして家で美味い飯を食ってる方が何百倍もマシさ!」

 女戦士のアイラが、ベーコンを豪快に頬張りながら大笑いする。

「ええ。世界中の国々が数週間ぶっ通しでお祭りをしているらしいけれど、私たちには私たちのやるべきことがあるものね」

 少女魔導士のルウも、優雅に紅茶を傾けながら同意した。

「平和が訪れたからといって、剣を置く理由にはなりません。この平穏を守り抜くためにこそ、私たちはさらに己を磨き上げねばならないのですから」

 剣聖シルヴィアは、すでに早朝の素振りを終えてきたのか、微かに汗を滲ませながら凛とした表情で語った。

終わらぬ鍛錬と、新たなる都市の造成

 朝食を終えた俺たちは、アシュタル辺境国と絆紋公国の合同訓練場へと向かった。

 そこには、極北の二百階層という地獄の迷宮を踏破し、圧倒的な実力を身につけたはずの『魔境鎮圧部隊』の精鋭たちが、誰一人として慢心することなく、泥にまみれて厳しい訓練を行っていた。

「まだまだだ! 極北のバケモノに比べれば、この程度の重圧なんてそよ風と同じだろ!」

 槍使いのクロードが、重騎士ガレスのタワーシールドに渾身の連続突きを放ちながら吠える。

「おうよ! 俺の盾は、世界の絶望を防いだ盾だ! お前の槍ごときで割れるかよ!」

 ガレスもまた、全身の筋肉を隆起させてクロードの猛攻を受け止めている。その傍らでは、魔法盾使いのアリスや、重剣士のルーク、氷結士のセリスたちが、教官陣であるアイラやルウの厳しい指導の下、さらなる魔力操作の最適化を図っていた。

「見事な気合いだな、レオン団長」

 俺が視察台から声をかけると、部隊を指揮していた騎士団長レオンが、誇らしげに振り返り敬礼した。

「レイン様! はい。彼らは、あの虚無の暴食者との決戦を通じて、『本当の強さ』とは何かを魂に刻み込みました。世界が平和に酔いしれている今だからこそ、我々が絶対に油断してはならないと、全員が自覚しております」

「頼もしい限りだ。アシュタルの防衛は、彼らに任せておけば全く心配いらないな」

 部隊の訓練を見届けた俺は、次に開拓村総代官ウィリアム老伯爵と、魔導技師クロム、建築技師のバランたちと合流し、拠点の東側に広がる大森林地帯へと足を運んだ。

 現在、絆紋公国とアシュタル辺境国には、世界中から「良心的な統治」と「絶対的な安全」を求めて、数え切れないほどの難民や移住希望者が押し寄せている。既存の街だけでは到底受け入れきれないため、森林を切り拓き、自然と調和した新たなる大規模都市を造成する計画が進められていた。

「レイン様、お待ちしておりました! ここから先の区画は、精霊樹の魔力脈と接続し、居住区と農地を一体化させたエコ・シティの建設予定地です」

 バランが巨大な図面を広げて説明する。

「しかし、手つかずの原生林をむやみに伐採するのは、私たちの理念に反します。そこで、レイン様の『絆紋』の力と、魔物たちの協力を仰ぎたいのです」

「分かった。フェル、ピコ、ソラ。そして森の魔物たち、力を貸してくれ」

 俺が右手の甲の光を灯し、森に向かって呼びかけると、木精の栗鼠コノや、土精の土竜ドロ、生命の樹精ジュジュたちが一斉に応え、森の木々や土壌に魔力を送り込んだ。

 すると、鬱蒼と茂っていた木々が、自らの意志を持つかのようにゆっくりと根を移動させ、居住区となるための美しい円形の空間を自然に作り出していった。ドロや岩砕の巨獣ダグが地盤を固め、浄水のスライムのスイが地下水脈を浄化して清らかな水路を形成していく。

 重機や刃物を一切使わず、自然の摂理と魔物たちの魔法によって、たった数時間で広大な都市の基盤が完成していく様は、まさに神業であった。

「す、すごい……。これが、噂に聞く絆紋公国の『調和の開拓』……!」

 その作業風景を、少し離れた場所から食い入るように見つめている一人の人間の青年がいた。彼は分厚い測量ノートを抱え、感動のあまり身を震わせている。

「君は?」

 俺が声をかけると、青年は弾かれたように姿勢を正した。

「は、初めまして! 僕は南方の大陸から参りました、建築士と測量士を兼任しております『テオ』と申します! アシュタルの噂を聞き、自然と共生する究極の都市計画を学ぶため、押しかけてしまいました!」

 テオは真面目そうな眼鏡の奥の瞳をキラキラと輝かせている。

「建築士か。ちょうど良かった。バランたちの下で、新しい居住区の設計を手伝ってくれないか? うちには腕のいい職人は多いが、人が増えすぎて設計の手が足りていなかったんだ」

「ほ、本当ですか!? やらせてください! この命に代えても、世界一美しい街を設計してみせます!」

 新たな人間の仲間、若き建築士テオが陣営に加わった。彼の持つ緻密な計算能力と新しい発想は、今後の都市開発において大きな力となるだろう。

森の奥で出会う、新たなる家族

 都市の造成が進む中、俺は森のさらに奥深くへとマッピングを進めていた。

 すると、木々の隙間から、何やら巨大な影と、可愛らしい光の粒が戯れているのが見えた。

 そっと近づいてみると、そこには全身に柔らかな苔と小さな植物を生やした、体長五メートルはある巨大な熊――『アース・ベア』が、のんびりと日向ぼっこをしていた。そしてその巨体の周囲を、淡い桃色と黄緑色の羽を持つ美しい妖精――『フラワー・ピクシー』が、花粉を振り撒きながら楽しそうに飛び回っている。

「グルルゥ……」

「ピリリッ♪」

 彼らは極北の瘴気が完全に消え去り、世界のマナが清浄化されたことで、この豊かな森の精霊樹の魔力に引き寄せられてやって来た純粋な野生の魔物だった。

「フェル、脅かさないようにな」

 俺が静かに森の奥へ足を踏み入れると、アース・ベアとフラワー・ピクシーはこちらに気づき、警戒して身を強張らせた。

 だが、俺が右手の甲の『絆紋』の光を灯し、ゆっくりと両手を広げて近づくと、彼らはその翠色の温かな波紋に触れ、すぐに敵意がないことを理解したようだった。

『万物の調和』の力が、彼らの心に安心感を与え、自然界の魔力と深く共鳴していく。

(……あたたかい。森の奥の、大きな樹と同じ匂いがする)

 アース・ベアから、大地のようにどっしりとした、穏やかな思念が伝わってくる。

「ああ。あの精霊樹は俺たちの家族が育てているんだ。お前たち、この森が気に入ったのか?」

 俺が巨大な熊の鼻先を撫でると、アース・ベアは心地よさそうに目を細め、フラワー・ピクシーも俺の肩にふわりと舞い降りてきた。

「もしよかったら、俺たちのクランに来ないか? 今、この森の入り口で新しい街を造っているんだ。お前たちの大地を育む力と、花を咲かせる力があれば、もっと素晴らしい街になる」

 俺の誘いに、二匹の魔物は嬉しそうに頷いた。

「よし。熊のお前は『ダイチ』だ。妖精は『フローラ』。よろしくな、二人とも」

「グォォッ♪」

「ピュルルッ♪」

 新たなる家族、大地を司るアース・ベアのダイチと、花と植物を操るフラワー・ピクシーのフローラが加わった。彼らの力は、テオやバランたちの都市計画と見事に噛み合い、新居住区はあっという間に緑と花に彩られた美しい街並みへと姿を変えていくのだった。

閑話:世界の再編と、傘下への渇望

 アシュタル辺境国と絆紋公国が、いつもと変わらぬ日常の中で都市の開発と訓練に勤しんでいる頃。

 世界の各国では、平和の祝祭の熱狂の裏で、極めて深刻かつ歴史的な『国家の再編会議』が至る所で開かれていた。

 北方の『氷雪の公国フロスティア』。

 南方の『ガレオン商業国(旧指導層が滅び、民衆主導で再建された新政府)』。

 東方の『オークヘイヴン王国』。

 さらに、西方の数多の小国や、かつてアシュタルの理念に賛同し、善政を敷いていた貴族領の領主たち。

 彼らは一堂に会し、あるいは通信魔道具を通じて、これからの世界の在り方について激しい議論を交わしていた。

「皆様、聞いていただきたい。我々は皆、あの極北の絶望を前に、己の無力さを痛感したはずだ」

 フロスティア公国の国王が、円卓の中心で重々しく口を開く。

「あの二百階層の深淵に潜んでいた虚無の化け物を、たった一つの軍勢で……いや、レイン公王というたった一人の御方の『光』によって打ち破った。我々が今、こうして息をして、平和な空の下で笑い合えているのは、全て絆紋公国とアシュタル辺境国のおかげだ」

「同感です」

 オークヘイヴン王国の宰相が深く頷く。

「彼らの力は、もはや一国家の武力という枠組みを超越し、神話の領域に達しています。地形を作り変え、虚無を浄化し、神獣すらも従える。……我々がこれまでのように『対等な同盟国』として振る舞うこと自体が、もはや不敬にすら思えるのです」

 会議室に集まった各国の指導者たちは、誰一人としてその言葉を否定しなかった。

 彼らは理解していたのだ。もし再び世界に危機が訪れた時、自分たちの力だけでは民を守り切れないということを。そして、アシュタルの掲げる『民を第一とする調和の統治』こそが、この世界における唯一絶対の真理であることを。

「決断の時だ」

 一人の高潔な老貴族が立ち上がった。

「我々は、国というプライドを捨て、自ら進んでアシュタル辺境国、並びに絆紋公国の『傘下』……すなわち、属国として降るべきだ。彼らの絶対的な庇護の下で、彼らの法と理念に完全に従い、民の幸福のみを追求する。それこそが、我々の国を永遠の平和へと導く唯一の道である!」

「異議なし!!」

「我が国も、全ての権限をレイン公王とアルベルト陛下に委ねる覚悟はできております!」

「すぐに親書をしたため、アシュタルへ使者を送りましょう! 我が国を、どうか絆紋の調和の輪に加えていただきたいと!」

 かつて、武力による侵略や権力闘争に明け暮れていた各国の王や貴族たちが、今、自らの意志で権力を手放し、一つの巨大な『調和の光』の下へと集おうとしていた。

 強者への恐怖からではない。レインという一人の青年の底知れない優しさと、彼の周りに集う家族たちの温かな絆に、世界中が心から惹きつけられたのだ。

 こうして、世界は歴史上例を見ないスピードで統一への道を歩み始めた。

 絆紋公国とアシュタル辺境国を中心とした、絶対的な平和と調和を掲げる『世界連邦』の誕生である。

   * * *

「……というわけで、世界中の六十を超える国家や独立領邦から、『どうか我が国を属国にしてください』という嘆願書と使者が、城の門前に長蛇の列を作っております」

 夕刻。絆紋亭の執務室で、首席文官のエレナが疲労困憊といった様子で分厚い書類の束を机にドンッと置いた。

「特級密偵の諜報網もフル稼働ですが、どの国も嘘偽りなく、本気で我が国の傘下に入りたがっています。アルベルト陛下も、あまりの事態に頭を抱えておられましたわ」

 シオンも、影から姿を現して苦笑いを浮かべている。

「六十カ国が属国に……。俺たちはただ、目の前の家族と領地を守りたかっただけなんだけどな」

 俺が窓の外に広がる、夕日に照らされた新しい街並みを見下ろしながら苦笑すると、足元にいたフェルやピコたちが「きゅんっ」と甘えるように鳴いた。

「まあ、悪い話じゃないさ。理念に賛同してくれる国が増えれば、それだけ世界から悲劇が減る。……ゆっくりでいい。アルベルト国王やエレナたちと協力して、少しずつ世界中を『絆紋の光』で満たしていこう」

 俺がそう言うと、エリスやセシル、アイラやルウたちも皆、嬉しそうに微笑んだ。

 世界がどれほど激変しようとも、俺たちの根幹にある『日常』は決して揺らがない。

 魔物たちと心を通わせ、共に笑い、共に美味しいご飯を食べる。

 そのささやかな幸せを守り抜くために、絆紋公国の歩みはこれからも続いていくのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~

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