19
その夜、マルコは久々にベッドで
オリガと汗を流した。
「はぁはぁはぁ」
マルコは乱れた息を深呼吸しながら、整えた。
「あははっははぁ」
オリガは、乱れた息と高笑いを交えていた。
「これでこの国は私のもの。
はぁはぁ、あなたなは余計な事をせずに
今まで通り過ごしなさい。
いいわね、余計な事は言わない、しない。
そうすれば、国を統べる女王の隣で
傅く臣民どもを見下ろせるのだからね」
その数日後、現国王が突然、崩御した。
長きに渡り魔王の侵攻に耐え抜いた心労の蓄積や
王子や召喚者たちを処断したことなどで
一気に噴き出したとの専らの噂だった。
死に際の国王は、極度の痩せ細りどす黒く
くすんでいたことは、ごく一部の者たちの
秘密であった。
オリガが病床の国王に何かを囁くと
国王の病状は一気に悪くなり、
死に至る最後の瞬間、オリガに向けて、
罵声を発した。
そして、大きく目を見開いたまま死んだ。
これらはあくまでも噂であり、
オリガの怒りを買う事を恐れて、
声高らかに真相を究明する者は誰一人おらず
誰もが沈黙を守っていた。
国葬は盛大に行われた。
マルコはドルチに色々と指示されたことを
卒なくこなした。
それなりの立ち振る舞が身に付き始めていた。
国葬が終わると、オリガによる国政が開始された。
開かれた王宮という名の下に大広間で
定期的に民草の陳情を聞くオリガ。
その隣でマルコも聞いていた。
物事の採決をするのはオリガであり、
マルコはただ眺めているだけだった。
それが日々のマルコに課せられた仕事であった。
その合間にマルコは気晴らしに
訓練場を訪れる日々が続いた。
たまに通路で司と会う事があり、
マルコは聞き手で司が一方的に
話しているだけだった。
しかし、ウイットに富んだ司の話は、
マルコを和ませた。
「おっ勇樹。あそこのメイドを見てみ」
司に促されたマルコは一人のメイドの方を見た。
その女性は俯いてトボトボと歩いていた。
「お嬢さん、如何しましたか?
私がお力になりましょう」
司は軽薄そうな雰囲気で話し掛けた。
女性はびっくりしたように顔を上げで、
まじまじと司の隣のマルコを見た。
「申し訳ございません」
その女性はマルコと司に向かって深々と頭を下げた。
胸の谷間のぞき、マルコはそこへ釘付けになった。
「いやいや、いいんだよ。
それよりどうしたんだい?
力になれることもあるからさ、話してよ。
これでもそれなりの力が俺らにはあるからさ。
なあ、勇樹そうだろ!」
マルコは話すことを最初嫌がっていたが、
司が勇樹の名前を持ち出して、強引に聞き出した。
そのメイドの話では、事ある毎に
陰湿な嫌がらせを受けているようだった。
その蓄積でメイドは疲れしまったようだった。
話を聞いたがマルコはどうしていいか
分からずにまごついていた。
そっと司の方を覗き見すると、
司はにやにやとしていた。
どうやら司は自分の視線に気付いたようだった。
「心配しなくても大丈夫だよ。
明日にはそんなことは無くなるから。
こいつは無口だけど、心でやると決めたら、
絶対にやる男だから。
心配せずに過ごしてね」
メイドの顔は青ざめていた。
「いえ、その、今の話は忘れてください。
お願いします。
大事になることは避けたいのです」
「いやいや、大丈夫。
大船に乗ったつもりでいてよ。
なあ、勇樹」
司は勇樹と肩を組んで俯くメイドの顔を
覗きこんだ。
勢いマルコもメイドの顔を覗き込んだ。
魚の腐ったような目だった。
絶望以外をその瞳から感じることはなかった。
その後、メイドはとぼとぼと負のオーラを
纏って歩いて行った。
流石のマルコは無責任過ぎると思い、司を問い詰めた。
「どうするんだよ」
「まー何とかなるでしょ。
勇樹、ちょっと用事を思い出した。じゃあな」
手を振りながら自分から離れていく司の後ろ姿を
マルコは、呆然と眺めていた。




