10.馬に蹴られて死んじまえ―5
入場は無料。
ただし、身分証明は必要で、入場口には改札用のタッチパネルが設置されている。
ま、それに掌をあてるだけの事なんで、なんの問題もなく入場ゲートを通過した。
園の中には近く遠く、心を浮き立たせるような曲がBGMとして流れつづけている。
いや、世界ひろしと言えども、軍隊が運営してる遊園地だなんてフザケた……、もとい、オモロい……、訂正、従業員にやさしい福利厚生施設があるなんてのは、まぁ、この基地だけなのに違いない。
企画した人間もそうだが、予算申請がよくも通ったもんだと呆れ……、いやいや、感心してしまう。
採算度外視。赤字は覚悟。垂れ流しって言うより、最初から利益をだす事なんて考えてもない。
だって、園を利用できるのは、この基地に居住している軍関係者だけだから。
一見さんどころか一般客を部外者扱いする、これが私企業だったら正気を疑うとんでもない経営方針、運営姿勢だって思うよな。
「まぁ、確かに金は取られないが、入場回数や利用施設の傾向からその個人の性向は吸い上げられるし、人間行動把握のビッグデータとして利用されるらしいぜ」
クロベエが言った。
「それに何より、この基地にいったん配属されたら、島流しも同然、何年も娑婆にはでられないからな」
ついで、肩をすくめて見せてきた。
『そうだな』
つい、スナオに頷きかけて、俺はあわてて口をへの字に引き締める。
最前までのわだかまりもあるのに、そうそう気安い態度を示してたまるか。
……でも、まぁ、クロベエの言葉にも一理(?)はある。
この基地……、我が国、我が国防軍の、四軍共用基地たるここ――〈蓬莱〉基地は、先にも言ったが、ハイテク兵器の実験場。
俺の一〇〇式にしたところで、現用機はもちろん、改良予定のものさえココじゃ扱わないって、そう言った。
対象とするのは(空軍で言えば)次世代機――厳密に言うなら、それを実現するための基礎研究関連の機体。
(その伝でいくと、一〇〇式一〇〇式言ってはいるけど、俺が参画しているのは一〇〇式の次――三式、四式、あるいは五式……、あるいはもっと後の制式となるかも知れない機体という事になる)
(いずれにしても、今の時点じゃ影もかたちも無いワケで、当然、仮称もなにもある筈もない。でも、だからって、『次期司令部偵察機実証研究ならびに開発用試験機』なぁ~んて、長ったらしくって言えたもんじゃないだろ? 憶えられるかどうかも怪しいし、言おうとしたら、ぜったい舌を噛む自信があるね、俺は)
と、まぁ、ね、
そういうワケで、この基地は完全招待(?)制。
入るのも難しいけど、それより何より、いったん入ったが最後、出られない。
何年も……、ヘタすりゃ何十年も……、もしかすると一生?――ここに縛り付けられて監禁も同然の暮らしを余儀なくされる事となる。
だから、俺がゆうべ泊まった宿屋とか、つい先ほどまでいた商店街とか、誰もが思わず『は?』と呆れるに違いないこの遊園地とかが必要欠くべからざる施設となるワケだ。
機械と同様……と言うか、機械よりももっとヤワな人間は、ストレスを溜め込みすぎると壊れる、狂ってしまうだろうから。
なにしろ、この〈蓬莱〉基地は島――それも絶海の孤島なもんで、一般社会――娑婆から切り離された感が半端ないもんな。
心を病むよ。
ま、
『秘密基地』
おとこの子たちがいかにも好きそう、憧れそうなその実際は、こんなところという次第。
中佐やクロベエはじめの昔の俺の仲間もそうだろうし、俺もそうなんだけども、いわゆる、この〈蓬莱〉基地短期所属組にしたところで、参画しているプロジェクトが完了するまでは、この基地内への隔離拘束を余儀なくされる。
強制隔離、面会謝絶、営倉(!?)暮らしとされちゃうワケだ。
だもんで――『なにかとご不便ご不自由をおかけしますが、一通りのモノは揃えてございますので、不平不満はガマンで、どうぞ日々のつとめに精進ください』と、まぁ、そういう事になるんだね。
軍隊としては、有為な人材に対して最大限に気をつかってるつもりでいるのが基地を取り巻く付属施設のあれやらこれやらなんだなぁ。
やってる事がなんともピンぼけ。チョッとどころか、かなりズレてる。
エサをやっときゃ鎖でつないでたって不満はなかろうってぇのが見え見えだ。
ッたく、人の心が根本のところでわかってないってゆ~のかなんてゆーのか。
驕りとお役所仕事の結実がコレかと思うとホント、ヤだヤだ。ヤだねぇ……。
「そうだなぁ。太陽がギラついてる真夏、雲ひとつない南国の真昼に、どんより黄昏れてる男のとなりを歩くってのは、まわりの爽やかさとの対比がキツくてヤだよなぁ」
どやかましいわ!
ひとの心を読むな!
これ見よがしに溜息つくな!
何して遊ぶか、どこに行こうか、園内マップを見てンのに、集中力が削がれるだろうが! 副音声は副音声らしく要求があるまで黙ってろ!
入場ゲートのど真ん前――どきどきワクワク楽しいだけの施設や遊具を『ど・れ・に・し・よ・う・か・な♡』ってやってる最中にいらん茶々を入れるんじゃない!
……ホントに邪魔だな、この副音声。どうにも主張が強すぎるぜ……と、そうだ!
「呼ばれてもないのにストーカーしてるそこな大尉サン? ただでさえクソ暑いのに加えて女の子もいることだし、なにか水分補給のアイテムをご用意いただけるとかしたら大変ありがたいんですがねぇ」
「……さんざん人のことを副音声呼ばわりしといてナニ言ってんだコノヤロウ。と言うか、そういう手配はふつう主催者がするもんじゃないのか? 図々しい」
「いやぁ、そうしたい気持ちはやまやまなンすけど、なにせつい今し方、身代かたむける勢いで散財しちまったから、どうにも手許不如意でござんして」
だもんでお頼みしやすよ旦那。よッ、エロ男!……ってな具合に揉み手しまくった。
「……しょうがない。じゃ、なにか適当に見繕ってくるから、ここで待ってろよ」
それで、そうしてヨイショしまくったのが功を奏したんだろう――ひとつ、フンと鼻を鳴らし、まじまじこっちを凝視はしたものの、クロベエのヤツは踵をかえしてオレ達の隣から離れた。
チャンスだ!
機会は寝て待つのではなく作るもの。
「じゃ、行こか」
そう言うと、オレは愛ちゃんの手をひき、そそくさと姿をくらませたのだった。




