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マルコが運ばれたのは、
カートライト辺境伯の居城であった。
カートライト辺境伯は、昔から
中央の権力より一定の距離を保ちながら、
中立の立場を取り自領の発展に努めていた。
マルコは辺境伯の最上級の客室に運ばれた。
マルコは、幾人もの使用人に囲まれていた。
その状況は辺境伯に隅々まで観察されていた。
「お久しぶりですな、カートライト様。
突然のことで申し訳ないが、
勇樹殿の健康が回復するまで
暫く逗留させて貰う」
ドルチの言葉は、一方的な通達であった。
カーライトは僅かに感じた不快感を
悟られないように心の中に収めた。
「勇樹殿は救国の英雄。
当たり前のことです。
十分にこの地で休養して頂けると嬉しいです。
それと差し支えなければ、
当方の薬師を遣わしましょう。
使用人が囲んでいるだけでは
治る病気も治らないでしょう」
「お心遣い痛み入ります。
後ほど使用人には伝えておきますわ」
表面に笑みを浮かべつつ、
言葉を交わす2人だった。
しかし二人は、皮の面の内側では、
互いの思惑に考えを巡らせていた。
カーライトは、執務室に戻ると
薬師の手配を執事長に指示した。
執事長はうやうやしく一礼をした。
「了解いたしました。
直ぐに手配いたします。
ところで御屋形様、如何されましたか?」
「ふむちと、気になったことがあってな」
執事長はカーライトの言葉を待った。
「病気に侵されている英雄殿の
姿しか拝見できなかったが、
どうにも以前、王都で遠目に
拝見した時と随分と雰囲気が
違うように思えてな」
執事長は相槌を打ちつつ、
カーライトの話に耳を傾けた。
「例のような噂が流れるのも
強ち分からんでもないな。
それにしてもあれ程の数の愛人、
いやいや使用人を侍らすとは、
話に聞く勇樹殿の為人からは信じられんな。
分からぬ、一体どんな心境の変化があったんだ」
「レイニィ様や同郷の仲間を失ったことで
心の平衡が崩れてしまったのかもしれんな」
腕を組みながらも考えに耽るカーライトだった。
執事長は、一礼すると執務室を退室した。
マルコは柔らかいベッドの上でうなされていた。
額に玉のような汗をかいていた。
仮面は外しておらず、仮面の隙間から滴る汗を
侍女たちが拭き取っていた。
「うううう、悪くない。僕は悪くない」
うわ言を繰り返し呟くマルコだった。
「ちっめんどくせえな。この小心者が。
おい、さっさと薬師を呼んで来い。
煎じた薬を飲めばすぐに体力は回復するだろ」
ドルチの勇者を吐き捨てるような言葉に
周囲の侍女たちは驚いて目を向けた。
「おいおい、俺も魔神討伐の功労者だし、
勇樹と旅を共にした仲間だぞ。
お前らとは、立場が違うんだよ」
誰もドルチの言葉に応じることはなかった。
暫くすると薬師が来訪し、幾つかの薬草らしき物を
煎じてマルコへ無理やり飲ませた。
「ゲホゲホ」
「勇者様、吐いてはいけませんぞ。
我慢して飲みなさい」
薬師の言葉はマルコには
届いていないようだった。
リサが水を口に含むと、直接、
マルコの口に水を含ませた。
互いの舌がマルコの口内で絡み合っていた。
マルコは薬を飲み干した。
暫くすると落ち着きを取り戻したようで、
寝息を立て始めた。
「起きましたら、この丸薬を飲んで
頂ければ大丈夫でしょう。
恐らく疲労が溜まっていたのでしょうな。
暫く休まれれば健康は回復するでしょう」
薬師は幾つかの丸薬をリサに渡すと部屋を後にした。




