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翌日、また、その騎士が話しかけてきた。
「今日も精が出ますな。
うちの若い騎士たちにも
見習って欲しいものだ」
マルコはだらだらと訓練に
勤しむ騎士たちの方を一瞥した。
「それにしてもあなたは、ふむ、噂では
身体がぼろぼろで元の様には動けないと、
聞き及んでいたのですがね」
「前の力は失ったけど、
剣は振るわないと、衰えるから」
マルコはドルチに準備された幾つもの
回答例のうちの一つを答えた。
「何故ゆえにそこまで追い込みますなかな」
「聖女と仲間の犠牲で得た平和のために
やれることをやる」
納得したようにその騎士は何度も頷き、
マルコの前から去った。
その騎士はちょくちょく、マルコが
訓練をしている時、声をかけてきた。
最初のうち、マルコは警戒していたが、
毎日続くとその警戒心も薄れてきた。
天気の良い日、マルコは素振りで汗を流し、
自然と上着を脱いだ。
その肉体は均整がとれていた。
そして、身体に無数の傷があった。
周囲で訓練をしていた騎士たちは
その身体に一瞬、息をのんだ。
「ほほう、流石に鍛えられておりますな。
それにその無数の傷、やはり激戦の連続を
思わせますな」
普段から話しけてくるいかつい騎士が
マルコの肉体に感心しきりだった。
その実、マルコの身体中の傷は、
彼の数年に及び荷役として冒険者に
帯同した時に負った傷が大半だった。
マルコは慌てて、服を着直した。
「これはすみません。
じろじろと見てしまったようですな。
しかし、その傷のひとつひとつは、
誇るべきものであって、
恥ずべきものではありません」
この時、その騎士は真剣そのもので讃えた。
「いやすまない。
僕のほうこそ見苦しいものを
お見せしてしまって」
騎士は表情を崩した。
「勇樹殿の剣は型がございません。
力任せに振るっているだけですな。
確かに力を失う前であれば、
それでいいかと思います。
しかし、大半の力を失った今、型を学び、
効率的に剣を振るうのも必要かと。
もし学ぶ気がありましたら、
お声をかけてください」
朗らかな微笑をマルコに向けて、
その騎士はその場を去った。
その夜、マルコはドルチとオリガに相談した。
「そのあのできれば、
騎士から剣技を学びたいのですが」
「はあそれに何の意味があるのよ。
余計な事はする必要ないわ。
それに大将軍ビルギフを甘くみないことね。
裏にある意図が何なのか分からない以上、
リスクを負う必要なしよ」
オリガはにべもなく言った。
しかしドルチはマルコの瞳の奥を
覗き込むように見つめた。
ため息一つついて、ドルチは言った。
「まあいいのではないでしょうか、オリガ様。
それに大将軍はどの派閥にも属さぬ御仁。
この者と親密になれば、オリガ様へ
有利に働くことは間違いないでしょう」
「事が露見する可能性は?」
「さあ。
ですがそんなことはこの者が
生きている限りどの時・どの場所であっても
そのリスクはあります。
なればこの者の存在を
可能な限り利用すべきではと愚考いたします」
オリガは天を仰いだ。そして呟いた。
「そうね。
今の拮抗した状況を動かす一手に
なるかもしれないか」
暫く沈黙が続いた。
「いいわ。
偽物とバレない様にできる限り努めなさい」
「お許し頂き、ありがとうございます」
オリガの言葉を聞いたマルコの表情は
嬉しそうだった。
その表情は無邪気な十代のそれだった。




