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「勇樹様、こういった村は至る所にございます。
恐らく魔神との戦に混乱に乗じて、
野盗の類が巷に跋扈していました。
その犠牲者たちでございましょう。
救えなかったことを責める必要はございません。
勇者は万能ではございません。
勇樹様、あなたは、世界を救いました。
このようなことが二度と起きないように努めましょう。
不肖ながら、このドルチも全身全霊をもって
あなたの理想とする世界のために協力します」
囁くと言うに幾分、大きすぎるドルチの声であった。
呆然とするマルコの周囲を警戒する騎士たちにも
その声は聞こえていた。
マルコはドルチの声が耳に入る度に
耳を塞ぎたい気分であった。
激発して、ドルチに掴みかかりたい気分であった。
嘘つけ、耳障りな言葉を吐くな。
マルコは心に浮き上がるそれらの言葉を
必死に押さえつけた。
マルコという存在を徹底的に消し去るための
措置であることは容易に想像できた。
しかし、ここで激発してもマルコには何の益もなかった。
勇者を僭称したとして、惨い刑罰の末に
処刑される未来しか想像できなかった。
マルコは汗を噴き出し、身体が震えていた。
硬く握りしめられた両拳は、皮膚に爪がめり込み、
血が滴り落ちていた。
「せめて」
マルコが一言、呟いた。
マルコの内心の葛藤を知らずに
その言葉の意味を勝手に汲んだ騎士が即座に動いた。
「警戒のための最低限の騎士を残して、
直ぐに騎士団をここへ呼びます。
せめて埋葬いたします」
マルコは、せめて、ここを焼き討ちした連中に
罰を与えるとドルチに言うつもりだった。
しかし、現実は違う方向へ舵が取られてしまった。
マルコはドルチに憎悪の目を向けながらも
騎士たちに向かって、頼むと伝えた。
埋葬が済み、死者への冥福のお祈りが行われた。
マルコには何が何だか訳が分からなくなった。
マルコという名のルーツが
失われてしまったような気分だった。
この世で素顔を見て、マルコを知る者が一体、
何人残っているだろうかと頸をかしげて、
祈りながら考えていた。
「勇樹様、お気持ちは分かりますが、そろそろ」
一人の騎士に促されて、マルコは我に返った。
祈りを止めて、立ち上がった。
「ありがとう。そうだね、夜営地に戻ろう」
陽は沈みかけていた。
重い足取りでマルコは、夜営地に向かって歩き始めた。
その日、マルコは使用人を抱かずに
深夜になるのを待った。
使用人たちが寝たのを確認すると、ドルチと対峙した。
「アレはどういうつもりだ?」
マルコはドルチを睨みつけた。
それを真正面から受け止めて尚、
にやにやと笑うドルチだった。
「どういうつもりとは?
魔神が討伐されるまでは、どこにもでよくある話でしょう。
一々、気に掛ける必要はありません」
「ああっふざけるなよ」
マルコは勢いドルチの胸ぐらを掴んだ。
「流石に俺でも分かる。
何の罪があって、あの村を焼き討ちした」
マルコはそのままの勢いでドルチを
地面に倒して、馬乗りになった。
「くくくっ、荷役として、
同行したホビット族のホニィ、マルコ。
魔王討伐に同行した二人のその後を
勇樹様はご存じかな?」
ドルチを殴りつけようとしたマルコの拳が止まった。
「ホビット族のホニィは、
魔神の鎮座する近くまで
荷役としての職務を全うし、
魔物に襲われて、死亡」
「いや、それはお前が」
ドルチがこの上ない笑みを浮かべていた。
そして、ドルチは話を続けた。
話を遮られたマルコは黙って続きを聞いた。




