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玲奈の隣でニヤニヤとしている司が突然、
笑い、拍手をしながら、マルコへ近づきてきた。
「まあ苦しいだろうな。
勇樹、おまえは真面目過ぎるんだよ。
多くの人々の安寧と仲間の絆。
おまえのことだから、死ぬ程悩んだ選択だろう」
司の視線はマルコでなく、
傍に控えていたドルチを窺っていた。
「いいさ、俺も仲間殺しの罪を
一緒にかぶってやるよ。
確かに王位簒奪は大罪だよな。
あまく見過ぎてたよ。
なあ、勇樹、おれはおまえと生きて
この罪を償う。
それにおまえは最後まで付き合えるか?」
マルコは何も答えられなかった。
そもそも司の言葉が自分に向けれているとは
思えなかった。
それを何となくマルコは惨めに感じた。
故に自然と下を俯いた。
「勇樹殿、貴殿が俯く必要はない!
頭を垂れるな。
悩み抜いて出した結論だろう」
ビルギフに叱咤激励され、
マルコは何とか頭を上げた。
最初に映ったマルコの目は、
にやにやとこの茶番劇を
笑っているような司の顔であった。
「頼む」
何故か分からないが
マルコからその言葉が出た。
頷いた司は、マルコの隣に立った。
ドルチは司に囁いている話が
マルコにも聞こえた。
「いいだろう、貴様は許してやろう。
確かに勇樹の隣に一人くらい仲間がいた方が
説得力を増すだろうしな。
だが、覚えておけよ、舐めた真似したら、
その時はここで死んだ方がましと
思えるくらいのことは経験させてやる」
玲奈の方を司が向いた。
マルコには司の表情が見えなかった。
「まっそういうことだ。
委員長、俺は勇樹と一緒に
レガリアス聖王朝に仕えるわ。
せめてもの慈悲だ。
屋敷に戻れよ、委員長。
そこで一人で死ぬより
みんなと一緒の方が怖くないだろ」
「勇樹、司。
あんたたち碌な死に方しないわよ」
マルコは委員長と呼ばれた玲奈を
まともに見ることができなかった。
直視すれば、末代まで呪われそうな気分だった。
「くくっそれを委員長、
君は確認する術を持っていないな。
黄泉の国で会えたらなら、
事の顚末を教えてあげよう」
「死ね、死ね。シネ、しね、しね」
玲奈は繰り返し叫びながら振り向き、
燃え盛る屋敷の中に消えていった。
マルコは耳を塞ぎたかった。
司の重みを感じさせない軽い言葉、
対照的に全てを呪わんばかりの
呪詛を紡ぎ出すような玲奈の言葉、
どちらも聞きたくなかった。
「ったく馬鹿が。
いい女なのに勿体ない。
なあ、勇樹、おまえもそう思うだろ」
司のおどけた態度と軽い言葉を
どうにもマルコは受け入れることが
できなかった。
「相変わらず真面目だな。
まあいいや。
それより勇樹、反逆者どもに鉄槌を下したんだ。
勝鬨をあげなくて、いいのか?」
司にそう促されてもマルコは、
そんな気分になれなかった。
「司殿、命惜しさに許しを請う貴殿と
勇樹殿は違う。
大罪を犯したとて、仲間の死を悲しむ心が
勇樹殿にはある。
心を鬼にして刑を執行しようとも
心の痛みはどうしようもない」
ビルギフが司を制した。
マルコはほっとした。
流石に勝鬨を上げる気にはなれなかった。
「そうは言ってもここで正義を
きっちりとかざさないとなあ。
世間に誰が正しかったのかを
示すことは、重要だろうよ」
ビルギフは黙った。
無論、ビルギフもそんなことは
分かっていが、勇樹の心情を
慮ってのことだった。
何となくだが、2人の言い分が
マルコにもぼんやりと分かった。
マルコが恐ろしかったのは、
呪詛をまき散らし女の呪いだけだった。
向けられたのは勇樹だったが、
万が一呪われたと思うと恐ろしかった。
どうしていいかわからず燃え上げる屋敷を
眺めるマルコだった。
「大丈夫ですよ。
召喚者たちに呪いをかける能力なんぞ
ありません。あんな空疎な言葉の
連呼など気にする程の事もない。
無言で剣を高々と掲げて、
三回大きく円弧を画いて、
振り下ろしなさい。
そしたら、振り向いて
王城に向かってゆっくりと
歩いて戻りなさい」
マルコに心配そうな素振りで
寄り添ったドルチがそう囁いた。
マルコは言われた通りにした。
マルコに続いて、騎士たちが同じ行動を取った。
マルコは歩いた。兎に角、歩いた。
誰もがマルコに声をかけずに道を譲った。
ドルチ、司がその後に続いた。
「へえあんたも結構な、演出家だな」
「ふん、貴様ほどではないわ。
上手く立ち回ったと思っているようだが、
裏切りには、容赦はしない。
常に監視されていると思えよ」
「おおっ怖い怖い」
そんな二人の応酬に耳を傾けるような余裕は、
マルコには全くなかった。




