15
ビルギフはとある屋敷の前で止まった。
マルコには全く見覚えのない屋敷であった。
ただ、見ているだけで鬱蒼とした気分になった。
「勇樹殿、最後にお聞きします故に
正直にお答え頂きたい。
本当によろしいのですな。
後悔はありませんな。
将来に禍根を残すことはないでしょうな」
多少、落ち着きを取り戻していたマルコは
側に控えるドルチの囁きを聞き取ることができた。
そして、そのままビルギフの問いへ答えた。
「世に守るべきは聖王朝に住まう人々であり、
法を遵守することは、その基本だ。
力ある者たちが好きなように力を振るえば、無法。
無秩序となり、最も弱き者たちを傷つける。
悲しいが仕方のないことだ」
ビルギフは頷くと、手振りで合図をした。
矢が一斉に放たれた。
矢の先には、膨らんだ革袋が結ばれていた。
マルコには全く状況が掴めていなかった。
すぐさま、二射目が放たれた。それは火矢だった。
屋敷に火矢が刺さると凄まじい勢いで燃え上がった。
呆気にとられるマルコにドルチが説明をした。
「一矢目で油を大量に含んだ革袋を
放っているんですよ。
だから火の周りも早いのです」
ドルチがマルコに説明を続けた。
「奴らの中には雨すら降らすことのできる
水魔術のエキスパートがいるのですが、
これだけ火の回りが早ければ、
流石に対処できないでしょうな。
火によって炙りだされた者たちは
屋敷を囲む騎士団と魔術師団が
始末する予定なので、
討ち漏らす心配はないでしょう」
マルコはドルチに屋敷の住人ついて
説明を求めた。
「それは勇樹様のご学友たちでございます。
あろうことか王位継承権第1ビリブに直接、
接触したのです。
そして、結託して、王朝を乗っ取ろうとしたのです。
ビリブ様は、協力の見返りに召喚者たちの
幾人かを娶ることを約束し、
正室の座や宰相の地位といった国政の重要な地位を
与えることを約束したそうです」
マルコの理解は追い付かずに
混乱するばかりであった。
勇樹、健二、そして怜人の話では、
この世界に留まることを希望せずに
元の世界に戻ることを条件に討伐へ
向かったはずだった。
マルコが魔王討伐に向かう前に悪い噂を
聞いたことがなかった。
混乱するマルコの前で火矢は次々に放たれ、
魔術が撃ち込まれていた。
しかし、一向に召喚者たちが屋敷から
出てくることはなかった。
「屋敷内で防御魔術を構築しておるな。
流石は召喚者たちだ。一筋縄ではいかぬな。
勇樹殿、これではらちが明かぬ。
我が剣技で屋敷を潰す」
ビルギフの雰囲気が一変した。
周囲の人々は、それを感じ取った。
「がアアア」
獣の如き咆哮と共に大剣をビルギフが
振り下ろした。
屋敷の正門が吹き飛び、二階のバルコニーが
崩れ落ちた。
崩れ落ちた瓦礫が吹き飛ばされて、
火の中から二名の召喚者が姿を現した。
マルコは2人の召喚者を前に緊張した。
召喚者の集まっている屋敷が
火で覆われる数時間前、玲奈は、
全員を広間に集めた。
「司が得た情報だと、今日よね。
はあ、まったくあの馬鹿王子のお陰で
とんでもない立場に追い込まれてしまったわね」
「それよりよ。
訓練場に続々と騎士が集まってるぞ。
ふん、偽物もいるな。
よくできた聖剣に白き聖鎧に
朱色のマント、勇樹の真似事かよ」
「本気のようね。
ならば、ここから脱出しましょう。
それから元の世界に戻る方法を
各地を巡りながら皆で調べましょう」
委員長の表情は終始厳しかった。
「委員長、俺はここに残るから」
「司、でも危険じゃ」
「誰か残らないと王朝の情報を知れない。
この中じゃ俺が残ることが最善だしな」
司はへらへらとおどけた。
つられて玲奈も少し笑ったが
その表情は納得しているものでなかった。
「決まったことを何度も
混ぜっかえしてもしょうがないでしょ。
それより玲奈、準備を急ぎましょう」
美樹にせかされて、玲奈の表情は
再び厳しいものになった。
「そうね。その通りね。
彼らの都合で人生を振り回されても仕方ないわ。
みんな準備を初めて」
玲奈たちは、各々、動き出した。
その姿を司はニヤニヤとしながら、眺めていた。




