第109話 深淵の決戦Ⅲ・絆の極光と虚無の終焉
第109話 深淵の決戦Ⅲ・絆の極光と虚無の終焉
常闇の極北、その最深部たる第二百階層のさらに奥底。
世界の全てを喰らい尽くさんとした究極の突然変異体――『虚無の暴食者』の巨体を覆っていた赤黒い混沌の装甲が、レインの放った極限調和の光の剣によって完全に粉砕された。
『ギィィィギガガガガガガァァァァァァァァァッ!!!!!』
漆黒の異空間に、鼓膜を破り、魂を直接引き裂くような暴食者の絶叫が轟く。
砕け散った装甲の奥から露わになったのは、この化け物の本質であり、全てのエネルギーの源である『虚無の心臓』だった。それは、光すらも逃れられない超高密度のブラックホールのように、ドクン、ドクンと不気味な脈動を打ち、周囲の空間をメリメリと音を立てて崩壊させている。
「装甲が完全に剥がれたぞ!!」
重騎士ガレスが、最前線で巨大なタワーシールドを構えながら叫んだ。
「今です! 全員、一斉攻撃を!!」
神聖術師のミリーが、後方から限界突破の神聖なる光を前衛陣へと注ぎ込む。
だが、追い詰められた絶望は、最期に最も恐ろしい牙を剥いた。
『……許サン……許サンゾォォォッ!! 我ガ虚無ガ、貴様ラ如キニ……! ナラバ、全テ道連レダ! コノ次元ゴト、無ニ帰シテヤル!!』
暴食者の虚無の心臓が、限界を超えて膨張を始めた。
その瞬間、上下左右の概念すら失われていた異空間の重力が狂乱し、全てが心臓の中心へと猛烈な勢いで吸い寄せられ始めた。暴食者は、己自身の命と引き換えに、この第二百階層、いや、極北のダンジョン全体を巻き込む超巨大な『事象の地平線』を生み出そうとしていたのだ。
「なっ……吸い込まれる!?」
槍使いのクロードが、足を踏ん張るものの、凄まじい引力によって体が宙に浮きかける。
「させないっす!『風神の逆風』!!」
風魔法使いのジュノが、引力に逆らう極大の突風を発生させる。
「ワシのハンマーで重力を相殺する!『グラビティ・アンカー』!!」
ドワーフのゴードンが、重力を操るハンマーを虚空に叩きつけ、擬似的な大地を形成する。
「みんな、私から離れないで!『ワイヤー・アーツ・絶対固定』!」
軽業師のシーラが、無数のワイヤーをゴードンの作った大地に打ち込み、仲間たちの体を結びつけて落下を防いだ。
「ウォォォンッ!!」
「キュイッ!!」
「きゅるるーっ!!」
凄まじい引力の嵐の中、俺の足元へ、一番最初に俺の固有スキルである『絆紋』を受け入れ、共に歩み始めた最古参の相棒たち――銀色のウルフ『フェル』、純白のポーションラビット『ピコ』、空色小竜の『ソラ』が、一切の恐怖を見せずに飛び込んできた。
彼らの瞳には、「絶対にこの世界を守り抜く」という強固な意志と、俺に対する絶対的な信頼が宿っている。
「みんな……。ああ、分かってる。奴に世界は渡さない。俺たちの絆で、あの虚無を完全に浄化する!」
俺は右手の甲の『絆紋』を天に掲げた。
その瞬間、俺の周囲を取り囲んでいた全ての家族たちが、己の全魔力を絆紋へと注ぎ込み始めた。
水豹のリン、幻宝石獣のキラ、白銀の幼熊ブラン、空間転移の銀狐ギン、鋼棘の鎧獣マル、疾風の隼ゲイル、影猫のシャロ、水妖の獺ミロ、風精のリスのルル、土精の土竜ドロ、星翼の梟ステラ、幻影の蝶ファル、雲羊のモフ、木精の栗鼠コノ、鎌鼬のタマ、鋼殻の戦亀カメ、雷雲の幼鳥ライ。
氷牙の白虎ビャク、吹雪の妖精ユキ、霜結びの蜘蛛シモ、オーロラの精霊アウラ、氷晶の鹿ルカ、雪豹のマシロ、水晶の亀クリス、幻影の蝙蝠バット、白炎の狐ホムラ、浄水のスライムのスイ、鏡面の梟ミル、幻晶の穿山甲リン、虹光の蝶プリ、重力エイのフワ、影豹のクロ、磁力甲虫のジキ。
そして、時空の鯨クジラ、次元の螳螂カマ、星喰いのバク。星の精霊である光芒の精霊ルミ、星核の獣コア、生命の樹精ジュジュ。次元を司る星天の神狼シリウス。
これまでの過酷な階層を共に乗り越え、絆を結んできた全ての魔物たちの力が、翠色の光となって束ねられていく。
「レイン様だけには背負わせません! アシュタル全軍、我らが主の剣となれ!!」
騎士団長レオンの号令と共に、人間の仲間たちも決死の総攻撃を仕掛けた。
「ガハハ! 道はアタシが切り開く!『極大旋風・星砕き』!!」
アイラの戦斧が巻き起こす竜巻が、暴食者が放つ無数の虚無の触手を切り刻む。
「燃え尽きなさい、暗黒よ!『超新星爆発』!!」
ルウの放つ極大の炎魔法が、異空間そのものを焼き尽くすほどの熱量で触手を灰燼に帰す。
「我が剣の前に、立つことすら許しません。『神速・絶空の剣』!」
シルヴィアの神速の剣閃が、空間の歪みごと暴食者の防衛線を千切りにする。
「俺たちの絆の力、思い知れ!!『極星・剛槍突撃』!!」
クロード、ルーク、カイル、エララ、ディルクたち前衛陣が、アイラたちが切り開いた道を一丸となって突き進み、暴食者の心臓を守ろうとする巨大な防壁に物理的な大穴を開けた。
「シオン! ニーナ! 急所はどこだ!」
俺が叫ぶと、影に潜んでいた特級密偵のシオンと、幻術索敵のニーナが同時に声を上げた。
「虚無の心臓の中心、わずかに魔力が淀んでいる『漆黒の核』! そこが奴の存在の根源です!」
「了解した!」
「フェル! ピコ! ソラ! ノヴァ! ガエン! 総攻撃だ!!」
「ウォォォンッ!!」
フェルが限界を超えた『神速・天雷の咆哮』を放ち、ブラックホールの引力すらも置き去りにする雷光となって、心臓の周囲の空間を麻痺させる。
「キュイッ!!」
ピコが宙を蹴り、光の軌跡を描きながら『ホーリー・メテオ・キック』を心臓の表面に叩き込み、虚無のバリアに亀裂を入れる。
「きゅるるーっ!!」
ソラが『神聖・極光のブレス(ディヴァイン・オーロラ・ブレス)』を放射し、心臓から溢れ出す絶望の瘴気を極限まで中和する。
「ギャォォォンッ!!」「グルルルッ!!」
漆黒の竜ノヴァと紅蓮の火蜥蜴ガエンが、漆黒の炎と紅蓮の炎を螺旋状に絡み合わせた『双竜・煉獄の業火』を放ち、心臓を直接焼き焦がす。
『ギギギ……バカ、ナ……我ガ……喰ワレル、ダト……!?』
全てを喰らうはずの虚無の暴食者が、逆に仲間たちの圧倒的な『絆の力』に飲み込まれ、その巨体を崩壊させていく。
「これで……最後だァァァァァッ!!」
俺は、星天の神狼シリウスの背を蹴って、無重力の虚空を一直線に駆け抜けた。
右手の甲の『絆紋』から溢れ出す翠色の光は、もはや単なる光ではなく、純白、黄金、虹色と、全ての魔物の力を内包した『極光』へと昇華していた。
俺は光芒の精霊ルミの翼を羽ばたかせ、虚無の心臓の真っ只中へと飛び込んだ。
周囲の全てが静止したかのような、絶対的な無音の世界。
暴食者の核の中で、俺は、絶望と飢餓に苦しむ暴食者の「意志」そのものと対峙していた。
『……ナゼ……我ハ……全テヲ喰ラッテモ……満タサレナイ……?』
悲痛な思念が、俺の脳裏に響く。
「お前は、孤独だったからだ。何もかもを無に帰しても、お前の心には何も残らない。だが、もう悲しむ必要はない」
俺は剣を下ろし、右手の甲の『絆紋』の光を、暴食者の漆黒の核に直接押し当てた。
「お前のその空っぽの虚無、俺たちの『光』で、いっぱいに満たしてやる。……温かい光へ還れ」
ズバァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!
俺の右手から放たれた『極限調和・絆の極光』が、虚無の心臓を内側から完全に貫いた。
翠色と純白の極光が、ブラックホールのような虚無の引力を一瞬にして反転させる。
暴食者の巨体が内側からまばゆい光に包まれ、音もなく、しかし世界を根底から作り変えるような圧倒的な浄化の波動となって、異空間全体へと広がっていった。
『……アア……。アタタ、カイ……。コレガ……絆……』
最後に、暴食者の安らかな思念が微かに響き。
世界を食い破るはずだった究極の突然変異体は、一片の瘴気も残さず、完全に光の粒子となって消滅した。
浄化の奇跡と、新たなる命の誕生
暴食者が消滅した瞬間、無限に広がっていた漆黒の異空間が崩壊し、俺たちの視界は真っ白な光に包まれた。
次に目を開けた時、俺たちが立っていたのは、見慣れたダンジョンの石畳……ではなく、信じられないほど美しい光景が広がる場所だった。
第二百階層。そこは、果てしなく続く『巨大な水晶の楽園』へと変貌していた。
天井からは太陽の光のような暖かな魔力光が降り注ぎ、足元には清らかな水が流れ、魔王軍が残した瘴気の欠片すら存在しない、極上の神聖なマナに満ちた地下世界。
「……終わった、のか?」
クロードが、黄金の長槍を下ろし、呆然と周囲を見渡す。
「ええ。私たちの勝利よ。完全に、あのバケモノの気配は消滅したわ」
ルウが杖を杖代わりにして、安堵の息を吐きながら膝をつく。
「ガハハハハッ!! 勝った! アタシたちが、世界を救ったんだよ!!」
アイラが戦斧を天に掲げて雄叫びを上げると、それを合図にしたように、アシュタル軍と絆紋亭の全員が、歓喜の声を上げて互いに抱き合った。
涙を流して喜ぶ者、魔物たちの首に抱きつく者、座り込んで天を仰ぐ者。
二百階層という果てしない死闘を乗り越え、誰一人欠けることなく、彼らは生還を果たしたのだ。
「ウォンッ!」「キュイッ!」「きゅるるーっ!」
フェル、ピコ、ソラが俺の胸に飛び込んできて、顔中を舐め回してくる。
「わっ、こら、くすぐったいって! ははっ、ありがとうな、お前たちのおかげだ」
俺が三匹を抱きしめながら笑っていると、不意に、暴食者が消滅した空間の中心――清らかな水が湧き出す水晶の台座の上が、ポワァッと温かい光を放った。
「なんだ……?」
仲間たちが警戒を解いて注目する中、その光の中から、三つの小さな影が姿を現した。
それは、暴食者の「虚無」が俺の「絆紋」の極限浄化によって完全に反転し、純粋なマナの結晶として転生を果たした、全く新しい三匹の魔物だった。
一匹は、透き通るような空間そのもので構成された美しい羽を持つ、小さな蝶のような妖精――『虚空の精霊』。
もう一匹は、星空を閉じ込めたような毛並みを持ち、周囲の時間をわずかに歪めながら歩く、手のひらサイズの子猫――『時空猫』。
最後の一匹は、星屑の結晶でできた鱗を持ち、キラキラと輝く粉を撒き散らしながら飛ぶ、小さな竜――『星屑の幼竜』。
三匹は、生まれたばかりの無垢な瞳で周囲を見渡し、そして真っ直ぐに俺の元へと飛んできた。
「ピリリッ♪」
「ミャァゥ♪」
「キュルルッ♪」
虚空の精霊が俺の鼻先に留まり、時空猫が俺の肩に乗り、星屑の幼竜が俺の頭の上にちょこんと座る。
彼らからは、かつての暴食者が持っていた絶望や悪意は微塵も感じられない。あるのはただ、純粋な好奇心と、俺に対する圧倒的な親愛の情だけだった。
「お前たち……あの暴食者が、浄化されて新しく生まれ変わった姿なのか」
俺がそっと指先で彼らを撫でると、三匹は心地よさそうに目を細めた。
「ウォンッ♪」「キュイッ♪」
フェルやピコたちも、過去の因縁など気にする様子もなく、新しい家族の誕生を心から歓迎している。
「世界を喰らう存在から、世界を豊かにする存在へ。……レイン様の『絆紋』の力は、本当に奇跡そのものですね」
シルヴィアが、慈愛に満ちた微笑みを浮かべて呟いた。
「ああ。今日からお前たちも俺の家族だ。妖精は『ゼロ』、子猫は『チク』、幼竜は『アストラ』だ。よろしくな、みんな」
「ピリッ♪」
「ミャッ♪」
「キュルッ♪」
新たな命、ゼロ、チク、アストラを迎え入れた俺たちは、ついに完全に沈黙し、楽園へと生まれ変わった極北のダンジョンを背に、地上へと続く帰還の転移陣を展開した。
その頃、地上の世界では。
世界を覆い尽くそうとしていた漆黒の空が、一瞬にして弾け飛び、本来の美しい青空と太陽の光が一斉に降り注いでいた。
極北から溢れ出していた瘴気は完全に浄化され、世界中に発生していた変異ダンジョンたちも、その供給源を絶たれたことで急速に活動を停止し、ただの魔力資源の洞窟へと戻り始めていた。
空を見上げていた世界中の人々は、太陽の光を全身に浴びながら、誰からともなく歓喜の声を上げ、アシュタルのある北の空に向かって深く祈りを捧げていた。
世界を恐怖に陥れた魔王の遺産と、虚無の絶望は、ここに完全に終焉を迎えた。
絆紋公王レインと、最強の仲間たちが築き上げた「絆」の光が、この星の未来を永遠の調和へと導いたのである。
【現在のステータス】
名前:レイン
職業:Sランク冒険者(特級クラン『絆紋亭』マスター / 絆紋公国・初代公王)
称号:追放されし者 / 魔物に愛されし者 / 辺境の癒し手 / 導きの光 / 豊穣の主 / 浄水の守り手 / 迷いを導く者 / 真理を導く者 / 絆の真髄を知る者 / 竜を解放する者 / 独立同盟の盟友 / 熱砂を歩む者 / 深淵を浄化せし者 / 変異を鎮める者 / 導きの軍師 / 狂王を滅せし者 / 虚無を調和せし者(New) / 星天の守護者(New)
Lv:100(※虚無の暴食者完全浄化により限界突破)
HP:999 / 999
MP:999 / 999
【固有スキル】
・絆紋:対象と心を通わせる。万物を調和させ、極限の浄化と最適化を行う絶対的な力。(※覚醒:絆の極光)
【クラン『絆紋亭』メンバー(一部抜粋)】
・銀色のウルフ(フェル):絆レベルMAX
・ポーションラビット(ピコ):絆レベルMAX
・空色小竜:絆レベルMAX
(※その他、ノヴァ、ガエン等多数の魔物が絆レベルMAXへと到達)
・光芒の精霊:絆レベル5
・星核の獣:絆レベル5
・生命の樹精:絆レベル5
・星天の神狼:絆レベル5
・虚空の精霊:新規合流 / 絆レベル3
・時空猫:新規合流 / 絆レベル3
・星屑の幼竜:新規合流 / 絆レベル3
・アイラ(女戦士・Sランク)
・ルウ(魔導士・Sランク)
・シルヴィア(剣聖・Sランク)
・シオン(密偵・Sランク)
・エレナ(主席文官)
・クロム(魔導技師)
・ウィリアム老伯爵(開拓村総代官)
・レオン(アシュタル辺境国・騎士団長)
・クロード(辺境伯軍・槍使い / 実力開花・覚醒)
・アリス(冒険者・魔法盾使い / 実力開花・覚醒)
・ルーク(重剣士 / 実力開花・覚醒)
(※その他、各部隊長クラス及び生産メンバー多数)
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作 【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~
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