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『PAX UNIVERSALIS 2041/蒼の序曲』  作者: 幸塚良寛
二章.NEXT DAY / 災難はひとりでは来ない
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11.馬に蹴られて死んじまえ―6

「ここのローラーコースターは、なかなかなもんだって評判らしいよ」

 愛ちゃんに俺は言った。

 コースターに初速を与えるための滑走種開始点――天を摩して(そび)え立つ鉄塔は、その天辺を見るには首や背中が痛くなるほど反っくり返らなければならない高さで、そこから伸びる軌条の上を絶叫や轟音が走り抜けて行く。

 悲鳴? 歓声?――総じて絶叫は、ほぼ女の子たちがあげるもので占められていて、今オレが愛ちゃんに言った評判自体も女の子たちから聞いたものだ。

 ウン。

 怖い怖いと言いながら、なんで、その怖いモノに乗りたがるのかチョっとわからないけど、それもまぁ、いわゆるひとつの、おんなのこミステリーってヤツなんだろうな。

 正直いうと、ローラーコースターとか絶叫系の遊具は俺は苦手だ。

 ホラ、俺ってばプロの飛行機乗りだから、自分でコントロールできない乗り物に乗るっていうのは結構こわいんだよね。

 レーシングマシンを操るドライバーが、シロウトの運転するクルマの助手席には座りたがらないってアレとおンなじさ。

 俺は隣の愛ちゃんを見た。

 相も変わらず表情の欠けた、キレイなだけの顔、どこを眼差(まなざ)しているのやら不明な瞳でボ~ッと……、もとい、つくねんと立ちつくしている。

 溜息が出そうになるのを何とかこらえた。

「行くよ」

 不特定多数のお客を迎え入れないため、さして待つこともなく順番がきて、俺は愛ちゃんを手招いた。

 心の中は、ウンザリ、好奇心、(しぎ)(ゃく)(しん)、自己嫌悪――方向は違えどいずれも同じくネガな感情が渦巻いている。

 俺の新しい相棒たる愛ちゃんにすべての原因があるワケじゃないけど、現在、俺を取り巻く環境にはウンザリで、

 厨二病的演技か不思議ちゃん的素なのかは知らず、いずれ、年齢相応ではない態度の愛ちゃんが、『なかなかなもん』なローラーコースターに乗って、どう反応するかという好奇心、

 また、自分自身も一蓮托生――体験を共にするワケだけど、チッと怖い思いを味わいやがれという嗜虐心。

 そして、自分よ取り年下のおんなの子にそんなイヂメみたいなイジワルをしかけて溜飲を下げようとしている己の矮小さに対する自己嫌悪。

 いやはや、クロベエのヤツがぬかした通りかもしれない。

 南国らしく、天気はギラつく程に夏してるのに、俺の心は曇天だもの。

 そして……、

 そうして……、

「いやぁ、これはまさしく(てん)(ばつ)覿(てき)(めん)を地で行く()()だな、エ? ト~ウン」

 罵倒とも呆れともザマァともつかない声が、俺に向かって投げつけられるのに、そう大した時間はかからなかったのだった。

 あ、ちなみに『トーウン』ってのは、『東雲』――俺の苗字を音読みした、まぁ、あだ名だ。

 昔からの……、こうして一人前の飛行機乗り、軍人身分になる以前。

 そう。孤児だった俺が、まだ予科練で寝起きしていた頃の通り名。

 だから、俺のことをそう呼ぶのは当時からの仲間――同期生だけ。

 つまり、

「クロベエか……」

 現時点、この基地内においてはコイツだけだと、そういう事になる。

「ッたく……!」

 ベンチに腰をおろしてる俺。

 膝の上には力なく横たわった愛ちゃんの頭。

 ローラーコースターの(けん)(そう)からは遠く、人影もまばらな木立の中の散策路――そこにポツリポツリと置かれてあるベンチに呆然として俺は居た。

 愛ちゃんが気を失ってしまったから。

 無表情、無反応なまま順番がまわってきてローラーコースターに乗り込み軌条(コース)を一周し、ふたたび地面のうえに降り立ったところで糸が切れた人形みたいに(くずお)れた。

 悲鳴どころか、呻きもただ一言の声もない。

 全身から力が抜けて、そのまま膝からカクンといった。

 俺の支えが間に合わなかったら、冗談抜きでかなりなケガをしたかも知れない。

 そんな危険な――ある意味、異様な倒れ方だった。

「……で、とりあえず気絶しただけみたいだったから、静かな場所で休ませようと、ここまで運んできたワケか」

 へたり込む感じで座ってる俺を、物理的のみならず、気分的にもだろうが見下ろす感じでクロベエは言った。

「ッたく……!」

 そして、もう一度、舌打ちまじりにそう言うと、

「ほら、スポドリ」

 まずはお前も水分補給をちゃんとやっとけ――そう付け加え、俺に冷たいボトルを渡してきたのだった。

 俺の隣に腰をおろす。

 愛ちゃんとは反対側。

 かなり長めのベンチは、クロベエ、俺、愛ちゃんの順で場所を占めてもまだゆとりがある。

「医務室につれていかなくても大丈夫なのか? あと、この()が目を醒ましたらどうするのかは考えてるのか? デート続行ってのも厳しいだろ?」

 愛ちゃんの顔にかかったほつれ毛をそっと払ってやりながらクロベエが言う。

 やべぇ、なんか一杯一杯で、ぜんぜんそこまで気がまわっていなかった。

 そういえばコイツ、『自分は地味で口べた、面白みの無い男だよ』とかなんとか()かしながらも、結構、おんなの子からモテてたもんな。いや、もちろん、俺には劣るけど。

 原因(?)は、やっぱ、こういうとこにもあるんだろうか。

「ああ。一応、降車場のところで簡易な検査は受けた。気絶しているだけで、特に問題はないって事だった。係員のはなしじゃ、コースターから降りた後、調子をくずす客はそれなりの数いるらしい」

「らしい、って、いや、それ遊具として大丈夫なのか?」

 俺の返答に、すこし呆れたようにクロベエ。

「ま、有り体に言うと、その程度にアブない方が、口コミ的にも飽きられないためにも良いってことらしい」

 なにせ広いと言っても閉鎖空間――基地内に閉じ込められてるってことには変わらないからな。(うっ)(ぷん)晴らしも必要なんだろう。

「それより、俺たちがここに居るってよくわかったな?」

 すこし(?)気になってた事を訊く。

 ウマいこと()いたはずなんだがなぁ。

「何年来のつきあいだと思ってるんだ。お前の考えることくらいお見通しだっての」

 クロベエは鼻を鳴らした。

「見た感じ、お前、あたらしい相棒? なこの()とうまくいってないんだろう。それどころか、面白からぬ感情を抱いてたりするんじゃないか?

「だったら、お前のことだ――チョッといじわるしてやろうなんて大人げないことを思いつく筈だ」

 そこまで推測できたら、今いる場所は遊園地なんだ――後の流れを予想するのは簡単だろう。

 なんでもない事のようにそう言って、俺さえまだまともにした事のない愛ちゃんの頭をやさしく撫でていた手――それをふいに止めると、妙な顔をした。

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