18
王宮に戻ったマルコは、
寝室でベッドに寝転んでした。
今の恵まれた生活に不満はなかったが、
ほんの僅かだが心に靄っとしたものを
感じることがあった。
昼夜、寝室から出ないように
オリガから指示されていた。
それから数日が経つが、
オリガが寝室を訪れることはなかった。
三食と身体を拭う湯がメイドより提供され、
それを消費するだけであった。
王宮が普段より騒がしいのは
何となく聞こえてくる怒号や足音から
察していた。
マルコは大人しくしていた。
何日が過ぎたのかマルコは
いまいち把握していなかったが、
満面の笑みを湛えたオリガが
久々に寝室に現れた。
「ふふふ、明日から部屋を出て、
毎日の日課に励みなさい」
そう伝えたオリガは、そのままベッドに倒れ込み、
盛大ないびきを立てて、眠りについていた。
何が何だか分からないマルコだったが、
取り敢えずオリガへ布団を掛けて、
ベッドの隅っこの方で眠りについた。
マルコが目覚めたとき、
既にオリガはいなかった。
朝食を取り、寝室の外へ出た。
いつも通りにすれ違う人に挨拶をするが、
今までと全く違う態度であった。
いままでと違い、誰もが敬礼を返しきてきた。
訓練場でも打ち解けたと
思っていた騎士たちに恭しく対応された。
「これはマルコ殿。
話では床に臥せっていたとの話ですが、
随分と体調が良さげで何より」
「ありがとう」
「仲間を処断したことは、
流石の勇樹殿でも心身ともに
疲れていたのであろうな。
その元凶を作ったビリブは、
謀反の罪で本来は斬首だが、
国王の温情で地方の牢屋で死ぬまで
罪を償う事になりましたな。
その取り巻き達は斬首の上、お家断絶」
マルコは次から次にビルギフより
伝えられる情報を処理しきることが
できなかった。
「28人の召喚者たちの遺体は、
オリガ様の計らいで手厚く葬られました。
遺体の損傷が酷く立ち会った司殿でも
誰が誰だか分からなかようですな。
それと王位継承2・3位の王子たちは、
継承権を放棄して、地方へ領地を貰って、
趣味に興じる生活を送るそうですな」
普段のビルギフからは全く想像が
することのできない探るような視線を
マルコは感じた。
マルコは、全く事情がわからずに
一言だけ呟いた。
「そうか」
「オリガ様は、王位継承1位となられました。
国王の後を継いで、この国を治めることに
なりますでしょう」
「そうか」
マルコはそれだけ答えた。
ビルギフの表情に一瞬、
失望の色が浮かんだ。
「マルコ殿は、オリガ様の夫になられるお方。
オリガ様を助けて、国政を担う方になるのですぞ」
「へっ」
マルコの声が裏返った。
有り得ないことだった。
そもそもそんなことは、
想像すらしたことがなかった。
ビルギフが巨体を縮めて、
マルコの耳元へ顔を近づけた。
「勇樹様、今後ともお引き立てを
よろしくお願いいたします。
我らが騎士団は、必ずやオリガ様、
勇樹様のお力になりましょう」
「はっはい」
予想外にマルコの声は大きくなった。
訓練をしていた騎士たちが何事かと剣を休めて、
ビルギフとマルコの方を見た。
ビルギフが豪快に笑った。
「がはははは。
おい、勇樹殿が手合わせを所望しているぞ。
普段通りに誰か相手をしてやれ」
尻込みする騎士たちの中から
ビルギフが名指して、マルコは久々の手合わせで
汗を流した。




