20.蒼穹の夢―3
機体をおおきく旋回させる。
別にそうする必要などない。
いや、〈アルゴス〉が俺にそうさせたんだ、と言うべきか。
『飛ぶ』のは好きだが、〈アルゴス〉抜きでは考えられない。
それは不可分と言うか、もはや依存症になりかねない程に。
だから、
空に溶け込んで飛ぶ、誤解を承知で言うならほとんど快感な感覚。
その心地良さを早々に手放し、窮屈な基地に戻る気にはなれない。
燃料はギリでも、最後の一滴、一秒だって空にとどまっていたい。
理由と言えばそれが理由。
当然、指示にはない行為。
ぶっちゃけ道草、回り道。
だって、お家に帰りたくないんだもん。男が言っても可愛くないけど本音だもん♡
ま、別に命令違反をしているワケじゃなし、固いことは言いっこなしでヨロシク。
――な?
というワケで(?)現在俺は、上空から、斜め下の確度で蓬莱基地――中央に聳える山の、その頂上を見おろしている。
で、
『進入禁止』
プリンの形な山体の頂上部分はまんまソレ。
色合いこそ違え、交通標識の意匠、その相似形な感じになっている。
つまりは、まんまるな平面のど真ん中をぶッとい線――大型の輸送機も着陸可能な滑走路が一本はしってる。
それ以外の余白部分には格納庫ほかの建物類が点在してるが、それは言うなら仮設の小屋とかちょっとした物置程度の価値な代物。
基地の本体は、山体内部――なんなら『地下』とも言うべき場所におさまっている。
司令部だとか研究施設、各種奮進弾の射場であるとか潜水艦の海中港、基地の活動をまかなう発電所の類いは全部が全部、人目にふれない所に隠されてるんだ。
構造的には空母にちかいか。
とまれ、
pipipipipi……!
俺は現在の視覚モードを切り替えることにした。
何故って、俺が帰路一直線から針路をはずした途端、うるさくしつこく警告音が鳴りだしたから。
残燃料が限界であることを告げる警告音。
いや、燃料ギリなのはわかってるって言うか承知の上。
暴走族じゃないけど、クルマは燃料警告灯が点灯してからあとどれくらい走れるかっていうのが勝負、腕の見せ所。どれだけ自分の愛車についてを知りつくしてるかって事になるんだぜぃ、だ。
が、
〔CLICK〕
……人ヒトリガヤット納マルヨウナ容器ノ中ニ入レラレルト、目ニ映ルモノハ緩衝材ノ内張リト、送気管ヤ情報伝達用ノけーぶるダケニナッタ。
身体ガ定位置ニせっとサレル。
スルト周囲ノ緩衝材ガ膨張シ、ソノ全面的ナ圧デマッタク身動キデキナクナッタ。
しゅーっト低イ気体ノ噴出音。
ヤガテ蓋ガ閉ジラレテ、壁面発光型ノ照明ガ、ソレマデノ外部カラ差シ込ンデイタ光ニトッテカワル……。
〔CLICK〕
俺が空中に溶け込む風精であることをやめ、視覚のモードを切り替えた途端、どうにも変てこりんな映像がきた。
(…………?)
燃料計の実際をこの目で確認するべく、機内――コクピット内部の視察モードに切り替えたんだけれど何だろう。
あきらかに視点が俺のじゃない。
〈アルゴス〉のエラーか?
画期的なシステムなんだが、それだけに安定動作は未だしということ?
とにかく、何かにもを電子化しているもんだから、想定外の応答を機械が返してきた……?
う~ん、こういうトラブルに備えて肉視も可能なようにしといてほしいもんだが、まぁ、それは贅沢――ムリなんだろうなぁ。
現状のマッハ七~八。そして、将来の目標であるマッハ二〇オーバーの極超音速ともなると、空力加熱対策のため、機体デザインは何より低抵抗であることが要求される。
結果、コクピットは先日、中佐が言った通りに、無人機と見紛う感じで機体にほぼ埋め込まれたような格好となる。
すなわち搭乗員は、座席に座ると言うより寝台に横たわる姿勢でコクピット内部におさまるワケだ。
だもんで、従来機のような搭乗員の視線位置に計器板を設置するのは難しく、
だったら、普通にHMD等で対応すれば良さそうなもんだが、そうなってはない。
何故って、パイロットに対してすべての視覚情報を提供するのが〈アルゴス〉だから。
前にも言ったが、〈アルゴス〉というのは『全方位走査・追跡・警戒統合知覚装置』の略称。
なので、開発陣が、この『統合』の部分にこだわった結果が今し方の奇妙な視覚情報なんだろう。
つまりは、
いったい何のための〈アルゴス〉だ。
機体の『外』とか『内』とか関係あるか。とにかく、『視る』行為については全部、〈アルゴス〉経由でまとめてしまうべき。
そんな開発方針が、現場の意見を聞くこともなく決められちゃったんだと思う。
まぁ、ある意味、合理的っちゃあ合理的ではある――それがどんな時でも正常に動くのならな。
現状、俺の一〇〇式は、試作機をつくるための叩き台だから機体との整合性はおろか〈アルゴス〉そのもののブラッシュアップも完了してない――その結果としてのエラーなんだろう。
ま、要するに、いやいやながらもお家に帰る時間だよって、そーゆーことさ。




