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『PAX UNIVERSALIS 2041/蒼の序曲』  作者: 幸塚良寛
二章.NEXT DAY / 災難はひとりでは来ない
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12.馬に蹴られて死んじまえ―7

「おい、トーウン」

 クロベエは眉をすこしひそめると、それまでとは打って変わって真剣な口調で俺の渾名(なまえ)を口にした。

「お前、ちょっと、この娘の頭を撫でてみろ」

 唐突に、と言うか、タイミング以上に妙なことを言ってきた。

「いや、お前、意識の無いおんなの子に、いくらなんでもそれはセクハラ過ぎるだろ」

「いいから!」

 たしなめる俺に、悪びれるどころか、コイツ、一喝までしてきやがった。

「一体なんだってんだ」

 けっして()()されたんじゃない。

 負けたんじゃないけど、言われた通り、俺は愛ちゃんの頭に手をやった。

 そっと触れると手櫛の要領で髪の毛をわけ、つとめて優しく撫でてやる。

(…………?)

 なにか……、()だった。

 もう一度なでる。

 やっぱり変だ。

「なんだ……コレ?」

 思わずそう呟いていた。

 絹糸のようにサラサラの髪――それはいい。

 だが、

 愛ちゃんの頭(特に後頭部)は、首筋すこし上のあたりから何だか目立って盛り上がっていた。

 絶壁だとか、後ろデコだとか――そんな、からかい半分の言葉で形容できるレベルじゃあない。

 はっきり奇形だ。

 普段は髪の毛に隠れて外から見てもわからないだろうが、こうして直に手で触れてみると、まさに異様だとしか言いようがない。

「この娘……、頭骨を人工のそれに換えてるぞ」

 妙だとは感じた。しかし、そこまでだった違和感に、クロベエがぼそっと漏らした言葉が解答(こたえ)をもたらした。

 なるほど、そう言われれば、確かに愛ちゃんの頭部は、その後ろから上半分――頭頂部にかけてが、いかにも人工的な、綺麗な半球形をなしている。生まれながらの、自前自然の骨だったらあって当然のデコボコや歪みがまったく感じられなかった。

 これはクロベエの言う通り、セラミックでつくられた人工骨と考えて、まず間違いないだろう。

 事故か病気か――原因については知りようがない。でも、変ではあった。

「ヤブ医者か……?」

 思ったことが、そのまま口をついて出る。

 関節部分でもあるまいし、頭蓋骨を交換するならするで、オリジナルの立体形状解析ならびに義骨をクローンコピーするのだなんて大して難しいことでもない。今時分だったらどんな場末の病院でだって出来るだろうに――そう思ったからだった。

 しかし、

「綺麗な娘だよな……」

 そうした俺の思案は、唐突なクロベエのセリフでふっとんでしまう。

 は? いきなりナニ? なに言ってンの? お前の方こそロリコン趣味に目覚めたか?

「この娘って、今いくつなんだ?」

 思わず、パカリと口が半開きになってしまった俺を見もせずに、クロベエはそう続ける。

「……女性の年齢なんて()()にするもンじゃないって、お前、習ったことねぇの?」

「まだ子供だよな」

 なんとか応じ返したものの、更に畳みかけてくる。

 なんだ? 冗談でもなけりゃ、軽口、はぐらかしの類いでもない?

 話題を変えようとしたんでもなくて、マジなはなしを振っていた?

「……なあトーウン。こう考えてみた事はないか?」

 なんだなんだと、クエスチョンマークを浮かべるばかりの俺に、クロベエは人差し指を突きつけてきた。

「戦闘機は操縦士が主役だ。それは対航空機戦闘をおこなう目的上、そうした方が一番効率良くその任務を遂行できるからだ。

「だから、これは、爆撃機だったら爆撃手がその機の主役を務めることに通じるワケだし、偵察機だったら偵察員が主役という事になるワケだ――そうだな?」

「まぁ、杓子定規に解釈するならな」

 同意を求められて俺は頷いた――頷かざるを得なかった。

 理屈の上では確かにそうであるからだ。

 戦闘機以外の機種じゃ、操縦士は確かにその機の主役じゃない。

 でもな、任務を遂行するための区分けじゃなくて、ひろく一般的に『空を飛ぶ機械』――戦闘機でも爆撃機でも偵察機でも、種別を越えてそうひっくるめるなら、やっぱり操縦士こそがその機の主役なんだとそう思う。

 飛行機を飛ばしているのは操縦桿をあずかる操縦士――その事実は確と動かせないからだ。

 すくなくとも俺はそう思っているし、なんなら確信してると言ってもいい。

 クロベエの言った軍用機の――機種別の効率的な運用についてもまた(しか)り。

 何故って事件(?)は常に現場で起きるもの。

 司令部や工場で発生するものではないからだ。

 が、

 どうにもイヤな雰囲気ではある。

 なんだか、とても不本意な、イヤな流れにもっていかれている感じがしてならない。

「杓子定規だろうが臨機応変だろうが、そうなんだよ。片意地はらずに認めとけ」

 そんな俺――警戒をつよめる俺の反応に、クロベエはフンと鼻を鳴らして見せた。

「で、だ。お前は気に入らんだろうが、そういう事である以上、偵察機の操縦士ってのは、偵察員の雇われ運転手にすぎない――突き詰めて言えばそうなるよな。どうだ?」

「……()()だったらそう言うかもな」

 俺は唇をひん曲げた。

 三段論法じゃないが、論破クンみたいな話のもって行き方をされるとなかなか否定するのは難しい。

 嫌々であり、渋々であっても、その通りだな、と認めざるを得ない。

「だったら、こと偵察機にかぎって話しをすれば――ご主人様である偵察員の方が、家来にすぎない操縦士よりも高い位をもっているのも道理だよな?」

 だから、そんな(かさ)にかかってくるんじゃないよ。

 愉快なはなしじゃないんだから、も少しソフィスティケートされた物言いをしろ。

 まぁ、それは確かに操縦士と偵察員だったら、階級比較はその通り。そうでなくても同じ位の関係なんではあるだろうがな。

「そうだな」

 俺が頷くと、そこで何故だかクロベエのヤツは目をまるくして、天を仰ぐと深々ふぅと溜息をついた。失礼な。

「ここまで言ってもまだわからないのか」

 ふたたび目線をこちらに戻すと、更に失礼な文句を向けてきた。

 そうして、

「じゃあ答えてみろ――何故、お前の相棒の偵察員は、こんな年端もいかない小娘なんだ?」

 愛ちゃんをグイと指さしたのだった。

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