21
「おはよう、リサ」
マルコはリサに挨拶をした。
その隣には沈んだ表情のリーナがいた。
「おはようございます、勇樹様。
聞いてください、隣のリーナは、
子爵家の嫡男とご婚約をしているのです。
物凄く嬉しそうに皆にお話していましたの。
あと少しで王宮から身を引くとの事です。
それまで十分に勇樹様が
可愛がってあげてくださいね」
マルコはリサの話を聞くと
リーナの方へ目を向けた。
びくりとしてリーナは目を背けた。
「リーナ、あと少しですが、
勇樹様に失礼は許しませんよ。
ちゃんとご挨拶をなさい」
「勇樹様、おはようございます」
ばちん、激しい音がした。
リサにリーナが叩かれた。
「勇樹様に失礼でしょう。
先ほど伝えた様にお答えなさい。
子爵家にもご迷惑がかかりますよ」
「申し訳ございません。
可愛がって頂きたくお願いいたします」
「はいっ、よくできました。
勇樹様、今宵もリーナに
夕食後のお水を運ばせます」
リサが満面の笑みで答えた。
対照的にリーナは真っ青な表情だった。
その夜もマルコはリーナを赴くままに抱いた。
そんな日が数日続いたある日、
突然、リーナを見なくなった。
「おいおい、勇樹。おまえ、凄いな」
「何?」
「リーナとかいう性悪を成敗したんだろ。
確か、昨日、王宮から去ったって話だ。
子爵家との婚姻も解消されたって噂だな。
まあ、男女隔てなく裁くのは
お前のいいところだ」
ふーん、勇樹もそうなんだとマルコは思った。
そして、リーナが性悪だったということで、
多少の後ろめたさを感じていたが
それもきれいさっぱりかき消された。
「それよりだ。
今、オリガ様が不在なんだよな。
それでさ、陳情に長蛇の列ができているんだよ。
地方からはるばる来ている連中は、
宿泊費を捻出するのも大変だろうな」
「うん、そうだね」
地方の小さな村出身のマルコは、
その辺りの事情を司より肌で感じていた。
「どう?
俺もサポートするから、陳情を聞こうぜ。
彼等の話を聞いてやるだけでも
彼らの気分は楽になるだろ。
そのくらいはやってもいいんじゃね」
そんなことはないとマルコは、
現実を知らないお気楽な司の話を
心の中でせせら笑った。
少し口元が吊り上がったのを
司に目ざとく見られてしまった。
「おっその感じ。
本気で彼らの悩み事の相談に
乗るつもりだな。
よっし!午後から陳情を聞くぞ」
マルコは玉座に座って、階下で床に
額を擦り付けて陳情を訴える人々を見下ろした。
重税を課す領主の陳情、
氾濫した河川の治水依頼、
暴れ回る盗賊団の討伐、
魔物討伐、その他諸々、
地方の村々ではよく聞く話だった。
陳情の内容を聞いて、正直、
マルコはほっとしていた。
司に言われた通りに聞き終えてから、
右手を挙げて、降ろした。
文官の一名が陳情した者に下るように
伝えて、終わりだった。
途中からマルコは眠気に耐えることが
大変であった。
欠伸を堪えて目から涙だけが零れていた。
訓練、陳情を聞くこと、そして夜の生活と
マルコの生活のリズムが安定し始めた頃に
オリガとドルチが城へ戻って来た。
そして、マルコが話を聞いて、知らぬ間に
受け付けられていた陳情の数々に
激怒した。
それもそのはずだった。マルコは陳情を
受け付けた覚えはなかった。
しかし、無言で右手をかざしていたことで
文官が誤解し、陳情を受け付けていた。
そして、陳情を受け付けたに関わらず、
その後、何もしていなかったし、
具体的な指示をしたことは皆無だった。




