酔ってない!
特訓という名のイジメから無事(?)帰還した四郎はリビングでぶちぶちと文句を垂れていた。
「ちくしょー。マジあいつら何なんだよ。鬼よか質が悪いぜ」
そのままグビッとお酒を口に運ぶ。日本ではお酒は二十歳からだがこちらでは年齢制限がないので四郎でも気軽に飲めるのだ。
「美味いっ!」
「シローさん、お酒はほどほどにした方が…」
あまりの飲みっぷりにメイナーが心配して注意をする。しかしそれでも四郎はどこ吹く風だ。
「まぁまぁまぁまぁ、落ち着けよメイナー。ほらお前も飲め」
ワインの入っているボトルを差し出す。ちなみに結構なお値段の奴だ。
「い、いやボクはお酒は…」
「あぁはぁん!?俺の酒が飲めねーってのか!!」
「いやそういう訳じゃなくて…」
困った顔をしながら周りを見渡すメイナー。キッチンにいるミリーと目が合ったのでアイコンタクトを取る。
「(ミリーさん、助けて。ボクじゃ無理!)」
「(なら私がシロー様のお相手をしますから隙を見て逃げ出して下さい)」
「(うん!)」
この間、わずか0.5秒。話通りミリーが新しいお酒を持って近寄って来る。
「シロー様、新しいお酒持って来ましたよ~」
「おっ、気が利くね。さすがミリー」
さっそくお酒を受け取って一気飲みする四郎。
「いい飲みっぷりですねぇ」
この隙にメイナーはこそこそとリビングを出て行った。入れ替わりにシャルビィがリビングに入って来る。
「酒臭いな。今日はシローか、珍しいな」
四郎は普段お酒を飲まない。日本の常識が四郎の常識であったため、こちらに来てもいまいち踏み込めなかったのだ。
なのでいつもここでお酒を飲んでいるのはミリーとネミリアだ。二人とも見た目は若いがそれなりの年齢のためグビグビ飲んでしまうのだ。
「はい、シロー様あ~ん」
ミリーが嬉しそうにおつまみを四郎の口へと運んでいる。四郎はなすがままだ。
「酔っているのかシロー」
「前々寄ってないよ」
「何か発音が可笑しくないか?」
「木のせい期のせい」
どうやら四郎は完全に酔っ払ってしまったらしく微妙に発音がズレている。
「ミリーおつまみ」
「はいはい、あ~ん」
親から餌を貰う雛の如く、四郎はおつまみを消費していく。
「せっかくだし私も同席しよう」
見ているだけなのに耐えられなくなったのかシャルビィも席に座る。
「はい、シャルちゃんどうぞ~」
ミリーにお酒を注がれる。それを一気に飲み干す。
「お!いい飲みっぷりじゃねーかシャル」
四郎がテーブルをバンバンと叩きながら笑う。
「そうれひょ?わらひ、おさけらいすきらからな」
シャルビィはお酒にかなり弱いらしく最初の一杯で呂律が回らなくなってしまった。
「あらあらシャルちゃんも相変わらずですねぇ」
ミリーもそう言いながら次々とお酒を消費していく。
酒の臭いに釣られたのかネミリアもいつの間にか席に着いておりお酒を飲み出した。
「やっぱりビールは欠かせないわよねぇ」
「ネミリアさんもいらっしゃいましたか」
ミリーとネミリアはグラスを軽くぶつけて乾杯をする。
「鮭は飲んでも呑まれるなっ!」
四郎がいきなり立ち上がって言った。発音が違うせいでまるでジョーズの劣化版みたいな感じの台詞になってしまっている。
「しろーかっこいいなあ」
シャルビィも頭が上手く回っていないため適当な返しをする。
「シロー様さすがです」
こちらは酔っていないが四郎信者なので選択肢は誉めるしか存在していない。
「シローちゃん可愛いわね」
こちらはこちらで獲物を狙う猛禽類のような眼になっている。
大分カオスな状態になってきた所にティカを連れてメイナーが戻って来た。
「…うそぉ!?」
さっきよりもカオスな状態になっているのを見て驚くメイナー。ティカの顔も引きつっている。
「おう、お前らも飲めよ」
逃げようとする二人をガッチリと捕まえて無理やり座らせる四郎。
「あわわ…」
「ちょ、ちょっと…」
小さく抵抗するも酔っ払い達に一睨みされて閉口する二人。それはまるで哀れな子羊だった。
「のめ」
シャルビィが問答無用でメイナーの口にワインを突っ込む。吹き出さないように仕方なく受け入れるメイナー。
「ティカちゃんもどうぞ~」
メイナーのを見ている隙にミリーに無理やり入れられたビールを涙目になりながら飲み込むティカ。
「あ、頭がボーっとしてきたかも…」
「あれ?師匠が二人いる…双子?」
どうやらこの二人もお酒にあまり免疫がなかったらしくすぐに酔っ払ってしまった。
この宴は全員が酔いつぶれる深夜まで行われた。その中で一番最後まで残っていたのはミリーだった。