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翌日から遠征前と変わり映えのない生活が始まった。
マルコは、通路ですれ違う人と挨拶を交わし、
訓練場で剣を振っていた。
しかし、マルコの気分は以前と違っていた。
挨拶を交わす際に口元に笑みが零れ、
仮面の下に隠されたマルコの顔は、柔和であった。
訓練場では、剣を振るだけでなく
多くの騎士と模擬戦を行い、勝っても負けても
彼は笑っていた。
訓練場では自然と彼の周りに
人が集まるようになっていた。
元々、剣の才に恵まれていたのか、
メキメキと彼は、実力をつけていった。
そんなマルコをドルチは常に暗い笑みを
浮かべながら、観察していた。
ドルチから逐一、マルコについての報告を
受けているオリガは、マルコの変化について
特に気にも留めいていなかった。
「まあいいわ。
それよりドルチ、例の件を
そろそろ始めましょうか。
取り巻きと裏切者たちに
踊らされた兄上には
そろそろ政治の表舞台から
退場して貰いましょう」
「ええそうですね。
それで軍を動かすつもりで?」
「それは勿論。
父上のご了解と宰相以下の高官たちへの
根回しに抜かりはないわ。
ついでに説得力を持たせるために
マルコ自ら先頭に立って貰いましょう」
「決行は?」
「早いに越したことはないわね。
明後日としましょう。
悟られぬように近隣の街を
荒らす魔物の討伐としましょう」
「皆殺しで?」
オリガは何も言わずに軽く頷いた。
ドルチも何も言わずに頭を下げて、
オリガの執務室から姿を消した。
その夜、マルコは再び討伐の話をされて、
気分が高揚した。
しかも聖剣を模した立派な剣と
勇樹が纏っていた鎧、マントが用意されていた。
それを見て、マルコの気分は更に高揚した。
鎧を纏い、剣を握った姿を鏡で見ると、
自分が本当に魔王を倒したように錯覚した。
「まあ本当の勇者のようでございますわ。
明後日はそのお姿で出征して、
民草にその凛々しいお姿をお示しください」
珍しくオリガが甲斐甲斐しくマルコのお世話し、
しおらしい態度で接した。
マルコは鎧を脱ぐと、荒々しくオリガを
ベッドへ押し倒し、獣のように彼女を求めた。
出征当日、マルコは大将軍ビルギフを左に
ドルチを右に控えさせていた。
そして、その前には、数百の騎士団員が整列していた。
前回の規模と比較にならない程の人数であった。
マルコはその威容に圧倒されていた。
ドルチが何か囁いたが緊張も相まって
何も聞えなかった。
前夜にオリガに言いふまれてことを
すっかりと忘れてしまった。
マルコは内心おろおろとするだけであった。
このままでは醜態を晒し、
正体がバレるのではと全身が
少しづつ震え始めていた。
ほんの僅か顎を上げ、勇樹たち一行と
一緒に魔王討伐にこの城の城門から
通過した時のことを思い出していた。
その時、勇樹は先頭で聖剣を空に掲げ、
振り下ろした。
青空から降り注ぐ光は、聖剣の
刃を反射した。
剣の軌道は眩い光を纏い、
明るい未来をマルコに想像させた。
マルコは震えながら、偽物の聖剣を引き抜いた。
そして高く掲げて振り下ろした。
生憎なことに天気はどんよりとした曇り空であった。
それにビルギフが続いた。そして、騎士たちが続いた。
その時、雲の割れ目から一筋の陽の光がのぞいた。
まるでマルコの一振りが闇を切り裂いたようだった。
騎士たちは咆哮した。
響き渡る咆哮は、城の内外に響いた。
ビルギフが剣を鞘に納め、
目的地に向かってゆっくりと動きだした。
マルコもそれに倣った。
ドルチは少し後方からマルコの後についた。




